ロシアのプーチン大統領が中国を公式訪問し、中ロの緊密な関係を誇示した。しかし、共同声明などを見ると、ウクライナ侵攻直前に同大統領が訪中した時の熱気は既になく、中国側は対米共闘のため、冷めた連帯をやむを得ず維持しているという雰囲気だ。

■ロシア側が対中配慮


 プーチン大統領は5月16日から17日にかけて訪中し、習近平国家主席との共同声明を発表した。ウクライナ戦争を巡って中ロが米国と対立する中、国交75周年を祝う文書だったが、2022年2月の北京冬季五輪を機にプーチン大統領が来訪した際の共同声明と比べると、次のような違いがある。
 一、「両国の友好に限りはなく、協力に立ち入り禁止区域はない」という文言がない。昨年3月に習主席が訪ロした時に発表した共同声明で消え、今回も復活しなかった。
 一、中ロ関係について「同盟せず」と明記された。昨年の共同声明に盛り込まれ、今回もそれを引き継いだ。
 一、中ロそれぞれの「民主主義」を正当化する主張がない。22年の共同声明は欧米流の民主主義押し付けに対する反論を詳述。昨年の共同声明も少し触れていたが、今回は消えた。
 一、大群衆の民主化運動で政権を倒す「カラー革命」反対の記述がない。22年の共同声明は1回、昨年の共同声明は2回言及していた。
 一、昨年の共同声明と同様、北大西洋条約機構(NATO)拡大への反対がない。ロシア側は今回の共同声明で、台湾独立の動きに反対するだけでなく、中国による「国家統一実現」の措置にまで支持を表明したのに、欧州におけるNATOの動きに対しては「重大な関心」が示されただけだった。
 22年の共同声明は政策だけでなく、イデオロギー面でも中ロの連帯を強調したが、そうした一心同体的な表現はすっかり薄くなった。政策面でも22年はウクライナ侵攻直前だったロシアに対する中国の配慮が目立ったが、今回は逆になった。ロシア側には、ウクライナ戦争が泥沼化して、中国から支援を得る必要性が増したという事情があるとみられる。

■「中ロ朝」否定


 しかし、ロシア産天然ガスをモンゴル経由で中国に送るパイプライン「シベリアの力2」建設プロジェクトに関する具体的発表は今回もなかった。ロシア側は中国との話し合いについて「順調だ」と言い続けているものの、実際には難航しているようだ。
 ロシアの天然ガス事業を独占している国営企業ガスプロムのミレル最高経営責任者(CEO)はプーチン大統領訪中に同行すらしなかった。話が進む見込みがなかったからだろう。
 トップセールスに熱心なプーチン大統領は北京のほか、東北地方のハルビン(黒竜江省)にも赴いて、中ロ博覧会の開幕式に出席した。しかし、ハルビンへ同行した中国側指導者は習主席ではなく、韓正国家副主席だった。韓氏は副大統領に当たるポストにあるとはいえ、共産党の最高指導部である政治局常務委員会からは既に引退しており、重要な問題について実質的な話ができる立場にはない。
 習主席は昨年4月、マクロン仏大統領と北京で会談した後、華南地方の広州(広東省)に同行して、そこで再び会談している。北京からハルビンは広州よりはるかに近いのに、プーチン大統領はマクロン大統領と同等の扱いを受けなかった。
 中国メディアでも、ロシアと距離を置く論説が出ている。党機関紙・人民日報系の有力紙・環球時報の前編集長でオピニオンリーダーとして知られる胡錫進氏は5月16日、SNSを通じて、ウクライナ戦争で中国が中立であることを強調する論評を発表。ロシアは中国の友人であり、戦略的パートナーだとしながらも、中ロ関係が中国と西側の関係に対して排他的になってならないと主張し、「中国は一貫して、外交戦略のバランスを実現するために努力している」と指摘した。
 また、環球時報は同27日、ソウルでの日中韓首脳会談に関する社説で、米国が「中ロ朝対米日韓」という陣営対抗のストーリーをわめき立てて、中国と日韓の関係を壊そうとしていると非難した。
 中国とロ朝が同じ陣営であることを中国メディアがこのように明確に否定するのは珍しい。ロ朝と反米で共闘することがあっても、中国は「同じ穴のむじな」ではなく、ロシアのウクライナ侵攻を全面的に支援する北朝鮮と一緒にされるのは迷惑だと言いたいのかもしれない。(2024年6月9日)