ここ数年でテレビを見ることがすっかり少なくなりました。もちろん好きなドラマや音楽番組は見ますが、その他は食事時に賑やかしにテレビをつける程度です。地上波でやっている似たような旅、散歩、グルメ、バラエティが面白いと感じることは少ないですね。その分BSやYouTubeで好みのジャンルを見ることが多いですね。今日の映画を初めて見たのはYouTubeでその後、DVDで何度か再見しているお気に入りの一本です

 

~映画のちょっといいセリフ~

 

映画には、多くの名シーン、名セリフがたくさんあります。このコーナーでは、目立たないですが妙に心をくすぐる「ちょっといいセリフ」を紹介しています。今日は、インディーズ作品としては異例の大ヒットとなった「リトル・ミス・サンシャイン」から!

 

 

 

 

▲アビゲイル・ブレスリン(オリーヴ役)とアラン・アーキン(おじいちゃん役)

「負け犬の意味を知っているか?」

「負け犬って言うのはなあ~負けるのが怖くて、最初から何もやらないヤツのことだ。」

「お前は挑戦しようとしているだろう?だから負け犬なんかじゃない!」

このセリフを話しているのは、オードリー・ヘプバーンの「暗くなるまで待って」で、あの冷血な殺人鬼を演じたアラン・アーキンで、本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞しています。決して美人とは言えないぽっちゃり少女の孫娘のオリーヴが美人コンテストの出場することに不安も漏らした時、爺ちゃん役のエドウィン(アラン・アーキン)がオリーブに向けて放ったセリフです。似たようなセリフを、何をやってもうまくいかない息子のリチャード(グレッグ・キニア)にも言っているシーンがあります

 

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「リトル・ミス・サンシャイン」

2006年/アメリカ(100分)

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崩壊寸前でばらばらだった家族が、バス旅を通して再生していくハートウォーミング映画

 

 

 監督

ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス

 脚本

マイケル・アーント

 キャスト

グレッグ・キニア/リチャード(父)

スティーヴ・カレル/フランク(叔父)

トニ・コレット/シェリル(母) 

ポール・ダノ/ドウェーン(兄)

アビゲイル・ブレスリン/オリーヴ

アラン・アーキン/エドウィン(祖父)

 

ブライアン・クランストン

ベス・グラント/コンテストの審査員

 

出演は「サブリナ」「恋愛小説家」のグレッグ・キニア、「ゲットスマート」のスティーヴ・カレル、「ミュリエルの結婚」のトニ・コレット、「ナイト&デイ」のポール・ダノなどの個性的な面々が顔を揃えます。眼鏡の少女オリーヴを演じたのは当時10才のアビゲイル・ブレスリンで本作でアカデミー助演女優賞にノミネートされています。このあと「ゾンビランド」「エンダーのゲーム」など多数出演しています。劇中にぶっ飛んだおじいちゃん役を演じているのは、大好きなオードリー・ヘプバーンの「暗くなるまで待って」「アルゴ」「愛すれど心さびしく」のアラン・アーキン。コンテストの審査員役に名脇役のベス・グラントが演じています

父親は自己啓発プログラムを売り込もうとしているがうまくいかず、母親はそんな夫に冷め切っている。兄は夢を実現させるまで無言の誓いをたて一言もしゃべらず、妹は小太りの眼鏡っ子だが美少女コンテストの優勝を夢見ている。祖父は薬物常用者で、さらにゲイの叔父が加わり崩壊寸前のフーヴァー家。ある日、美少女コンテストの地方予選でオリーヴが繰り上げで優勝し、カリフォルニアの本選に進めることになった。お金がないため一家は、オンボロの1台の車で行くことになったのだが・・・

 

▲アビゲイル・ブレスリン/オリーヴ

▲グレッグ・キニア/リチャード(父)

▲トニ・コレット/シェリル(母)

▲アラン・アーキン/エドウィン(祖父)

 

  家族の再生を描くロードムービー

 

この作品は、わずか800万ドルの低予算で1億ドル以上稼ぎだした超優良映画!ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス夫婦の初監督作品で、アカデミー賞に4部門ノミネートされアラン・アーキンが助演男優賞、マイケル・アーントが脚本賞を受賞しています

 

美少女コンテストの優勝を夢見る少女と、その家族が旅を通して再生していく姿を描く物語!

 

個性バラバラの6人の家族を乗せて走る黄色のフォルクスワーゲンのマイクロバス。そしてこのバスこそ彼らの”家庭”そのものを表しています。家族同様ポンコツなのですが、家族のひとりひとり抱える問題を立ち止まって一緒に考える機会を与えてくれます。走ること、前を行くことだけが人生じゃないと教えてくれます。印象的なシーンで、いよいよバスのエンジンの調子が悪くなってきたとき、家族が協力しあってバスを押しひとりひとり乗り込んでいくのですが、このシーンが全てを物語っています。お互いに理解し合い協力をしなくてはバス、そして家族は前には進みません。このバスは”家庭”そのものなのです。そして、冒頭のセリフのようにオリーヴも勇気をもらいます。

 

▲バラバラな家族だったが・・

  変わり者揃いの家族が面白い!

 

主婦業にお疲れ気味でいつもイライラの母

自己啓発大好きな父

ヘロイン中毒で口の減らないエロ爺さん

自殺願望の叔父

パイロットを目指し口を利かない兄

そして、美少女コンテストの優勝を夢見る少しぽっちゃりの少女オリーヴ

 

家族全員がそれぞれ、いろいろな問題を抱えています。一人で悩んで苦しんでいます。それらが共通の苦難にぶつかった時、ようやく人の苦しみが分り合えるようになり周りの目を気にしないでやりたいことを自分なりにやることの大事さに気づきます。何度も言うように脚本が抜群に面白く、人間をよく理解していて人間が好きでないと撮れない映画だと思います。加えて、映像も美しく地味ですが曲もいいですね。こういうタイプの映画にありがちな説教臭くないところも好きです。映画の中で使われた「フォルクスワーゲンT2マイクロバス」は以前シネマDEクイズに出題したことがありましたね

「幸せな日々は何も学べない。苦悩の日々こそ最良の時代だ。朝起きたら18才になっていたかったって?冗談じゃない。高校時代は悩める青春のハイライトだ!」

▲家族の象徴となるオンボロ車▼

  脚本のマイケル・アーントの魔法

 

本作が初脚本のマイケル・アーントは、2007年のアカデミー賞において「バベル」「硫黄島からの手紙」などを抑えて脚本賞を受賞しています。コメディのようでコメディじゃない、ドラマのようでドラマじゃない、太陽の温かさをじんわり浴びたような映画です。オリーヴ役のアビゲイル・ブレスリン以外の美人コンテストの参加者役の少女たちは本物の美人コンテストの参加者で、彼女たちは実際と同様の格好をして同じパフォーマンスを披露したそうです。そういった華やかな衣装を着てパフォーマンスをする中、オリーヴが披露したのが、密かに祖父に教えられたバーレスク風のリック・ジェームスの「Super  Freak」。とても美少女コンテストで流すような曲でなく、唖然とする父兄の中で家族だけが大喝采!笑えて泣けるラストでした。思わず彼女に向けて手拍子を送りたいですね

 

「暗くなるまで待って」のアラン・アーキン

「シェーン」のジャック・パランス

 

  あの時の悪人が・・

 

俳優さんですら、過去さまざまな役柄を演じても不思議ではないのですが、この映画を初めて見た時のお爺ちゃん役のアラン・アーキンにはちょっと驚きでした。冒頭でも言いましたがアラン・アーキンと言えば67年のオードリー・ヘプバーン主演の「暗くなるまで待って」の中での冷血な殺人鬼を思い出します。同じようにかつての悪人が年を取って気のいいお爺ちゃんを演じたことで思い出すのが「バグダット・カフェ」のジャック・パランス。53年の西部劇の名作「シェーン」で、最後にシェーンが対決した黒づくめのガンマン役でした。「バグダット・カフェ」では主人公に好意を寄せる絵の好きな老人役でしたね。二人とも映画の中ではキーパーソンで、多くの映画に出演しジャック・パランスは2006年に、アラン・アーキンは昨年2023年に亡くなっています

 

 

 

 

家族って鬱陶しいけど愛おしい。人生に勝ち負けなんか存在しない。挑戦することの大切さ、支え合うことの大切さ、そんなメッセージを見終わったときに感じることができるはずです。未来が不安な今だからこそ観て欲しい映画です

「お爺ちゃんが今のお前を見たら、絶対に誇りに思ったに違いない!」

ラストは一直線の道を、夕陽に向かって走る車にエールをおくりたくなります。ちょっと気分が落ち気味な時に是非どうぞ!