中国の習近平国家主席(中央軍事委員会主席)は、軍事力強化で海洋、宇宙、サイバー空間に重点を置く方針を示した。全国人民代表大会(全人代=国会)の解放軍代表団に対し、「新興領域戦略能力」の全面的向上を求めた演説で述べたもので、独自のイノベーションに基づく「新たな質の生産力」と「新たな質の戦闘力」の融合を進めるよう指示している。

 

■「海上軍事闘争」に備える

 

 習主席は3月7日、全人代解放軍代表団の全体会議に出席し、以下のように演説した。

 一、新興領域戦略能力は国家戦略体系・能力の重要な構成部分であり、わが国経済・社会の質の高い発展に関わり、国家安全保障と軍事闘争の主導性に関わり、中国式現代化によって強国建設と民族復興の偉業を全面的に推進することに対して重要な意義を持つ。

 一、第20回共産党大会(2022年)の後、党中央は新たな質の発展加速を明確に提起したが、これは新興領域戦略能力の向上に得難いチャンスをもたらした。勢いに乗って、新たな質の生産力と新たな質の戦闘力の効果が高い融合と相互けん引を進めなくてはならない。

 一、発展の重点をはっきりさせ、新興領域戦略能力の向上に関する戦略と計画をしっかりと実行する必要がある。(具体的には)海上軍事闘争の準備、海洋権益の維持、海洋経済の発展を統一的に計画する。宇宙の布陣を最適化し、わが国の宇宙体系建設を進める。サイバー空間防御体系を構築し、国家のサイバーセキュリティー維持能力を高める。

 また、習主席は「新興領域の発展は根本的には科学技術のイノベーションと応用だ」とした上で、独自のイノベーションや「自強」の方針を重んじるよう求めた。

 習主席はこれまでも「新興領域戦略能力」について語ったことがあるが、公式メディアの大見出しになるほど詳述したのは初めてだ。

 

■自力更生で発展可能か

 

 公式報道によると、この会議では6人の全人代代表(議員)が発言した。報道の順に挙げると、海軍、戦略支援部隊、南部戦区、戦略支援部隊、軍事科学院、陸軍の代表で、テーマは海洋、サイバー空間、人工知能(AI)、宇宙、無人作戦などだった。

 サイバー戦や宇宙戦を担当する戦略支援部隊が唯一、2人に発言の機会が与えられた。それぞれ、サイバーと宇宙での活動について話したとみられる。同部隊はサイバーと宇宙に分割されるという説もある。

 海軍の発言者は1人だけだったが、南部戦区の代表が南シナ海の問題に言及したとすれば、事実上は2人ということになる。同戦区は、南シナ海で活動する南海艦隊を擁している。

 以上の報道から発展の重点を置く軍種は分かったが、その発展が依拠する「新興領域」とは具体的に何を指すのか。軍機関紙の解放軍報は3月8日の評論員論文で①AI②ビッグデータ③ブロックチェーン④量子科学技術⑤バイオテクノロジー⑥新エネルギー─を列挙。また、新興領域戦略能力が関わる範囲は広く、内容も多く、「軍民共用性」が強いと指摘した。軍以外のIT専門家らとの協力がより重要になるという意味だろう。

 ただ、習主席の「科技自立自強」路線と米国などのハイテク対中輸出規制のため、中国の技術者たちは自力更生志向を強めていかざるを得ない。また、中国の有力なIT関連企業の多くは民営なので、国有企業を偏重する左派主導の習政権からさまざまなバッシングを受けてきた。国際協力ができない上、民間のイノベーション活力が弱まれば、新興領域戦略能力の向上は困難を増す可能性が大きい。(2024年3月10日)