中国の習近平国家主席(共産党総書記)は3月下旬まで4カ月以上、地方視察も外国訪問もしなかった。中国の最高指導者の行動としては極めて異例。健康に大きな問題があるようには見えないので、政局もしくは自身の安全について何らかの懸念があることから、できるだけ北京にとどまっている可能性がある。
 
■久しぶりの視察は首都近郊
 
 習氏は毎年12月から翌年2月の冬の時期も地方か外国を訪れてきたが、昨年11月上旬に広東省を視察した後は、ほとんど北京から離れなかった。春節(旧正月)前に恒例となっている民情視察は北京市内、部隊視察はオンラインで行った。英仏独やカナダ、韓国などとの首脳外交も、すべて外国首脳を北京に招いた活動だった。12月上旬に1日だけ四川省へ赴いたものの、マクロン仏大統領に同行して観光名所を訪れただけで、視察ではなかった。
 2023年の春節前の視察もオンラインだったが、これは、ゼロコロナ政策の撤廃で新型コロナウイルスの感染が広がっていたからだ。その前の22年12月にはサウジアラビアを訪問している。
 習氏は今年3月23日、河北省の雄安新区を視察した。ただ、同新区は北京から約100キロしか離れていない。日本で言えば、東京から宇都宮か水戸に行くようなもので、地方視察と言っても、日帰りで首都郊外の様子を見に行っただけだ。
 しかも、国営中央テレビのニュース映像を見る限り、前回(23年5月)の習氏の同新区視察と違って、今回は屋外での活動がほとんどなかった。前回は、高速鉄道に乗って現地入りして、住宅地で大勢の市民の前で話をしたり、各種施設の建設現場を視察したりした。だが、今回は、学校の校舎の前で生徒や教職員に対して発言したのが唯一の屋外活動だった。

■不安要素は軍の動揺か


 新型コロナのような感染症が広がっているわけでも、党中央や中央政府に緊急事態が生じているわけでもないのに、なぜ遠出を避けるのか。不安要素として考えられるのは軍高官の大量失脚による軍内の動揺だろう。
 軍の大粛清は23年夏に始まったが、昨年10月以降、習氏が率いる中央軍事委員会の副主席2人をはじめ多くの軍高官の失脚が正式発表された。いずれも習氏の側近や盟友のグループに属する軍人だった。習氏が「反腐敗」を口実に自ら断罪し、党の軍に対する優位を誇示した形だが、補充人事がなかなか進まず、軍の要職の大半は空席のままだ。
 軍のこのような異常事態が続く中、習氏は今年3月7日、全国人民代表大会(全人代=国会)の軍代表団全体会議で「軍内に党への二心がある者は絶対いてはならない」と演説。軍人たちに対し、「政治」を重視して「党の軍隊に対する絶対的指導を揺るぎなく堅持、強化する」よう要求した。軍内に「二心がある者」、つまり、裏切り者がいる可能性を前提として、軍人たちに直接警告する異例の公式発言だった。

■異例の忠誠要求キャンペーン


 この演説を受けて、軍機関紙の解放軍報は「政治建軍(政治面の軍隊組織建設)」キャンペーンを開始し、大量の論文を発表。次のような見解を示した。
 一、政治建軍は人民軍隊建設の基礎だ。政治整訓(政治的引き締めと教育)を深めて、政治建軍の成果を挙げていかねばならない。
 一、強軍はまず政治的に強くなければならない。政治的な強さは最も根本的な強さなのだ。わが軍は党の政治的任務を執行する武装集団であり、軍隊建設をしっかり進めるには、必ず政治的に見て、政治的に把握し、政治的に建設していかねばならない。
 一、(習氏が総書記に就任した12年の)第18回党大会以後、われわれはわが軍の幾つかの根本的なものを回復して発展させ、多くの宿痾(しゅくあ)・積弊を打破し、党の軍隊に対する絶対的指導を弱める状況は解決され、一部の党組織が軟弱で力不足だった問題は改められ、わが軍における党の指導と党の建設は全面的で深刻な変化が生じ、強軍事業が歴史的成果を挙げ、歴史的変革を起こすために強固な政治的保証を提供した。これらの成績は、習主席がかじ取りしたものであり、習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想が導いたものである。
 一、習近平同志を核心とする党中央は、これまでにない決意と強さで政治整訓を進めることにより、党の軍隊に対する絶対的指導に影響し、党による執政の基礎を損なう重大な政治面の潜在的危険を取り除いた。第15次5カ年計画においても、必ず政治整訓を深め、人民軍隊の絶対的忠誠、絶対的純潔、絶対的信頼を確保していかねばならない。
 一、(全人代の軍代表団全体会議に参加した)皆は一致して、党に対する絶対的忠誠は必ず唯一、徹底的、無条件で、中に何の異物もなく、何の水増しもないものでなくてはならないと考えた。
 一、「口先だけの忠誠」「偽の忠誠」「言うこととすることが違う」。この種の政治的に表裏のある人は、党の事業に対する危害が極めて大きい。
 一、各レベルの指導幹部は率先して、習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想と習近平強軍思想の確固たる信仰者、積極的な伝播者、忠実な実践者にならねばならない。
 中国共産党政権では昔から「政権は銃口から生まれる」といわれるほど軍事が重視されており、中国軍は「党の軍隊」なので、政治指導者が軍のコントロールを重んじるのは当然ながら、軍人に対する忠誠要求キャンペーンがこれほど集中的に展開されるは珍しい。しかも、上記の引用から分かるように、忠誠の対象は事実上、党と言うよりも習氏個人だ。異例のキャンペーンは、自分に対する軍人たちの忠誠が足りないと習氏が感じていることを示している。

■個人独裁志向の弊害
 

 今の中国には、習氏の地位を直接脅かす人物や勢力はなく、社会主義流の政治統制でがんじがらめになっている「党の軍隊」が党の最高指導者に正面から歯向かって危害を加える可能性はそもそも全くない。
 習氏の不満は「腐敗」が主な理由とされているものの、権力チェックの仕組みを欠く独裁体制で汚職がまん延するのは当たり前なので、軍人の不正だけを組織ががたがたになるほど徹底的に取り締まるのは不可解である。
 解放軍報の一連の論文で一つ気になるのは、軍人の「革命化」と「専業化」に関する記述だ。前者は政治的忠誠心を強めること、後者は軍事専門家としての実務能力を高めることを指すようだ。
 この二つは併記されることが多いが、必ず革命化が先に置かれる。また、同紙の一部の論文は「政治面で不合格なら、すべてが不合格になる」「人材が専業化すればするほど、革命化が必要になる。武器・装備が現代化すればするほど、革命化人材がそれを掌握する必要がある」と指摘。また、「技術を重んじて政治を軽んじる、業務を重んじて思想を軽んじる、能力を重んじて品格を軽んじる傾向」を警戒するよう呼び掛けており、革命化を優先しているのは明らかだ。
 つまり、習氏に対する忠誠が何よりも大事ということである。年がら年中、習氏をあがめる政治活動に多大な労力を費やしながら、部隊の戦闘力向上を図るのは大変なことだろう。習氏の個人独裁志向の弊害である。
 革命を指導した毛沢東や鄧小平と違って、ポスト革命世代の江沢民元国家主席は現役時代に革命世代の軍人たちの影響から脱することができなかった。後任の胡錦濤前国家主席は、江氏が抜てきした軍人たちに軍内の運営を事実上任せて、中央軍事委主席としてのリーダーシップをあまり発揮できなかった。ただ、党と軍の関係は安定を保った。
 江・胡時代は、共産党が政治を全面的に支配する政権としては正常とは言えない状況であり、習氏がそれを是正して、党の指導を強め、中央軍事委主席責任制を徹底しようとすること自体は正しい。ただ、ひたすら忠誠を求めて、箸の上げ下ろしまで口出しするようなやり方で、巨大な伏魔殿である中国軍をうまくコントロールするのは難しいのではないか。
 中国軍の現状はプロ野球に例えると、野球をやったこともない球団経営者が監督やコーチをすべて首にして、自らチームを指揮しているようなものだ。そのようなチーム運営が球団全体の経営に悪影響を与えるのは言うまでもない。習氏は政権全体の利益のため、何らかの政治的手打ちにより、できるだけ早く事態の正常化を図るべきだろう。(2026年3月30日)
 

 防衛省が長射程ミサイルを近く熊本に初配備すると発表したことに対し、中国と北朝鮮が相次いで、「日本軍国主義」が復活して周辺諸国への脅威になっているとの認識を示し、高市政権の防衛政策を非難した。関係改善が進む中朝が反日政策で共同歩調を取った形だ。

 

■「赤裸々な現実の脅威」

 

 中国国防省報道官は3月11日、自衛隊の長射程ミサイル配備(同31日の予定)について、日本領土の範囲を大きく越える「進攻用兵器」だとした上で、日本はこれにより「『専守防衛』『受動防御』『自衛』の偽装を徹底的に捨て去り、日本の『新型軍国主義』が既に危険な兆候というだけでなく、赤裸々な現実の脅威になったことを十分証明し、地域の平和と安全を甚だしく破壊している」と決め付けた。

 中国共産党政権は昨年11月の高市早苗首相による台湾有事発言に反発して、日本軍国主義復活論を展開。国防省報道官も日本を非難してきたが、これまでは「日本が軍国主義の邪悪な道を再び歩もうとたくらんでいる」(2月10日)、「国際社会は日本の『新型軍国主義』策動を強く警戒し、断固として排撃しなければならない」(2月28日)といった言い方で、日本軍国主義が既に復活したと断定はしていなかった。中国外務省も同様である。

 これに対し、今回の国防省報道官のコメントは「日本の『新型軍国主義』が既に赤裸々な現実の脅威になった」と明言しており、日本軍国主義が新たな形で再登場したとの判断が読み取れる。

 

■北朝鮮に擦り寄った中国

 

 北朝鮮の国営通信社である朝鮮中央通信も3月13日、「地域の安全保障環境は日本軍国主義によって過酷さを増している」と題する論評を配信し、次のように主張した。

 一、日本の軍国主義復活策動が先制攻撃手段の本格的な実戦配備段階へと突き進んでいる。

 一、このミサイルは明白に長距離攻撃型兵器であると評価されている。

 一、日本は靖国神社参拝などを通じて、過去の罪悪に満ちた侵略戦争を賛美する雰囲気をことさら鼓舞している。

 一、実戦能力を多角的に練り上げてきた日本が、長距離打撃手段の開発と購入に熱を挙げると同時に実戦配備を急いでいる事実は、その使用時期が現実のものとして近づいていることを物語っている。その長距離打撃手段の着弾点がわが国(北朝鮮)をはじめとする周辺諸国であることは、言うまでもない。

 一、地域の安全保障環境は、再侵略の野望に血眼になっている戦犯国の軍国主義復活によって、より過酷なものとなっている。

 自衛隊の長射程ミサイル配備に対する見解が中国と完全に一致していることが分かる。「日本は第2次世界大戦の敗戦国であるにもかかわらず、過去の侵略を反省しなかった結果、軍国主義が復活した」というストーリーも、中国と同じである。

 あたかも中朝が話し合って、日本をいかに非難するかを決めたかのようだが、北朝鮮は以前から日本を最大限に罵倒しているので、中国側が北朝鮮に擦り寄ったというのが実情だ。

 

■中国の朝鮮化

 

 中朝関係は、北朝鮮とロシアが「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、軍事同盟を復活させた2024年6月ごろから冷却化。一時は高官交流がほとんど途絶えた。北朝鮮が露骨にロシアへ接近して、中国離れの姿勢を見せたためとみられる。

 しかし、金正恩労働党総書記が昨年9月、「抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年」行事に出席するため訪中して、習近平国家主席と会談したことで、関係は修復され、翌10月には習政権ナンバー2の李強首相が訪朝した。金氏の訪中は6年半ぶり、中国首相の訪朝は16年ぶりだった。

 今年に入ってからも、中朝間の国際旅客列車の運行が3月12日、6年ぶりに再開された。中国のナショナルフラッグキャリアである中国国際航空も同30日から北京─平壌便の運航を6年ぶりに再開することを決めるなど、関係改善が進んでいる。

 習政権の左傾化で、中国国内の政治情勢が北朝鮮に少し似てきたという事情も影響しているのかもしれない。保守派のワンマンである習氏には、北朝鮮にイデオロギー面での違和感はないのだろう。今の中朝は、過度な政治的締め付けに起因する国内経済低迷の常態化も共通している。

 習氏が18年、憲法改正で国家主席の任期を廃止して、個人独裁志向を明確にした時、多くの在外中国人がインターネット上に「中国の朝鮮化が進む」「中国は『西朝鮮』になる」といった自虐的な意見を投稿した。西朝鮮とは、朝鮮の西方にある似たような国という意味だ。

 筆者は当時、「大げさではないか」とやや懐疑的だったが、筆者の考えは甘く、在外中国人の悲観論が正しかったと認めざるを得ない状況である。(2026年3月16日)

 

2日 中国国連大使─イランの湾岸諸国攻撃には賛同しない

3日★中央規律委─馬興瑞・前新疆自治区書記を調査

4日 新疆自治区党委、馬氏調査擁護を表明◇瀋陽で無差別殺傷事件─4人死亡?

8日★国民党主席訪中(~)─南京で「日本帝国主義」批判

9日★王外相訪朝(~10日)─コロナ禍以後初めて

10日★国共首脳会談(北京)─「日本」触れず◇★王外相、北朝鮮総書記と会談◇日本の外交青書─中国の位置付けを「最も重要」から「重要」に変更

11日 スペイン首相訪中(~15日)─4年で4回目

12日 台湾弁、台湾向け10項目優遇措置を発表◇アブダビ皇太子訪中(~14日)

13日 中国政府、「反外国不当域外管轄条例」の施行(7日付)発表

14日 越主席訪中(~17日)◇ロシア外相訪中◇孫衛東外務次官の退任発表◇3月の中国輸出、2.5%増─1~2月の21.8%増から鈍化◇米財務長官─レアアース問題などで「中国は信頼できない」

15日★王公安相、約1カ月ぶり公の場に─中越首脳会談に同席◇★中越公安相会談、中国側は公表せず─国家安全相の会談は公表◇中央政法委書記、越公安相と会談◇中国イラン外相電話会談─ホルムズ海峡の通航正常化求める◇丁副首相がトルクメン訪問(~17日)◇米大統領─習主席と書簡交換、対イラン武器供与の停止要求

16日★1~3月期の中国成長率5%─前期より0.5ポイント高く/不動産開発投資11.2%減少◇中伊外相会談(北京)

17日★海自護衛艦、台湾海峡を通過─高市首相の台湾有事発言後初めて/中国外務省「強く抗議」◇中央規律委─重慶市両江新区党委書記(市党委常務委員)を調査

 

  中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)と国政諮問機関の人民政治協商会議(政協)で上将(大将に相当)の軍人メンバー計8人が解任された。これで、習近平政権3期目の軍内大粛清により、陸海空軍とロケット軍(ミサイル部隊)の全軍種で司令官と政治委員の両首脳ポスト経験者が失脚したことが公式に確認された。凄まじい権力闘争が展開された毛沢東時代の文化大革命でさえなかった中国軍史上初の事態だ。

 

■軍人の議員激減

 

 全人代常務委員会は2月26日、軍人の全人代代表(国会議員)9人が罷免されたと発表した。うち、李橋銘、沈金竜(元海軍司令官)、秦生祥(元海軍政治委員)、于忠福(前空軍政治委員)、李偉の5氏は今の中国軍で最高位の上将(退役者を含む)。李橋銘氏は陸軍司令官、李偉氏は情報支援部隊政治委員だが、既に解任されたとみられる。

 政治委員は思想教育、人事など政治工作の最高責任者で、司令官と同格。大部隊は、作戦を指揮する司令官と政治委員のツートップ体制になっている。

 習氏が国家主席3期目に入った2023年の第14期全人代第1回会議の時に281人だった軍人の全人代代表は、今回の第4回会議(3月5~12日)では243人に減った。軍内の粛清がいかに激しいかが分かる。

 また、政協常務委も3月2日、韓衛国(元陸軍司令官)、劉雷(元陸軍政治委員)、高津(元中央軍事委後勤保障部長)3氏の政協常務委員を解任した。いずれも上将である。

 韓氏は、既に失脚した何衛東(前中央軍事委副主席)、苗華(前中央軍事委政治工作部主任)の両氏と同じ旧第31集団軍(福建省)出身。しかも、苗氏が旧第12集団軍(江蘇省)の政治委員だった時期に同軍の軍長を務めた。軍内の習派の中核となっていた福建閥の有力者で、17年の軍事パレードでは中部戦区司令官として参加部隊を指揮した。福建閥と対立していた中央軍事委の張又侠副主席が今年1月に失脚したが、福建閥たたきは続いているようだ。

 

■無事はごく少数

 

 中国軍は長年、「陸軍」という部隊編成がなく、習政権下の軍制改革でようやく発足した。陸軍司令官経験者である中央軍事委連合参謀部の劉振立参謀長(参謀総長に相当)も1月に共産党中央規律検査委の不正調査対象になったので、歴代司令官4人の中で政治的に健在なのは初代の李作成氏だけだ。陸軍政治委員も、劉雷氏の後任の秦樹桐氏は既に党籍を剥奪されている。現政治委員の陳輝氏も失脚説が出ている。

 海軍は、習政権下の政治委員4人のうち、難を逃れているのは1人だけ。前出の秦生祥氏の前任だった苗氏と後任の袁華智氏はいずれも党籍を剥奪された。前司令官の董軍国防相は、粛清説が流れたことがあったが、今のところ無事。一方、現司令官の胡中明氏は最近、公式行事に参加していない。

 空軍では、丁来杭・前司令官が23年に全人代代表を罷免された。現職の常丁求司令官と郭普校政治委員も公式行事を欠席している。

 ロケット軍は同年、李玉超司令官と徐忠波政治委員が同時に更迭され、これを機に一連の大粛清が始まった。前者はその後、党籍を剥奪された。後者は事実上、引退させられたようだ。同軍の歴代司令官4人は全員失脚した。

 なお、これら4軍の上級機関である中央軍事委は、習氏以外の軍人メンバー6人のうち5人が失脚し、1人も補選されていない。地方の5大戦区は、中部戦区と東部戦区の司令官が昨年、更迭された。他にも公式行事に姿を見せない司令官や政治委員がおり、計10人の戦区首脳の大半は失脚した可能性がある。規律検査委の調査を受けていると思われる。

 

■「党への二心」警戒

 

 中国では昔から、権力闘争の常道として「拉一派、打一派」という手法があるといわれる。ある勢力を引き付けて手を組み、別の勢力をたたくという意味だ。毛沢東や鄧小平もそうだった。毛は、軍内のまとめ役だった彭徳懐を切ると、林彪を引き上げ、林亡き後は葉剣英を起用した。いずれも元帥だ。軍人ではないが、軍事指導者として大きな功績がある鄧までも一時復活させて利用した。共産党独自の軍隊の主な創設者である毛ですら、やみくもに有力軍人を打倒していたわけではなく、軍内の勢力バランスをよく考えて、その掌握に努めていた。

 これに対し、3期目の習氏による軍の粛清は、本欄「習主席迷走の謎─1強体制下で軍が大混乱」(2月11日)で詳述したように、行き当たりばったりで、成り行きまかせという印象が強い。

 そのため、粛清人事で最も重要な後任選びがなかなかできない。中国軍は現在、中央も地方も多くの要職が空席もしくは代理であり、組織として正常に機能しているのか疑わしい状態だ。

 昨年12月に就任した東部戦区司令官は前任者より1歳上、中部戦区司令官は同年齢であり、世代交代を重視しているようにも見えない。また、トップが本当に絶対的権力を握っているのであれば、北朝鮮の金正恩労働党総書記が今年2月の党大会で断行したように、通常の手続きで人事異動を行えばよいのであって、政治的粛清を延々と続ける必要はない。

 そもそも、終身制を志向しているといわれる習氏は、高官の若返り人事自体に積極的ではない。22年の第20回共産党大会人事では、1953年生まれの自分より3歳上で、72歳になっていた前出の張氏を中央軍事委副主席・政治局員として続投させ、自分と同年齢の王毅氏を政治局員に抜てきした。70歳前後での政治局入りは慣例に反する人事である。また、党・政府の香港・マカオ担当部門はいまだに、習派の浙江閥に属する夏宝竜氏(73)が率いている。夏氏は名誉職的な政協副主席を辞めた後も、実権のある党・政府の要職は続けている。

 習氏は3月7日、全人代の軍代表団全体会議で演説し、自分が総書記に就任した2012年の第18回党大会以後、軍における「政治整訓(政治的引き締めと教育)」と「政治建軍(政治面の軍隊組織建設)」が大きな成果を挙げたと自賛。同時に「軍内に党への二心がある者は絶対いてはならないし、腐敗分子が身を隠す場所は絶対あってはならない。必ず確固として揺るぎなく反腐敗闘争を進めていかねばならない」と強調した。

 ワンマンとして君臨しながらも、軍人たちの政治的忠誠心に対する猜疑心(さいぎしん)がますます強まり、反腐敗を口実とする粛清を続けていかないと、安心できないという心境が読み取れる公式発言である。(2026年3月8日)

 

 中国の習近平政権が「日本軍国主義復活」に対する非難を強化し、関係各国に警戒を呼び掛けている。日本を敵国のように扱っており、同政権下での日中関係改善は想像しにくい状況だ。

■「台湾侵略の野心残る」
 

 中国の王毅外相は2月14日、ドイツのミュンヘン安全保障会議で演説し、出席者からの質問に答えた。習政権の外交政策全般について、欧州諸国などに直接説明する機会となった。中国外務省の発表によると、「アジア太平洋情勢が緊張する中で中国はどのような責任を果たすのか」と問われた王氏は「アジア太平洋情勢が日増しに緊張しているとは思わない。世界を見渡すと、アジアだけが依然として全体的に平和を保っている」と回答した。
 ただ、王氏は同時に「アジアも、順風満帆で、風がなく波も静かだというわけではない」とした上で、「日本で最近出現した危険な動向を警戒しなければならない」と主張。高市早苗首相の台湾有事発言を厳しく批判し、次のように日本軍国主義復活論を展開した。
 一、戦後80年で日本の首相が公然とこの種の放言をしたのは初めてであり、中国の国家主権と、台湾が既に中国へ復帰した戦後の国際秩序に直接挑戦し、日本側の中国に対する政治的約束に背くものだ。
 一、われわれはきょう、ドイツにいる。ドイツは戦後、ファシズムを全面的に清算し、ナチズム宣伝を禁止する法律を制定した。一方、日本はいまだにA級戦犯を神社に祭って、政界要人が絶えず参拝し、「英霊」として奉っている。このような現象は欧州では想像できない。これこそがあらゆる問題の根源なのだ。
 一、日本指導者の台湾問題に関する誤った言論は、日本には台湾を侵略して植民地にしようとする野心が残っており、軍国主義復活の亡霊が消えていないことを暴露した。
 一、日本はかつて、いわゆる「存立危機事態」を理由に中国を侵略し、米国の真珠湾を攻撃した。殷鑑遠からず。もし悔い改めなければ、必ず昔の失敗を繰り返すことになる。
 一、まず日本人民に対し、二度と極右勢力や極端な考えに欺かれて引きずられないよう注意を喚起したい。また、平和を愛するすべての国は日本に対して「かつての道を歩めば、自滅する」「再び賭けに出れば、より速く、より悲惨に敗北する」と警告する必要がある。
 王氏のこれらの発言から、習政権が(1)日本は軍国主義が復活しつつあるだけでなく、現実に台湾侵略の危険があると判断した(2)歴史問題で日本を欧米を分断し、日本を孤立させようとしている─ことが分かる。
 王氏の論法はロシアのプーチン政権のゼレンスキー・ウクライナ大統領に対する「ネオナチ」批判によく似ている。国際社会で説得力を持つとは思えないが、今の中国にとって、日本はロシアにとってのウクライナのような敵対的存在ということであろう。

■「戦後体制の束縛から離脱」


 中国の情報機関である国家安全省のシンクタンクも同様の見解を明らかにしている。同省傘下の中国現代国際関係研究院は1月30日、「台湾海峡に照準─日本が急速に軍事力を強化する意図とリスク」と題する大論文をSNSで公表。同研究院の副院長を含む4人が共同で執筆した。
 論文は「日本の軍事力強化の主な意図は台湾海峡に介入する準備だ。それは日本社会で強い反対に遭っていない」「日本は既に平和憲法を含む戦後体制の束縛から実質的に脱しており、再び戦える国になりつつある」と断定した。
 また、最後に米国に言及。「日本の軍事大国化とその破壊的影響について、米国は責任から逃れることができない」とした上で、「米国はかつて、ファシズムと軍国主義に対抗するため犠牲を払った。(日本対策に)当然ながら責任を負って、日本の軍事力発展制約で真の役割を果たし、戦後の国際秩序とアジア太平洋の平和を共に守らなくてはならない」と訴えた。
 米国は中国と同じ第2次世界大戦の主要戦勝国として、日本軍国主義の封じ込めに協力する義務があると言いたいようだ。対日政策への同調を、自分が日ごろ「覇権主義」と批判している超大国(しかも、日本の軍事同盟国)に求めるのは矛盾も甚だしいところだが、そのような点に構っていられないほど、習政権の「反日」欲求は強烈だということなのだろう。
 王氏は外相だけでなく、政権指導部の共産党政治局メンバー。習近平国家主席(党総書記)の大国外交路線を10年以上、忠実に執行してきた。また、国家安全省は習政権下で影響力を拡大し、前国家安全相は現在、治安部門全体を統括する政治局員だ。王氏のミュンヘン発言や前記の論文は習氏や党中央の現状認識を紹介したものだと考えてよい。

■総選挙の自民圧勝で警戒強化


 高市首相率いる自民党の総選挙圧勝で、中国側は警戒を一層強めたとみられる。中国外務省報道官は「日本国内のことだ」として、詳しい論評を避けたが、中国最大級の公式シンクタンクである社会科学院の日本研究所幹部は2月19日公表した総選挙結果に関する論文で「日本の政局は保守勢力が全面的に掌握し、日本政治の右傾化がさらに加速する」と分析。「日本は今後、地域安保情勢の緊張や陣営間の対立、軍備競争、さらには核拡散リスクの面で波乱を大きくする可能性が高い」と決め付けた。日本研究所は対日政策について政権ブレーンの役割を担っている。
 中国側の対日非難はもはや、正常な2国間関係におけるレッドライン(越えてはならない一線)を完全に越えており、習政権には、近い将来に国際会議での首脳会談を機に日中関係を修復するという過去のパターンを繰り返すつもりは全くないように見える。(2026年2月24日)
 

8日 中共中央政治局委员、外交部长王毅就中国外交政策和对外关系回答中外记者提问

中共中央政治局委员、外交部长王毅就中国外交政策和对外关系回答中外记者提问 — 中华人民共和国外交部

 

13日 政府工作报告

政府工作报告__中国政府网

 

13日 中华人民共和国国民经济和社会发展第十五个五年规划纲要

中华人民共和国国民经济和社会发展第十五个五年规划纲要__中国政府网

 

 「反腐敗」を口実とする中国軍内の権力闘争は、中央軍事委員会主席を兼ねる習近平国家主席(共産党総書記)が行き当たりばったりの対応を重ねた結果、軍主要機関・部隊首脳の大半が失脚するという前代未聞の事態を招いた。制服組トップを含む一連の大粛清は、1989年の天安門事件以後で最大の政変となった。10年以上かけて1強体制を固めたはずの習氏がなぜ、これほど迷走して大混乱となったのか。その行動には謎が残る。(時事通信解説委員 西村哲也)

 

■昇格できなかった最側近

 

 中国共産党政権では通常、党中央の決定に基づいて、ある高官が不正容疑で調べられていることが発表されると、関連機関が「党中央の決定を断固として擁護する」と表明する。1月24日に不正調査が発表された中央軍事委員会の張又侠筆頭副主席(制服組トップ)についても、軍機関紙の解放軍報が直ちに党中央の決定擁護を全軍に呼び掛けたが、これまでのところ、呼応した機関・部隊は一つもない。習氏の盟友だった張氏の粛清がいかに衝撃的だったかが分かる。

 習氏が総書記として異例の3期目に入った第20回党大会(2022年)で発足した今期の中央軍事委指導部は、習氏の西北地方人脈に連なる張氏と習氏側近グループである福建閥の中核だった政治工作部の苗華主任(当時)の2人を支柱としていた。

 習氏と張氏の父親は革命時代に軍事指導者として共に西北で活動した戦友で、張氏は習政権1期目(12~17年)から中央軍事委員として習氏を支えた。苗氏は、習氏が若い頃に勤務した福建省の部隊(旧第31集団軍)出身。17年から中央軍事委で人事を担う政治工作部主任(中央軍事委員)を務め、軍における習氏の代理人のような存在だった。

 張氏は第20回党大会の時点で70歳を超えていたのに、慣例に反して引退せず、軍人の最高位に昇進した。一方、もう一人の中央軍事委副主席になると思われた苗氏はなぜか昇格できず、代わりに福建閥の後輩である何衛東氏が同副主席に大抜てきされた。何氏は党中央委メンバーではない一般党員で、党大会代表(代議員)ですらなかった。

 習氏が張氏に遠慮して、最側近の苗氏を昇格させなかったかのような人事となり、苗氏には不満が残ったと思われる。

 

■粛清の矛先が二転三転

 

 翌23年夏から軍の大粛清が始まり、張氏に近い李尚福国防相(中央軍事委員)が解任されて、苗氏が海軍政治委員だった頃の部下が後任となった。苗氏の策略だったようだが、24年秋になると、張氏側が巻き返し、苗氏は停職処分に。その後、何氏を含め、苗氏人脈の軍高官が大量に失脚した。

 軍高官の処分はすべて、軍の最高指導者である習氏の承認を要する。習氏は当初、苗氏ら側近グループを支持して張氏側の要人を打倒しておきながら、風向きが変わると、張氏側の意向に沿って側近グループを徹底的に粛清する処分を認めた。

 軍内の勢力バランスを取るため、側近グループの一部を切るのならまだしも、なぜ根絶やしにするような処分に踏み切ったのか。その結果、軍内の政治的均衡は崩れ、張氏の勢力が肥大化。切羽詰まった習氏は結局、今年1月に奇襲攻撃のようなやり方で張氏も粛清し、軍指導部がほとんど空になるという異常な状況となった。

 75歳と高齢の張氏は来年の第21回党大会で引退するのが確実だったのにもかかわらず、習氏があえて打倒に踏み切ったのは、多くの中国政治ウオッチャーにとって、意外な展開だった。制服組の1強となった張氏を政治的脅威だと感じた可能性があるが、そもそも、習氏の無計画な粛清人事が招いたことである。

 

■個人独裁追求を優先

 

 以上の経緯から、習氏が「強い軍隊になれ」という掛け声とは裏腹に、実際には軍事力強化よりも自分個人の権威維持を重んじていることがはっきりした。しかも、四苦八苦しながら、その場しのぎの強権発動を重ねるので、混乱が広がるばかりだ。

 当初7人いた今期の中央軍事委は、文官の習氏と政治工作部門出身の委員の2人だけに減って、作戦指揮に通じた委員は皆無になった。中国が台湾だけでなく、東・南シナ海を挟んで日本やフィリピンとも対立し、米国のトランプ政権は台湾への武器大量売却を決めるという状況なのに、習氏の行動には軍事的緊張感が感じられない。

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、中国主要兵器メーカーの売り上げは24年に減少したという。軍の粛清が多くの関連企業の経営陣にまで及んでいるため、兵器の開発・供給に支障が出ているようだ。

 政権や国家全体の利益よりも自分の個人独裁追求を優先するスタンスは、国内経済・社会に大打撃を与えたゼロコロナ政策や民営企業たたきと共通している。

 また、習氏と軍人たちの溝も決定的になった。権力闘争に勝ち負けがあるのはやむを得ないことだが、習政権3期目の軍粛清では、習氏にどんなに近くても、どの勢力に属していても、失脚を免れなかった。軍人たちは生きた心地がしないだろう。

 軍内で威信が高かった張氏まで切り捨てたことで、軍の立て直しは難度を増したが、習氏は今後、空席になった多くの重要ポストを一つ一つ埋めていかねばならない。上将(大将に相当)のほとんどは既に失脚。中将以下も張氏や苗氏が引き上げた幹部が多く、軍再建の人事は容易ではなかろう。

 

■党内で習氏の指導力に懸念も

 

 日本では習1強盤石説が多いので、ここで海外識者の厳しい意見を紹介しよう。

 台湾の政治大学国際関係研究センターは1月30日、中国軍粛清に関する座談会を開催。中央通信社電によると、参加した専門家は「軍上層部人事の波乱は軍や党のエリートの不満を招き、それは習近平の威信を損なうだろう」「これから起用する軍人は習との関係が薄く、彼はどんどん孤立していく」「習近平は幹部の『寝そべり』(不作為)という問題に直面する」といった見解を示した。

 また、かつて米国家安全保障会議(NSC)や中央情報局(CIA)の幹部として中国などを担当したジョージタウン大のデニス・ワイルダー教授は同日の英紙フィナンシャル・タイムズに寄稿した論文で次のように指摘した。

一、張氏ら軍高官の粛清は、腐敗や能力不足のため習氏が排除しただけだという見方は危険なほど誤っている。そのような見方は、中国の政治体制で最も強力な機関である共産党とそれに次ぐ軍の間の緊張が不可避であることを見逃している。

一、習氏は、張氏が次は自分を(権力闘争の)ターゲットにする、もしくは、自分の4選を阻止しようとする可能性があると考えたのかもしれない。

一、いずれにせよ、張氏の失脚により、党のエリートたちの間で習氏の判断力や指導力に対する懸念が生じる恐れがある。彼らは、習氏に後継者指名やより若い指導者との権力分担を求める可能性がある。

一、習氏はこれまで、鉄拳で中国を統治してきた。しかし、張氏の粛清はやり過ぎだったかもしれない。

 要するに、ワイルダー教授は「1強が絶対的権力を持つとは限らない」と言いたいのだろう。

 なお、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは1月25日、張氏が中国の核兵器に関する機密情報を米国に漏らしていたとの説を報じたが、中国では激しい権力闘争があるたびに負け組を裏切り者呼ばわりするうわさが流されており、この説も同様の情報操作だと思われる。(2026年2月9日)

 

 

 中国軍内の権力闘争で優勢といわれていた中央軍事委員会の筆頭副主席(制服組トップ)と作戦担当の委員が腐敗を口実に粛清された。これで、2022年の発足時に6人いた今期中央軍事委の軍人メンバーはわずか1人となり、軍指導部は事実上壊滅。中央軍事委主席を兼ねる習近平国家主席(共産党総書記)は、異例の3期目実現に貢献した軍高官たちをうまくまとめることができずに大混乱を招き、結局、その大半を切り捨てるという異常事態になった。

 

■反腐敗口実の「政変」

 

 中国国防省報道官は1月24日、中央軍事委の張又侠副主席と連合参謀部の劉振立参謀長(中央軍事委員)について、重大な規律・法律違反の疑いで調査していると発表した。汚職容疑で拘束したとみられる。前者は習氏の西北人脈に連なる軍人で、「習1強」確立に盟友として大きく貢献した実力者だ。習氏と同様、「太子党」「紅二代」と呼ばれる高級幹部子弟の典型。父親も将軍で、習氏の父の戦友だった。

 軍機関紙の解放軍報は翌25日の社説で張又侠氏らについて「中央軍事委主席責任制を著しく踏みにじり破壊した」とした上で、党の軍隊に対する絶対的指導に影響を与え、党・国家・軍隊への影響は「極めて劣悪」だと非難した。中国の反腐敗は実質的には権力闘争の手段だとはいえ、敗者がここまで激しく政治的に罵倒されるのは珍しい。汚職と合わせて、非常に重い処罰を受ける可能性が高い。

 中央軍事委副主席もしくは国務委員(上級閣僚)クラスの大物軍人に対する不正調査・処分は通常、異変説が出て調査が始まったと思われる時期から半年以上たって発表される。ところが、今回は、1月20日に張又侠氏らが重要会議を欠席して失脚のうわさが流れてから4日後に調査の事実が明らかにされた。

 本欄「習政権要人、欠席相次ぐ─『反腐敗闘争』拡大か」(昨年12月15日配信)は兵器メーカー関連の不正調査強化に関連して「武器調達に深く関わってきた張氏は何の影響も受けないのか」と指摘したが、それから数えても1カ月余りしかたっていない。しかも、12月中旬の時点で張又侠氏失脚説が広がっていたわけではなかった。

 軍の実力者である張又侠氏に対する調査を長々と続けると、妨害される恐れがあるので、慣例や形式にこだわっている余裕がなく、調査開始を早く公表して「腐敗摘発」を既成事実化したのだろう。中国当局者との付き合いが多い香港の消息筋は「明らかに政変だ」と語った。

 

■迷走した習主席

 

 今期の中央軍事委は昨年秋までに、ナンバー2の副主席だった何衛東氏、前国防相の李尚福氏、軍政治工作部主任として人事を担っていた苗華氏の3人が党籍・軍籍を剥奪されており、制服組で残る委員は、何氏に代わって副主席に就任した軍規律検査委の張昇民書記だけになった。

 改革・開放時代になってから、筆頭格の軍人失脚は初めて。中央軍事委員の大半が粛清される事態も前例がない。党政治局員の中央軍事委副主席2人が失脚し、新しい副主席の張昇民氏は政治局入りできず、現国防相の董軍氏は慣例に反して国務委員を兼務していないため、党・政府指導部の会議(政治局会議と国務院常務会議)に軍人が1人も出られない異例の状況となった。

 今期の中央軍事委員で最初に失脚した李氏は、張又侠氏と同じく、武器調達を担当する軍装備発展部長の経験者で、張又侠氏の弟分。このため、同氏は一時、政治的に劣勢になった。苗、何の両氏ら習氏側近グループ(福建閥)の策略だったとの見方が多い。(2024年6月の本欄「軍人トップ、苦境に─元部下の前国防相粛清」参照)しかし、その後、側近グループが反撃に遭って次々と失脚し、形勢が逆転した。いずれの処分も習氏が承認したものだ。

 軍内の習派が弱体化するにつれて、中央軍事委副主席が習氏の地方部隊視察に同行しなくなったり、習氏が閲兵する軍事パレード部隊指揮官の格を下げたりするなど、軍側は習氏を軽んじるかのような態度を取り始めた。解放軍報の社説が「中央軍事委主席責任制を著しく踏みにじり破壊した」と断じたのは、これらの動きを指すと思われる。

 政治的にも重要な軍を習氏がどうやって掌握し直すかが注目されたが、習氏の選択は、クーデターのようなやり方により、軍の内紛で生き残った勝ち組を打倒する強硬策だった。

 前出の消息筋は、張又侠氏は積極的に対抗する動きをせず、敗北したとの見方を示した。中国軍は「党の軍隊」であり、正面から党のトップに歯向かうことはできないのは当然だろう。

 習氏はどっち付かずの姿勢で軍内の反腐敗闘争を進めて迷走した結果、かつて自分を支えた盟友や側近グループの主要人物を全員失ってしまった。習氏にとっても百害あって一利なしであり、習氏が1強にふさわしいリーダーシップを発揮していれば、防げていた混乱だった。

 

■軍の立て直し急務

 

 「政権は銃口から生まれる」という毛沢東の言葉はよく知られている。党・軍一体の革命で成立した中国共産党政権では、軍が政治面でも大きな影響力を持ってきた。しかも、中国軍は世界最大級の軍隊で、内部の人脈や利害関係が極めて複雑な伏魔殿だ。このため、革命時代の軍事指導者として威信が高かった毛や鄧小平ですら、軍をしっかり掌握するために有力軍人の力を借りた。

 ポスト革命世代で軍功など何もない江沢民元国家主席と胡錦濤前国家主席は、軍事政策を主導しつつも、軍内の管理では軍人たちの自律性をかなり尊重したようだ。事なかれ主義の妥協とも言えるが、江・胡時代は政局が基本的に安定し、それが高度経済成長に寄与したことも事実である。

 これに対し、個人独裁志向が強い習氏は10年かけて1強体制をつくり上げ、軍指導部にも盟友や側近を配置した。だが、内紛を抑えることができず、軍全体で上将(大将に相当)の大半が粛清で消えるという破綻状態を招いてしまった。また、何事も政治的締め付けを極端に重視する政策で経済は失速し、復興の見通しは立っていない。

 毛や鄧も側近の軍人を打倒したり遠ざけたりしたことはあったものの、別の軍人を起用するなどして事態を早期に収拾し、最高権力を維持し続けた。終身制を考えているといわれる習氏としても、軍の政治的立て直しが急務となる。そこでまた右往左往するようなことがあれば、政権全体の運営に影響して、来年秋とみられる第21回党大会の準備作業に支障が出る可能性もある。(2026年1月27日)

 

 

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