高市早苗首相の台湾有事発言に反発する中国は、日本に対する非難と報復をエスカレートさせている。高市首相に「毒の苗」などと罵詈(ばり)雑言を浴びせるだけでなく、日本に対する軍事行動の可能性も示唆して威嚇するなど全面対決の姿勢だ。

 

■「敵国条項」持ち出す

 

 在日中国大使館は11月21日、SNSを通じて、第2次世界大戦の敗戦国として国連憲章の敵国条項の対象になっている日本が再び侵略政策に向けた動きをした場合、中国など国連創設国は安全保障理事会の承認なしに直接軍事行動を取る権利を持つと警告した。中国はこれまで、台湾、歴史問題を巡って何度も日本と対立してきたが、対日攻撃をちらつかせるのは極めて異例だ。

 この主張によれば、対日軍事行動の条件は日本による「侵略」ではなく、「侵略政策に向けた動き」なので、台湾有事に日本が直接介入しなくても、中国に都合の悪い何らかの動きをすれば、中国は独自の判断で日本を攻撃できることになる。

 台湾有事は「存立危機事態」に該当し得るとした高市首相の国会答弁(7日)に対し、中国外務省報道官は13日、「悪辣(あくらつ)な言論」の撤回を要求するとともに「もし日本が大胆にも台湾海峡情勢に武力介入すれば、それは侵略行為となり、中国は必ず正面から痛撃を与える。われわれは断固として、国連憲章と国際法が与えた自衛権を行使する」と強調した。国営中央テレビ系のSNSアカウント・玉淵譚天は、この「痛撃」には軍事的意味があると解説した。

 国防省報道官も翌14日、日本が台湾海峡情勢に武力介入した場合、「中国人民解放軍の鉄壁の守りにより頭を割られて血を流し、悲惨な代償を払うことになる」と強調した。

 15日には、復旦大学(上海)の教授が中国共産党系の香港紙・文匯報への寄稿で、国連憲章に敵国条項があることを指摘。国連総会が1995年、同条項は時代遅れになったとする決議を採択したものの、いまだに廃止されていないのは、同条項はやはり必要とのコンセンサスが国際社会にあるからだと主張した。在日中国大使館の21日の投稿は文面がよく似ており、この論説を参考にしたと思われる。

 しかし、敵国条項が死文化していることは国際社会の常識であり、同大使館の投稿に対しては批判が殺到している。在外中国人からも「国連創設国は中華民国(当時の国民党政権)であり、中国共産党に何の関係があるのか」と皮肉る声が出ている。日本外務省は23日、SNSを通じて反論し、この条項は死文化したとの認識を示した国連総会決議には「中国自身も賛成票を投じた」と指摘した。

 日中戦争では主に国民党が日本軍と戦ったが、共産党は自らが抗戦を主導したと宣伝。さらに、中華民国は1949年、中華人民共和国(共産党政権)の成立で消滅したと主張している。実際には国民党政権は台湾へ逃れ、引き続き中華民国と称した。

 中国側の脅しは口先だけではなく、中国海軍は22日、東シナ海や台湾海峡を管轄する東部戦区海軍が実弾射撃訓練を行ったと発表した。中国軍は引き続き、日本と台湾を威圧する演習を繰り返し実施していく可能性が高い。

 

■日本人「スパイ」取り締まり強化か

 

 中国は軍事だけでなく、スパイ取り締まりの面でも日本を威嚇している。

 スパイ防止を担当する国家安全省は19日、SNSを通じて発表した評論員論文で、日本には「軍国主義復活の危険な兆し」や「中国統一プロセスへの武力介入をたくらむ野心」があると非難。国家安全機関は近年、中国に浸透して機密を盗み出そうとする日本の情報機関による一連のスパイ事件を摘発し、容疑者を捕まえたとして、取り締まりの成果を誇示した。

 日中関係が険悪になる中でこのような論文を発表したのは、中国国内で日本人の「スパイ」取り締まりを強化することを示唆して、対日圧力を強化する狙いがあるとみられる。

 国家安全省のSNSアカウントは同日、日中戦争中の中国共産党員と日本人協力者の「国境を越えた友誼(ゆうぎ)」を紹介する短時間の番組も配信した。この協力者は戦後、日本共産党の参院議員となった中西功氏(故人)で、1941年に日本軍が北進(ソ連侵攻)ではなく、南進を決めたとする情報を中国共産党に提供し、同党がこれをソ連に伝えたという。

 番組は中西氏を「日本反戦志士」と称賛。日本政府が中国と対立しても、日本には中国側に協力する人々がいるとアピールしたいようだ。

 高市首相の台湾有事発言を巡る問題は国連にまで持ち込まれた。第2次大戦の戦勝国が創設した国連(中国語では「連合国」)の存在を中国は非常に重視しているからだ。

 傅聡国連大使は18日、安保理改革に関する会合で、高市首相の台湾有事発言は「戦後の国際秩序を破壊する」とした上で「このような国に安保理常任理事国入りを求める資格は全くない」と主張した。

 日本を安保理常任理事国とするかどうかの問題はかつて、中国で大規模な反日デモを引き起こし、中国当局も収拾に苦労したことがある。深刻な不況で社会不安が高まっている状況下で大きなデモが起こることは習近平政権も望んでいないはずだが、そのリスク回避よりも日本たたきを優先したということだろう。

 傅大使はさらに21日、高市首相の台湾有事発言に対する中国政府の立場を説明する書簡をグテレス国連事務総長宛てに書簡を送り、この発言について(1)1945年の日本敗戦後、初めて日本の指導者が公式の場で「台湾有事は日本有事」を鼓吹し、それを集団的自衛権と結び付けた(2)初めて台湾問題に武力介入しようとする野心を表明した(3)初めて中国を武力で威嚇し、中国の核心的利益に公然と挑戦した─と決め付けた。

 この書簡は国連総会の公式文書として全加盟国に送ると傅大使は述べた。中国の戦狼外交でも珍しい執拗(しつよう)な対外工作で、国連の権威も利用して日本側を完全に屈服させようと考えが読み取れる。

 

■経済・外交面で中国側に懸念

 

 以上のように、中国の対日姿勢は尖閣諸島国有化(2012年)への反応よりも強硬だ。ただ、中国経済は低迷が続いており、実際の成長率は公式統計(7~9月期4.8%)をはるかに下回っているとの見方が多い。トランプ米大統領との貿易戦争も先行きは不透明。国内経済と対外経済環境の両方が良くない中、事実上の経済制裁で日本との経済関係を縮小していけば、中国国内の関連業界も打撃を受ける。中国経済にかつての高度成長時代のような余裕はなく、中国流の対日デカップリング(分断)を徹底的かつ長期的に実行するのは容易ではない。

 また、外交で最大の課題であるトランプ氏対策のためには、本来、戦狼路線をやや修正して、米国以外の主要国との関係はなるべく良くしておきたい状況だが、自ら「核心的利益の核心」と言う台湾問題で強硬姿勢を崩すことはできず、習政権としては悩ましいところだ。(2025年11月24日)

 

1日 人民日報、高市首相の「台湾地位未定論」非難

2日 中ロ高官─「日本軍国主義の捲土重来に反撃」

3日★仏大統領訪中(~5日)─四川に習主席同行◇党外人士座談会─政協主席が欠席◇自民副総裁─「中国からいろいろ言われているが、言われるくらいでちょうどいい」「これによって大問題に発展するわけでもない」

4日★中仏首脳会談─蔡奇氏欠席

6日★中国空母艦載機、沖縄本島沖で空自戦闘機にレーダー照射

7日 香港立法会─民建連の得票率36%減

8日★政治局会議─1月の中央規律委総会の日程発表なし◇★中独外相会談─王毅氏「日本は侵略歴史の反省徹底せず」◇米大統領─エヌビディアAI半導体の対中輸出許可へ

9日★中ロ爆撃機、四国沖で初の共同飛行─中国空母が太平洋展開中

10日★中央経済工作会議─馬興瑞氏欠席、李希氏は出席

12日 明報─軍装備発展部長が中央経済工作会議欠席◇星島日報─党中央政策研究室主任が交代◇台湾外交部長、米AIT本部を訪問

13日 南京事件88年式典─中央組織部長「軍国主義復活、容認せず」~新華社や人民日報「軍国主義」報道せず

15日 中国外務省─台湾顧問の元統合幕僚長を制裁◇香港リンゴ日報創業者に有罪判決

17日★米政府─台湾に111億ドル相当の武器売却へ/中国側、撤回要求・報復警告せず◇米上院で中国の対日圧力批判決議案◇高市首相─日中関係で「率直に対話を重ね、戦略的互恵関係を包括的に推進したい」

 

 中国の習近平国家主席は、台湾の民進党政権を敵視して圧力をかけ続けている状況下でトランプ米大統領と会談したのに、台湾問題に全く触れなかった。その一方で、米中国防相会談では中国側が「台独(台湾独立)」反対の姿勢を明確にするよう強く求めるなど、ちぐはぐで不可解な対応が目立っている。

■トランプ氏を恐れた?


 中国共産党はもともと、「一つの中国」の原則を受け入れない民進党を台独勢力と決め付けていたが、頼清徳総統が今年3月、中国を「域外敵対勢力」と見なすと公式に宣言したこともあり、ますます威嚇を強めている。
 10月24日には全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会が同25日を「台湾光復記念日」とすると決定。台湾光復記念80周年大会が25日に北京で開かれ、共産党指導部ナンバー4で、国政諮問機関の人民政治協商会議(政協)主席を務める王滬寧氏が演説で「さまざまな形の『台独』分裂活動には絶対にいかなる空間も残さない」と警告した。「光復」とは、滅びた国を再建したり、失った領土を取り戻したりすることである。
 中国の国営テレビも最近、かつて台湾に潜入した共産党スパイを英雄として描く長編ドラマを放送して、「祖国統一」ムードを盛り上げている。
 こうした状況の中、習氏は10月30日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するため訪れた韓国でトランプ米大統領と会談し、貿易戦争での妥協が成立した。
 米中首脳会談前に「中国が米側に台湾独立反対を宣言するよう求めている」との説が流れていたが、米中双方の説明によると、中国側が自国の「核心的利益の核心」とする台湾問題は首脳会談で取り上げられなかった。習氏は新たな要求を突き付けるどころか、この問題自体に言及しなかった。
 米中首脳の対面会談ではこれまで、中国側が決まり事のように台湾問題に触れてきたので、今回の「台湾」抜きは極めて異例だ。トランプ氏自身も米メディアに対し、やや意外だったとした上で、あたかも習氏がトランプ氏を恐れて台湾問題を避けたかのような説明をしたが、中国側は反論しなかった。

■「二つの司令部」


 ところが、翌31日にマレーシアでヘグセス米国防長官に会った中国の董軍国防相は、台湾問題を持ち出した。中国国防省の発表によれば、董氏は「台湾海峡両岸統一は阻止することができない歴史の大勢だ」と強調。米側に対し、台湾問題で言動を慎重にして、「旗幟(きし)鮮明に台独に反対する」よう要求した。
 政権トップが台湾問題を提起しなかったのに、政権指導部の一員でもない軍人が同じ問題でこのように強い主張を突き付けたのは、戦術的な分業と言うにはあまりに不自然で、まるで「二つの司令部」があるかのような印象を与えた。
 米中首脳会談は貿易問題が主なテーマだったが、中国側の公式発表・報道によると、習氏は不法移民、特殊詐欺、マネーロンダリング(資金洗浄)、人工知能(AI)、感染症対策にも触れた。また、両首脳は「中米関係の戦略的、長期的問題および共に関心を持つ重大な問題」について話し合ったという。テーマが貿易に限定されていたわけではなかったのだ。
 中国外務省の公式サイトは11月2日、習氏訪韓に関する王毅外相の説明を伝える長い記事を掲載したが、その中の米中関係詳報にも台湾問題は出てこなかった。

■内部統制に緩み?


 一方、日中間では台湾問題を巡る摩擦が表面化した。高市早苗首相が10月31日、SNSに「APEC首脳会議前に、控室で台湾の林信義総統府資政と挨拶を交わしました」と投稿したことについて、中国外務省報道官が11月1日、「一つの中国」の原則に違反するとして、断固たる反対を表明。日本側に強く抗議したことを明らかにした。
 ただ、報道官が回答で、高市氏が総統府資政という中華民国元首の最高顧問に当たる公職の名称を使ったことを直接批判しなかったため、APECの台湾代表に会ったことに抗議したと受け取られた。「中国自身が台湾代表と共に国際会議に参加しているのに、他の代表が台湾代表に会うことに文句を言うとは理不尽だ」と多くの人が感じたことだろう。
 3日になって、東京の中国大使館報道官が「いわゆる『総統』はおらず、『総統府資政』などいるわけがない」との文言を含むコメントを出したのは、外務省報道官コメントの不足を補うためだったと思われる。本来は、中国側が何を問題視しているかを外務省報道官が明確に説明すべきだった。
 台湾問題では、さらに、高市首相が7日の国会答弁で、台湾有事は集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に該当する可能性があると明言。これに対し、攻撃的な「戦狼外交官」の典型として知られる薛剣・駐大阪総領事が翌8日、高市首相の斬首を警告する文章をSNSに投稿して、物議を醸した。
 習氏が10月31日の日中首脳会談で、珍しく日中間の「国民感情改善」の必要性を指摘したばかりだった。薛氏は在日大使館の公使参事官だった2018年、日本メディアとの懇談で「どうしたら、日本人の対中感情を改善できるだろうか」と聞いてきたことがあった。薛氏は今、日本の首相殺害を予告するかのような脅迫行為が習氏の言う国民感情改善に役立つと思っているのだろうか。
 台湾有事に外国がどう対応するかは、中国にとって重大事であるにもかかわらず、中国外務省報道官がこの件でコメントしたのは11月10日になってからだった。8、9両日は土日で、定例記者会見はなかったが、公式サイトなどを通じてコメントを出すことはできたのに見送った。週明け10日の記者会見でようやく「日本指導者の台湾に関する誤った言論」を非難し、薛氏の投稿を擁護した。
 本来、在外の総領事などにコメントを任せる問題ではなかろう。中国外務省の内部統制が緩んでいるのではないかと疑問を抱かざるを得ない。

■人事の不安定が影響か


 近年、中国が良好な関係を保ってきた欧州も、中心的存在であるドイツとの関係がぎくしゃくしている。ドイツ政府は10月24日、26日からのワーデフール外相訪中延期を発表。中国の台湾海峡や東・南シナ海での威嚇的行動、ウクライナを侵略しているロシアへの支援などを同外相が繰り返し批判したことが影響したとみられる。
 しかし、それから半月もたたない11月3日、中独外相は電話で会談し、ワーデフール氏訪中の早期実現で合意した。非常に親中的だったメルケル独首相が退任して、関係を仕切り直している状態とはいえ、いかにもぎこちない。夏の時点では、メルツ首相が10月にも企業代表団を率いて中国を訪れるとの報道があったが、調整が大幅に遅れているようだ。
 習政権は昨年後半から「米国第一」を掲げるトランプ氏の再登場を想定して、戦狼外交を修正し始めた。ただ、「闘争」を重視する習氏の外交路線自体を改めたわけではなく、薛氏の暴言から分かるように、皆に染み付いた戦狼体質を薄めるのは容易ではない。
 加えて、習氏が王毅外相の後任として見込んだ高官は過去3年の左遷・粛清で次々と消えた。習氏は異例の3期目に入り、ワンマン体制を確立したはずだったのに、実際には新しい外相すら任命できない状態が続いている。
 また、習氏の側近ポストから政党外交を担う党中央対外連絡部(中連部)の部長に転じた劉建超氏は、今夏に失脚した。軍事外交を担当する董軍国防相は就任から2年近くになるのに、慣例に反して、軍の指導部である中央軍事委員会にいまだに入れず、上級閣僚の国務委員を兼務できないので、政府指導部の一員にもなれないままだ。
 中国の対外政策部門は全体的に人事面で不安定かつ変則的な状態になっており、これが中国外交のちぐはぐな動きの一因になっている可能性がある。(2025年11月11日)
 

 中国軍の制服組ナンバー2を含む習近平国家主席(中央軍事委員会主席)派の上将(大将に相当)9人の党籍・軍籍剥奪が発表された。これほど多くの軍高官が一斉に党・軍から追放されるのは極めて異例。習氏にとって大きな政治的打撃で、反腐敗を口実とする一連の処分は政権を揺るがす大粛清となった。

 

■前例ない軍事委副主席失脚

 

 中国国防省報道官は10月17日、全軍を指導する中央軍事委の何衛東副主席(党政治局員)ら9人について、重大な党規律違反や職務上の重大な犯罪容疑を理由に、党中央が党籍剥奪を、中央軍事委が軍籍剥奪を決定したと発表した。いずれも犯罪に絡む金額が特に大きい悪質な事案で、軍事検察機関へ送致されるという。

 軍人の中央軍事委副主席失脚は改革・開放時代では前例がない。党指導部である政治局の習派メンバーが粛清されたのも初めて。「汚職を厳しく取り締まった」というだけでは済まない事実上の政変である。

 9人の経歴は以下の通り(国防省の発表順)。

 何衛東=旧南京軍区(現東部戦区)の第31集団軍副軍長、南京軍区副参謀長、上海警備区司令官、東部戦区司令官などを経て、2022年から中央軍事委副主席・政治局員。中央軍事委で習主席、張又侠副主席に次ぐ序列3位、軍人としては2番目の高位にあった。軍内福建閥の筆頭格。

 苗華=第31集団軍政治部主任、第12集団軍(南京軍区)政治委員、海軍政治委員などを経て、17年から中央軍事委の組織運営を担う政治工作部主任。軍における習氏の代理人として人事を牛耳り、何衛東氏らを要職に就けたが、昨年11月に停職処分となった。

 何宏軍=中央軍事委政治工作部の主任補佐、副主任を得て、昨年7月から常務副主任。

 王秀斌=第31集団軍副軍長、第1集団軍(南京軍区)軍長、南部戦区司令官などを経て、中央軍事委連合作戦指揮センター常務副主任。

 林向陽=第31集団軍副軍長、中部戦区司令官などを経て、22年から東部戦区司令官。

 秦樹桐=第31集団軍副政治委員、第1集団軍政治委員、陸軍政治工作部主任などを経て、22年から陸軍政治委員

 袁華智=苗氏が海軍政治委員として人事を担当していた時期、海軍陸戦隊の初代政治委員に起用された。その後、海軍副政治委員などを経て、22年から同政治委員。

 王厚斌=苗氏が海軍政治委員だった時期、南海艦隊参謀長→海軍副参謀長→海軍副司令官と昇進。23年7月、ロケット軍(ミサイル部隊)出身者以外で初めて同軍司令官に任命された。

 王春寧=第12集団軍長、北京衛戍区司令官などを経て、20年から人民武装警察(武警)司令官。今年7月に解任判明。

 

■習主席側近の人脈を徹底排除

 

 この9人のうち6人は旧南京軍区(特に第31集団軍)、2人は海軍の出身。同集団軍は、習氏がかつて長く勤務した福建省の部隊で、何衛東、苗の両氏は習氏の直系だ。袁、王厚斌の両氏は、苗氏が海軍時代から重用していた。何宏軍氏だけは南京軍区でも海軍でもないが、苗主任率いる中央軍事委政治工作部で次席に引き上げられた。

 苗氏以外の8人が全員、苗氏と縁があるのは偶然ではあるまい。10年かけて、ようやくワンマン体制を築いた習氏が自らの権力基盤の重要部分を破壊する愚行に走る理由もない。

 つまり、今回の処分は、習氏の軍掌握でキーパーソンとなっていた苗氏とその人脈の徹底的排除を目的としたと言ってよい。中国の反腐敗闘争は綱紀粛正の看板を掲げて政敵を打倒する権力闘争であり、軍内の習派はその闘いに負けたということだ。

 苗氏ら9人のうち8人は党中央委員だったので、10月20~23日に開かれた第20期党中央委員会第4回総会(4中総会)での追認を経て、党籍剥奪が確定した。

 香港各紙によると、4中総会では本来、中央委員の補充人事で軍人の中央委員候補(投票権のない中央委メンバー)4人が、第20回党大会(22年)で選出された時の得票順で中央委員になるはずだったのに、いずれも下位の幹部に飛び越されて昇格できなかった。

 その中には、軍中枢の事務を取り仕切る中央軍事委弁公庁の方永祥主任(上将)が含まれていた。方氏も第31集団軍出身で、福建閥たたきに巻き込まれて失脚したとみられる。習氏は自分の軍事担当秘書官に当たる側近まで失い、軍指導者としては丸裸になったように見える。

 また、習氏側近中の側近といわれる鍾紹軍氏が国防大学政治委員を退任したことが同26日、平壌の中国大使館公式サイトの記事で分かった。平壌の行事に参加した中国軍代表団の団長を務める国防大学政治委員が鍾氏ではなく、別人であることが明らかにされた。

 鍾氏は昨年前半、中央軍事委弁公庁主任から国防大学政治委員に転じた。在任1年数カ月での退任は異例で、失脚した可能性がある。習氏が政権トップになる前からその秘書役を務め、分身のような存在だった。

 一方、「二つの確立」など習氏に対する個人崇拝スローガンや「中央軍事委主席責任制」はいまだに強調されているので、「君臨すれども統治せず」といったところだろうか。

 

■軍指導部の空席埋められず

 

 今回の9上将処分は異例というだけでなく、不可解なことが多い。

 まず、党指導部の一員である政治局員の軍人や軍最高幹部の中央軍事委員を含む高官の党籍剥奪を国防省が発表したことだ。同省は形式上、政府機関だが、事実上は、政府から独立した中央軍事委の一部門となっている。

 慣例に従えば、政治局が中央軍事委からの不正調査報告を承認した上で、党籍剥奪を決定、発表する。ところが、今回は軍側が政治局を差し置いて、独自に処分を公表。軍が越権行為でその力を誇示した形になった。

 4中総会コミュニケは苗氏らについて「政治局が先に決めた党籍剥奪処分を4中総会が確認した」と説明したが、国防省報道官の発表では「党中央が党籍剥奪処分を決定した」とされており、政治局には言及していなかった。本当に政治局が処分を決めたのかどうかは定かではなく、実際には軍が処分を決定し、それを党側に認めさせた可能性もある。

 また、今期の中央軍事委の軍人メンバーは当初の6人から半減してしまったので、4中総会で当然、補充人事が行われるとの見方が多かったが、補充は全くなかった。反腐敗の論功行賞なのか、汚職取り締まりを担当する中央軍事委規律検査委の張昇民書記が中央軍事委員から副主席に昇格した。しかし、慣例に反して、政治局入りしなかった。

 制服組トップとして軍内の習派粛清を主導しているといわれる張又侠氏は軍人で唯一の政治局員となった。ただ、中央軍事委員を補充できなかった今回の軍人事は、軍内習派の中核は排除されたものの、張又侠氏の優勢が確立したわけではないことを示している。また、もし同氏が「党が軍を指揮する」という社会主義国の大原則に反する動きを強めれば、党内で強い反発を招く恐れがあり、かじ取りが難しいところだ。

 4中総会に出席した中央委員は168人、中央委員候補は147人で、3中総会(昨年7月)からそれぞれ31人、18人減った。1年余りで計49人もの中央委メンバーが消えるという異常事態だ。その大半は反腐敗闘争の対象者で、軍人が特に多いと思われる。苗氏に近い有力退役軍人にも、異変説が流れているものの処分は発表されていない者がいる。

 このため、軍内の大粛清はまだ当分続き、軍指導部の再建は、それが完全に終わって権力闘争の決着がついてからになりそうだ。(2025年10月26日)

 

1日 习近平同韩国总统李在明会谈

习近平同韩国总统李在明会谈 — 中华人民共和国外交部

 

2日 引航亚太开放合作 展现大国责任担当——中共中央政治局委员、外交部长王毅谈习近平主席出席亚太经合组织第三十二次领导人非正式会议并对韩国进行国事访问

​引航亚太开放合作 展现大国责任担当 — 中华人民共和国外交部

 

10日 2025年11月10日外交部发言人林剑主持例行记者会
2025年11月10日外交部发言人林剑主持例行记者会_中华人民共和国外交部

 

13日 2025年11月13日外交部发言人林剑主持例行记者会

2025年11月13日外交部发言人林剑主持例行记者会_中华人民共和国外交部

 

14日 外交部副部长孙卫东就日本首相高市早苗涉华错误言行提出严正交涉

外交部副部长孙卫东就日本首相高市早苗涉华错误言行提出严正交涉_中华人民共和国外交部

 

14日 绝不容忍高市早苗在台湾问题上的越线挑衅(钟声)

绝不容忍高市早苗在台湾问题上的越线挑衅(钟声)

 

14日 中国驻日本大使就日本首相高市早苗涉华错误言行提出严正交涉和强烈抗议

中国驻日本大使就日本首相高市早苗涉华错误言行提出严正交涉和强烈抗议-新华网

 

14日 国防部:日方若胆敢铤而走险必将碰得头破血流

【双语】国防部:日方若胆敢铤而走险必将碰得头破血流 - 中华人民共和国国防部

 

14日 国台办:日本及其当政者没资格说三道四,遑论妄图阻扰中国统一大业

中共中央台湾工作办公室、国务院台湾事务办公室

 

15日 高市图穷匕见了!

高市图穷匕见了!-新华网

 

15日 什么样的“毒土”,长什么样的“毒苗”

专栏丨什么样的“毒土”,长什么样的“毒苗”-新华网

 

15日 日本胆敢武力介入台海局势必遭迎头痛击
日本胆敢武力介入台海局势必遭迎头痛击 - 解放军报 - 中国军网

 

16日 叫嚣武力介入台海局势只会把日本引向不归歧途

叫嚣武力介入台海局势只会把日本引向不归歧途 - 解放军报 - 中国军网

 

24日 习近平同美国总统特朗普通电话

习近平同美国总统特朗普通电话 — 中华人民共和国外交部

 

1日★米政府、米中首脳会談の合意内容公表─中国、レアアース輸出規制を「事実上撤廃」◇★中韓首脳会談(慶州)◇日中防衛相会談(マレーシア)◇中国外務省報道官─高市首相の台湾「総統府資政」SNS投稿に抗議(3日に在日大使館報道官も)

3日 中ロ首相会談(杭州)◇フィジー国連大使が訪台

5日★空母「福建」就役式(7日公表)◇王外相、人民日報で「覇権主義」警戒呼び掛け

6日 中国、国連安保理のシリア制裁解除決議で棄権─ロシアは賛成

7日★高市首相─「台湾有事は存立危機事態になり得る」◇★中国政府─レアアース輸出規制強化措置の一部、約1年間効力停止する◇★台湾副総統、欧州議会で初演説

8日★中国駐大阪総領事、SNSで高市首相の「斬首」警告

9日 中国商務省─ガリウムなどの対米輸出許可─26年11月27日まで禁止措置停止

10日★米大統領、「斬首」投稿で中国批判避ける◇★中国外務省報道官、高市首相の台湾有事発言を非難◇木原官房長官─中国駐大阪総領事の「斬首」投稿に抗議した◇台湾総統府報道官、「斬首」投稿を非難◇スペイン国王、13年ぶり訪中(~13日)◇習主席とスペイン国王の会談に蔡奇氏欠席

12日 張軍事委副主席、人民日報で「偽の忠誠」防止呼び掛け◇茂木外相─「斬首」投稿で中国側に「適切な対応」求めた

13日★中国外務省報道官、高市首相の台湾有事発言撤回を要求─「あらゆる結果は日本側が責任負う」「痛撃加える」◇★中国外務次官、高市首相の台湾有事発言で金杉大使を呼んで抗議◇中国外務省─南アG20首脳会議に李首相が出席へ◇タイ国王、史上初めて訪中(~17日)◇習主席とタイ国王の会談に蔡奇氏欠席

14日★中国外務省、日本渡航中止を勧告◇中国国防省報道官─日本が台湾問題に武力介入すれば「悲惨な代償払う」◇船越外務事務次官、「斬首」投稿で中国大使を呼んで抗議◇★台湾外交部─第2次トランプ米政権が初めて台湾向け軍事物資売却承認◇中国で映画「鬼滅の刃」新作公開

15日 新華社、高市首相を「毒の苗」と非難◇香港保安局、日本渡航に注意喚起

16日 言論NPO─日中共同世論調査の結果公表延期

17日★中央全面依法治国工作会議(~18日)─習主席と蔡奇氏欠席◇長安剣─北京市公安局の董亦軍副局長、急病で死去(10月21日)─王小洪公安相の元秘書◇中国外務省報道官─南アで日中首相会談なし◇中国メディア─映画「クレヨンしんちゃん」など公開延期◇言論NPO─「東京―北京フォーラム」延期◇独副首相兼財務相(社民党共同党首)が訪中
18日★日中外務省アジア局長会談(北京)─中国側、両手をポケットに◇中国国連大使─「日本に安保理入りの資格ない」◇ロシア大統領、中国首相と会談◇米中両軍実務者協議(~20日)

19日★日本メディア─中国、日本水産物の輸入再停止◇★中国国家安全省、日本人「スパイ」摘発強化を示唆

20日★張軍事委副主席、ロシア国防相と会談─中国国防省が発表、新華社報道せず◇蔡奇氏、党行事に出席─12日ぶり公の場に◇中国外務省報道官─日中韓文化相会合を延期◇スカイニューズ─英首相、月末訪中の見通し◇香港メディア─RTHK、日本アニメ放送中止

21日 中国メディア─中央テレビ、米中合作アニメを12月放送◇台湾、日本産食品の輸入規制撤廃

22日 小泉防衛相が沖縄視察

24日★米中首脳電話会談◇中国外務省報道官─日中韓首脳会談「条件整っていない」◇香港長官、高市首相の台湾有事発言を非難

25日 中国駐日大使と船越外務次官が会談

26日★WSJ─米大統領、高市首相との電話会談で台湾問題に関する抑制求める◇台湾総統─未来の戦争形態に対応するため、2026~33年に1兆2500億台湾ドル投入◇香港高層住宅大火

27日 木原官房長官、WSJ報道を否定◇ロイター通信─米大統領、高市首相との電話会談で中国との論争をエスカレートさせないよう要請

28日★政治局集団学習─李希、馬興瑞両氏が欠席◇浜崎あゆみ─上海公演(29日)中止

30日 中央規律委─新疆自治区副主席を調査◇日本メディア─中国外務省アジア局長、大連の日本企業視察

 

 中国軍で習近平国家主席派の有力者を多数輩出してきた東部戦区の司令官が政治的に粛清されたようだ。これで、同戦区の前司令官だった制服組ナンバー2らを含め、軍内習派の中核を成す福建閥の主要メンバー3人は全員失脚したことになる。

 

■東部戦区2首脳が欠席

 

 中国で国慶節(建国記念日)前日の9月30日は、共産党による革命や戦争の殉難者を追悼する「烈士記念日」。抗日戦争(日中戦争)などの歴史教育・宣伝を強化する習政権下で制定された。当日は各地で式典が行われ、現地の党・政府・軍などの指導者が出席する。

 江蘇省の省都・南京市でも同記念日に式典があり、同省の党委員会書記らが参加したが、現地の公式報道が挙げた出席者の中に軍の東部戦区司令官と政治委員の名前はなかった。全国5戦区の首脳が必ずこの式典に出るわけではないが、東部戦区の林向陽司令官と劉青松政治委員は昨年まで出席していた。

 今年の出席者は「東部戦区指導者」と報じられており、戦区の副司令官などが参加したとみられる。両首脳は反腐敗闘争の標的となって失脚したとみられる。林氏については、春ごろから異変説が流れていた。

 

■習氏側近人脈を徹底粛清

 

 東部戦区は旧南京軍区で、江蘇、福建の両省や上海市などを管轄。台湾関係の作戦で中心的役割を担う。さらに、軍内の習派は南京軍区に属していた旧第31集団軍(福建省)の出身者が多いことから、東部戦区は政治的にも非常に重要だ。習氏はかつて福建省で長く勤務したので、第31集団軍に人脈があったといわれる。

 林氏も第31集団軍出身。東部戦区副司令官や中部戦区司令官を経て、2022年に東部戦区司令官となった。同司令官の前任者は中央軍事委副主席で制服組ナンバー2の何衛東氏。何氏は第31集団軍の副軍長などを務めた。林氏はいずれ、何氏と同様に中央軍事委入りして、軍全体の首脳である副主席に就任する可能性があった。

 ところが、同じく第31集団軍出身で、軍政治工作部主任(中央軍事委員)として人事を牛耳っていた習氏側近の苗華氏が昨年11月、停職処分を受けた。その後、何氏も今年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)閉幕後、公の場に全く現われなくなり、失脚が確実。軍内の福建閥を取りまとめていた苗氏が打倒されたことで、その人脈が徹底的に粛清されていると思われる。

 なお、林氏と共に南京の式典を欠席した劉青松氏は福建閥ではないが、東部戦区で何氏が司令官、林氏が副司令官だった時期に副政治委員を務めていた。

 また、四川省の省都・成都市で行われた烈士記念日式典でも、昨年と違って、西部戦区の汪海江司令官が出席しなかった。汪氏は西北地方の勤務が長く、福建閥でも東部戦区人脈でもないが、苗氏が人事を握っていた時期に抜てきされたというだけでも粛清対象になっているのかもしれない。

 苗氏は既に中央軍事委員などを解任されたが、中国本土のSNSで苗氏の「人事腐敗」を糾弾する文章が公然と出回っており、さらに厳しい処文を受けることになりそうだ。

 

■国連総会、異例の欠席

 

 中央軍事委主席としての権勢に衰えが目立つ習氏だが、外交面でも異変があった。9月9日に開幕した国連総会に習氏ではなく、李強首相が出席したのだ。

 中国国家主席は国連創設50年の1995年以降、同60年、70年の国連総会にすべて参加して、存在感を示してきた。筆者は北京特派員だった95年、江沢民国家主席(当時)のニューヨーク訪問を取材したが、中国外務省は現地で記者会見のほかに、江氏が泊まったホテル内で日本記者団向けのブリーフィングまで行うという力の入れようだった。

 今年も国連創設80年の節目の年。しかも、習氏は今回、国連総会に合わせて開かれた気候サミットにビデオメッセージを寄せ、自国の新たな温室効果ガス削減目標を発表している。習氏自身がニューヨーク入りして新目標を発表すれば、環境保護に後ろ向きなトランプ米大統領とは対照的な中国の積極姿勢を直接アピールできるところだったのに、見送ったのは、なおさら不可解だ。

 習氏は、7月にブラジルのリオデジャネイロで開催された新興国グループ「BRICS」首脳会議にも出ず、代わりに李氏を派遣した。習氏の同首脳会議欠席は初めてだった。BRICSと国連はいずれも中国が主なメンバーになっている国際組織だが、習氏はその重要会議出席を続けて見送った。

 「習氏の権力基盤は盤石なので、高齢(72歳)という事情も考慮して、指導部内で分業している」との説があるが、国内では高山病のリスクを冒してまでチベット自治区の行事に参加しているので、説得力を欠く。

 

■新外相任命できず

 

 外交関係人事では、政党外交を担当する党中央対外連絡部(中連部)の部長(閣僚級)交代という重要な異動が9月30日に公表された。7月末から公の場に姿を見せていなかった劉建超部長が退任。外交政策を主導する党中央外事工作委の主任でもある習氏の外交担当補佐官に当たる同委弁公室副主任(事務局次長に相当)から抜てきされたが、失脚が確定した。

 後任は、同じく習氏を補佐する党中央国家安全委弁公室副主任だった劉海星氏。外相候補ともいわれたが、事実上やや格下の中連部長に回った。2022年当時の筆頭外務次官から数えると、王毅外相の後任もしくはその候補合わせて4人が外相コースから外されたことになる。4人はいずれも習氏に重用されたベテラン外交官である。

 中国の対外政策部門は秦剛外相の解任後、党政治局員である王氏が中央外事工作委弁公室主任(事務局長に相当)と外相を兼ねて、突出した権限を掌握する変則的体制が2年以上続く。習氏はいまだに新外相を任命できず、中央外事工作委主任として本当に実権を持っているのかどうか、はっきりしない状況だ。(2025年10月13日)

 

 粛清が続く中国軍で今度は治安部隊の前司令官や後方支援部門トップら4人の将軍が失脚した。習近平国家主席(中央軍事委員会主席)側近の軍高官を主な標的とする粛清は芋づる式に拡大。主要部門・部隊の大半に影響が及んで、泥沼化している。

■習氏側近停職で巻き添え


 中国全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会は9月12日、人民武装警察(武警)の王春寧・前司令官(上将=大将に相当)、中央軍事委後勤保障部の張林部長、聯勤保障部隊の高大光政治委員、ロケット軍(ミサイル部隊)共産党規律検査委の汪志斌書記の4人が全人代代表(国会議員)の職務を罷免されたと発表した。王春寧氏以外の3人はいずれも中将。「反腐敗闘争」と称する政治的粛清で何らかの不正が摘発されたとみられる。
 軍内の習派は旧南京軍区の第31集団軍(福建省)や第12集団軍(江蘇省)の出身者が多いが、武警の王氏は元第12集団軍長。父は南京軍区副政治委員(中将)だったといわれ、ロシア軍事留学の経験もあるエリートだ。
 第12集団軍長から首都を管轄する北京衛戍区司令官に異動。2020年に武警参謀長へ転じ、1年もたたずに同司令官となった。武警は犯罪を取り締まる警察ではなく、治安維持を担う軍隊。現有兵力は不明だが、06年の国防白書では「定員66万人」とされていた。沖縄県の尖閣諸島海域への領海侵犯を繰り返す海警も統括する大組織だ。
 こうした経歴から、王氏は当時、中央軍事委政治工作部主任として軍高官人事を握っていた習氏側近の苗華氏(第31集団軍出身、元第12集団軍政治委員)から非常に信頼されていたことが分かる。
 しかし、苗氏が昨年11月、規律違反の疑いで停職になった後、王氏は公の場に姿を見せなくなった。今年7月に武警副司令官が「司令官代理」として公の場に現れ、司令官の退任が判明。全人代代表罷免で失脚が確定した。苗氏を打倒する政争の巻き添えになったようだ。
 これにより、陸海空軍・ロケット軍・武警という大部隊のすべてで首脳(司令官と政治委員)もしくはその経験者が粛清されたことになる。

■軍中枢の大半に波及


 王春寧氏以外の3人は第31集団軍や第12集団軍の出身ではないが、後方支援の実務を担う聯勤保障部隊の高氏はかつて、苗氏の下で政治工作部退役幹部局長を務め、その後、中央軍事委の機関事務管理総局政治委員、聯勤保障部隊政治委員と重用された。
 中央軍事委の後方支援部門である後勤保障部の張氏も、前職は機関事務管理総局長で、高氏の同僚だった。高氏と共に、政治工作部と密接な関係にある同総局での働きが評価されて抜てきされたようだ。後勤保障部は、習政権下で行われた軍の組織改革以前の「4総部」体制で「総後勤部」だった重要部門である。
 中央軍事委の中枢である弁公庁、連合参謀部、政治工作部、後勤保障部、装備発展部のうち、連合参謀部以外の全部門の首脳もしくはその経験者がこれまでに失脚した。
 9月3日の軍事パレード参加部隊を指揮するはずだった中部戦区の王強司令官が登場しなかったことからも分かるように、地方の5戦区でも複数の首脳が失脚、または反腐敗の調査対象になっているようだ。
 中央と地方、人民解放軍と武警、指揮官系統と政治委員系統のいずれかを問わず、粛清が広がっている。

■軍制服組トップをけん制


 ロケット軍は歴代司令官3人が失脚するなど反腐敗の重点対象となっているが、同軍党規律検査委の汪書記が就任したのは23年12月。同年7~10月にロケット軍司令官と政治委員が更迭されて、李尚福国防相(当時)とその前任者に対する中央軍事委の党規律検査委による調査が始まり、李国防相が解任された後だった。習氏の代理人として当時権勢を振るっていた苗氏により、汪氏はロケット軍粛清のため、外部(西部戦区)から送り込まれたと思われる。
 李氏は、中央軍事委の張又侠筆頭副主席(制服組トップ)と同じ中央軍事委装備発展部長の経験者で、張又侠氏の弟分のような存在。同部は武器・装備の調達を担当する。また、李国防相の前任者だった魏鳳和氏は初代ロケット軍司令官。同軍と装備発展部に加えて、ミサイルを開発・製造する国有大企業の関係者が次々と連行された。一連の軍高官粛清はミサイル調達関連とみられる汚職摘発によって、張又侠氏を強くけん制する形で始まった。

■逆襲された習派


 習氏は22~23年に党・国家・軍の最高指導者として異例の3期目に入るに当たって、軍関係では子飼いの苗氏ら福建閥のほか、父親同士が革命の戦友だった張又侠氏を重用した。習、張両氏の父は革命時代に西北地方で共に戦ったのだ。張又侠氏は親子で将軍という血筋だけでなく、若い頃に対ベトナム作戦で戦功を挙げたため軍内で威信が高く、習氏の軍掌握に重要な役割を果たした。
 ただ、習氏は中央軍事委指導部内のバランスを取るため、張又侠氏を序列2位の副主席から筆頭格に引き上げると同時に、もう一人の副主席として、福建閥の何衛東・前東部戦区司令官を大抜てきした。何氏は苗氏と同じ第31集団軍出身である。
 正副主席以外の中央軍事委員(当時4人)のうち、序列最上位は国防相と国務委員(上級閣僚)を兼ねた李氏。苗氏はその下位ながら、軍内習派の中核として大きな実権を掌握した。
 張又侠氏に近い李氏の失脚で、このバランスは崩れた。習派の中心である福建閥にとって、張又侠氏は「目の上のたんこぶ」となったので、その力をそごうとしたのだろう。同氏は政治的に追い詰められていくのではないかと思われた。
 ところが、李、魏両氏の党籍剥奪が発表された昨年夏以降、形勢は逆転し、張又侠氏の活動はむしろ活発になった。一方、苗、何両氏ら福建閥の軍要人はOBも含めて相次いで失脚。さらに、全人代代表を今回罷免された4人のように、苗氏と職務上関わりがあったが、福建閥ではない幹部までが多数巻き込まれている。
 習政権3期目の軍粛清は、毛沢東時代に起きた林彪事件後の関係者徹底排除を想起させるほど激しく、収拾のめどは立っていない。

■習氏の存在感低下


 なお、軍関係では9月10日、宇宙船「神舟」18号、19号に乗った宇宙飛行士の表彰式があり、張又侠氏が中央軍事委の代表として祝意を伝えたが、昨年9月の16号、17号表彰式と同じく習氏に言及しなかった。23年までは中央軍事委の代表が習氏の指示や関心に触れ、習氏が軍を率いていることを強調していた。
 また、張又侠氏ら中国軍高官や各国軍関係者が出席した「北京香山フォーラム」(9月17~19日)では昨年と違って、董軍国防相は習氏からの祝賀メッセージを読み上げなかった。軍内習派の没落と連動するかのように、習氏の中央軍事委主席としての存在感はますます低下している。(2025年9月23日)