「30年長期投資のすすめ」の書評
書評 「渋沢流 30年長期投資のすすめ」
副題: 今の「マネー」が次世代の「資産」に化ける 角川SSC新書 780円
著者の略歴によれば、1961年生まれ。米系投資銀行で投資業務に係わったとあり、2008年にコモンズ投信株式会社を創業したとある。話題性のあるのは著者が、かの渋沢栄一の5代目の子孫だということ。
さて、構成であるが、以下の通り。
第1章「グローバル資本主義の残骸から芽生える新物語」
第2章「30年投資の6つのコモンズ」
第3章「ミニ小説・生活者の7つのストーリー」
第4章「30年投資の30問30答」
第5章「30年投資のきらりと光る企業」
リーマン破綻が引き金となった「グローバル資本主義の終焉から、どのような教訓を学ぶのか」という問いに、著者は様々な考察を加えているが、要は「生活者の視点」が主になることだと結論している。
「日本の生活者は、自分自身がピュアな源泉であり、これからの資本主義の主役になれるときづいてほしいのです」(P51)というくだりがそうである。
6つのコモンズの核心は、30年投資のコンセプトのひとつは「ゆったりと育むこと」。この趣旨は容易に理解できるが、つづく「対話の視点」では、企業経営者と投資家との対話の重要性を強調。
さらには、「真の公益を促す」では、渋沢栄一の言葉・・・「人道よりするも経済的よりするも、弱者を救うのは当然のことであるが、<中略>なるべく直接保護を避けて、棒品の方法を講じたい。<中略>富豪が資金を慈善事業に投ずるにしても、でき心の慈善、見栄から来た慈善は決してよろしくない」・・・は現在にも通じる含蓄が深い。
「30年投資のきらりと光る企業」として、ダイキン工業、日揮、も東京エレクトロン、テルモ、エーザイを紹介している。もちろん投資推奨をしているわけではないが。
通読したところ、うなずける箇所は多い。ただ、最も印象に残ったのが、渋沢栄一の「銀行は大きな河のようなものだ。銀行に集まってこない金は、溝にたまっている水やボタボタ垂れている滴と変わりはない。折角人を利し国を富ませる能力があっても、その効果はあらわれない」という言葉だというのは、評者の感性の鈍さに由来するのであれば、幸いである。
また、評者が関心のある「社会的責任投資」というワードが一切でてこなかったのも、やや違和感がある。渋沢氏は澤上氏の投資哲学に共感されておられるのだと想像するが、澤上篤人氏の著作を読んだ時には、随所で「これって社会的責任投資の哲学と共通しているよな」とワクワク感があるのだが・・・・
(以上)
社会的責任投資(SRI)についての情報メモ 10/12/06
SRI情報
<SRIに関する研究・レポート動向>
①年金シニアプラン総合研究機構が定期発行(3カ月ごと)している「年金と経済」という研究誌で、ESGと年金運用についての特集を10年4月号でしています。
巻頭言では、日興フィナンシャルインテリジェンスの宮井博氏が「年金資産運用と責任投資」があり、続く研究論文集として
・「SRIからESG投資へ-責任投資の歴史と金融市場への影響」 河口真理子氏
・「ESGと株式パフォーマンス:先行研究からの示唆」 佐々木隆文氏
・「非財務情報開示の国際的潮流-IASBによる検討とその背景」 水口剛氏
の3本が掲載されています。
なお、同機構の過去のESGやSRIに関する研究成果についても、PDFで容易に入手できるので、見ておくべきだと思います。
「海外年金基金のESGファクターへの取り組みに関する調査研究」2010年月1月
http://www.nensoken.or.jp/pastresearch/pdf/esg_investment.pdf
②財団法人国際通貨研究所は、三菱UFJ 銀行グループの国際金融・通貨制度に特色のある研究所ですが、SRIや金融機関の環境ビジネスについても先進的な研究成果を発表しています。開発経済調査部主任研究員の杉本章氏は、国際金融トピックス186号で「BP社のメキシコ湾原油流出事故を受けて苦悩する社会的責任投資」(2010年8月23日)で
SRI運用でBP社の株式を組み入れていたファンドや事故発生以降のファンドの対応状況などを詳しくレポートしています。こうした調査は手間がかかるだけに得難い情報だと感じました。
レポートの最後の部分を引用させてもらいますと、
「事故に至る背景および原因究明は今後も引き続き行われることになるが、BP社が旺盛な石油需要に対応しようと、過度にコストを抑制しながら難度及びリスクの高い掘削技術を用い、短期的な利益の極大化に走った可能性は否定できない。
2005年テキサスでの製油所爆発事故、2006年アラスカでのパイプライン石油流出事故等、北米事業を中心に今回の大事故の予兆はいくつもあったと言われている。これらの予兆に正しく対応していれば、今回の大事故は防げたかもしれないのである。BP社のメキシコ湾原油流出事故は、ESG軽視が如何に甚大なダメージをもたらし得るかという教訓を示している」 と結んでおられます。
http://www.iima.or.jp/topics/2010/data/186.pdf
また、直近のNewsletter2010年11月26日号では「躍進するオランダTriodos Bank(トリオドス)の経営上の課題」というレポートも注目されます。
これまた結論部分だけの引用・紹介で恐縮ですが、
「オルタナティブ・バンクは理念に共感する人々のサポートのもと、預金を集めることには苦労しない事が多い。事業の適正規模以上に資金が集まり過ぎる事がむしろ問題になる。不透明感の高まる経済環境下、クレジットリスクをうまくコントロールしながら、オルタナティブ・バンクとしての理念を充足する融資先の開拓を進めることが銀行経営上最も重要な課題」とされています。
トリオドスのグリーンファンドも同様の悩みを抱えているようで、クライテリアに適合する投融資先がないという理由で、今年の上期に募集を停止したとこのレポートで紹介しています。
http://www.iima.or.jp/pdf/newsletter2010/NLNo_38_j.pdf
<海外関連の情報>
①ユーロSIFが2年に1回刊行している「European SRI Study 2010」が10月13日に発表されました。全文は64ページありますが、下記でダウンロードできます。
http://www.eurosif.org/images/stories/pdf/Research/Eurosif_2010_SRI_Study_WEB.pdf
そんなの読んでいる暇ない! という向きには、大和総研の環境・CSR調査課が要約したレポートを出してくれています。
http://www.dir.co.jp/souken/research/report/esg/csr/10101901csr.pdf
ポイントをあげますと、
・市場規模は、07年の2.7兆ユーロから、09年12月には5兆ユーロに拡大(ただし、調査対象国は13カ国から17カ国に拡大しているので単純比較はできません)。
・また、SRIの定義によって市場規模を分解すると、コアSRI(倫理的ネガティブスクリーン、ベスト・イン・クラス、テーマファンド、その他のポジティブスクリーン)は、1.2兆ユーロ
広義のSRI(単純なネガティブスクリーン、エンゲージメント、インテグレーション)は、3.8兆ユーロとなっている。
・市場が急拡大した最大の要因は、フランスの急拡大(660億→1兆8000億)。大口の機関投資家がクラスター爆弾関連を排除するネガティブスクリーンを採用したことや、インテグレーション(諸要素を統合する手法)を実施し始めたことのようです。
<生物多様性について>
①UNEP-FIが
「マティリアリティ(重要性)の解明:生物多様性と生態系サービスをファイナンスに組み入れるために」という報告書を発表しています。これは日本語版にもなっていますので「生物多様性と金融」というテーマに関心のある向きには必読です。
http://www.unepfi.org/fileadmin/documents/CEO_DemystifyingMateriality_jp.pdf
<その他情報>
①カーボンディスクロージャーの2010年報告書が公表されています。日本版は下記で。日本企業への調査は5回目で、2010年調査では507社が対象となっているが、2006年では150社だったことに鑑みれば、確実に関心が高まってきている証左といえると思います。下記で日本の報告書(日・英文ともに)へアクセスできます。
https://www.cdproject.net/en-US/WhatWeDo/Pages/Japan.aspx
なお、世界全体の報告書に関するニュース・リリースは下記で(英文です)
②CSRに関するアジア・パシフィック地域での国際学術会議(APABIS。Asia Pacific Academy of Business In Society)が日本で開催されました。会議の概要は下記で参照願いたいのですが、日本からのスピーカーとしては、一橋大学の谷本寛治先生、経済産業省の平塚敦之氏、損保ジャパンの関正雄氏などが参加されていました。
http://www.apabis.org/files/file/60/APABIS_Programme_Conference_J(1).pdf
③ソーシャルビジネス関連の団体が合同するようです。ソーシャル・イノベーション・ジャパンとSBN(ソーシャルビジネス・ネットワーク)が合同して「ソーシャルビジネス・ネットワーク」を設立。12月17~18日に六本木ヒルズで開催される「ソーシャル・アントレプレナー・ギャザリング」が設立記念イベントになる。詳しくは下記で。
http://www.socioengine.co.jp/seg2010
☆☆以上の内容の大部分は、社会的責任投資の普及を使命とするSIF-J(社会的責任投資フォーラム)のメルマガに掲載しておりますので、念のためお断りしておきます。
「社会貢献でメシを食う」読書ノート
「社会貢献でメシを食う」の読書ノート 2010/12/5-6
・米倉氏が序文を書いているが、彼は本当にこのテーマでの適任だろうか?
・知人の意地の悪い書評氏が、「この程度の内容だと、グーグルでチョコチョコっと
情報収集すれば書けるんじゃん」と言っていたが、私も必ずしも否定できなかった。
・ただ、こういう本をいままで書いた人はいなかった。特に、若い人向けに、NPOや
ソーシャルビジネスって何かと解説した本としては、バランスはいいし、目配せはできて
いる本だと感じた。
・突然、社会貢献に目覚めたという竹井氏の活動は私の視野には入ってこなかったが
善意と見識は評価できる。
・以下には、本書を読んで書きとった内容である。⇒は私の感想。
・社会貢献とは、誰かの絶望に寄り添うことではない。希望を生み出し共有することだ。
僕らがめざすべきは、涙の共有ではなくて。笑顔の共有だ(P52)
・年収200万円 NPO業界の現実 30歳定年説・・この収入ではやっていけなくなるから
⇒その通り
・関西学院大学に社会起業学科、社会起業ビジネススクールも登場した ⇒どこか?
http://socialvalue.jp/
にあります。知らなかった。
・2009年に「日本ファンドレイジング協会」が設立された ⇒詳しくは知らなかったので
http://jfra.jp/
にあります。
・ソーシャルアンドレプレナーの紹介。以下は、紹介されていることの羅列
・財団法人共用品推進機構の星川安之。ユヌス。アベドのBRAC。ビル・ドレイトンの
アショカ財団。ジョン・ウッドのルーム・トゥ・リード。原丈人。栃迫篤昌。フローレンスの駒崎弘樹。
Table for Twoの小暮真久。ブルーミングライフの温井和佳奈。コフレ・プロジェクトの向田麻衣。
以上
・内閣府は2010年70億円の「地域社会雇用創造事業」を開始。ETICは「ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット」事業を開始。⇒ある事情通から、この予算の使われ方に大いに問題があると聞きました。実態を知らないので、そういう声があるということだけをテーク・ノートしておきます
・企業は社会貢献で成長する CSR3.0の時代(P162~)
・CSRが経営戦略そのものになる(=本業との結合)時代。1.0は「慈善」。
2.0は「本業を通じたCSR」3.0は「本業とCSRとの結合」
・2.0だと企業の本業とCSRは別物だとの考え方になる。これでは、不況になると企業はCSR予算をカットしてしまう。
・「社会貢献したほうが企業は儲かる」というコンセプトは、マイケル・ポーターが
「戦略的CSR」で展開した議論。ダニエル・ピンクの「モチベーション3.0持続する
やる気をいかに引き出すか」(講談社)も同様の議論を検証。
・従って、CSRのRが消えるという意味は、CSRは企業の成長戦略になるので、義務を伴ったR(Responsibility)が消える(P167)
・以下は企業の実例。ユニクロのグラミンとのBPOビジネス。アメリカン・エクスプレス
→特に詳しく書いてある(P171~)「同社の社会貢献の歴史=世界のCSRの歴史」
⇒ちょっとほめすぎではないかと思うけど・・・「世界を変える100人になろう」という
プロジェクトにアメックスが支援している(P250の記述)のかも知れない
・「企業の中で社会貢献する」の節 ⇒ちょっと行き過ぎ。そんなに甘くはないだろうと
感じる。
・「プロボノという働き方」(5章) ⇒これまでにあまり取り上げられていない観点でOK 。2001年でプロボノ志向の「RTR東京チャプター」に登録するボランティア1000名近くはスキルのある人間だと ⇒知らなかった。検索すると記事が出てくる。実は著者本人が
これに参加している(P230)ので一生懸命紹介している訳だ
・「若者の志と現実のギャップ」の節(P234)→ダイヤモンド社の「ダイヤモンドオンライン」のコラムで「社会貢献を買う人たち」を著者は連載している(していた?)
<総評>
知っていたことも多かったが、知らなかったこともあった。少しこの世界をウォッチして
みようかという前向きの気持ちになれた。
(以上)