山中伊知郎の書評ブログ -232ページ目

お笑い米軍基地

お笑い米軍基地―基地に笑いでツッコむうちなー(沖縄)的日常/小波津 正光
¥1,000
Amazon.co.jp


 普天間基地移設問題も、とうとう年の暮れになってもまったく進展なし。もはや泥沼状態だな。この一例を見ても、政治家に必要な資質が、どんなものかよくわかる。

 結局は、利害の異なった人たちをうまく調節して、みんながギリギリ納得できる落とし所に持っていける人間が政治には必要なのだ。お金に清潔だとか、自分の主義主張を信念を持って貫いている、なんてのは、あくまで二の次。

 しかも、普天間泥沼化の元凶・鳩山前首相は、その金の清潔さもなければ、自分の言ったことを守り通す信念もない。一度、「引退する」っていって、また「出る」っていいだすんだから。テレビで顔を見るとムシズが走る。

 てなわけで、本日、読んだのが『お笑い米軍基地』。著者はお笑いコンビ「ぽってかすー」小波津正光。実際に

沖縄で「お笑い米軍基地」なる舞台を仲間たちとやっている人物だが、本の中身はその舞台紹介ではない。

 ディープな沖縄基地ガイドと呼べばいいのか。

 第一章は、基地の町の中でも最も米軍統治下の時代の匂いがつよい金武町を探訪し、二章目は実際に基地の中に入ってのお勧めスポットめぐり。これでほとんど全体の5分の4はいってる。さすがに、「お笑い」と名がつくだけあって、正面きって「基地反対」などとは叫ばない。「基地のハンバーガーには、アメリカーの古着の匂いがするさー」といった具合に、探訪を心から楽しんでいる様子が伺える。

 ただすべてがノー天気なわけではない。

「マスゲーム好きの将軍様やパンダの国が攻めてくるからシーサー(米軍)が必要だといわれるが、歴史上、沖縄を攻めてきたのはナイチャー(本土)とアメリカー。かつて攻めてきた人達に「悪者が攻めてくるぞ」といわれても説得力がないさぁ」

 こんな一節は、他のどんな反戦本や基地反対本と比べても、沖縄人の本音度は高い。

 沖縄の街角を散歩する楽しみに浸りつつ、ときどき、基地に対して抱く現地の厳しい本音を知るにはピッタリの一冊だ。 


健康増進のためのお笑いレッスン

書評プログをはじめてみて、ほぼ一週間。これをやることによって、今までならたぶん決して読まなかったであろう『もし高校野球の女子マージャーがドラッガーの『マネジメント』を読んだら』や『ユダヤ人大富豪の教え』も、とにかくは読んだ。それだけでも、始めた意味はある。

 「文化的食わず嫌い」をなくし、私自身の頭を活性化させるには、とてもいい方法だな。


 ただ、今回については、読んだ本ではなく、私自身が書いたばかりの本を紹介する。『健康増進のためのお笑いレッスン』だ。

 去年から、栃木・大田原に「健康お笑い講座」の講師として行っているのだが、そこで受講生にやってもらっているレッスン内容や効用について書いている。

 市民講座なので、もちろん相手はお笑いのシロート。でも、私としては、「見るお笑い」ではなく、「ネタを作って、演じるお笑い」でみんなに健康増進してもらいたいと考えている。大きな声を出し、体を動かすことで「ボディー」の健康。ストレスを発散し、ネタ作りで脳を活性化し、コミュニケーションを豊かにして行くことで「マインド」の健康。舞台に立って、「生きててよかった」という感動を味わうことで「スピリチュアル」の健康。お笑いを「見る」のではなく、「やる」からこそ、その三要素が満足されると説く。

 レッスン内容については、たとえば、講座の最初に行う「ウソの自己紹介」など様々なものを紹介してある。ちなみに「ウソをつく」のは、脳の働き的には「お笑いのネタを作る」行為と非常に近いのだ。

 私としては、こういう、「お笑いをやること」を通しての「健康お笑い活動」が、もっといろんな地域に広がってほしい、と考えている。つまり、そうなる手段としてこの本を出した。

 すでに12月8日の下野新聞に掲載されたおかげで、栃木の皆さんからはけっこう問い合わせが来ている。できれば栃木以外にも本の存在、「健康お笑い活動」の有効性を知ってもらいたい。

健康増進のためのお笑いレッスン―栃木・大田原で試したこと/山中 伊知郎
¥1,050
Amazon.co.jp


妖怪と歩く ドキュメント・水木しげる

 「ゲゲゲの~」が流行語大賞をとるくらいの、空前ともいえる水木しげるブーム。しかしいまさら『ゲゲケの女房』を手に取るのもやや気が引ける。本人の書いた本はいっぱいあリ過ぎて、どれ読んだらいいか、迷っちゃう。

 それで近くの図書館に行って見かけたのか、『妖怪と歩く ドキュメント・水木しげる』だ。もとの本は1994年発売だから、だいぶたってる。最近すっかり観光名所となっている水木しげるロードが出来上がった頃のようだ。著者はルポライターとして高名な足立倫行。水木と同じ境港出身。

 著者は、アメリカのインディアン・ホピ族を訪ねる旅行や、かつて水木がいた戦地・ラバウル旅行など、いろんなところに同行し、現地での水木の様子を描いている。また、そのたびに好奇心がおさえられなくなって、つい爆走してしまう水木のパワフルさに驚いている。

 中で、特に興味深かったのが、水木の日ごろの言葉と、実際の行動との大きな「矛盾」。「自分はナマケモノで、ニューギニアの土人のように働かずにのんびり暮らしたい」といいつつ、実態は、人の何倍も仕事をしまくる「仕事中毒症」である点だ。「私は半妖怪になっている」と他人を煙に巻くような発言をする一方で、自分が忘れられるのを恐れてせっせと仕事に励む小心さが同居する。こうした人物像は、水木自身の本にはなかなか出てこない。

 水木が、どうやら手塚治虫に対してあまりいい感情を持っていなかったらしいのも、「なるほど」と思って読んだ。という以上に、この2人の作風の根本的な違いが、この本の裏テーマにもなっているように感じた。

 ロボットでありつつ常に「人間」を意識していたアトムと、別にそれほど「人間」を意識していなかった鬼太郎。両者は、やはりまったく別の土台から生まれた存在なのはわかる。たぶん人間の手で科学技術を発展させれば幸せな明日が来る、と思われていた時代はアトムが人気になり、科学だけじゃもう幸せにはなれないと気付いたころには鬼太郎が注目されるのだろう。

 確かに、世の中は鬼太郎優勢になっている。

妖怪と歩く―ドキュメント・水木しげる (新潮文庫)/足立 倫行
¥620
Amazon.co.jp

お笑い人生辞典

以前、知人と「オタク」と「マニア」はどう違うのかについて、飲みながら真剣に話し合ったことがある。それで、私が主張したのは「マニアは社会人としてのバランスを崩さない範囲で、あるジャンルに没入できる人で、オタクは没入のあまり、バランスそのものを崩す危険性の高い人」であった。知人の方は、「マニアだってバランスくずすヤツはいっぱいいる」と反論したが、私は酔った勢いで押し通した。

 そんなわけで、私が知っている人物の中で、もっとも私の「マニア」という定義に当てはまる代表の一人が、今村荘三さんだ。長年、広告代理店でCMディレクターをつとめつつ、お笑い、ことに関西のお笑いについては、圧倒的な知識量を誇る。夕刊フジで、お笑いのコラムを書いている。中でも芸人個々のエピソード収集は群を抜いていて、いわば「お笑いエピソード・コレクター」の第一人者といっていいだろう。

 この今村さんが、今月出した本が『お笑い人生辞典』。さんま、紳助、ダウンタウンから始まって、ミヤネ、板東英二にいたるまで、一人2ページずつ使って、100人あまりの関西芸人、ないしタレントのエピソードを紹介している。これは「マンスリーよしもと」での仕事などを通じて、日常的に吉本芸人らと接している今村さんでなくては書けない内容だ。「オタク」でも「マニア」でも、とにかく「お笑い」にこだわっている人は、一読しておくべきだろう。

この本の中に登場する、私が、「あ、これはいいセリフだ」と思った島田紳助の言葉を1つ。

「夢と数と若さ。神様がこれを10億円で売ってくれるんやったら、一文無しになっても10億円払うわ。つまり、君ら若者は10億円もってるっちゃうことや。夢を語り合ったら、君らの勝ちや」

 よほど自分の才能に自信があるから言える言葉なのだろうが、これが言えてしまうところがすごいね。

お笑い人生辞典/今村 荘三
¥1,260
Amazon.co.jp


ユダヤ人大富豪の教え

結局のところ、「成功」って何なんだろう? 

先日も、本来なら就活をガンガンしなきゃいけない専門学校卒業間近の若者と話をしたら、「どうせウカるわけないから、会社は回りません。ボク、人生を成功させようと思ってませんし」とクールに語っていた。

 そう言われると、余計にわからなくなってくる。そもそも私自身、「人生の成功者」とはとても言えない。年収だって、サラリーマンやってる同級生より少ないし、本は何十冊も出したが、ヒットは1つもなかった。だから、世間的に有名にもなれなかった。

 しかし、いかにもミエミエの「こうすれば成功者になれますよ」式のハウツー本を読むと、どうもムカッパラが立ってくる。「うるせー! 成功しなくたって、けっこう楽しく暮らしてるからいいじゃねーか!」と。

 シリーズ累積100万部売れたらしい『ユダヤ人大富豪の教え』も、このムカッパラ組の典型的な一冊だ。

 冒頭、著者がユダヤ人富豪と出会うあたりは、まるで恵果に密教の教えを伝授される空海を思わせる感じで、

実にもったいぶってる。だが、実際に出てくる「幸せな金持ちになるための秘訣」を読むと、「好きなことをやりなさい」「人脈をひろげなさい」「お金の流れを知りなさい」といった、「成功ハウツー本」ならどこにでも書いてあるようなこと。「アラジンの魔法のランプの使い方をマスターしろ」とあったので何なのかと思いきや、要するに目標を設定して、そこに向かって頑張れ、ってこと。

 ただ、こんな内容でも、100万部売れるんだよなァ。つまりそれだけ「成功ハウツー本好き」が存在しているわけで、うまく包装紙の部分を工夫してもっともらしく作れば、中身は月並みでも売れるってことなんだろう。

 そういう意味では勉強になった。

ユダヤ人大富豪の教え 幸せな金持ちになる17の秘訣 (だいわ文庫)/本田 健
¥680
Amazon.co.jp