「先日、夢の中でマンションの大家であるらしい女が私の部屋に訪ねてきましてね」
「その大家は実在する女なのですか?」
「いいえ。しかし、夢の中ではその女が大家になっていて私はその設定にまったく違和感を抱いていなかったのですよ。それで、大家は私が殺人犯を匿っているはずだと言い出したのです」
「殺人犯ですか。心当たりはあったのですか?」
「まさか。ありませんよ。しかし、私の部屋に殺人犯が出入りしている様子を他の複数の住民が目撃したと証言していると大家は主張してきたのです」
「この部屋の住人はあなた一人なのですから普段から出入りしている人間はあなただけでしょう?つまり、殺人犯はあなただったのではありませんか?」
「違いますよ。しかし、大家は私が殺人犯を匿っていないと主張しても一向に聞き入れないのです。しかも、勝手に部屋の中で捜索を始めたのです。おかげで恥ずかしい気持ちにならされましたよ。下着が入っている戸棚まで開けられましたからね」
「それで、殺人犯は見つかったのですか?」
「いるはずがない殺人犯が何かの間違いで見つかったら部屋から追い出されるだけでは済まなくなりそうだと想像して緊張させられましたが、見つかりませんでしたよ。まったく、酷い夢でしたよ」
関連作品
猿が引っ越してくる
バッタを住まわせる
刑務所として改築
目次(超短編小説)