再会と微動(4-1)―着果遡行 | 自家中毒

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こんにちは
当ブログは挨拶を1年半あまり忘れる人間による妄想ブログです
(二次創作を含みます 作者さま・出版社さまにはかかわっていたらとても書けないようなブツが並びます)

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説明の章がやけに長くなりそうな件。

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「先程、御紹介いただきました 黒羽ケイです」

 社員全員の前に立って、きっちりした敬礼をするこの新人。

 来るところ、間違ったんじゃねえか?   
 ほとんどの社員がオレと同じ印象をもったはず。

 映画俳優を志望してもおかしくない美形がそこにいた。

 ※

「つうわけで、教育担当の烏山だ よろしくな」

 場所は変わって営業部事務所。

 新人に対する自己紹介を終えたばかりでまだ人が近くにいるってのもあるんだが、周りの同僚の視線を痛いほど感じる。
 どんだけの悪癖持ちかを見極めようとする視線がブスブスと突き刺さってるわけだ。

 が、こいつは気づく素振りもなかった。
 まあ、周囲を気にできれば変人になんかならねえな。


 社長、なんでオレなんですか?
 営業部に配属されたこの新人の面倒をみろと辞令はきていたけど、もう、履歴書をみた時点でそう思ってた。


 顔写真(白黒で判別しにくい)じゃなくて学歴がな。

 旧帝大経済学部卒。


 うちは、従業員が工場と合わせてすら100人にも満たない規模の会社にしては化け物じみた売上高を叩き出している。

 いくら世の中好景気とはいえ驚きの業績だ。


 それを支えてんのが社長じきじきにスカウトした研究開発部やらのインテリジェンスたちなわけなんだが。

 工場に浴槽付きの風呂場があるのは才だけはある豚野郎のため。こいつは15時からの2時間にわたる入浴を欠かさない。それだけなら許容範囲なんだが、その間は絶対に仕事をしやがらねえ。

 会社に根を張るガリガリは寄生虫のホルマリン浸けをデスク周りのインテリアにしている。こいつは営業の人間を標本を買うための使いっぱしりとしか思ってない。あと、工場の夜がこいつのインテリアのせいで怖い。


 つまり、うちですら出せない高給が獲得できるような学歴のやつらは、好きなことができる環境を選んで入社してくるわけだ。

 高学歴=変人の図式があてはまらないのは、塩原総務主任くらいだな。女でも働き続けたいなんてほんと平々凡々な理由だぜ。


 履歴書を見る限り、容姿年齢に弱点があるとは思えず。

………この時点でもうかかわるのが嫌だ。

 なら、悪いのはもう中身以外にないじゃねえか!


 美形だけどな。
 ぼやけた写真のうつりが良かったわけじゃなくマジで美形。

 女向けの品売るならコンパニオンにも使えそうなもんだが、うちが売っているのは医療用品。
 目の前の男のルックスを活かす機会なんかろくろく無くないか?

 そもそも、現役で卒業してるにしてもオレの1学年上だ。
 しかも、オレは童顔ときている。

 地元高校卒、入社3年目でようやく仕事に慣れてきたギリギリ中堅のオレ。

 ぶっちゃけ、なめられる予感しかない。
 それが少なくても1か月は続くなんてな。


 どんな変人なんだ? 学生運動幹部とかか??
……やべえ。すごくあり得る。


 が、新人が発した第一声は信じられない一言だった。


「よろしくお願いいたします まずは何をいたせばよろしいのでしょうか?」

 過剰なばかりの敬語も、はきはきした声ときっちりした仕草と一緒だといやみに感じない。
 まあ、営業マンってより銀行やらホテルやらの窓口を彷彿とさせるんだが、それはともかくとして。

 この予想外現象に周囲がざわつく。
 さすがにそれには新人も気づいたらしい。カバンのなかから何かを取り出しながら少し眉を下げた。


「すみません 仕事は自分で探すべきでしたか? いただいた資料に対する疑問点はこれくらいしか発見できなかったのですが、部の資料はどちらにあるのでしょうか?」

 出てきたのは、事務用の黒いクリップで止められたレポート用紙が1束。
 すっげえ丁寧に揃えられてる。事務のうるさがたと並ぶくれえだ。

 なんだよ、こいつ意外とまともなんじゃねえの?


「まずは同行だな 資料で学ぼうとすんな 一人で間違った仕事覚えられたら困っから」

「はい すみません」

 きっちり敬礼して謝ると、新人はすぐにレポート用紙を入れていたファイルに戻し、カバンを肩にかけた。

 おお、口ごたえもなしか。この態度が心からかはともかく、あるじゃん、社会常識。


 さらにだ、車のなかでも予想を覆す出来事は続く。

「すみません 取引先へ伺う前に挨拶の動作を教えてください」

 運転中で手本を示すのが無理以前に、その意味がさっぱりだった。


「はあ?? さっき、普通にやってたじゃん」

「通常の方法は存じているのですがこの業界特有の作法が存在するかもしれないと思いまして」

 そう口にしながらも、取引先までの道順を叩き込むのを怠らない。
 持参したらしい記入ボードの上に真新しい地図帳を載せて赤青エンピツを武器に記録している。


「んなもんはないね あんだけ丁寧な礼ができれば心配ねえから」

「そうですか お誉めいただけて嬉しいです」

 言葉が下にこもらないよう言い切ってから、腰を30度傾けるおじぎをしてみせる。
 品行方正って言葉が似合う笑顔付きでだ。


 あー、普通に優秀だわ、こいつ。
 オレだったら、そんなこと思いいたらねえもん。

 もしや、オレが教育当番なのって、変に嫉妬したりしないからか? 
 オレにだって低姿勢だから、主任とかにつけたら却ってネチネチいびられそうだもんな。

 こいつだったら、3年後には役つき確実だわ。

 ※

 それから、1週間。

 オレは、社長とサシで飲んでいる。
 こんな高級バーは、人生初体験。雰囲気に呑まれて美人のねーちゃんにも素直に嬉しがれねえ。

 ああ、もったいない。一生に一度あるかないかの役得だっつーのに。


「新人はどうですか?」

 社長が柔和な声できいてくる。

 そういや、温厚篤実を絵に描いたような人がこんな店を知っているのも意外だ。
 まあ、社長だしな。他のお偉いさんとの付き合いで知ってるんだな、きっと。


「素直でいいやつだと思います オレが年下だってきいても仕事の先輩として敬う態度を崩しません」

 まるで玉露が入っているような優雅さで社長はウイスキーのストレートを飲んでいた。


「仕事の遂行能力について訊ねているんです どうですか?」

 嘘をついてもよかったんだが、それを許さない威圧感があって、オレは正直に話した。


「……営業にはあまり向かないと思います」



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今回も投稿失敗を何度も繰り返しました
結局、帰宅後PCから投稿

長文だとへたるのかな?