※二人はガチ父娘です。
需要がなかろうがここは譲れません。
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「……俺は君の父親なんだけど覚えてる?」
目をさますと、知らない男の人がなんでか真面目な顔をして質問してきた。
顔のつくりに注意して目の前の男の人をよく観察してみた。
(この人とも似てないなあ)
お母さんの結婚は二回のはずだから、見たことのないこの人はお母さんの一回目の結婚相手のはず。
本当に私と血のつながった父親なのだろうか。
だいたい、同級生の親とは、違う生き物にみえる。
なんていうか、テレビをみて笑ったり、食事を作って食べたり、そういう日常を過ごしている姿が想像つかない。
浮世離れしたって言葉はこういう人のためにあるのだろう。
お父さんはそういう姿を努めて保とうとしているけど、この人は自然にそうなっているという感じがする。
「血のつながった父ですか?」
「そう」
表情は動かないから、つぎの発言をきくまで、何を考えてるのかはよくわからなかった。
「あー…悪かったね いきなり倒れられたものだから焦ってしまって」
言い訳めいたことを口にしたこの人の視線の先に目を向けると、制服をにぎる手がみえた。
「「……………」」
この人が、お母さんの恋人だったってことは理解できる。
冷たそうな美形で、細身だけれども男性らしい均整のとれた体。
お父さんと同じ。お母さんが好むタイプ。
よくみると肌も髪もずいぶんきれいだ。
この人も気をつかっているんだろう。
……………。
「あーー ケーキ食べる? たぶん、くずれちゃってるけど」
困ったように愛想笑いをしながら、木枠にガラスが張られたテーブルの上に箱を載せた。
洋風のおしゃれな家具が様になっている。
普通のアパートなのにそう思うのは、たぶん、きっちり整理されているから。
高級な家具がかわいそうになるうちとは大違い。
ケーキも高そうな店のもの。
女の機嫌をとるような品も忘れないあたりずいぶんな遊び人だったのだろう。
いや、いまは独身なのだから遊び人なのか。
「ありがとうございます」
目の前にだされたチョコレートケーキは中身のクリームがはみ出していた。しかも、胸がむかむかするくらい甘かった。
甘いだけのお菓子は大嫌いだ。
この男は、本当に私の父親なんだろうか。
どうして、私をあずかるなんてことを引き受けたんだろう。
……………。
ああ、でも。
……もう、どうでもいい。
どうでも……
「もしかして、甘いものは嫌いだった?」
男からの三度目の質問。お皿はもう銀紙とフォークだけになっていた。
ちびちびと食べていた私のケーキは、まだ三分の二以上残っていた。
「ええ、まあ…」
「ごめん。食べるから渡して」
言われたとおりにすると、この人は残りのケーキを食べ始めた。
鋭い冷たさのある造形が覆されるほどのほくほく顔で。
口を汚さないぎりぎりの大きさに切って、なかでとろかすようにお菓子を味わっている。
あぜんとするのと同時に、昔の記憶が呼び起こされた。
この人の食べるお菓子が、何よりもおいしいものにみえたあのころ。
この人……たびたび、娘の分け前をねだる声も無視してしまうほどケーキに没頭していた。
そうだった……この人は、たしかに私の父だ。
目の前のケーキに夢中のクールビューティーをみながら、私はこの事実を痛感したのだった。
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最終更新日 2012-11-22