写経屋の覚書-なのは「今回からは『第二章 来住の原因』を見ていくんだけど、30ページから63ページは飛ばすよ」

写経屋の覚書-フェイト「どうして?」

写経屋の覚書-なのは「朝鮮人労働者の来住についてのプッシュ要因となる朝鮮の産業社会構造や小作習慣の話などがメインで、それらはそれらでおもしろいんだけど、私たちが見ていきたいのは大阪を主眼に据えた話、つまりプル要因のほうだからね。そういうわけで画像37枚目、64ページの『二 索引的原因』から見ていくよ」

二 索引的原因 朝鮮土民の生活に比して、内地生活の有する真実なる、又は、妄想的なる便益を朝鮮人農民に感ぜしめ、彼等を刺戟して、日本内地に住居せんが為に居村を去らしむる諸原因にして、重に経済的方面に強い誘引力を持つ事を常とするも、個人主義的解放の要求と云ふが如き、非経済的方面の動機を持つ事も勿論である。
 索引的の経済的原因として首位にあるものは、内地に於ける朝鮮人の労働賃金が、朝鮮に於ける朝鮮人の労働賃金と比較して著しく高い事である。元来都市に於ける生活費は、外見上田舎に於けるそれよりも大なるが如く見ゆれど、実際に於て然らざる事が多いが如く、生活必需費が収入に対する割合は、朝鮮よりも内地の方が却つて低いのである。
 朝鮮人の労銀が、朝鮮と内地との間に、何の位差異があるかを、比較研究せんに、即ち、次の如き関係となる。

(内地及朝鮮に於ける朝鮮人労働賃金比較表)    (大正十一年中平均熟練職工労銀)
一、農事に関するもの
 内地朝鮮
円 円 
農作夫1.64.92
農作婦.87.56
植木職3.211.62
漁夫2.831.70

二、元料身装に関するもの
 内地朝鮮
円 円 
染物職1.901.25
洗濯職1.801.20
洋服裁縫職3.222.30
靴職2.781.90
理髪職1.981.24

三、飲食物製造に関するもの
 内地朝鮮
円 円 
杜師月賄 60.42月賄 26.00
醤油製造職月賄 40.00月賄 20.20
煙草製造職1.61.92

四、建築に関するもの
 内地朝鮮
円 円 
家作3.502.17
船造3.782.17
左官3.602.35
石工4.002.40
家根葺3.711.96
瓦葺4.172.50
煉瓦積4.112.59
煉瓦造3.301.80

五、器具製造に関するもの
 内地朝鮮
円 円 
指物3.702.20
建具3.702.20
表具師3.302.00
桶工3.101.70
車製造職3.511.97
鍛冶職3.261.91
錻力トタン職3.261.95
鋳物職3.241.92
金銀細工職3.001.97
彫刻3.022.00

六、雑
 内地朝鮮
円 円 
活版植字2.201.10
鳶人足2.501.60
手人足1.70.90
土方2.301.30
人力車夫3.002.50
仲仕2.501.60
坑夫2.201.30
職工1.801.10
ペンキ塗職2.802.20
店員月賄 15.00月賄 7.00
海員1.501.00
雑役1.20.70
下男月賄 18.78月賄 11.20
下女月賄 13.30月賄 6.72

 表中○印は内地に於ける朝鮮人労銀不明に付内地人の平均労銀を掲げたり
 月、は月給  賄、は賄付
 近来課程労働に従事するもの多く為めに実収入は表よりも多きを普通とす

 右の表が説明する如く、内地と朝鮮とに於ては朝鮮人の労銀に五割以上の相違がある。而して、朝鮮人の食費(宿泊料を含む)は、内地に於ては、普通一日六拾五銭、朝鮮に於ては、普通一日五拾銭(但、都会)である。故に、収入に於て五割以上を増し、生活必需費に於て三割より増さないのであるから、結局二割以上の剰余を生ずる事になるのである。加ふるに、内地生活の愉楽、(少くとも朝鮮人労働者にとりては向上された文化的生活である)及び人格的自由を享有し得るてふ事は、いやが上にも朝鮮人農民を熱狂せしめ、盲目的に殆んど爾余の考へもなく内地へ向はせしめるのである。

写経屋の覚書-フェイト「朝鮮での賃金と内地での賃金は5割以上も違いがあるんだけど、生活費のほうの違いは3割なんだね」

写経屋の覚書-はやて「物価の違いってやつやね。それに内地には朝鮮にはあらへん娯楽と自由があるってことで、見かけの数値以上に暮らしやすい感じって解釈なんやろね」

 以上経済的原因の外に、内地来住の強い精神的原因となれるもの、実に、帰郷人の誇張的宣伝である。内地に来住して帰鮮する朝鮮人労働者は、其土産話に、自らが内地に在つて苦るしい生活をしたことを口にしない。彼等は、恰も、凱旋将軍の如く威風堂々として、兵を語るのである。たとへ、無一文で帰つた者すらも、金を残さなかつたのは、浪費したからだ、と謂ふ風に、文化に浴する事少ない朝鮮農民の前に、内地文化の絢爛たるところを説くのである。内地に来住すること二ヶ年の一朝鮮人青年が、帰郷して、朝鮮語は忘れたといつて朝鮮語を話き(ママ)ず、朝鮮食を喫せず、朝鮮服を纏はざりしが如き極端な例もある。調査者が今夏本調査上の必要より朝鮮を旅行せし際も、内地より帰鮮する朝鮮人労働者は、何れも軽装なる浴衣着に下駄を穿ち、指に金色の指環を輝かせて、一見内地人と異なる事なき服装で、意気揚々たるものであつた――文明の恩沢より遠く離れて生活する朝鮮田舎農民の耳目は如何に誘惑されやう――内地出稼者の巧言美辞、及び内地出稼者中の極少数の小成金の土産話は、実に、大きな勢ひを以て、彼等を内地へ引き寄せるのである。

写経屋の覚書-なのは「以前獄長がエンコリで、日本から帰郷した朝鮮人が日本人の格好で『朝鮮語なんて忘れた』と得意気にしている史料があるって言ってたんだけど、ここがその出典なんだよ」

写経屋の覚書-フェイト「昭和時代のドラマとかに出てくる、ステレオタイプの東京色に染まった東京帰りの若者って感じだね…」

写経屋の覚書-はやて「おそ松くんに出てくる、おフランス帰りを鼻にかけるイヤミとも似とるなぁ。あ!英語圏行ったら臆面もなく英語名を名乗ったりするんと同根なん(ちゃ)う?w」

 次に、朝鮮人労働者の移住は、地理的に大きな関係を持つて居る。彼等の半島外への移住は、概略、短距離運動である。内地来住朝鮮人について、其れを出身道別に分類すれば、内地に最も近き、慶尚南北道、全羅南北道の出身者多数にして、一方、間島、西伯利方面への移住者は、咸鏡南北道、平安南北道の出身者多数を占むることを表はして居る。尤も、朝鮮人が南鮮と北鮮と人情を異にし、南鮮人のあるところへ北鮮人が交るを好まず、同時に北鮮人の許へ南鮮人の行くを欲せざる旧慣が、多少の影響を与へ居るならんも、其根本は彼等移住者の近距離運動の実際化に外ならないのである。茲に、内地来住の朝鮮人中、出身道の判明せるものにつき府県別に統計すれば、七万二千八百十五人中に於て、慶尚南道の二万八千六百二十八人、慶尚北道の一万千四百四人、全羅南道の一万八千五十人、全羅北道の三千三百三十二人の如く、南鮮人が最大多数を占むることを、次表が説明して居る。
 但、北海道及樺太の来住者は、内地を北へ縦行せしものと、西伯利を経由して来住せしものとの両者を含むのであつて、内地の他地方に比較して、是等の地方に北鮮人の多きは西伯利より移住せし朝鮮人のある事を意味するものである。(七四頁参照)

 本籍道別調査月日
全南全北慶南慶北忠南忠北京畿江原黄海平南平北咸南咸北
福岡県2,3741,9673,0321,766692288166364266180168352111,0493月末日
長崎県267419523293024502531331031,7507月末日
佐賀県107142311854226204166-1-652-
大分県1243284327212251312074-11,354-
鹿児島県311095372144-1123-1210-
沖縄県2-42---------8-
徳島県40-115348355-----210-
高知県281953761162-----1869月10日
香川県327140525598411--264-
山口県4911552,2711,3829092214471574211374,8726月末日
兵庫県5001713,806624763613041182966415,5026月末日
島根県2514377268109642--21-7368月末日
大阪府11,3525466,4252,0134391325302176755291443521,9849月末日
京都府7511141,8958291394812010511211644224,1159月末日
和歌山県715274119715656-1--11,095-
滋賀県1521737111634-6126-321720-
静岡県2291962730968537128277511,4269月末日
愛知県382531,3625811684519840171510922,8828月末日
福井県186198155121735416-4163月末日
富山県69104773832091115123-11,0019月20日
新潟県194551,743627594610642243212,884-
東京府4521581,0775261511523251031281591201571013,6099月末日
栃木県12611221543122-9610月25日
茨城県2521273952931-41-21810月20日
秋田県3-326--3--1322526月末日
山形県622448228212154-1259月末日
青森県928222-162-1-21749月末日
宮城県2455022561114-4512-158-
岩手県25-78381-4--192715189-
福島県3192236958241851071234249月1日
北海道18210093838110852213272911821124462093,28611月5日
樺太531219663252090126401041342601451,26811月末日
18,0502,33228,62811,4042,2201,1082,3951,5327269136721,26157472,815 

      備考 調査年は大正十二年
         調査月の記入なきものは調査月日の報告なかりしもの


写経屋の覚書-フェイト「あれ?宮崎・熊本・愛媛・広島・岡山・鳥取・奈良・三重・岐阜・石川・長野・山梨・埼玉・群馬の統計がないね?」

写経屋の覚書-なのは「そこまで調査しなかったのか、報告が間に合わなかったのか、理由が書いていないからなんとも言えないね」

 反対に、間島方面の移住者につきて、其れを出身道別に統計せば、最も近距離にある咸鏡南北道、平安南北道の北鮮人最大多数を占むるに反して、内地に来住する南鮮人の少きことを次表に物語つて居る。

写経屋の覚書-なのは「表は省略するから各自アジ歴で確認してね。書いている通り間島方面には咸鏡道・平安道から来た人が多いことがわかるから」

 別に、第十一師団駐屯区域地方に於ける、移住朝鮮人の戸口調査表を掲ぐれば、即ち、次表の如くである。此調査表は、前比較表の、「其他」の部の中、西伯利地方在住者であるが、こゝにも、等しく、北鮮出身者が多数を占めて居るのである。

写経屋の覚書-なのは「これも表は省略するね」

 斯くの如く、朝鮮人労働者の人口的運動は、地理的に大きな関係を持つて居ることが明らかである。彼等の移住は、恰も、現代人口の都市集中と同過程を辿る傾向を顕して居る。殊に、朝鮮に於ける、急激なる同化政策と、一視同仁の宣伝は、内地に来住する朝鮮人労働者をして、外国へ移住する場合の如き不安を感ぜしむるころなく、近距離にして、交通機関が完備し、旅費小なるが為め、貧困の下層民も容易に来住し得るてふ諸条件は、彼等をして、愈々、内地来住の要求を強くせしむるものである。
 以上は、朝鮮人労働者が内地へ来住する諸原因中の主なるものであるが、要するに、其根本となるものは、唯、一片の生活難と謂ふよりも、寧ろ、朝鮮人下層民が大いに覚醒し、其向上心が強まりたる結果に外ならざるものと思はれるのである。

写経屋の覚書-はやて「慶尚道・全羅道の人は南の内地へ、咸鏡道・平安道の人は北の間島・シベリアへと、近い方へ行くんやな。あれ?済州島出身者はどの道になるん?」

写経屋の覚書-なのは「当時、済州島は全羅南道に属してるんだよ」

写経屋の覚書-フェイト「これまでは『土地調査事業で土地を奪われたから』とか『日帝の収奪で困窮したから』なんて言説が多かったみたいなんだけどね…」

写経屋の覚書-なのは「土地調査事業云々は論外だし、困窮の原因を一方的に日本の政策に求めるのもおかしいんだよね」

写経屋の覚書-はやて「第一次大戦中の好況で、内地も朝鮮人労働者を必要としとったわけやしねぇ。その後不況になってもぉたけど」

写経屋の覚書-なのは「そうなんだよねぇ。経済にかかわる人間の移動って、一方的な要因だけで決まるもんじゃないんだよねぇ。第2章はこれでおしまい。今回はここまでにして、次回は第3章を見ていくね」

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