小津安二郎の生誕120年に合わせて2023年12月22日に公開された、ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』。このタイミングが必要だったのかと思うほどの傑作でした。
ヴィム・ヴェンダースと役所広司
ヴィム・ヴェンダース (Wim Wenders∶1945年〜 ) は、ドイツ出身で、アメリカを舞台にしたロードムービー『パリ、テキサス』(1984年)で第37回カンヌ国際映画祭、パルム・ドールを受賞。翌年、敬愛する小津安二郎に捧げたドキュメンタリー『東京画』を製作。1987年には『ベルリン・天使の詩』で第40回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した、世界的名監督です。
『PERFECT DAYS』の制作経緯が興味深い。
渋谷区内17か所の公共トイレを刷新するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」をPRする短編映画の制作を依頼されたヴィム・ヴェンダース監督が、プロジェクトとそこで働く人々に感銘を受け、長編映画に再構築して産まれたらしい。
小津安二郎に捧げたドキュメンタリー『東京画』で描いた『東京』の現在を映した作品でもある。
「THE TOKYO TOILET」の一つ
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はるのおがわコミュニティパークトイレ(代々木) 設計 坂茂
役所広司は『PERFECT DAYS』で主役を演じ、第76回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した。映画は、渋谷区の新しい公共トイレ(THE TOKYO TOILET)を清掃する作業員の“平山”(役所広司)が送る日々の生活を描く。
“平山”という名前は、小津作品の『記号』で、『東京物語』で笠智衆が演じる老夫婦の名前である。
トイレのある公園の巨樹のもと、ホームレスの田中泯が踊っている
下町のアパートに住む(なぜか小津作品の家のように二階がある)初老の一人者、役所広司の生活は規則正しく、毎日寸分の違いもなく過ぎていく
朝日とともに目覚め、空を見上げ、歯を磨き、新しい白いタオルで顔を洗い、採集した木の苗に水やり、作業着に着替え、同じ缶コーヒーを飲み、自分の軽自動車に乗って、カセットテープで古い洋楽、例えばアニマルズの『朝日の当たる家』、オーティス・レディングの『ドック・オブ・ベイ』を聞きながら、現場に向う…
一つ一つのルーチンが”説話論的な構造”を持ち、『空を見上げる』『白いタオル』『着替える』『二階』など小津作品の主題となる要素と重なる
仕事を終えると自転車に乗って銭湯に行き、浅草の飲み屋で一杯やって帰る
寝室は二階で、神聖な空間のようだ、寝る前に必ず文庫を読んで眠る
いま読んでいるのは、フォークナーの「野生の棕櫚」だ、パラレルワールドのもとのような小説
清掃員の同僚、柄本時生と思いを寄せるガールズバーで働くアオイヤマダ、気に入った役所広司のカセットテープを一本くすねる
役所広司が休日に通う小料理の女将石川さゆり
ある日、小料理を訪ねると三浦友和が…
ラストシーンは、
ニーナ・シモンの「Feeling Good」が流れる
『 It’s a new dawn, it’s a new day,
it’s a new life for me
And I’m feelin’… good』
小津安二郎の作品を何本か観ると
より楽しめそう
★★★★★
お勧めします