「先日、夢の中でマンションの大家であるらしい女が私の部屋に訪ねてきましてね」
「その大家は実在する女なのですか?」
「いいえ。しかし、夢の中ではその女が大家になっていて私はその設定にまったく違和感を抱いていなかったのですよ。それで、大家はこのマンションに猿を住まわせるつもりだと言い出したのですよ」
「どのような猿ですか?」
「大家が言うにはとても賢い猿なのだそうでした。しかし、地面を歩く型の猿ではないので通路の天井に棒を取り付けて猿がその棒を伝って移動するようになるらしいのです。大家はその棒を取り付ける工事の報告を私にしたのでした」
「猿が住むと既に決定していたのですね」
「ええ。それで、大家と話していると背後から甲高い声が聞こえてきました。私は咄嗟に窓の方に目を向けたのですが、ガラスの向こう側のベランダに一匹の猿が立っていたのですよ。ゴリラのように筋骨隆々で大柄な猿でした。どうやら私の部屋まで外壁を上ってきたようでした。その猿とガラス越しに目が合って私は怖くなりました。このマンションから早急に引っ越さなければならないと思いましたよ」
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目次(超短編小説)