イタリア
根占献一「イタリア・ルネサンス期の日記―西欧の古記録が語るもの―」(別冊歴史読本事典シリーズ『日本歴史「古記録」総覧』上巻、新人物往来社、1989年11月。根占献一『ルネサンス精神への旅』創文社、2009年所収)によれば、近代西欧の日記の起源は、もともと帳簿であった、リコルダンツェあるいはリコルディ(いずれも「回想」の意)とよばれる、14世紀から16世紀にかけて書かれた私的な覚書にあるといわれる。それらは、13世紀末に市民であり商人が随時書き留めておいた家の記録(または会社の収支決算帳簿)にはじまり、主として土地と金銭にまつわる記事、すなわち不動産の売買や賃貸借、金の一般的貸し借りや日々の諸経費が記録されるとともに、家族の出生・結婚・死亡の日時などか記された。婚姻の記事も婚資に関係し、財産の相続に関係する製紙の記録とともに経済的な意味合いが強いものである。しかし、当時から算術的で冷めた筆致のそれらの帳簿にまったく個人的な覚えが記入されはじめ、次の世紀の初めには、自分の生い立ちを記しているものが出、ここに自伝的要素の芽生えがうかがえるという。
フランス
ヨーロッパの諸国ではこの国の日記が日本でもよく知られている。ベアトリス・ディディエ 『日記論』(松籟社 、1984年、32ページ)によれば、この国では「都市と市民階級の勃興期」である15世紀以降、日記が数多く現れるとのことであるが(同書の56ページでも、日記は15世紀以前には存在しないと述べている)、以下のようにわずかながら14世紀段階のものも存在しているようである。
技術的な側面
技術的な側面ではかなりの進歩を遂げ製紙業自体は大きく発展していったが、14世紀から19世紀にいたるまで、紙の主要な材料はあくまで古着などの“ぼろ”であり、その需要と供給がう まくいかず、長い期間にわたって材料不足にみまわれた。例えばフランス革命
の頃には古紙の再利用が大規模に行われ、かなりの古文書が失われてしまったということであり、この当時たとえ日記が記されても、記主の死後よほど日記自体に重要性が認められなければ反古として潰されてしまったものと考えられ、ヨーロッパに古い日記が残りにくいのは、そういった背景も考慮する必要があると思われる。