新課程の世界史(世界史探究)の教科書・用語集で新たに採用された語句を順に紹介していきます。
今回は,オスマン帝国史の範囲で新たに追加された用語,「エスナーフ(エスナフ)」を紹介します。
エスナーフとは,オスマン帝国の都市に存在した商工業者の業種ごとの組合である。
仕組み
エスナーフは,オスマン帝国の都市で形成されていた商工業者の業種別の組合であり,その点で中世から近世のヨーロッパに存在した商工業者の組合であるギルドとよく似た組織であるといえる。
それぞれのエスナーフでは,代表(ケトヒュダーと呼ばれる)が選出されて,組合を統括・指導するとともに,行政官との連絡や交渉にあたった。
組合内部では,ヨーロッパのギルドと同じように,親方・職人・徒弟という階層があり,一定の期間や技量を条件として下層から上層へと昇進できる仕組みになっていた。
多くの場合,組合ごとに共通の守護聖者や宗教的儀礼を持っており,組合員はそれらを通じて絆を深め,仕事や生活において助け合った。
このような組合は,同じ宗教の者ごとに組織されることが多かったが,必ずしも宗教別に分かれているわけではなく,一つの組合のなかにムスリムとキリスト教徒やユダヤ教徒が混在するということも珍しくなかった。オスマン帝国のもとでは多くの宗教・宗派が共存していたことがよく知られているが,エスナーフにおいてもそのような共存が実現していたといえる。
役割
エスナーフの主な目的は,所属する商工業者の利益を守ることであり,市場を独占し,商品の規格・価格を定め,生産・流通・販売を管理した。また,経済活動以外でも,内部における規律の維持や犯罪の処分などについて一定の自治が認められていた。
一方で,エスナーフは,オスマン帝国政府の統制下に置かれており,国家が任命する法官(カーディー)や市場監督官(ムフタスィブ)の監督を受けた。その監督のもとでエスナーフは徴税や物資の調達などに責任を負い,また価格の決定などについても彼らの承認が必要とされており,自治の範囲はかなり制約されていた。