軍事的にどの程度の力が必要なのか?
アメリカが世界最強の軍隊を持っているというのは明確な事実では有るのですが、世界最強だからといってなんでも解決できるわけではないというのも、また事実なのです。多くの日本国民は恐らく「北朝鮮程度の相手なら、アメリカなら一日両日中に片を付ける」というようなイメージを抱いていそうですが、実は早々簡単にはいかない、というのは以下のニュースから読み解けます。
対北朝鮮「武力行使なら全面戦争」=米専門家にインタビュー(時事 2017-04-22)
-イラクのフセイン元大統領のように、米国が金正恩朝鮮労働党委員長を追い落とすことは、軍事的に可能か。
金正恩氏は核実験などの際、狙われるのを恐れてか、数日間から数週間にわたり姿をくらませる。見つけ出すのがまず難題だ。さらに、彼ら(北朝鮮指導部)は砂漠ではなく地下施設に逃げ込む。北朝鮮にはおよそ1万カ所の地下施設があり、一部は武器庫だが、指揮統制用の施設もかなりある。それらを全て破壊するのは、不可能ではないが難しいだろう。
-全面戦争に突入した場合、終結にはどれぐらいの期間が必要か。
米国が大規模な地上部隊を派遣するのに1カ月程度。(終結までの)プロセスは数カ月かかるだろう。イラクと同様、戦後も激しい抵抗が考えられ、対応が極めて難しくなる可能性がある。フセイン政権の兵力は約40万人。北朝鮮はその3倍で、秘密警察や予備役を含めれば約10倍に上る。イラクは実際に大量破壊兵器を持つには至らなかったが、北朝鮮は持っている。
アメリカが実行するかもしれないオプションとして「斬首作戦」がよく挙げられますし、例えばフセインやビンラディンの時に実行されましたが、北朝鮮という国家は朝鮮戦争終結時からアメリカを仮想敵国と想定して準備を進めてきた国家であり、最終的には敗北することになって、その敗北は「韓国や日本というアメリカの同盟国を巻き込む形」まで想定しているものと思われます。
しかも現時点での日本はPAC3の局地的なミサイル防衛しか可能ではなく、自衛隊関係者によると皇居ですら防衛しきれるかどうかわからない、というのが本当のところのようです。
シリアやイラクなどの中東とは違い、アメリカは「日本や韓国という荷物」を抱えたまま戦わざるを得ず、多くの日本国民が楽観するような「アメリカの北朝鮮への懲罰」はかなり難易度の高い話である、というところは理解しておくべきでしょう。
以前、この北朝鮮問題を「練習問題」と表現しましたが、北朝鮮ですらこれだけ手こずる要素が多いのに、アメリカが中国と将来的に対立するなどという夢想は抱くべきではないと思っております。アメリカが北朝鮮に手出しをしづらいのが「事実」とするならば、その何十倍も広大な領土と軍隊を誇る中国に対して、アメリカが何か軍事的リアクションを起こすというのは、非現実的な想定であろうと思います。
マッドマンセオリーが崩れる日
トランプ大統領の「ビジネスマッドマン戦略」は北朝鮮問題には通用しない?(Abameニュース 2017-04-23)
「マッドマン戦略」に加え、ビジネスマン的な側面も覗かせる"ビジネスマッドマン"トランプ大統領の動向は、緊迫する北朝鮮情勢の打開につながるのだろうか。
春名氏は「外交には時間もかかるし、相手を説得しなければならない。また、ビジネスとは異なり、相手にもそれなりのメリットがなければ交渉は成立しない」と指摘、トランプ大統領がそんな外交を軽視していることが問題視されはじめているとした。
「国務省の予算を30%以上カットしようとしている。知恵も蓄積もある国務省をまったく使っていないことに、不満は爆発しそうだ」(春名氏)
4月25日前後までまだまだ安心できない北朝鮮情勢ですが、有事が起こらないパターンが2つあります。
- 北朝鮮が核実験をしなかった場合
- 北朝鮮が核実験を強行するが、アメリカが戦端を開かなかった場合
1ならばトランプの面子も大いに立ちますし、アメリカのプレゼンスを北朝鮮に示したということで、日本としても歓迎するべき事態でしょう。問題は2の場合が「あり得る」ということです。この可能性は結構大きくて、北朝鮮は4月16日にも失敗と報道されておりますがミサイル発射をやってのけました。
当初の報道では「トランプは北朝鮮がミサイルを発射したり、核実験をしたら許さない」となっていたはずですが、この16日のアメリカの対応は非常に気まずいものでした。トランプは声明を出さず、ペンスやティラーソンなどが短めのコメントを出す程度で、結局のところアメリカが掲げていた「ミサイル発射も許さない」という条件はいつの間にかなくなり「核実験をしたら許さない」に変更されたわけです。
端的に言ってしまえば「アメリカの砲艦外交がハードルを下げた歴史的瞬間」と解釈することが可能です。
今すぐ北朝鮮攻撃はない、浮き足立たず有事に備えよ 日本に求められるのは楽観論、悲観論を排したリアルな議論 - 織田邦男(BLOGOS 2017-04-19)
ちなみに、「3.11」の原発事故の際、日本でNEOが発動され、関東一円から米軍人家族が一っ子一人いなくなったことはあまり知られていない。
現段階においては、マイク・ペンス米副大統領が訪韓するなど、NEO「非戦闘員退避作戦」は開始されていない。こんな状態でマティス長官やマクマスター補佐官が攻撃実施を大統領に進言することは先ずあり得ない。
上記は自衛隊元空将の記事なのですが、大変客観的に分析をされていて大いに参考になります。つまり現段階でのアメリカの動きは「危機を演出すること」こそが本音で、実際にはやらないんじゃないか?という疑義が存在するわけです。
またアメリカの国務省は日本で言う外務省ですが、ここの長官や人事などが殆ど決まっておらず、戦争は外交の延長線であるとするならば、そもそもこのような体制下で軍事衝突に踏み切るというのは、外交的な帰結や目的が見えない中で戦争をするというわけで、考えるほどに「無茶苦茶」な話です。
このような情勢下ですので、4月25日に北朝鮮が核実験を強硬するとしても、アメリカが軍事行動に踏み切らない可能性はかなりの確率で存在すると思います。また16日からトランプがツイートで北朝鮮関連に触れていない(のか、報道されていないだけなのか)のも、アメリカ自身が自縄自縛に陥っているのを認識しているからと解釈することが可能です。
中国に対してトランプが協調路線に舵を切ったように、北朝鮮に対して有効な手段をアメリカが持たないのだとしたら、東アジア地域でのアメリカのプレゼンスが一層、凋落することになるかもしれません。
結果論になりますが、トランプは北朝鮮に対してマッドマンセオリーを使うべきではなかった、と評価される日が来るような気がします。
軍事大国日本は成るのか?
仮に私の解釈が正しく未来を予想できているとしたなら、核実験をする北朝鮮、止めるすべを持たないアメリカ、表面上はアメリカに協力するふりをする中国といった、ちょっと笑えない状況に日本が置かれることになりそうです。
これは否応なく、日本が自主防衛に舵を切らざるをえないという現実を発生させるわけですが、ある種のアメリカに与えられた平和というフレームの中で、右だ、左だとやってきた日本にこの現実を受け止めて備えるだけの力があるのかどうか?と言われると悲観的にならざるを得ません。
むしろ北朝鮮とアメリカの現実から目を背け、平穏を選択する可能性のほうが高いんじゃないか?と思ってしまうのですね。なにせ安倍政権を支持するために移民推進には目をつむり、緊縮財政はスルー、TPPは国会で批准、種子法の廃止もすんなりと通り、水道事業の民営化ですら危機感を抱かないどころか「現状追認」しかしないのですから、国際情勢がどうなろうが「現状追認」するかもしれないわけです。
北朝鮮問題を1つの練習問題として、真剣に国防の議論が求められるはずです。
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