中国人民解放軍は2015年の軍制改革で新設したサイバー・宇宙担当の戦略支援部隊を分割し、「情報支援部隊」などを設立した。組織再編の目玉だった戦略支援部隊はわずか8年余りで解体。さまざまな軍事技術を担う寄せ集めの大部隊はまともに機能しなかったようで、中央軍事委員会主席を兼ねる習近平国家主席が力を入れた改革は失敗したことになる。
■情報・宇宙・サイバーが独立
情報支援部隊の設立大会が4月19日、北京で開かれ、習主席や軍制服組の主要指導者が出席した。公式報道によると、大会で習主席は同部隊について「全く新しくつくり上げる戦略的兵種であり、サイバー情報体系の建設・運用を統括する要の支柱だ」と強調。情報リンクを整備し、情報防護を強化して、全軍の合同作戦体系に深く入り、正確で効率の高い情報支援を実施して、各方向・各分野の軍事闘争に貢献するよう指示した。
この報道で公表された中央軍事委の決定によると、情報支援部隊は中央軍事委が直接指導・指揮する。戦略支援部隊は廃止され、その一部だった軍事宇宙部隊とサイバー空間部隊の指導管理関係を相応に調整する。
同じ日に記者会見した国防省報道官の説明では、今回の改革後、解放軍は陸海空軍・ロケット軍(ミサイル部隊)という四つの軍種および軍事宇宙部隊・サイバー空間部隊・情報支援部隊・聯勤保障部隊(後方支援部隊)という四つの新型軍兵種で構成される。
陸海空軍などと同格だった戦略支援部隊が解体されたため、軍種が一つ減って、4軍体制となった。新設の情報支援部隊などはそれらより格下となる。軍事宇宙部隊は宇宙戦、サイバー空間部隊はサイバー戦を担当するとみられる。いずれも設立大会は開かれなかった。
■「米軍より理念先行」
戦略支援部隊は習主席1期目の15年12月、陸軍指導機構やロケット軍と共に設立大会が開かれ、発足した。陸軍指導機構は既存の地上部隊を統括するもので、ロケット軍は「第2砲兵」を改称した部隊。これに対して、戦略支援部隊は全く新たに設けられた。旧総参謀部の技術偵察部など多くの部署を統合したといわれる。
習主席は大会で「戦略支援部隊は国家の安全を維持する新型作戦力であり、わが軍の新しい質の作戦能力の重要な成長ポイントだ」と述べ、強い期待を示した。翌16年8月には自ら戦略支援部隊を視察し、同部隊は「わが軍合同作戦体系の重要な支柱」だとした上で、「歴史的重責」を果たすよう求めた。
この視察を報じた国営中央テレビは、習主席がいかに戦略支援部隊を重視しているかを強調。「米軍の戦略支援力は陸海空軍の中に分散し、経費や資源を奪い合っている。中国は世界で初めて戦略支援部隊を創設し、その理念は米軍より先行している」という軍事専門家の話を紹介。専門家はその一例として、米軍の監視衛星システム並立を挙げていた。
分散が駄目なので、統一・集中すればよいだろうというわけだ。それにより、軍事力の質的向上を一気に進められるとの目算があったのだろう。
■歴代司令官は不遇
戦略支援部隊がこれだけ重視されるのならば、その司令官も人事面で厚遇されると思われたが、実際は逆だった。
高津初代司令官は就任時56歳で、このクラスの軍高官としてはかなり若かった。しかし、その後、中央軍事委後勤保障部(後方支援部門)の部長に異動。22年の第20回共産党大会で党中央委員に再選されず、第一線を退いた。
2代目の李鳳彪司令官は西部戦区政治委員に転じた。形式上は横滑りながら、中央から地方への転勤。しかも、それまで指揮官を歴任していたのに、畑違いの政治委員となった。
3代目の巨乾生司令官は昨年夏ごろから失脚説が流れた。今年1月、全国人民代表大会(全人代)代表(国会議員)としての活動が中国メディアで報じられ、失脚していないことが確認されたものの、情報支援部隊の初代司令官には起用されなかった。1月の活動は軍の元高官が参加する座談会だったので、この時点で既に戦略支援部隊司令官を退任していた可能性が大きい。
以上のような歴代司令官の処遇から、習主席は戦略支援部隊の活動ぶりに不満だったことが想像できる。習主席には、自分や党中央への忠誠心が足りないと見えたのだろう。そのためか、習主席は情報支援部隊の設立大会で「党の軍隊に対する絶対的指導」や「絶対的忠誠、絶対的(政治面の)純潔、絶対的信頼」の重要性を強調した。
巨氏の失脚説が広がってから、戦略支援部隊の解体説も流れていた。「無関係の部門が集まった部隊で、司令部はお飾りになっている」(香港紙・明報)というのが理由。人工衛星発射基地、サイバー戦基地、通信基地などを単純にまとめて、一つの大部隊にした結果、統制が困難になってしまったとみられる。
このような状況は部隊のガバナンスを弱め、汚職を悪化させる恐れもある。実際に、軍内の反腐敗闘争では戦略支援部隊の関係者も対象になっている。
経済・社会に大打撃を与えたゼロコロナのように、習主席の政策は現実よりも政治的理念や理想が先行して混乱を招くことが多い。戦略支援部隊の解体は軍人の無能や怠慢ではなく、習近平路線自体の失敗と言うべきだろう。(2024年4月26日)