猿が泣いている | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「ほら。あそこで猿が泣いているわよ」と恋人が言った。

 それを聞いて私は恋人が指差している方を見遣った。すると、公園の芝生の上で猿が二本足で立っていた。声は発していないのだが、慟哭している人間のような顔をしていた。「涙が出ていないよ。あれはああいう顔立ちの種類の猿であって実際に泣いているわけではないと思うよ」と私は言った。

 「でも、あの顔を見ていると私まで悲しくなってくるわよ。あの猿をどうにかして助けられないのかと思えてくるわ」と恋人は言った。

 「しかし、猿の感情はわからないよ。実際には少しも悲しんでいないのかもしれないよ」と私は恋人の優しさに対して当惑を覚えながら言った。

 「あなたはあの猿を可哀想だとは思わないの?あの猿を絶望から救ってあげたいと思わないの?あの猿に笑顔を取り戻してあげたいと思わないの?」と恋人は声を大きくして私に対する非難を口に出した。

 「あの猿にはそもそも笑顔という表情がないのかもしれないよ」と私は困惑したまま言った。


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