楽園と無知(2-2)―着果遡行 | 自家中毒

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こんにちは
当ブログは挨拶を1年半あまり忘れる人間による妄想ブログです
(二次創作を含みます 作者さま・出版社さまにはかかわっていたらとても書けないようなブツが並びます)

《第1章 第1節  第2節  第3節  第4節  第5節
《第2章 第1節
 《同じ節 



なうですでに報せましたが、これだという挿話が降りてきたので、そこまで集中してこっちの話を進めていました。
が、詰まる詰まる……orz
1週間、集中しようとしたのに却って違う妄想がよぎったり他の作品を読むのに集中してしまったり……

もう、明日からは思いついたやつから更新します(´・ω・`;)
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 その家は典型的な洋風の一戸建てだった。隣接している道路から玄関扉までの距離は数メートル。そこにはレンガが敷かれている。その横には小さいながらも庭といえる空間があって芝が一面に植えられている。

 蜜佳が玄関扉の横にあるチャイムを押すとこっち側にまでやけに間延びしたピンポーンという機械的な音が響いた。


「やっぱり、いないみたい」

「そうか」

 他の住人の不在を告げた娘の声は心なしかほっとしているように聞こえた。


 再び、蜜佳が俺のことを父と呼んでくれた日の夜のことだった。娘から久しぶりにねだり事をされた。

 2学期が始まる前に荷物を取りに行きたいから一緒に来てほしい。

 もっともな内容だった。9月までもう1週間ほどしかないのだし荷物を運ぶには男手があったほうがよい。


 娘のことならばあちらも協力してくれるだろう。顔を合わせるのは気まずいがそれくらいは父親として恥じないように努力しよう。
 そう覚悟を決めた俺はさっそくユリ子に日曜日に訪問することを報せておくと娘に宣言した。


 けれども、娘のほうがそれを止めた。

 どうせ午後はいないからいい。わざわざ会いたくなんかない。


 常識から言えば、大人の家人の許可もなく他人の家に足を踏み入れるなんて良いことではないのだけれども。

 蜜佳は震える両手で俺の手を掴みながら引き留めた。泣きそうな表情と俺のほうを見つめて懇願してくる瞳。

 報せれば泣かせてしまう。悲しませてしまう。

 そう思うと絶望感にも似た胸を押さえたくなるような感覚がこみあげてきた。そして、俺は電話を取ろうとしていた手を引っ込めていた。


 しばらくすると冷静になった。

 連絡もせずにあちらの家でかち会えば誰にとっても余計に気まずいことになるのではないだろうか。それでも、もう娘のあんな様子を見たくはなくて夜通し悩んだ。


 結局は、通勤路の途中にある公衆電話からユリ子に連絡した。

 連絡した内容は2つあった。日曜の午後1時から2時間ほど蜜佳の荷物を取りに家を訪問するということ。そして、蜜佳がまだ心の整理ができていないようだからその間は留守にしていてほしいということ。

 どうやら、あちらもそれを酌んでくれたようだった。



 廊下は人ひとりが通れる広さしかない。身体を横にすれば何とかすれ違うことができる程度の幅だ。
 あちらの父親は仕事熱心な人物なのだろう。建築関係の雑誌や書籍が積み重なって廊下として機能する空間を狭めている。


(こういうのは目の毒だな つい、順番に並べたくなる)

 しかし、入社1年目の大掃除のときに資料は50音でも取引開始年代でもなくて頻出する順番にしているのだと言われたことを思い出して我慢した。

 そもそも、そんなことを始めてしまったらここに邪魔をするのが2時間では済まなくなるだろう。


「これを置きたいからまずは居間に行きたいんだ まずはそっちに寄ってもらってもいい?」

 こっちを振り向いた蜜佳に右手に握った紙袋を持ち上げてみせる。

 中身は不在のときに邪魔をするという非礼を詫びた手紙。それに、真夏日になろうが傷む心配のないクッキーの詰め合わせ。確か、ユリ子はサクっとした食感のものを好んだはずだ。

 本当は、あちらの父親の好きなものを持参したほうが失礼さの度合いからしてもよかったのかもしれない。だが、電話口でユリ子に彼の好みを訊いたら「昨日から出張」と一蹴されてしまった。


 案内してもらった居間も洋風だった。木目の床。ユリ子好みの明るい緑色のカーペットにソファーと低めのテーブルが見事に調和している。

 そのテーブルに持ってきた紙袋を置いておこうとして気になった。
 そこにはほこりがたまっていた。ユリ子は帰っても独りだと思い外食でもしたのだろうか。

 ふきんで拭くくらいはしてから置くべきか。台所は奥のようだがふきんはどこにあるのだろう?


 置き場所を訊ねようと思って蜜佳の姿を探すと庭先の窓の前にいた。

 娘は窓をレースのカーテンもまきこんで開け放った。居間に直射日光が差し込み蝉や車の騒音が響く。
 そして、足早に歩き出したと思ったら居間の奥で立ち止まった。さらに、手にゴミ箱を持って台所へと引っ込む。

 バタンと少し乱暴に扉を閉める音がした。後を追ってみれば勝手口に続くらしい扉が見えてなるほどと思う。

 おそらくは、両親がゴミをためこんでいるのに気がついて仕方なく捨てに行ったのだろう。

 それならば、テーブルのほこりくらい掃除しても大丈夫かもしれない。


「テーブルを拭くほうのふきんはどこにある?」

「思ったんだけど…わざわざ掃除してテーブルに置くより、玄関先に置いたほうがいいよ
 私だったら、用の無いところにまで上がり込まれたら嫌だもの」

 外から戻ってきた蜜佳に訊ねると俺には思い至らなかった視点が返ってきた。


「そうか…確かにそう思うかもしれないな 教えてくれてありがとう」

 創世記のイヴの行動に対する娘の解釈を聞いたときにも思った。娘は他の人間の心情を深く酌める人間らしい。


(もしかしたら、俺なんかよりも娘はずっと大人なのかもしれない)

 いまだに、周囲が助けてくれることで何とかやれている俺自身を顧みると余計にこの考えは的を射ていると思えた。



最終更新日:2013-09-22

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夫がゲームの操作性を向上させるためにひかり回線を引きました
快適です(*´∀`)