社会的責任投資(SRI)についての情報メモ 10/12/06
SRI情報
<SRIに関する研究・レポート動向>
①年金シニアプラン総合研究機構が定期発行(3カ月ごと)している「年金と経済」という研究誌で、ESGと年金運用についての特集を10年4月号でしています。
巻頭言では、日興フィナンシャルインテリジェンスの宮井博氏が「年金資産運用と責任投資」があり、続く研究論文集として
・「SRIからESG投資へ-責任投資の歴史と金融市場への影響」 河口真理子氏
・「ESGと株式パフォーマンス:先行研究からの示唆」 佐々木隆文氏
・「非財務情報開示の国際的潮流-IASBによる検討とその背景」 水口剛氏
の3本が掲載されています。
なお、同機構の過去のESGやSRIに関する研究成果についても、PDFで容易に入手できるので、見ておくべきだと思います。
「海外年金基金のESGファクターへの取り組みに関する調査研究」2010年月1月
http://www.nensoken.or.jp/pastresearch/pdf/esg_investment.pdf
②財団法人国際通貨研究所は、三菱UFJ 銀行グループの国際金融・通貨制度に特色のある研究所ですが、SRIや金融機関の環境ビジネスについても先進的な研究成果を発表しています。開発経済調査部主任研究員の杉本章氏は、国際金融トピックス186号で「BP社のメキシコ湾原油流出事故を受けて苦悩する社会的責任投資」(2010年8月23日)で
SRI運用でBP社の株式を組み入れていたファンドや事故発生以降のファンドの対応状況などを詳しくレポートしています。こうした調査は手間がかかるだけに得難い情報だと感じました。
レポートの最後の部分を引用させてもらいますと、
「事故に至る背景および原因究明は今後も引き続き行われることになるが、BP社が旺盛な石油需要に対応しようと、過度にコストを抑制しながら難度及びリスクの高い掘削技術を用い、短期的な利益の極大化に走った可能性は否定できない。
2005年テキサスでの製油所爆発事故、2006年アラスカでのパイプライン石油流出事故等、北米事業を中心に今回の大事故の予兆はいくつもあったと言われている。これらの予兆に正しく対応していれば、今回の大事故は防げたかもしれないのである。BP社のメキシコ湾原油流出事故は、ESG軽視が如何に甚大なダメージをもたらし得るかという教訓を示している」 と結んでおられます。
http://www.iima.or.jp/topics/2010/data/186.pdf
また、直近のNewsletter2010年11月26日号では「躍進するオランダTriodos Bank(トリオドス)の経営上の課題」というレポートも注目されます。
これまた結論部分だけの引用・紹介で恐縮ですが、
「オルタナティブ・バンクは理念に共感する人々のサポートのもと、預金を集めることには苦労しない事が多い。事業の適正規模以上に資金が集まり過ぎる事がむしろ問題になる。不透明感の高まる経済環境下、クレジットリスクをうまくコントロールしながら、オルタナティブ・バンクとしての理念を充足する融資先の開拓を進めることが銀行経営上最も重要な課題」とされています。
トリオドスのグリーンファンドも同様の悩みを抱えているようで、クライテリアに適合する投融資先がないという理由で、今年の上期に募集を停止したとこのレポートで紹介しています。
http://www.iima.or.jp/pdf/newsletter2010/NLNo_38_j.pdf
<海外関連の情報>
①ユーロSIFが2年に1回刊行している「European SRI Study 2010」が10月13日に発表されました。全文は64ページありますが、下記でダウンロードできます。
http://www.eurosif.org/images/stories/pdf/Research/Eurosif_2010_SRI_Study_WEB.pdf
そんなの読んでいる暇ない! という向きには、大和総研の環境・CSR調査課が要約したレポートを出してくれています。
http://www.dir.co.jp/souken/research/report/esg/csr/10101901csr.pdf
ポイントをあげますと、
・市場規模は、07年の2.7兆ユーロから、09年12月には5兆ユーロに拡大(ただし、調査対象国は13カ国から17カ国に拡大しているので単純比較はできません)。
・また、SRIの定義によって市場規模を分解すると、コアSRI(倫理的ネガティブスクリーン、ベスト・イン・クラス、テーマファンド、その他のポジティブスクリーン)は、1.2兆ユーロ
広義のSRI(単純なネガティブスクリーン、エンゲージメント、インテグレーション)は、3.8兆ユーロとなっている。
・市場が急拡大した最大の要因は、フランスの急拡大(660億→1兆8000億)。大口の機関投資家がクラスター爆弾関連を排除するネガティブスクリーンを採用したことや、インテグレーション(諸要素を統合する手法)を実施し始めたことのようです。
<生物多様性について>
①UNEP-FIが
「マティリアリティ(重要性)の解明:生物多様性と生態系サービスをファイナンスに組み入れるために」という報告書を発表しています。これは日本語版にもなっていますので「生物多様性と金融」というテーマに関心のある向きには必読です。
http://www.unepfi.org/fileadmin/documents/CEO_DemystifyingMateriality_jp.pdf
<その他情報>
①カーボンディスクロージャーの2010年報告書が公表されています。日本版は下記で。日本企業への調査は5回目で、2010年調査では507社が対象となっているが、2006年では150社だったことに鑑みれば、確実に関心が高まってきている証左といえると思います。下記で日本の報告書(日・英文ともに)へアクセスできます。
https://www.cdproject.net/en-US/WhatWeDo/Pages/Japan.aspx
なお、世界全体の報告書に関するニュース・リリースは下記で(英文です)
②CSRに関するアジア・パシフィック地域での国際学術会議(APABIS。Asia Pacific Academy of Business In Society)が日本で開催されました。会議の概要は下記で参照願いたいのですが、日本からのスピーカーとしては、一橋大学の谷本寛治先生、経済産業省の平塚敦之氏、損保ジャパンの関正雄氏などが参加されていました。
http://www.apabis.org/files/file/60/APABIS_Programme_Conference_J(1).pdf
③ソーシャルビジネス関連の団体が合同するようです。ソーシャル・イノベーション・ジャパンとSBN(ソーシャルビジネス・ネットワーク)が合同して「ソーシャルビジネス・ネットワーク」を設立。12月17~18日に六本木ヒルズで開催される「ソーシャル・アントレプレナー・ギャザリング」が設立記念イベントになる。詳しくは下記で。
http://www.socioengine.co.jp/seg2010
☆☆以上の内容の大部分は、社会的責任投資の普及を使命とするSIF-J(社会的責任投資フォーラム)のメルマガに掲載しておりますので、念のためお断りしておきます。