写経屋の覚書-なのは「じゃ、今回は画像43枚目、『第三章 労働状況』を見ていくね」

第三章 労働状況
 朝鮮人労働者は、何時頃から労働市場に現はれたか、其起原は非常に古いもので、併合以前に於て彼等は既に来住し、朝鮮飴売として相当の収益を挙げて居た。次に、朝鮮人参行商者として、相当の数を見せて居たが、労働者として一般に認識さるゝに至つたのは、大正四年頃からである。世界戦争中労働不足の期間にあつては、彼等来住者も殆んどすべてが消化されて居たが、大正十年末頃より彼等は漸く職を失ひ、人夫土方の職業へ駆逐さるゝやうになつたのである(第一章第二節参照)。彼等現在の労働状況は如何以下項を追つて説明しやう。

写経屋の覚書-フェイト「韓国併合の前から日本に来てた朝鮮人労働者がいたの?」

写経屋の覚書-なのは「うん。主に土木工事や鉄道工事といった現場作業関係なんだけどね」

写経屋の覚書-はやて「『世界戦争中労働不足の期間にあつては、彼等来住者も殆んどすべてが消化されて居たが、大正十年末頃より彼等は漸く職を失ひ、人夫土方の職業へ駆逐さるゝやうになつたのである』っちゅうんは、前も出てきた大戦景気から戦後恐慌いう流れやね」

   一 雇傭関係
 朝鮮人の雇傭関係といつても、何にも、内地労働者と格別に異つたところはない。同人に、各種事業に於ける雇傭関係を一々調査する事は、当課編纂の工場労働雇傭関係及日雇労働者問題と重複するが故に、詳細は該調査報告を参照さるゝ事を希望して、此処に於ては、内地労働者の雇傭関係と幾分か異れる色彩を持つところを、述べることにしやう。
 朝鮮人工場労働者の雇入は、初めはすべて自己志願であつた。彼等は勇敢に各工場を戸別的に、求職訪問をしたものであつた。次いで、当初雇傭されたものが、自分の朋友を紹介、就職させたものであつて、企業家の方から朝鮮人労働者を募集せし例は、甚だ稀である。彼等は自立して労働して居るが然し、一方、朝鮮人土方は組をなして労働するものが多い。大きい組は、三、四十人の労働者を擁し、組頭は部下を吾が家に下宿せしめ、労銀も組頭の手より支払はれる。仕事の都合で、遠隔の地に行くときは、組全部が移動するのであるが、其間統一を欠くこと夥しいものがある。小さい組になると、四、五人と云ふものもあるが、之れにも組頭はあつて、特権を振つて居る。中には、組全部が木賃宿住ひなどして居るものもある。其団結は、極めて薄弱で、朝に入って夕に去るてふ事実も、少くない、組頭は仕事に際し、部下を指揮、監督し、自らは直接労働に服せず、雇主の命を部下に伝へ、労銀の協定について直接雇主と交渉し、雇主より受取りたる労銀を部下に割当てるのである。其際、相当金額を自己の所得とするは勿論にして、組頭は丁度ブローカアのやうなものである。近来内地人土方の部室にも二三の朝鮮人労働者を見ないところはない、彼等は勿論土方として日々内地人に交りて、労働して居るものであるが、急に多数の手を必要とする際の如きは、朝鮮人土方、人夫の募集係として、重宝されて居るのである。

写経屋の覚書-フェイト「最初は飛び込みで売り込んでたんだね。経営者の方が朝鮮に行って募集したんだと思ってたよ」

写経屋の覚書-はやて「集団でやってきたんやなくて、個人個人で売り込みに来たんやな。ま、大阪限定の話なんかもしれへんけど」

写経屋の覚書-なのは「土方については集団で行動する例が多いみたいだね。組頭が配下を自分の家に住ませて、仕事の交渉や賃金支払いも仕切ってるんだよ。下請孫請けの現場作業員集団みたいなもんだね」

写経屋の覚書-フェイト「組頭はブローカーのようなものって言ってるしね」

 次に、朝鮮人労働者の労銀は如何と謂ふに、雇主は内鮮人共に最低労銀としては、変らないと謂つて居るが、それは朝鮮人成人労働者最低労銀を、内地人少年労働者の労銀と比較するからである。而も、最高労銀に於て著しく相違するを以て、平均労銀は、内地人のそれよりも、遥に、低廉である。一般に朝鮮人労働者は、自己の労銀額を徹底して主張しないから、狡猾な雇主よりは、多少宛行扶持的の待遇を受けて居る傾向がある。
 左に、内鮮人青年労働者の労銀を比較せんに、

(内鮮人成年労働者労銀比較)    (大正十二年六月迄平均)

 朝鮮人 内地人
最高普通最低最高普通最低
円 円 円 円 円 円 
農作夫1.701.601.202.202.002.00
農作婦9085851.201.201.20
洗濯夫1.901.801.002.702.001.00
色染工1.901.20802.802.1090
メリヤス工1.901.301.003.002.201.50
紡績工2.001.20902.801.701.00
硝子工3.001.20903.501.601.10
仲仕2.502.001.703.002.502.00
人夫1.701.701.002.001.901.80
土方2.502.001.702.802.502.00
坑夫2.302.101.603.002.501.80

  備考 朝鮮人労働者は総ての紹介に対して手数料を請求する中間的に労働を紹介せしものにつきてもコミツシヨンを要求するのである彼等の実収は往々彼等に支払はれる金額よりも一割乃至二割の割引を見ることが稀でない

写経屋の覚書-フェイト「やっぱり内地人より賃金は低いんだね。っていうか、賃金の低さが利点、セールスポイントでもあるしね」

写経屋の覚書-はやて「労働を紹介したら手数料取るって、それこそブローカーみたいにそれで飯食うとる連中もおったんやろなぁ」

   二 労働者としての朝鮮人
 既述の如く、来住せる朝鮮人労働者の大多数は、朝鮮に於ける下層農民なるが為め、機械工業の労働者としては、直ちに、使役し能はざるものであるから、此処に於ては、現在朝鮮人労働者が主に従業なし居る労働に就いて、彼等の価値概観を述ぶる事とする。
 茲に、参考として、朝鮮人労働者中、大多数を占むる、朝鮮人土方を、直接監督使役して居る一現場技術員の通信を掲載しやう。
(以下原文のまゝ)

(前略)只今当下水工事に従事せる鮮人と内地労働者との賃金の比較は大要左の通りであります。

  円  円
内地土方3.002.20位
鮮人土方2.501.70位

一内地労働者に比し体質、気力に於て劣り躬行卒先して自己を啓発するの修養がないから従つて能率もあがらない其作業振りは至つて緩慢且つ微温的であるヨボ〱〱と云はれても仕方がない
一素質と云つても鮮人中最下等に属するものらしく其多くは文盲である筋肉労働者の要素たるべき鋭気闊達の気風は見るべくもない況して土方に必要な担ぎ荷(肩の力)の弱いことお話になりません、それだから一気呵勢の活動は不可能である
一個性か慣習か就業中蔭日なたを最る露骨にやる内地土方の様に親方に対する義務とか謝恩とかの観念は皆無である、彼等は働く為めに日中追ひ廻され叱り飛され、爪弾され蔑視されても尚俗に云ふ日中油を売る事に虎視眈々たるものがある内地労働者の希望する出来高労働で腕次第力詮議に多くの収入を得たいと云ふ観念もないらしい最も憎むべき通弊として自分に都合の悪い指揮命令の下らんか言語の不解を楯として「知らん」「分からん」の一点張りで白ラバツクレル事である斯くては彼等の前途は本能的に自滅の外はあるまい(以下省略)

 以上は、朝鮮人の本来を理解せず、たゞ、内地労働者と対等なるものとして、直ちに、非難せし嫌ひあれども、而も、朝鮮人労働者の半面を物語るに充分である。

写経屋の覚書-フェイト「すごい低評価というか悪評だね…」

写経屋の覚書-はやて「『自分に都合の悪い指揮命令の下らんか言語の不解を楯として「知らん」「分からん」の一点張りで白ラバツクレル』ってまるでドリフのコントやんw」

写経屋の覚書-なのは「ただ、本文ではそれだけが全てじゃないって言ってるんだよ」

 一般に、朝鮮人労働者は、自己の労務に責任を持たない。勿論、興味など持ちやうもない、たゞ、御役目的に動くのみである。従つて、活気がない、殊に、好悪乖逆、唯、利を以て相争ふの常習に至りては、殆んど、人格を認められて居ないと云はれて居るのである。加ふるに、廉恥心乏しく、不労所得を以て賢明なる行為となし、物を掠むるに大胆至極なるなど、等しく、社会の顰蹙するところであらう。
 然れども、因襲的に虐げられ、歴史的の苛斂誅求に禍されての僻みたる性格と、イヂけたる生活は、一朝一夕に矯めらる可くもなく、卑屈と、不貞腐れは、彼等が未だ温情味に浴したる事なき、可憐なる彼等の過去を物語るものなるを思へば、唯、単に彼等を養ひ難きものとして、顧みる事なきは、余りに、新附の民に対する理解と、同情とを欠くものである。遮莫、彼等が内地労働者の忌避する、汚賎なる労働をも、案外苦にする事なく仕遂ぐるところは、労銀の低廉と併せて、彼等の長所として利用し得べきである。
 事実に於て、朝鮮人労働者が土方、人夫、炭坑夫として、相当需要ある点を考ふれば、彼等が此方面に於て、将来を有す可く、現在土工工事と朝鮮人労働者は、影の形に伴ふが如く、全国到る処に分布され居るを思へば、彼等の価値も漸次認識されつゝありど、謂ふ可きである。彼等も土方として、其優秀なるものは、内地人土方と殆んど等しき技術を発揮して居る。彼らに進歩がないと云ふ事は出来ない、勿論、彼等が土方として自滅するより外はないと云ふ結論は、余りに、朝鮮人労働者の価値を知らざる言葉ではなからうか。土方稼業に必要なる担ぎ荷の弱き点は、彼等が幼時より慣らされし担軍(チゲ)(脊の力)の方法によりて、代理されやう。彼等は先天的に悪人ではない、彼等の悪癖は、彼等の肉体が亡ぶまで矯正出来ないものではなからう、指導の方法如何によりては、誠に温順なものである、使ひにくひと顧みないのは同情のないことではなからうか。

写経屋の覚書-はやて「『御役目的に動くのみ』っていわゆるお役所仕事っちゅうか、悪い意味で淡々と仕事をこなすってことやね」

写経屋の覚書-フェイト「それに『廉恥心乏しく、不労所得を以て賢明なる行為となし、物を掠むるに大胆至極なる』って、働いたらダメな人じゃない」

写経屋の覚書-なのは「理解と同情を欠くものだとか、決してダメなものじゃなく『其優秀なるものは、内地人土方と殆んど等しき技術を発揮して居る』んだから進歩改良の可能性は十分あるんだとかいろいろフォローはしてるんだけどね」

写経屋の覚書-はやて「よくがんばっとる人もおるんやから優しい目で見たって、っちゅう内地人向けのアピールっぽい気もするけどね」

写経屋の覚書-なのは「一現場技術員の通信も『優秀なるもの』も極端な例だとは思うんだけどね」

 次に、朝鮮人労働者の団結力、労働組合的、及び親分子分的の関係に於て述んに、一民族が他民族間に移住するときは、移住せし民族の間には、自然的に、他民族に対して一種の攻守的団結がなりたつことは、歴史の証するところである。我が来住朝鮮人労働者間に於ても、此の団結は、種々の方面に観る事が出来るが、然し、朝鮮人労働者の団結は、区々縦断的にして、全体より見て、其の団結力は微弱なものである。例へば、一工場内に働く労働者、一工事場内にある仲間と云ふ程度のもので、他工場乃至他工事場に対してまで、横断的に、団結力のあるものはない。然のみならず、同じ工場内に於ても、持場を違ふれば、既に相互の交渉は薄くなるのである。彼等の団結は、要するに自己本位の団結であつて、自己および自己の最も近い周囲以外に拡大さるゝ事は甚だ稀である。彼等は未だ労働組合的のものを組織して居ない、同時に、相互扶助てふ観念には甚だ乏しい。大阪に於ても、朝鮮人同胞の福利を増進し、相互扶助救済を目的とする等、種々宏大なる理想を標榜して組織された組合は、当初より数ふれば七十余、現在二十三(大正十二年八月現在)あれども、何れも総会を催す事、僅に、二、三度にして解散し、而も、労働組合としての意義よりも、救済的機関たるの色彩濃く、労働組合としては何物もないと謂つて良いのである。又、親分、子分的の関係に於ても、内地労働者間に見らゝ超物質的のところは殆んどない。彼等は、所謂、刎頸の友と悲憤、慷慨する事は出来る。然し、大きな団体全部の為めに、自己を犠牲には出来ないらしい。否、小さい自己の利益を固守する事のみに、余りに、汲々として居るのである。然し、内地に於ける労資問題の不断的刺戟は、いづれ、近き将来に於て彼等も此点に覚醒する時が来るであらう。それでも、朝鮮人労働者は一般に従順である。彼等は内地人労働者と求めて抗争はしない。然し、一つの仕事を内地人と共同でやらせると、どうも、能率が挙らない。彼等は、彼等同志で働かす方が、結果に於て、却つて良好である。此点は、研究すべき価値あるところである。要するに、朝鮮人労働者は内地労働者と、求めて抗争はしないが、又、全然融和もして居ない。之れが彼等の現状である。
 一般に、内地労働者は殆んど朝鮮人労働者を、労働者として価値なきものゝやうに取扱つて居るが、それは大きな眼鏡違ひである。朝鮮人労働者は、今や、孜々として内地労働者を模倣して居る。彼等は内地労働者の労働の価値其物を尊敬して、これに師事して居る。彼等の多くはよく隠忍して居る。若しも彼等がよく隠忍自重する其表面の態度を見て、直ちに、意気地なしと批評するならば、それは甚だ、軽卒と謂はなければならないのである。

写経屋の覚書-フェイト「団結する範囲が狭いってことだね。『彼等は、所謂、刎頸の友と悲憤、慷慨する事は出来る。然し、大きな団体全部の為めに、自己を犠牲には出来ないらしい。否、小さい自己の利益を固守する事のみに、余りに、汲々として居るのである』っていうのも興味深い指摘だね」

写経屋の覚書-なのは「血縁地縁による結合に終始して、それらを越えた社会的な結合・団結ができないってことで、よくいわれるウリとナムの話に通じるところがあるんだよ」
 
写経屋の覚書-はやて「あー、所謂ゲマインシャフトに留まってゲゼルシャフトがでけへんみたいなもんやな。広域商業の発展がなかったんとも関係ありそうやね」

写経屋の覚書-なのは「そうだね。資本の蓄積ができなかったし、融資機関としての銀行が未発達だったから稧がずっと温存されたって考えられるわけだしね」

第四章 生活状況
 生活は人格を支配する根元ともなるものであるが、朝鮮人労働者の生活状態は、吾人の眼に映ずるところ、寔に、悲惨、其物である。殊に、食物の点に於ては、よくもあれで生存するに必要なる営養素を摂取さるゝものかはと、疑はざるを得ない程である。彼等は、飯と、塩と、野菜とで生きて居る。食ふ分量は多いが、副食物としては、朝は醤油、或は塩とで腹を拵へ、昼は漬物、(殆んど生の漬物)晩は油揚と野菜の煮付、或は、魚類の乾物位が関の山である。労働中彼等に根気がなく、闊達の風の見えざる等は、営養の不充分なる事が大きな一因をして居るものではなからうか。而も、草根木皮を或る期間常食とせざる可からざる程、虐げられたる彼等の過去生活の経験と、苦悩は、吾人の眼より見て、囚人よりも更に劣る現在の生活に、尚、汲々として彼等を生きて行かしめるのである。彼等は一様に冀つて居る、唯、金を得たいと、其獲得したる金を持ってどうしやうといふものでもないらしい。只、単に金を得ることのみを考へ、生活の改善、地位名誉に対する欲求などは殆んど問題として居ないらしく思はれる。少くとも、内地に居住する間は、金を残す其事のみによつて、彼等は満足出来るのである。それが為めには、体の営養も、衛生も、何んでも犠牲に出来る。眼前の利を見て走る彼等の習僻は、其源を、こゝから発するのではなからうか。世人は往々、渡来朝鮮人労働者は、酒と、賭博に、収入の全部を費やすものゝ如く考へて居るが、是れは、全体を穿つた観察ではない。勿論、多数の朝鮮人労働者の中には、酒を飲み、賭博に耽り、喧嘩騒擾を常とする、所謂、少数の不良鮮人がないではないが、彼等は、寧ろ、真面目なる朝鮮人労働者の力によりて、漸次淘汰されつゝあるが如き実状にあるのである。

写経屋の覚書-フェイト「あれ?『昼は漬物、(殆んど生の漬物)』ってキムチじゃないみたいな書き方だね?キムチは手に入らなかったのかな?」

写経屋の覚書-はやて「出稼ぎ生活やから、キムチは自作する暇もないやろし、まだキムチを売る人もおらんかったん(ちゃ)う?」

写経屋の覚書-なのは「そうだろうね。需要はあったんだろうけど、供給する人がいなかったってことじゃないかな」

写経屋の覚書-フェイト「『少くとも、内地に居住する間は、金を残す其事のみによつて、彼等は満足出来るのである』って、まるで食費も酒代も削ってバイトしてたころの一時期の作者だね(笑)」

写経屋の覚書-はやて「全部のエネルギーを貯金・送金に費やすんやね。そら、酒や賭博に金や暇を割かれへんわ。そやけど、『所謂、少数の不良鮮人がないではないが、彼等は、寧ろ、真面目なる朝鮮人労働者の力によりて、漸次淘汰されつゝあるが如き実状にあるのである』っちゅうんはほんまにそうなんやろか?」

写経屋の覚書-なのは「楽観的観測とまでは言わないけど、額面どおり受け取っていいものかちょっとわからないよね」

 要するに、彼等は彼等の収入の範囲内に於て、貯金或は送金して、而も、生活して行かうとして居る。彼等は、如何なる切りつめた生活でもやり兼ねない、然し、彼らの意気込がどうであらうが、やはり、最低限度と云ふものはなくてはならない。朝鮮人日雇労働者に、一ヶ月幾許あれば、生活なし得るや、と質問せしに、或者は八円と答へ、他は九円と謂つた。彼等は生活費として、食費を計上することのみによりて足れりとして居る。衣服、住居と云ふものについては、之れを、必要と認むるまでの余裕がないのである。勿論、病気などに対する予備費用等は考へて居ない。彼等の生活状態程、社会の文化より、とり残されたるものはなからう。人類愛の為めに、人格擁護の為めに、刑務所の内容でさへ、種々其目的に叶ふやう、国家の力を以て改善され、其施設に於て、相当保健と労働とを保証され居るに反し、彼等無辜の労働者が、働く可く汲々として、無益に職を求めて徨ひ、僅少なる収入に辛じて生きて行かねばならない社会の現状は、皮肉以上と謂はねばなるまゐ。

写経屋の覚書-フェイト「内地にいるのは出稼ぎの間だけだから『病気などに対する予備費用等は考へて居ない』っていうことはありえるよね」

写経屋の覚書-はやて「まぁ、切詰めるにも限度があるやんなぁ。それに1934年(昭和9年)の話やけど、家賃滞納してまで送金してたっちゅう話があるんやで」

朝鮮人移住対策の件(七)

ところが、朝鮮人の実情を見ると、通常5~6円の家賃で2~3戸が共同生活しているため、1戸当たりの家賃は彼等の1日分の労賃程度であり、この支払いができない理由は少しも無い。
現に、家賃滞納者でも毎月郷里に5~10円の仕送りをしている場合も結構あり、問題は前述のような民族性と出稼人根性による一種の悪風の流行と断じる事ができ、更に衛生・風俗問題も、田舎者の彼等が渡航後も郷里の風習そのままで生活しているため周囲と調和せず、それが非難されがちになるものと思われ、と。
現代日本でも、支払能力があるのに給食費滞納やら医療費滞納やら、笑えない事態が起こってますな。
( ´H`)y-~~

写経屋の覚書-なのは「それは『労働調査報告28号 朝鮮人労働者問題』の作成された大正13年からは10数年後の話になるんだけど、あいかわらずというか、ね。じゃ、今回はここまでにするね」

大阪に於ける朝鮮人問題(1)  大阪に於ける朝鮮人問題(2)  大阪に於ける朝鮮人問題(3)
大阪に於ける朝鮮人問題(4)  大阪に於ける朝鮮人問題(5)

写経屋の覚書-なのは「今回からは『第二章 来住の原因』を見ていくんだけど、30ページから63ページは飛ばすよ」

写経屋の覚書-フェイト「どうして?」

写経屋の覚書-なのは「朝鮮人労働者の来住についてのプッシュ要因となる朝鮮の産業社会構造や小作習慣の話などがメインで、それらはそれらでおもしろいんだけど、私たちが見ていきたいのは大阪を主眼に据えた話、つまりプル要因のほうだからね。そういうわけで画像37枚目、64ページの『二 索引的原因』から見ていくよ」

二 索引的原因 朝鮮土民の生活に比して、内地生活の有する真実なる、又は、妄想的なる便益を朝鮮人農民に感ぜしめ、彼等を刺戟して、日本内地に住居せんが為に居村を去らしむる諸原因にして、重に経済的方面に強い誘引力を持つ事を常とするも、個人主義的解放の要求と云ふが如き、非経済的方面の動機を持つ事も勿論である。
 索引的の経済的原因として首位にあるものは、内地に於ける朝鮮人の労働賃金が、朝鮮に於ける朝鮮人の労働賃金と比較して著しく高い事である。元来都市に於ける生活費は、外見上田舎に於けるそれよりも大なるが如く見ゆれど、実際に於て然らざる事が多いが如く、生活必需費が収入に対する割合は、朝鮮よりも内地の方が却つて低いのである。
 朝鮮人の労銀が、朝鮮と内地との間に、何の位差異があるかを、比較研究せんに、即ち、次の如き関係となる。

(内地及朝鮮に於ける朝鮮人労働賃金比較表)    (大正十一年中平均熟練職工労銀)
一、農事に関するもの
 内地朝鮮
円 円 
農作夫1.64.92
農作婦.87.56
植木職3.211.62
漁夫2.831.70

二、元料身装に関するもの
 内地朝鮮
円 円 
染物職1.901.25
洗濯職1.801.20
洋服裁縫職3.222.30
靴職2.781.90
理髪職1.981.24

三、飲食物製造に関するもの
 内地朝鮮
円 円 
杜師月賄 60.42月賄 26.00
醤油製造職月賄 40.00月賄 20.20
煙草製造職1.61.92

四、建築に関するもの
 内地朝鮮
円 円 
家作3.502.17
船造3.782.17
左官3.602.35
石工4.002.40
家根葺3.711.96
瓦葺4.172.50
煉瓦積4.112.59
煉瓦造3.301.80

五、器具製造に関するもの
 内地朝鮮
円 円 
指物3.702.20
建具3.702.20
表具師3.302.00
桶工3.101.70
車製造職3.511.97
鍛冶職3.261.91
錻力トタン職3.261.95
鋳物職3.241.92
金銀細工職3.001.97
彫刻3.022.00

六、雑
 内地朝鮮
円 円 
活版植字2.201.10
鳶人足2.501.60
手人足1.70.90
土方2.301.30
人力車夫3.002.50
仲仕2.501.60
坑夫2.201.30
職工1.801.10
ペンキ塗職2.802.20
店員月賄 15.00月賄 7.00
海員1.501.00
雑役1.20.70
下男月賄 18.78月賄 11.20
下女月賄 13.30月賄 6.72

 表中○印は内地に於ける朝鮮人労銀不明に付内地人の平均労銀を掲げたり
 月、は月給  賄、は賄付
 近来課程労働に従事するもの多く為めに実収入は表よりも多きを普通とす

 右の表が説明する如く、内地と朝鮮とに於ては朝鮮人の労銀に五割以上の相違がある。而して、朝鮮人の食費(宿泊料を含む)は、内地に於ては、普通一日六拾五銭、朝鮮に於ては、普通一日五拾銭(但、都会)である。故に、収入に於て五割以上を増し、生活必需費に於て三割より増さないのであるから、結局二割以上の剰余を生ずる事になるのである。加ふるに、内地生活の愉楽、(少くとも朝鮮人労働者にとりては向上された文化的生活である)及び人格的自由を享有し得るてふ事は、いやが上にも朝鮮人農民を熱狂せしめ、盲目的に殆んど爾余の考へもなく内地へ向はせしめるのである。

写経屋の覚書-フェイト「朝鮮での賃金と内地での賃金は5割以上も違いがあるんだけど、生活費のほうの違いは3割なんだね」

写経屋の覚書-はやて「物価の違いってやつやね。それに内地には朝鮮にはあらへん娯楽と自由があるってことで、見かけの数値以上に暮らしやすい感じって解釈なんやろね」

 以上経済的原因の外に、内地来住の強い精神的原因となれるもの、実に、帰郷人の誇張的宣伝である。内地に来住して帰鮮する朝鮮人労働者は、其土産話に、自らが内地に在つて苦るしい生活をしたことを口にしない。彼等は、恰も、凱旋将軍の如く威風堂々として、兵を語るのである。たとへ、無一文で帰つた者すらも、金を残さなかつたのは、浪費したからだ、と謂ふ風に、文化に浴する事少ない朝鮮農民の前に、内地文化の絢爛たるところを説くのである。内地に来住すること二ヶ年の一朝鮮人青年が、帰郷して、朝鮮語は忘れたといつて朝鮮語を話き(ママ)ず、朝鮮食を喫せず、朝鮮服を纏はざりしが如き極端な例もある。調査者が今夏本調査上の必要より朝鮮を旅行せし際も、内地より帰鮮する朝鮮人労働者は、何れも軽装なる浴衣着に下駄を穿ち、指に金色の指環を輝かせて、一見内地人と異なる事なき服装で、意気揚々たるものであつた――文明の恩沢より遠く離れて生活する朝鮮田舎農民の耳目は如何に誘惑されやう――内地出稼者の巧言美辞、及び内地出稼者中の極少数の小成金の土産話は、実に、大きな勢ひを以て、彼等を内地へ引き寄せるのである。

写経屋の覚書-なのは「以前獄長がエンコリで、日本から帰郷した朝鮮人が日本人の格好で『朝鮮語なんて忘れた』と得意気にしている史料があるって言ってたんだけど、ここがその出典なんだよ」

写経屋の覚書-フェイト「昭和時代のドラマとかに出てくる、ステレオタイプの東京色に染まった東京帰りの若者って感じだね…」

写経屋の覚書-はやて「おそ松くんに出てくる、おフランス帰りを鼻にかけるイヤミとも似とるなぁ。あ!英語圏行ったら臆面もなく英語名を名乗ったりするんと同根なん(ちゃ)う?w」

 次に、朝鮮人労働者の移住は、地理的に大きな関係を持つて居る。彼等の半島外への移住は、概略、短距離運動である。内地来住朝鮮人について、其れを出身道別に分類すれば、内地に最も近き、慶尚南北道、全羅南北道の出身者多数にして、一方、間島、西伯利方面への移住者は、咸鏡南北道、平安南北道の出身者多数を占むることを表はして居る。尤も、朝鮮人が南鮮と北鮮と人情を異にし、南鮮人のあるところへ北鮮人が交るを好まず、同時に北鮮人の許へ南鮮人の行くを欲せざる旧慣が、多少の影響を与へ居るならんも、其根本は彼等移住者の近距離運動の実際化に外ならないのである。茲に、内地来住の朝鮮人中、出身道の判明せるものにつき府県別に統計すれば、七万二千八百十五人中に於て、慶尚南道の二万八千六百二十八人、慶尚北道の一万千四百四人、全羅南道の一万八千五十人、全羅北道の三千三百三十二人の如く、南鮮人が最大多数を占むることを、次表が説明して居る。
 但、北海道及樺太の来住者は、内地を北へ縦行せしものと、西伯利を経由して来住せしものとの両者を含むのであつて、内地の他地方に比較して、是等の地方に北鮮人の多きは西伯利より移住せし朝鮮人のある事を意味するものである。(七四頁参照)

 本籍道別調査月日
全南全北慶南慶北忠南忠北京畿江原黄海平南平北咸南咸北
福岡県2,3741,9673,0321,766692288166364266180168352111,0493月末日
長崎県267419523293024502531331031,7507月末日
佐賀県107142311854226204166-1-652-
大分県1243284327212251312074-11,354-
鹿児島県311095372144-1123-1210-
沖縄県2-42---------8-
徳島県40-115348355-----210-
高知県281953761162-----1869月10日
香川県327140525598411--264-
山口県4911552,2711,3829092214471574211374,8726月末日
兵庫県5001713,806624763613041182966415,5026月末日
島根県2514377268109642--21-7368月末日
大阪府11,3525466,4252,0134391325302176755291443521,9849月末日
京都府7511141,8958291394812010511211644224,1159月末日
和歌山県715274119715656-1--11,095-
滋賀県1521737111634-6126-321720-
静岡県2291962730968537128277511,4269月末日
愛知県382531,3625811684519840171510922,8828月末日
福井県186198155121735416-4163月末日
富山県69104773832091115123-11,0019月20日
新潟県194551,743627594610642243212,884-
東京府4521581,0775261511523251031281591201571013,6099月末日
栃木県12611221543122-9610月25日
茨城県2521273952931-41-21810月20日
秋田県3-326--3--1322526月末日
山形県622448228212154-1259月末日
青森県928222-162-1-21749月末日
宮城県2455022561114-4512-158-
岩手県25-78381-4--192715189-
福島県3192236958241851071234249月1日
北海道18210093838110852213272911821124462093,28611月5日
樺太531219663252090126401041342601451,26811月末日
18,0502,33228,62811,4042,2201,1082,3951,5327269136721,26157472,815 

      備考 調査年は大正十二年
         調査月の記入なきものは調査月日の報告なかりしもの


写経屋の覚書-フェイト「あれ?宮崎・熊本・愛媛・広島・岡山・鳥取・奈良・三重・岐阜・石川・長野・山梨・埼玉・群馬の統計がないね?」

写経屋の覚書-なのは「そこまで調査しなかったのか、報告が間に合わなかったのか、理由が書いていないからなんとも言えないね」

 反対に、間島方面の移住者につきて、其れを出身道別に統計せば、最も近距離にある咸鏡南北道、平安南北道の北鮮人最大多数を占むるに反して、内地に来住する南鮮人の少きことを次表に物語つて居る。

写経屋の覚書-なのは「表は省略するから各自アジ歴で確認してね。書いている通り間島方面には咸鏡道・平安道から来た人が多いことがわかるから」

 別に、第十一師団駐屯区域地方に於ける、移住朝鮮人の戸口調査表を掲ぐれば、即ち、次表の如くである。此調査表は、前比較表の、「其他」の部の中、西伯利地方在住者であるが、こゝにも、等しく、北鮮出身者が多数を占めて居るのである。

写経屋の覚書-なのは「これも表は省略するね」

 斯くの如く、朝鮮人労働者の人口的運動は、地理的に大きな関係を持つて居ることが明らかである。彼等の移住は、恰も、現代人口の都市集中と同過程を辿る傾向を顕して居る。殊に、朝鮮に於ける、急激なる同化政策と、一視同仁の宣伝は、内地に来住する朝鮮人労働者をして、外国へ移住する場合の如き不安を感ぜしむるころなく、近距離にして、交通機関が完備し、旅費小なるが為め、貧困の下層民も容易に来住し得るてふ諸条件は、彼等をして、愈々、内地来住の要求を強くせしむるものである。
 以上は、朝鮮人労働者が内地へ来住する諸原因中の主なるものであるが、要するに、其根本となるものは、唯、一片の生活難と謂ふよりも、寧ろ、朝鮮人下層民が大いに覚醒し、其向上心が強まりたる結果に外ならざるものと思はれるのである。

写経屋の覚書-はやて「慶尚道・全羅道の人は南の内地へ、咸鏡道・平安道の人は北の間島・シベリアへと、近い方へ行くんやな。あれ?済州島出身者はどの道になるん?」

写経屋の覚書-なのは「当時、済州島は全羅南道に属してるんだよ」

写経屋の覚書-フェイト「これまでは『土地調査事業で土地を奪われたから』とか『日帝の収奪で困窮したから』なんて言説が多かったみたいなんだけどね…」

写経屋の覚書-なのは「土地調査事業云々は論外だし、困窮の原因を一方的に日本の政策に求めるのもおかしいんだよね」

写経屋の覚書-はやて「第一次大戦中の好況で、内地も朝鮮人労働者を必要としとったわけやしねぇ。その後不況になってもぉたけど」

写経屋の覚書-なのは「そうなんだよねぇ。経済にかかわる人間の移動って、一方的な要因だけで決まるもんじゃないんだよねぇ。第2章はこれでおしまい。今回はここまでにして、次回は第3章を見ていくね」

大阪に於ける朝鮮人問題(1)  大阪に於ける朝鮮人問題(2)  大阪に於ける朝鮮人問題(3)
大阪に於ける朝鮮人問題(4)
写経屋の覚書-なのは「今回も『労働調査報告28号 朝鮮人労働者問題』の続きを見ていくね」

     二 朝鮮人労働者と労働市場
 経済上の方面より朝鮮人労働者が問題視さるゝは、実に、労働市場における影響なりとす。朝鮮人労働者が、内地労働市場に於て、如何なる地位を占めて居るか、換言すれば、内地労働者が来住鮮人の為めに、如何なる競争を蒙りつゝありやを研究する事に依りて、朝鮮人労働者来住問題の調査を必要とする重大なる意義を発見する事が出来るのである。
 元来、内地へ来住する朝鮮人労働者は殆んど農夫であつて、何等機械工業労働の訓練も知識もないのである。従つて、彼等の唯一の資産はたゞ筋肉力を以て、直接にする、活動のみであつて、到底複雑なる生産工業の労働者として直ちに役に立ち難い事は勿論である。されば、朝鮮人労働者の内地労働市場に於ける、労働需給の方向は、重に、人夫、手伝、土方の種類であつて、職工、職工見習、徒弟等は比較的少数である。
 次表に示さるゝが如く、来住朝鮮人八万八千二百七十二人中、七万七千九百八十人は、筋肉労働者にして、其中、六万一千五百二十八人は、土方、人夫である。職工の主なるものは、紡績、機械、(重に女工一一五頁参照)硝子工にして大阪、兵庫、京都、愛知、和歌山等の府県に職工の多きはこの例である。
 学生精神労働者筋肉労働者其他の営業者及無職者調査月日
人夫職工
福岡県31149,8726201,73912,2766月末日
長崎県3531,59324951,7507月末日
佐賀県--5239435652-
大分県-11,27442371,354-
熊本県3-52976326406月末日
宮崎県--37315103986月末日
鹿児島県4-1441250210-
沖縄県--6118-
徳島県--19965210-
高知県--177271869月10日
愛媛県133422116275816月末日
香川県--2043624264-
山口県45504,1241065464,8716月末日
広島県3562,4913573303,2199月末日
岡山県9-567207578407月末日
兵庫県38132,7541,9477495,5016月末日
島根県--6764567368月末日
鳥取県--16218171-
大阪府431610,4717,5683,88621,9849月末日
京都府10542,2671,6201194,1159月末日
奈良県74490355959518月末日
和歌山県-2483597131.095-
滋賀県--449271-720-
三重県--6579257546月末日
岐阜県--3,4201743,4956月末日
静岡県1-1,179177691,4269月末日
愛知県4141,3351,3751542,8828月末日
長野県--3,817641043,9858月末日
山梨県--20833214-
福井県2-37821154163月末日
石川県2-2821643046月末日
富山県--96525111,0019月20日
新潟県112,6894512,737-
東京府6891392,8133352633,6099月末日
栃木県-16822-9110月25日
茨城県--212--21210月20日
千葉県1-776-849月末日
秋田県--52--528月末日
山形県17-112151359月末日
青森県--72-2749月末日
岩手県-218313189-
宮城県-12146--158-
福島県3-32388124269月1日
北海道1362,990332443,28611月5日
1,10129161,52816,4528,89088,262-

      備考 調査年は大正十二年
         調査月の記入なきは調査月日の報告なかりしもの


写経屋の覚書-フェイト「メインは単純肉体労働なんだね」

写経屋の覚書-なのは「うん、そのへんについては今後見ていく史料でも触れることになるんだけどね」

写経屋の覚書-はやて「大阪に職工が多いのは、岸和田や熊取といった泉南の紡績工のせいなんやろね」

写経屋の覚書-なのは「そうだね。で、職工が多くない理由について以下のように書いているんだよ」

 如何なる理由に拠り、朝鮮人労働者が、機械工業の職工として成長せざるや。調査者が、其方面の実際を調査せし感想を述べんに――

一 大工場と朝鮮人労働者
 茲に、改めて述ぶる迄もなく、現今の生産方法は殆んど分業である。而して、個々の生産品の組合せにより、或は各々独立の持場にある労働者の部分的加工の連続によりて、一つの完成品を産出する、所謂、労働分担(技術的分業)が普く大企業を支配して居る。この労力合同の生産経路に於て、何れの部分生産に於ても、不熟練労働の交らんか、生産品全体の価値を直ちに破壊する結果となるものなれば、分業の技術的方面に於ては、労銀の低廉なる不熟練労働者よりも、仮令労銀は高くとも、熟練労働者を求むる事切にして、殊に、手近の利益を挙ぐる事のみに汲々たる、経済主義的資本企業家が、不熟練なる、能率低き、朝鮮人労働者を雇傭して、実地養成し、以て、他日の熟練職工を生み出さんとするには、余りにも、朝鮮人労働者の素質悪しく、労力供給の払底なる時期なれば兎に角、熟練労働者さへ、失業に悩む、現在の労働需給状態の下にありては、到底朝鮮人労働者を容るゝ余地がないのである。加ふるに、身体を労する事より逃れんと努め、利の為めに流転常ならざる朝鮮人労働者の通弊は、掲示文をさへ解し能はざる不自由さ加減と結び付けられて、大工場の等しく歓迎しないところとなり、大工場の直接使用人として、朝鮮人職工は至極稀れに看るに過ぎざる有様である。

写経屋の覚書-フェイト「工場の方では熟練している労働者を必要にしているってことなのかな」

写経屋の覚書-はやて「長期的な視点で見て賃金の安い朝鮮人労働者を育成したらええやん、って思ったけど、「以て、他日の熟練職工を生み出さんとするには、余りにも、朝鮮人労働者の素質悪しく」なんて書かれとる。えらい低評価やな」

写経屋の覚書-なのは「しかも、当時は不況だから職に困っている熟練工が簡単に探せる所謂買い手市場だし、手間暇かけて朝鮮人労働者を育成するメリットもないって判断なんだろうね」

二 紡績会社と朝鮮人労働者
 紡績工として朝鮮人労働者は、其技能を相当著はして居る。殊に女工は、内地人女工と伯仲にありてふ定評を与へられて居る位である。然らば、朝鮮人労働者が何故に此方面に発展せざるや、一通り研究して見る必要がある。元来繊維工業企業者は、其労働者(主として女工)を得るに可成苦心するものであつて、或る時代に於ては、女工の争奪さへ盛んに行はれし事は、世人の記憶に存するところである。而して、此種の何れの会社も、年々、歳々、莫大なる費用を投じ、真摯なる態度を以て、所謂募集地なるものを経営して、専ら女工の募集に努めしものなりしが、近来男工も、これを都会に於て求むる時は、労働組合などの支配の下に、企業者を脅す事多きを以て、これも田舎より募り来るやうになつたのである。現時、農村疲弊して、各募集地より供給さるゝ労力甚だ多く、加ふるに、繊維工業の不振は、労力の需要を少からしめ居る有様なれば、仮令朝鮮人労働者を使役するは、相当有利なる事、明らかなるも、一方、募集地より供給さるゝ労力を斥けて、朝鮮人労働者を使傭する時は、折角の募集地も、直ちに、競争者に奪はれて、事業拡張等に際し、不時に労力の欠乏を感じたる時に於ても、如何ともなし能はざる窮境に面するを免れ得ざる結果となるものなれば、勢ひ朝鮮人労働者は、此方面にも疎ぜらるゝ立場に置かれるのである。一面、朝鮮人労働者が定住性を欠き、一人が帰郷するときは、其団体全部も附和雷同的に行動を共にするが如き(特に女工に多し)、企業者の最大不安とするところにして、進んで、朝鮮人労働者を使役なし得ざる一原因である。

写経屋の覚書-はやて「女性の紡績工は評価高いんやなぁ。募集地区みたいなんも設定して、争奪戦までやってたんか」

写経屋の覚書-なのは「『近来男工も、これを都会に於て求むる時は、労働組合などの支配の下に、企業者を脅す事多きを以て、これも田舎より募り来るやうになつたのである』っていうのは、第1回のエントリーで見た『朝鮮人移住対策の件(三)』の獄長の解釈を担保できるだろうね」

企業側は、内地人の失業者や以前から内地に在留する朝鮮人の使用を好まず、できれば朝鮮からの新規渡航者を雇いたがる傾向がある、と。

恐らく、企業側から見れば、この時期同盟罷業(ストライキ)、怠業(サボタージュ)等の労働争議が増えた事によって、単価も上がり、スレて使いづらい内地人や従前からの朝鮮人より、新規渡航者の方が安くて使いやすいって事なんでしょうね。
この時期、移民問題や労働問題ってのは世界的な潮流で、それが国際労働総会で話し合われて採択される諸条約に繋がっていくわけですが、それはまた別の話。
つうか、新規渡航朝鮮人が好まれる原因はこの史料に書かれてないんで、推測に過ぎないですけどね。
( ´H`)y-~~

写経屋の覚書-フェイト「でも、『朝鮮人労働者が定住性を欠き、一人が帰郷するときは、其団体全部も附和雷同的に行動を共にするが如き(特に女工に多し)』っていうんじゃ、やっぱり安定して雇用しにくいんだろうね」

三 小工業者と朝鮮人労働者
 茲に於て、朝鮮人労働者の需要方面は、其範囲非常に縮小せられ、唯、単に、労銀の低廉なるてふ事のみを最大要件とする小企業家に依つて、好況時代、労力不足の時期に著しく需要されしが、現在に於ては唯、昔日の残骸を止むるに過ぎざる状態である。夫れも、同一工場に於て、朝鮮人労働者が内地人労働者と、数に於て殆んど同等になる時は、朝鮮人労働者は団結力を以て、屡々内地人労働者と対抗して、物議を醸すこと多きを以て、小工業者と雖も、朝鮮人労働者雇傭の数を制限せんとする傾向がある。唯、硝子工場に於ては朝鮮人労働者が其仕事の性質上、相当適合なし居る為めか、今後も発展の余地ありと看られて居る。(調査報告書硝子製造従業員の労働と其生活参照)

写経屋の覚書-フェイト「賃金の安さだけが利点ってことなんだね」

写経屋の覚書-はやて「朝鮮人労働者そのものに価値があるっちゅうより、内地人労働者の代替としての価値なんやねぇ…日本製品に手が出ない階層にとって、それなりの価格でそれなりの物を提供する韓国製品みたいなもんか」

写経屋の覚書-なのは「ただ、硝子工としてはかなり高い評価なんだよね。当時は旭区など大阪市内北部に硝子工場が多かったみたい」

四 朝鮮人労働者と農業
 渡来朝鮮人は、元来、農夫なるを以て、これを農業労働者に使役せば相当成績を挙ぐるならんと、曽て、或る地方に於て地主が、小作争議の結果返上されたる小作地に、朝鮮人労働者四十人許りを使役した。然るに、彼等は苗の植付日の前日に到り、前小作人に僅少なる金銭にて買収され、苗の植付をなさすに逃走せし事実があつた。勿論、其裏面に於て、朝鮮人労働者が内地の事情を解せず、加ふるに、当該争議に於ける、小作人側の迫害に逢ひ、止むを得ず自己の職業を放棄せしものならんも、一面地主側よりは簡単に、朝鮮人労働者頼むに足らず、と称せらるゝものも亦如何ともなし得る事が出来ないのである。それは、地主が、小作争議に対する自己の主張を貫徹させんが為め、何等内地の事情に通ぜざる朝鮮人労働者を利用せし謬見に基くものなれど、一般に、農業労働者としての朝鮮人労働者は、其動作甚しく緩慢にして、到底、内地人の農業労働者と比較すべくもあらず、内地人農夫が早朝より日没まで昼飯時と午前午後各々一回、の休憩時を外にしては、野良仕事に孜々たるに反し、来住朝鮮人農夫が、一仕事毎に骨休みをなし、肥料を施すにも人糞を手掴みにて遅々たるが如き、殊に、農繁期、苗の植付に際して、内地人農婦が、一人一日優に一反歩の植付をなすに反し、朝鮮人農夫が、その半分も成し得ざる等、実際に於て、朝鮮人農夫の価値低きを証するのである。加ふるに、朝鮮人農夫が、内地農夫の活動を体験して、到底、自己の力の及ぶところに非ずとなし、其仕事より自ら離るゝが如き、或は又、耕作地を利用して間断なく種々の作物の収穫を得せしめんと督励なせど、疲労なしたる彼等は、寧ろ、安逸を希ふに切なるが如き、農業労働者としての朝鮮人労働者も、結局期待を裏切りしものと、謂ふべきものである。

写経屋の覚書-フェイト「小作人に買収されて逃亡って…小作争議の巻き添えというのもあるんだろうけど…」

写経屋の覚書-はやて「労働効率の悪さっちゅうんは、まぁ想定内の事態ではあるんやけど、内地人女性の半分いうんはたいがいやなぁ」

写経屋の覚書-フェイト「最後の『耕作地を利用して間断なく種々の作物の収穫を得せしめんと督励なせど、疲労なしたる彼等は、寧ろ、安逸を希ふに切なるが如き』は、残業代を貰うより定時退勤を希望っていうのに近い感じなのかな?」

写経屋の覚書-なのは「良く言えばそんな感じだろうね。最低限の仕事をしていれば最低限の報酬を貰えて最低限ご飯を食べて最低限遊んで生きていけるんだし、たとえ相応以上の見返りがあっても、わざわざプラスアルファを求めて疲れてまでがんばる気にはならないんだよ」

写経屋の覚書-はやて「それはそれで一応あり言うたらありやとは思うよ。その最低限の仕事が内地人女性の半分しかでけへんっていうのを無視すればの話やけどねぇ(苦笑)」

写経屋の覚書-なのは「作者は最近いろんな職種の人と接する機会があって、そういった労働感覚や、季節労働などで短期間に稼いだあとは気ままに暮らし、金がなくなったらまた働きだすという感覚について知ることが多くなったんだよねぇ」

写経屋の覚書-フェイト「でも、仕事そのものがきつい肉体労働者なら最低限つまり拘束時間内の労働で疲れるし、プラスアルファの金よりも休息がいいっていうのも理解できるんだけど、農業はちょっと違うような気もするよ。これじゃむしろ拘束時間内に最低限しか働かず効率化も図らない悪い意味での『公務員根性』ってやつだよ」

五 朝鮮人労働者の落ち行く先
 上述の如く、朝鮮人労働者は一般に工業、農業より甚だしく疎んぜられ、勢ひ彼等は土木事業労働者へと駆逐されて行くのである。否、駆逐さるゝと謂ふよりも、単調なる労働を自ら求めて行くのである、而も、土木業者間に於ても、一流のところでは、朝鮮人労働者は余りに無責任にして彼等を使役せん乎、如何なる重要個所の工事についても、監督者の眼を盗みて手間をはぶき、延いては、累を後日に及ぼすものとなし、却て、朝鮮人労働者を避くるが如く、彼等は茲に於ても、労銀の安きを最大要件となすが如き、余り質の良からざる土木業者の間に、使役せらるゝのである。然れども、土木事業方面の人夫募集の困難と、之に伴ふ費用の多大とは、漸次朝鮮人労働者を重宝とするが如くなり、彼等は、確に、此方面に活路を見出したわけである。
 右は朝鮮人労働者が土方人夫の方面に多く職を有する理由の概説である。然らば、労働市場に於て彼等は如何なる地位を占むるや、彼等の来住に拠りて従来の内地労働者は労働市場より駆逐されたるや。大体より看れば、朝鮮人労働者の来住により、内地労働市場に与へたる影響は、其結果より論ずるときに、殆んど皆無と謂つてよい位である。彼等は当初機械職工として、小工業者の間に、好況時代労力不足の当時は需要が多かつた。然し、決して、内地労働者の地位を奪つたものではない、唯、単に、労力の不足を補つたに過ぎないのである。而も、不況時代に入りては一様に解雇され、此時代に於ては、内地失業労働者の為め寧ろ職を奪れた観がある。一方、朝鮮人労働者が最も多数を占むる、土方、人夫稼業にありても、彼等は内地労働者を駆逐して、置換的に、其地位を占めしものと謂ふのではなく、之も、其欠を補ひたるものと看做すべきである。元来、内地に於ては、土方、人夫稼業は、一般に、卑賎なる稼業として、避忌せられ、土木工事を起すにつきては、従来、少からず土方、人夫の募集難を喞つたものであつた、而も、近来、国家的都市計画事業に刺激され、一般土木建築事業大いに起り、益々土方人夫の労力の欠乏を感ずる秋に、朝鮮人労働者が之に従事し、其事業を経験するに従ひて此職業を専業とせしものにして、低廉なる労銀と、低級なる生活とによりて、内地人土方、人夫を駆逐せしに非ずして、内地人土方、人夫の最下級の者の手下に使役されたるものである。然りと雖も、現在彼等が土方、人夫方面に於て有する勢力は、確に、内地人失業者が、所謂不熟練労働者として土方、人夫の業に入らんとするものを遮るには充分である。東京市に於ける、道路工事用人夫として、朝鮮人労働者を唯一のものとなし居るが如き、又、大阪地方に於ける、築堤、或は改渫工事に朝鮮人労働者の重要さるゝ、其好適例である。故に、現時の状態ににありては、内地人と、朝鮮人との職業上に於ける競争としては、一般市場裏にあらはれざるも、内地人失業者愈々増加して、職を求むるに職を択ばざるが如くなり、内地人失業者の多数と、朝鮮人労働者が、土木事業労働者の方面に於て、共に、不熟練労働者として、相争ふが如くなる時は、茲に、一つの問題を惹起せずして止まざるは必然の事であるが、現在、土木事業に於て、内地人は熟練労働者として、朝鮮人は不熟練労働者として、区別し使役さるゝにより、此種労働者の一般労銀を下落せしめ、次で生活標準の低下を意味するが如き窮境からは、僅に、免れて居るのである。

写経屋の覚書-フェイト「好況時代っていうのは第一次世界大戦での大戦景気、不況時代は戦後恐慌のことだね」

写経屋の覚書-はやて「札を燃やして足元を照らす「どれこれで明るくなつたらう」っちゅう成金の風刺画が歴史の教科書に載っとったね。不況のほうはブラックマンデーとかの世界恐慌やね。東北の村役場に掲げられた「身売り相談所」の写真も教科書に載っとったなぁ」

写経屋の覚書-なのは「うん。で、ちょっと話がずれるけど、この大正末期から昭和初期の不況を解決するにはどうすればいいか?って話になるんだけどね…」

写経屋の覚書-フェイト「えーっと、雇用・市場の創出、消費の拡大ってとこかな?」

写経屋の覚書-はやて「世界恐慌のせいで各国の購買意欲も冷え込んでブロック経済になったから海外市場は簡単に広げられへんし、雇用の創出も国内だけでは限度があるやんね…」

写経屋の覚書-なのは「うん。そこで、木村お兄さん言うところの『莫大な消費を伴う世界的イベント』によってブロック経済のような枠組みを解体し、海外に市場を広げ、莫大な消費を生み出して生産活動を活発化して経済を回すんだよ。具体的には満州事変、満州国設立、日華事変だね。実際に満州事変の勃発で恐慌から復活したんだよねぇ」

写経屋の覚書-フェイト「…『莫大な消費を伴う世界的イベント』って戦争のことなんだね…話を戻すと、結局、不況時代に朝鮮人労働者は土木工業系に流れたんだね」

写経屋の覚書-なのは「たしかにね、難しい事を考えずに済んで時間内だけ体を動かしていればいい単調な労働って、精神的には楽といえば楽なんだよね…」

写経屋の覚書-はやて「なんか実感がこもっとるなぁ…でも、『如何なる重要個所の工事についても、監督者の眼を盗みて手間をはぶき、延いては、累を後日に及ぼすもの』って、当時でも手抜き工事しまくりやん。そら安い賃金に目をつけたええ加減な業者しか雇わんわなぁ」

写経屋の覚書-フェイト「それでも人手自体は必要な業界だし、それなりに雇いどころはあったんだね」

写経屋の覚書-はやて「『元来、内地に於ては、土方、人夫稼業は、一般に、卑賎なる稼業として、避忌せられ、土木工事を起すにつきては、従来、少からず土方、人夫の募集難を喞つたものであつた』っちゅうことは、所謂『3K』いう概念は現代に始まったんやなくて当時からあったもんなんやいうことやね」

写経屋の覚書-フェイト「『内地人は熟練労働者として、朝鮮人は不熟練労働者として、区別し使役さるゝ』ことで棲み分けのようなものができているんだね」

写経屋の覚書-なのは「それで労働者側が賃金を下げて労働力の安売りをすることもなんとか防がれているというわけなんだ。いちおうはね」

写経屋の覚書-フェイト「でも、この棲み分けで固定化されちゃうと、内地人と朝鮮人の平等性とか『内鮮融和』に照らしてまずくないかな?」

写経屋の覚書-はやて「そやけど、朝鮮人の民度がこのままやといつまで経っても変わらへんよ」

写経屋の覚書-なのは「うーん。ま、このへんは教育の普及や社会に対する概念、習慣等の変化向上によって、朝鮮人の民度水準が上昇するのを待つしかないかな」

写経屋の覚書-フェイト「結局、朝鮮総督府で民度の漸進的な向上を目指して地道に政策を運営していくしかないってことなのかなぁ」

写経屋の覚書-はやて「教育の普及にしてもお金とマンパワーが必要やし、習慣・概念等も一朝一夕で改善できるもんちゃうし、何にしても急激な変化を望むのは無理やねぇ」

写経屋の覚書-なのは「これで『第一章 朝鮮人労働者の調査に就いて』はおしまい。今回はここまでにして、次回は『第二章 来住の原因』を見ていくね」

大阪に於ける朝鮮人問題(1)  大阪に於ける朝鮮人問題(2)  大阪に於ける朝鮮人問題(3)