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出典元 黒子のバスケ オフィシャルファンブック CHARACTERS BIBLE

黒子のバスケ オフィシャルファンブック CHARACTERS BIBLE (ジャンプコミックス)

 

 

 藤巻先生が聞く冨樫作品の秘訣


──よろしくお願いします。今回は藤巻先生から冨樫先生との対談を希望されたとか……。

藤巻:週刊少年ジャンプ(以下WJ)で冨樫先生が『幽遊白書』(以下幽遊)を連載している時からファンです!この機会に、冨樫先生にお話を伺いしたいと思ってダメもとでお願いしたら、快諾して頂いて…。僕から見たら偉人みたいな人なので、いま、目の前にいらっしゃる実感がわかない(笑)。

冨樫:僕の今の担当編集さんが『黒子のバスケ』(以下黒バス)の初代担当なんだよね。

藤巻:はい。僕が漫画を持ち込んだ時に見てくださって以来、立ち上げた後もしばらく担当してもらいました。

冨樫:そういう縁もあるので『黒バス』は毎週楽しみに読んでいます。

藤巻:ありがとうございます!

──藤巻先生から見て、冨樫先生の作品の魅力とはどこに?

藤巻:改めて作品を読み直したのですが、凄いところばかりで。例えば『レベルE』の1ページで野球部員を紹介する場面とか。小さいコマなのに一人ひとりの個性があって、しかもリアリティがある。あの雰囲気はどう出すのですか?

冨樫:あれは自分の体験が大きいですね。自分の地元を舞台に、リアルな形で漫画を描きたかった。実際に現地の野球場へ行った人がいたら、漫画に出ていた洗濯機があるのも確認できたと思う。そういう人が1人でもいたら面白いなと思って作ってました。

──藤巻先生も冨樫先生の影響を受けている部分はありますか?

藤巻:担当さんとの打ち合わせでよく冨樫先生の漫画の話しが出るので、無意識に作品が影響を受けているのかも。キャラの掛け合いとかは『幽遊』のノリっぽいですし。

冨樫:藤巻先生は色んな作品を読みこんでいると思うけど、その長所を吸収して自分の中でうまく消化させているよね。自分の色にしているから、特定の作家の色に染まらないところが魅力だと思います。

藤巻:ありがとうございます!

冨樫:WJでバスケ漫画というと、どうしても『SLAM DUNK』(以下SD)のインパクトが強いから、比べられて大変だよね。でも『SD』は好きなんでしょ?

藤巻:はい!『SD』と『HUNTER×HUNTER』(以下HH)はセリフをそらで言えるくらい読み込んでます。

冨樫:僕も『SD』は大好き。仕事場に『今年面白かった本』のランキングを表にして貼っているんだけど、先日、全巻読み返した『SD』が圧倒的過ぎて殿堂入りに(笑)。特に後半からは絵のレベルがとてつもなく上がって…。

──『黒バス』も途中で画力が大幅にアップしていますよね。

藤巻:というより、最初が下手すぎて…。連載会議のときも『絵は大丈夫か?』って不安がられていたみたいで。

冨樫:そうなんですか?

藤巻:こんなに下手でも生き残ったぜ!というのが自分の唯一の自慢です(笑)。冨樫先生は、絵で気を付けている部分やこだわる部分などはありますか?

冨樫:うーん、特にないですね。強いて言えば『自分の絵を持たない』ことでしょうか。その時に描いているシリーズを一番活かせる絵柄に、そと都度近づけるようにしています。で、作品が変われば当然絵も変えていく。あとは『縛り』ですかね。『HH』も、最初の頃はスクリーントーンを使わないようにしてました。色々大変になってきたので、次第にトーンも使うようになりましたが。

藤巻:なぜ『縛り』を?

冨樫:ぶれるんですよね。縛りがないと。その週に観た映画なりが面白いと、試してみたくなる。だから、ブレーキをかけるという意味もあります。

藤巻:僕が冨樫先生の描くキャラの表情を見てハッとさせられるのが口角なんですよ。クラピカとかちょいちょいあるんですが、口角が上がっているか、下がっているか微妙な位置にあるので、笑っているようにも見えるし無表情にも見える。あれは意図的なんですか?

冨樫:おそらく意図的ですね。アルカイックスマイルというんですが、喜怒哀楽の入り混じった微妙な表情の描き方はこだわりを持っています。口角はその表情を描くには一番やりやすい部位なんですよ。

藤巻:自分も表情には気を使うようにしています、記号的なパーツで喜怒哀楽を表現しないように、同じ顔は2度と描かないくらいの気持ちでやってます。でも意識しすぎると変な顔になったり、感情が表に出すぎてしまったり、難しいです。
 

 敵キャラクターの描き方


──冨樫先生は『黒バス』をご覧になって、いかがでしたか?

冨樫:1話を読んだ時点で『これは面白い!』と思いました。キャラが立っていたし、構成力が素晴らしかった。紫原という良い敵役も登場したし、早く続きが読みたいですね。本音を言うと、黒子たちに負けてほしいくらい、相手に肩入れして読んでます(笑)。『黒バス』で凄いのは、大技に対して伏線を張った上で、相手を上回る大技で主人公が勝つところ。安易な精神論に走らないので、読者のひいきのチームが負けてもスカッとするんです。

藤巻:そう仰って頂けると嬉しいです。

藤巻:冨樫先生の描く敵キャラは迫力が半端じゃないですよね。敵キャラを描くときは、どんな部分に気を付けてますか?

冨樫:例えば『HH』の幻影旅団だと、団長は初登場で一話の最後に出して、効果的なセリフを言わせる。でも、描いた時は後のことを深く考えていないんです。他の団員にしても『ビジュアル的に被らないよう女の子を入れておくか』程度の考えで最初は出してます。その後で、キャラ同志を僕の脳内で雑談させて『これだ!』という部分を膨らませていきます。そういうネームに描かないような部分がコツですね、あえて言うなら。

藤巻:最初からそのスタイルですか?

冨樫:『幽遊』のときは全然できなかった。その後、意図的にこのやり方を試したら、手ごたえがあって、描いていて面白いんですよ。それに、敵キャラは最初から深く描かなくても良いじゃないですか。後から肉付けしていく方が僕はやりやすい。主人公側だと、始めにきちんとキャラクターを出したうえで皆に乗っかってもらわないといけないので、難しいんですけど。それに僕、敵キャラが好きだから肩入れが半端ない(笑)。

──敵キャラは描いていて楽しい?

冨樫:極論で言い方は悪いですけが、敵キャラは殺しちゃえば出さなくていいじゃないですか(笑)。登場期間が短いほど服装とか細部までこだわることができるし。

藤巻:主人公は長く付き合わないといけませんからね。

冨樫:『HH』を連載するうえで、僕の目標のひとつは『できる限り長く連載を続ける』ということなんです。それを考えると主人公は極力シンプルにしようと意識しました。細かく設定すると、ストーリーを考えるときに足かせになるんですよ。その分、敵のキャラに凝っていますけど。とりあえずボスをしゃべらせて、周りはとりあえず置いておく。で、ぼんやりと能力とか誰と闘うのかとかを決める。そこからさらに、今まで誰も描いていない能力に発展させたり、新しい倒され方を考えていきます。
 

 読者からの反応と作者の手ごたえ


冨樫:アンケートの数字には反映されにくいかもしれないけど、ぶっとんだ描写が好きで、支持してくれる読者も確実に存在するんですよ。藤巻先生は自分のアンケート結果とか聞いていますか?

藤巻:はい。あとネームの段階で担当さんやアシスタントさんからも意見を聞いています。でも自信のあった評判がいまいちだったり、首をかしげながら作った回が好評だったり、ということが日常茶飯事です。冨樫先生は、読者の声とかを予想できたりするのですか?

冨樫:藤巻先生みたいな経験を積んでいくと、ある日突然わかるようになるんですよ。僕は、『こういう話だと何票入る』という考察がとにかく好きなんです。自分と周囲の評価とのズレが生じる原因は、客観的に作品を見ることができるかどうかですね。半日くらい描いたものを寝かせて、改めて見ると評価がガラッと変わることがあるんですよ。これを続ければ、『自分はそうでもないけど、他の人は面白いと思うだろうな』という考え方にシフトしていけると思います。

 

 両先生にとってのアニメ化とは


──『HH』と『黒バス』はともにアニメ化されましたが、どう受け止めていますか?

冨樫:『HH』は2度目のアニメ化なので少し特殊な例ですけどね(笑)。昔は自分の作品が違う人の手で再現されているのが気恥ずかしかったけど、年を重ねる毎に『うまい形で参加したいな』と思うようになりました。

藤巻:『幽遊』のときは関わっていなかったんですか?

冨樫:その時は『無』(笑)。本当にノータッチでした。当時は自分のことで手一杯というのが大きな理由です。ただ、桑原和真を演じていた千葉繁さんの演技は衝撃でした。僕よりも桑原というキャラを理解して下さっていましたね。なので本当は、アニメを見て僕も相乗効果を受けるのがベストですけど、やっぱり自分の作品のアニメを見ると『うわぁ』ってなっちゃう。

──藤巻先生は『黒バス』が初のアニメ化作品になります。感想はいかがですか?

藤巻:冨樫先生が仰ったように恥ずかしさが半端じゃない。自分の前で自分の作品を音読されているようで、臭いセリフの場面なんてもう…(笑)。でも、凄くカッコイイ感じに作って頂いたので、ひたすら感謝です!

──アニメで声を聴いて、漫画内でのキャラ付けや方向性に影響は出るのですか?

冨樫:あります。声を当ててくれる人は原作を非常に読み込んだうえで、さらに自分なりにキャラを考えて頂けますから、先程の千葉さんのように、僕より深くキャラを理解してくれる。『こんな解釈もあるんだ』という驚きもありますしね。それが自分にとってプラスだとわかるからこそ、あえて声から離れてみたいと思うこともあります。

藤巻:僕はまだアニメが始まったばかりなので、はしゃいで見ているだけです。でも、今の話を聞くと、もしかすると後で影響を受けるかもしれないです。

──声優さんとお話しは?

冨樫:今回の『HH』ではないですけれど、『幽遊』の裏飯幽助役、佐々木望さんとお話しさせて頂いたことはあります。声だけで表現する分、アプローチの仕方や、キャラクターの捉え方は漫画家と全然違うんだなというのがわかって面白かったです。

 

 

 

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