映画 “ポトフ 美食家と料理人” | やまちゃん1のブログ

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19世紀末、フランス。ヨーロッパ中に知られた、※ガストロノミーの帝王”ドダン“とその天才料理人ウージェニー“。二人は田舎のシャトーに暮らし、ドダンがメニュー、レシピを書き、ウージェニーが完璧な料理をつくる。二人は長年、男女の関係にあるが、ウージェニーはドダンの求婚を拒んでいる。ある日、あるイスラム国皇太子の晩餐会に招かれるが、豪華盛大なだけの料理に辟易する。ドダンは、あえて、皇太子にフランスの家庭料理「ポトフ」でもてなそうと計画する…


美味礼讃」を著したブリア・サヴァランをモデルにした、フランスの小説「美食家ドダン・ブーファンの生涯と情熱」マルセル・ルーフ著(1920年)を原案に、トラン・アン・ユン監督が脚本を書いた。

料理やワインなどの食事全般を、文化や芸術のレベルで考えること、その理論展開。

左 トラン・アン・ユン監督
右 ピエール・ガニュール料理監修

トラン・アン・ユン監督(1962〜)は、ベトナム出身でベトナム戦争時に家族でフランスに亡命。
1993年に『青いパパイヤの香り』で長編映画監督デビュー。カンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞、1995年に2作目の『シクロ』でヴェネチア国際映画祭にて最年少で金獅子賞を受賞。そのほか、『夏至』(00)、『ノルウェイの森』(10)など。『ポトフ美食家と料理人』(23)はカンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した。

ピエール・ガニュール(1950〜)
三つ星レストランシェフ、フランス出身。世界中にレストランをプロデュースし、赤坂のホテルにも名前を冠したレストランがある。



映画は、ガニュールが監修した本格的フランス料理の調理風景から、食事風景が見どころ

役者たちは、監督が『カット!!』と叫んでも、食べ続けていたらしい🤤


左 ブノワ・マジメル(1974〜)、美食家ドダン
右 ジュリエット・ビノッシュ(1964〜)、料理人ウージェニー

マジメルとビノッシュは、20年前に実際のパートナーであったことがあり、共演は20年ぶりとなる

映画は、肉、魚、野菜…が、キッチンで次に料理に変わっていくドキュメンタリー風画面で始まる

聞こえてくるのは、野菜を切る音、肉が焼ける音… 料理人の足音… 息づかい… 食事の音… 風の音、鳥の声…
全編、音楽はない


一台のカメラで、ワンカットを長回しする手法は、溝口健二から学んだらしい

59歳のジュリエット・ビノッシュは、下半身がふっくりして、監督の視線は『晩春』原節子を撮る小津安二郎のようだ

ジュリエット・ビノッシュは、「汚れた血」(1986)から最も観てきた海外の女優さんで、レオス・カラックス監督と一緒に、高峰秀子を訪ねたエピソードもありますね


天賦の舌をもつポーリーヌ(ポニー・シャニョー・ラボワール)
『青いパパイヤの香り』から、監督は少女の魅力を撮るのが上手い


「ノルウェー風オムレツ」これは日本でも有名なデザートなんでしょうか? 最後にブランデーをふり、火をつけ炎をあげますが、中にはアイスクリームが入っています😮

【参考】
映画にも登場する、美食家垂涎のオルトラン料理。今では捕獲を禁止されているオルトラン(スズメ科ズアオホオジロ)の儀式的食事スタイルはナプキンで頭を隠す!!


ドダンが洋梨の砂糖漬けを瓶から取り出し、指で愛でながら、ウージェニーのためにデザートをつくる…
扉を開けると、ウージェニーの裸の背中から尻が見え、ドダンが近づき、愛おしむように尻を撫でる…


サヴァランの「美味礼讃」に、食事・料理は、「生殖感覚、すなわち肉体による性的な感覚を上げなければならない」「食卓の快楽は、他のすべての快楽と共にあることが可能であり、他の全ての快楽が無くなっても、最後まで存在し続け、慰めてくれる。」とある。


ポトフ」は、
料理がエロティシズムに直結するという西洋の伝統を通して、
美食家と女性料理人の愛と、
料理人として生きる女性の
誇りを見事に描ききった傑作

★★★★★

食べることが好きな人、
食べさせることが好きな人
にお勧め、
無性に、旨いものが食べたくなる
映画



映画音楽は、エンドロールに流れる
ジュール・マスネのオペラ『タイス』から「タイスの瞑想曲」のピアノアレンジ曲のみ


オペラ『タイス』は、

修道僧アナエルの説得で高級娼婦タイスは改宗し、尼僧院に入る。アナエルは信仰ではなくタイスへの欲望(愛)から接近したことをタイスに告白する。タイスはにわかに天に召される。