ゼロの孤独 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 ゼロはあまりにも存在していなかった。何もなかった。+も-も不在だった。+ゼロや-ゼロはあるはずがない概念であり、だからこそゼロは足せないし、引けないのだった。同様に、掛ける能力や割る能力もなかった。なぜならば掛け算は足し算の発展形であり、掛け算の真逆が割り算なのだった。だから、ゼロが数式に登場する状況は+1-1=ゼロのように、等式の片側に一つだけ孤立して現れる場合に限られていた。

 そんな特異で寂しい性質を持つゼロであったので、とある数学者が哀れみを覚え、ゼロの為に+でも-でも×でも÷でもなく、まったく新しい概念の記号を発想してみた。それは○というもので、意味としては何もない状況を示していた。これを頭に付ければゼロも他の数字と一緒に数式に参加できるようになるはずだった。数学者は早速、自分の論文で多用して学会で広めようと試みた。

 そうして彼の論文には○ゼロ○ゼロ+1○ゼロ-1○ゼロ=○ゼロといった類いの数式が頻繁に登場するようになったのだが、あまりにも読みにくいと学会では不評であり、そもそも無駄な記述であるという批判が相次いだので、仕方なく彼は○という記号の使用を断念し、やがてその発案自体が人々の記憶から忘却されていった。


「数字」関連

ゼロの存在
ゼロの表記
ゼロの孤独
数字と共に
十進法の世界で
+1と×1
数値頭
数学頭
ゼロを巡る歴史
1+1=?

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