円 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 科学者は花に永遠の生命を与える実験に成功する。花はやがて実になり、たくさんの種を生成するのであるが、そこで枯れるわけではなく、実が花に逆戻りする。そうして花と実の間を延々と往復するわけであるが、その度に無数の種が生み出される。もちろん栄養は他の植物と同様に光合成で賄われているので水や光を与えなければ活動は停止するが、条件さえ整えば再び往復を開始する。

 初期には永遠の生命が種子には受け継がれなかったので一輪の花だけが同じ循環を繰り返していたのだが、やがて遺伝子に変異が起こったらしく、子孫の中にも枯れない植物が現れるようになり、たちまち研究施設の周辺地域は常に花で満ち溢れる事態になった。既にその段階において花の勢力範囲の拡張は人間の統制力を軽々と凌駕していたのだが、科学者は世界中に花畑を作りたいという野望を人々に語り聞かせ、現状が決して制御不能なものではなく、目的に沿って生じているという印象を与えるように仕向けていた。自らの手には負えないという真実を正直に吐露すれば人々から非難を受けるのではないかと予想し、その事態を周到に回避し続けていたのだった。

 やがて科学者が寿命を迎え、この世にはいなくなった後も花は残り、相変わらず大量の種子を生み出し続けた。進化の速度が著しく、この惑星の様々な環境に適応して極地や深海にまで勢力範囲を拡張していき、凄まじい勢いで世界を覆い尽くしていった。

 やがて有機物は悉く花になったが、それでも繁殖と進化は止まらず、岩も水も大気も花の素材になった。惑星は花の集合体になり、極端に脆弱化して宇宙空間に霧散した。公転軌道上の華やかな細い帯になった。

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