アラン・ドロンの訃報記事が全世界を駆け巡っていたころ、ジーナ・ローランズがひっそり天に旅立ちました(実際はアラン・ドロンの4日前だそうです)。長い間認知症を患っており94才でした。ジーナ・ローランズはアメリカの女優で「こわれゆく女」「グロリア」「きみに読む物語」などに出演しています。旦那さんは”インディーズ映画の父”と言われた名監督であり、名俳優であるジョン・カサヴェテスです。さらに「きみに読む物語」の監督ニック・カサヴェテスは二人の息子さんです。ジーナ・ローランズは、すばらしい作品にいくつも出ていますが、やはり「グロリア」ですね。女性であんなに煙草が似合う人はめったにいません

 

「グロリア、あんたはタフでクールで・・やさしいよ」

 

 

 

 

今日は大好きな70年代映画の紹介!

 

この映画の主人公は、70年代の刑事映画・犯罪映画を語る上で欠くことのできない一人です

 

その名はポール・カージー!クリント・イーストウッド演じる「ダーティハリー」のハリー・キャラハンと並んで強烈な個性の、チャールズ・ブロンソンでヒットした「狼よさらば」の主人公です。「ダーティハリー」と並び、その後多くの映画の元ネタとなっている映画で、今だに模倣した映画やドラマが山ほどあります。この映画は70年代の終わりに東京下町の名画座で観ております。個人的に意外な結末にかなり衝撃を受けた記憶があります

 

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「狼よさらば」

1974年/アメリカ(94分)

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チャールズ・ブロンソンの「Death Wish」シリーズの記念すべき第一作目のクライムアクション!

 

 

 監 督

マイケル・ウィナー

 キャスト

チャールズ・ブロンソン/ポール・カージー

 

ヴィンセント・ガーディニア/警部

ホープ・ラング/ジョアンナ・カージー

 

スティーヴン・キーツ/ジャック・トビー

キャスリーン・トーラン/キャロル・トビー

 

監督は「脱走山脈」のほか、ブロンソン主演映画「メカニック」「ロサンゼルス」「スーパーマグナム」などのマイケル・ウィナー。主演のチャールズ・ブロンソンは「雨の訪問者」「レッドサン」「大脱走」「さらば友よ」「ウエスタン」など以前レビューした作品のほか「荒野の七人」「メカニック」など多くの人気作品に出演しています。日本では某男性化粧品「マ〇ダム」のCMで一気に人気に火がつきました。捜査を担当したフランク・オチョア警部役には、ヴィンセント・ガーディニア。「コーザ・ノストラ」や以前レビューした「天国から来たチャンピオン」でも刑事役で出演しています。そのほか、当時はまだ全く無名の俳優さんも数多く出演しています(下記別途紹介)

 

 

 

▲チャールズ・ブロンソン/ポール・カージー

▲ヴィンセント・ガーディニア/フランク警部

犯罪が多発する70年代前半のニューヨークが舞台_大手土地開発会社に勤めるポール(チャールズ・ブロンソン)の妻(ホープ・ラング)と娘がある日自宅で襲われ、妻は死に娘は植物人間になってしまう。その後、ポールは護身用の拳銃で強盗を撃退したことから正義感に目覚め、復讐のため街のチンピラたちを始末していくのだが・・・

オープニングのハワイでの楽しいひと時から、ニューヨークの暗く危うい街へと舞台はシフトしていきます

 

街中に蔓延るならず者を退治していくという、今見れば単純明快なストーリーです。主人公ポール・カージー(チャールズ・ブロンソン)に降りかかる突然の不幸と戸惑い、そして警察への不信感。さまざまな思いが交錯しながら一丁の銃をプレゼントされたことから物語が動き出します。実際にあった70年代のニューヨークの治安の悪さがヴィジランテ(自警団)文化を作り上げ、過剰なまでの自己防衛精神につながってると考えるべきでしょう。さらに、そこには西部劇というアメリカの背景は無視できないのでなないでしょうか

 

銃を持つブロンソンの匂い立つような男くささ、佇まいが恐ろしくも悲しい影を落とします

 

 

  単なる復讐劇ではない!

 

この映画の好きなシーンのひとつに、妻ジョアンナ(ホープ・ラング)の葬儀シーンがあります。記憶障害となった娘と共に静かに降り積もる雪の中、なすすべもなくただポケットに手を入れて悲しみに耐えるしかなかった心情を謳ったシーンが見事でした。それは、まるでこれから起こるであろうポール・カージーの怒りを予測しているようでもあり、序章のように感じます

 

この映画は、1970年代の治安が最も悪かった時代のニューヨークが舞台になっており、アクション映画でありながら、普通のひとりの男を通して、暴力や犯罪に対する法治国家の限界、また銃社会アメリカの背景などを力強く描き出していきます

 

もともと主人公ポール・カージー(チャールズ・ブロンソン)は、暴力弱者の一般市民でしたが、家族に降りかかった災いがきっかけとなり、仕事先で見た西部劇ショーによって西部開拓時代のヴィジランテ(自警団)の認識が芽生え、友人からプレゼントされた拳銃により処刑人へと変貌していきます。つまり、彼は家族の仇を討つ復讐鬼でも、悪を裁くヒーローでもなく、銃という絶対的な力に取りつかれた男なのです。「法が罰することが出来ないのなら自分が罰する」という考えには倫理的に問題がありますが、銃社会に警鐘をならした作品であり、ヴィジランテ(自警団)に対する問題提議をしています。後の多くの映画に影響を与えたのは周知の通りで、同じヴィジランテ映画では「ダーティハリー」「黒いジャガー」「グリーン・ホーネット」「処刑人」「イコライザー」さらに、日本の「必殺シリーズ」などがありますが、これらのアクション映画とは一線を画しています


痛快さゆえにブロンソンには珍しいシリーズモノとなりましたが、「ダーティハリー」と同様に二作目以降は若干メッセージ色が薄くアクション部分が強調されております
 

▲チンピラ役のジェフ・ゴールドブラム

▲地下鉄の強盗役のジョン・ハーツフェルド

  無名時代の俳優が多く出演

 

この映画では、出演時に全く無名の俳優が多く出演していることでも有名です。まず、カージー一家を襲った3人組のひとりが「ザ・フライ」「ジュラシック・パーク」「インデペンテンス・デイ」のジェフ・ゴールドブラム。彼はこの作品がデビュー作です。他にも強盗役で「ワイスピ・MAX」など出演のロバート・ミアノ。警察での捜査会議に出てくる女性警察官役に「マグノリア」そして「月の輝く夜に」でアカデミー助演女優賞を獲得したオリンピア・デュキス。地下鉄での強盗役に「大脱出3」「セカンド・チャンス」を監督したジョン・ハーツフェルド。そして、若い警官役に「ナイトミュージアム2」などのクリストファー・ゲストが出演しています。雑誌等で強盗役のひとりにデンゼル・ワシントンが扮し、デビュー作との紹介もあるようですが、本人は否定しており真偽ははっきりしないようです。画像で何度か確認してみましたが暗くてよくわからなかったです。いずれにしても、これだけ多くの俳優が巣立っていった映画も珍しいですね

 

▲「デス・ウィッシュ」のブルース・ウィルス

  狼よさらばの意味は?

 

「我々(警察)も言いたい、狼よさらばとな」

「警部、私が憎いかね」

「いいや・・・」

 

出てくる度に鼻をかんでいるフランク警部(ヴィンセント・ガーディニア)もいい味だしています。警察に捕まったポール・カージーとフランク警部(ヴィンセント・ガーディニア)のラストの二人の会話もいいですね。ネタバレになりますのであまり詳しく書けませんが非常に深い意味のあるセリフです

 

この映画は「Death Wish」シリーズ(狼よさらばシリーズ)として人気を博し、チャールズ・ブロンソンの中でも珍しくシリーズ化されています

 

Death WishⅡ

「ロサンゼルス」/82年

Death WishⅢ

「スーパー・マグナム」/85年

Death WishⅣ

「バトルガンM-16」/87年

Death WishⅤ

「狼よさらば 地獄のリベンジャー」/94年

 

本作は、2018年にブルース・ウィルス主演、イーライ・ロス監督の「デス・ウィッシュ」でリメイクされており、そのほかにも2007年のジョディ・フォスター主演「ブレイブワン」をはじめ多くの類似映画が公開されています

 

家族を襲ったチンピラに対する復讐というより、犯罪者そのものを憎み、アメリカ社会に強く根付くヴィジランテ(自警)を描いた先駆的映画といえます

 

 

  時代が求めたダークヒーローか?

 

ヒーローといえば、古くは西部劇における主人公で悪者を倒す勧善懲悪の世界でしたが、70年代ではベトナム戦争、政治不信による挫折感、不安感からくる頑健な肉体と強い精神力を持ち合わせたヒーロー像に代わってきます。その代表が「ダーティハリー」のクリント・イーストウッドであり、本作「狼よさらば」のポール・カージーであり「ロッキー」でのロッキー・バルボアです。やがてその流れはハリソン・フォードやジョニー・デップなどの、それまでの超人的な強さというより知性とユーモアを兼ね添えたキャラへと移り変わります。したがって、70年代のアメリカ映画はアウトローでタフな俳優、それは、クリント・イーストウッドやチャールズ・ブロンソン、バート・レイノルズなどに代表され、さしずめ本作の主人公ポール・カージはこの時代の最後のヒーローかもしれません

 

アクション映画としてみるならば、約50年前の映画ですから今と比べようがありません。ただし、「ダーティハリー」と並んで新たにヴィジランテ映画のジャンルを確立し、激動の70年代の映画界に大きな一石を投じた貴重な映画だと思います