山中伊知郎の書評ブログ -233ページ目

食べる日本語

どうもダメだな。気楽に、読みたい本を読んで書きたいことをかけばいいや、と書評プログをはじめてはみたものの、やりだすと、ついつい「身構えて」しまう。本を開く前から、すでに、どこを書こうかとスタンバイ状態になり、読んでいる最中も、そっちに頭がいって、だんだん「仕事」みたいな気になってくる。

 こりゃいかん。

 てことで、今回、手にしたのは、神保町の古本屋で見つけた『食べる日本語』。食べることに関する様々な言葉を集め、その一つ一つに、見開き2ページで、ウンチクの入ったコラムがついている。たとえば「つるつる」なら、「俵万智はトコロテンの食感に、渡辺淳一はイカの刺身の食感表現に使ってますよ」などといった具合に。

 全体は三章にわかれて、こうした「つるつる」のような擬音、擬態語で1章、「ふくよか」「淡泊」などの味についての言葉で1章、「完熟」「別腹」など、食事めぐりの言葉で1章。

 とにかくこういう本て、最初から順番に読まなくてもいいのが、ありがたい。「オレは『むしゃむしゃ』からいこう」「私は『フルーティ』のページから」と勝手に好きなところから読み始められる。だから「仕事」の気分にならずに適当に読んでいける。そして、読んだからといって、別に大して「役に立たない」のが、いい。「『にちゃにちゃ』って言葉は出雲風土記にも使われていたらしい」と知っていても、自慢にならないからね。単なる雑学本よりも、こうした食のウンチクを集めたものは「高度なムダ」の味わいがあるのだ。

 また、こういうコラムが、実用一点ばりのイメージの日経新聞に連載されていたのも、なかなか興味深い。

 読み終わった途端、中身はほとんど忘れてしまったが、それもまたよし。くれぐれも日本語の勉強をするつもりで読んだりしないように。

食べる日本語/早川 文代
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百瀬、こっちを向いて。

 「ピュアな恋愛」と聞くと、すぐに連想するのが村下孝蔵の『初恋』だ。学生時代、放課後の校庭を走っている女のコを見て胸がキュンとした、なんてのは多かれ少なかれ誰にも経験があること。酒を飲んで家に帰り、ついYou Tubeでこの『初恋』を聴き、昔を回想して涙がぽろぽろ出てきた、なんて経験もある。つまり、55歳のオッサンである私でも、「ピュアな恋愛」に対する感受性は、ある。

 ただ、『百瀬、こっちを向いて』という短編小説集には、ちょっと違和感があったな。地味な少年少女のピュアな恋愛を描いた連作、という売りにつられて買ってみたが、どうも掲載された4作通して、設定に「小細工」がありすぎる。

 表題作『百瀬、こっちを向いて』は、偽装恋愛でウソの付き合いをしていた男のコ側が、本当に女のコを好きになってしまう話。『なみうちぎわ』は、5年間、植物状態になって目覚めた女性が、その原因を作った少年と恋に落ちる話。『キャベツ畑に彼の声』は女子高生が好きになった先生が、実は売れっ子作家だった話。最後の『小梅が通る』は、わざとブスな化粧をして素顔を隠していた美少女が、そのブスの顔の彼女の方を好きになる男のコに出会って、戸惑う話。

 こういう、設定に対する凝り方って、やっぱり必要なのだろうか。もっと単純に、普通の男と女が普通の出会い方をするストーリーはできないものか。若い読者は、こういう入り方の方が感情移入しやすいのか? 

 どうもよくわかんないな。極端にいえば、『伊豆の踊子』や『潮騒』の方が、男女の出会いとしてみれば、もっとシンプルでピュアだった気がするが。

百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)/中田 永一
¥600
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大和魂

 時の立つのは早いもので、南アフリカワールドカップの記憶も、だいぶ薄れてきてしまった。1つには、ワールドカップがあれほど盛り上がったにもかかわらず、その後のJリーグが今一歩で、「サッカー熱」がどんどん冷え込んでしまったのも要因としてあるだろう。

 ことに、私も18年間、ずっと応援し続けている浦和レッズ。一試合当たりの平均観客数の下落はJトップ。埼玉スタジアムに行くと、去年まではまったく空席がなかったゴール裏のサポーター席まで、うしろの方は空いていた。たまらなかったね。だいたい「ぜひ見たい」と思う魅力的な選手がどんどんいなくなっちゃったんだから、そりゃ集客も悪くなる。最たるものが闘莉王だ。あの、DFのくせにいつの間にかゴール前でスタンバってる攻撃精神や、チームの雰囲気が沈滞すると大声出してハッパをかけているムードメーキングで、90分、彼を見ているだけで退屈しなかったもんな。


 買ってしまいました、闘莉王の新刊の『大和魂』。ま、たぶんほとんどがワールドカップ絡みで、それに名古屋の優勝秘話が入っているのだろうとは予想していた。だが、ここまでレッズ時代の話がほとんど出てこないとは思わなかったな。正直、私としては、もう報道されつくしたワールドカップネタよりも、レッズから名古屋に移った際の真相に、幾分でも触れてくれるのを期待した。考えてみりゃ、それは露骨には書けないだろうけど。

 ほんのちょっと触れられていたのが第三章。6年間を浦和で過ごした日々を忘れない、と語っていると同時に、「戦力外通告」を受けた2009年も、自分はJベスト11に選ばれた、とさりげなく付け加えている。また、フィンケ家督の方針がショートパスを多用する組織力重視であったが、サッカーは組織と個のバランスがしっかりしていなくては決定力は生まれない、とも記されていた。

 しょうがないな。クラブや監督批判するといっても、せいぜいここまでなんだろう。そこ以外のワールドカップ関連は、私には少々退屈。

 とにかく闘莉王のいなくなったレッズは神輿の出なくなった三社祭のようなもの。どーも盛り上がりに欠けるぜ。



大和魂/田中 マルクス闘莉王
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お笑い米軍基地

お笑い米軍基地―基地に笑いでツッコむうちなー(沖縄)的日常/小波津 正光
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 普天間基地移設問題も、とうとう年の暮れになってもまったく進展なし。もはや泥沼状態だな。この一例を見ても、政治家に必要な資質が、どんなものかよくわかる。

 結局は、利害の異なった人たちをうまく調節して、みんながギリギリ納得できる落とし所に持っていける人間が政治には必要なのだ。お金に清潔だとか、自分の主義主張を信念を持って貫いている、なんてのは、あくまで二の次。

 しかも、普天間泥沼化の元凶・鳩山前首相は、その金の清潔さもなければ、自分の言ったことを守り通す信念もない。一度、「引退する」っていって、また「出る」っていいだすんだから。テレビで顔を見るとムシズが走る。

 てなわけで、本日、読んだのが『お笑い米軍基地』。著者はお笑いコンビ「ぽってかすー」小波津正光。実際に

沖縄で「お笑い米軍基地」なる舞台を仲間たちとやっている人物だが、本の中身はその舞台紹介ではない。

 ディープな沖縄基地ガイドと呼べばいいのか。

 第一章は、基地の町の中でも最も米軍統治下の時代の匂いがつよい金武町を探訪し、二章目は実際に基地の中に入ってのお勧めスポットめぐり。これでほとんど全体の5分の4はいってる。さすがに、「お笑い」と名がつくだけあって、正面きって「基地反対」などとは叫ばない。「基地のハンバーガーには、アメリカーの古着の匂いがするさー」といった具合に、探訪を心から楽しんでいる様子が伺える。

 ただすべてがノー天気なわけではない。

「マスゲーム好きの将軍様やパンダの国が攻めてくるからシーサー(米軍)が必要だといわれるが、歴史上、沖縄を攻めてきたのはナイチャー(本土)とアメリカー。かつて攻めてきた人達に「悪者が攻めてくるぞ」といわれても説得力がないさぁ」

 こんな一節は、他のどんな反戦本や基地反対本と比べても、沖縄人の本音度は高い。

 沖縄の街角を散歩する楽しみに浸りつつ、ときどき、基地に対して抱く現地の厳しい本音を知るにはピッタリの一冊だ。 


健康増進のためのお笑いレッスン

書評プログをはじめてみて、ほぼ一週間。これをやることによって、今までならたぶん決して読まなかったであろう『もし高校野球の女子マージャーがドラッガーの『マネジメント』を読んだら』や『ユダヤ人大富豪の教え』も、とにかくは読んだ。それだけでも、始めた意味はある。

 「文化的食わず嫌い」をなくし、私自身の頭を活性化させるには、とてもいい方法だな。


 ただ、今回については、読んだ本ではなく、私自身が書いたばかりの本を紹介する。『健康増進のためのお笑いレッスン』だ。

 去年から、栃木・大田原に「健康お笑い講座」の講師として行っているのだが、そこで受講生にやってもらっているレッスン内容や効用について書いている。

 市民講座なので、もちろん相手はお笑いのシロート。でも、私としては、「見るお笑い」ではなく、「ネタを作って、演じるお笑い」でみんなに健康増進してもらいたいと考えている。大きな声を出し、体を動かすことで「ボディー」の健康。ストレスを発散し、ネタ作りで脳を活性化し、コミュニケーションを豊かにして行くことで「マインド」の健康。舞台に立って、「生きててよかった」という感動を味わうことで「スピリチュアル」の健康。お笑いを「見る」のではなく、「やる」からこそ、その三要素が満足されると説く。

 レッスン内容については、たとえば、講座の最初に行う「ウソの自己紹介」など様々なものを紹介してある。ちなみに「ウソをつく」のは、脳の働き的には「お笑いのネタを作る」行為と非常に近いのだ。

 私としては、こういう、「お笑いをやること」を通しての「健康お笑い活動」が、もっといろんな地域に広がってほしい、と考えている。つまり、そうなる手段としてこの本を出した。

 すでに12月8日の下野新聞に掲載されたおかげで、栃木の皆さんからはけっこう問い合わせが来ている。できれば栃木以外にも本の存在、「健康お笑い活動」の有効性を知ってもらいたい。

健康増進のためのお笑いレッスン―栃木・大田原で試したこと/山中 伊知郎
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