口が多い不死者 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 森の中でたまたま出会った二人の不死者達が岩の上に座って話し合っていた。

 「君は口がたくさんあるね。そんなにたくさんの口が必要になるの?食べる口と話す口と空気を出し入れする口だけで充分だろう?」

 「大声を出す為の口もあるし、舌がとても長い口もある。しかも、食べる為の口だけでも七つもある。それぞれの口に異なる料理を入れて七つの味を同時に楽しめるよ」

 「七つも同時に味わうと頭が混乱しそうだな」

 「慣れると七つの味を同時に感じ取らないと物足りなくなるよ。だから、料理は常に何種類も用意しておかなければならなくなる。しかし、僕はもう久しく何も食べていないよ。結局のところ、食事は他の生物の命を奪う行為だし、不死者になる手術を受けて栄養を摂取する必要がない身体になった自分は何も食べるべきではないと思ったのだからね。」

 「食べる為の口が七つあっても今は使う機会がないわけか」

 「そうだね。しかし、今さら口を減らす手術は受けられないし、僕はこの状態のまま生きていくしかない。かつて不死者になる手術を受けた人々の大半が死への恐怖を克服したせいで不死を放棄し、その結果として肉体を改造する文明が失われたからね」


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