マウザーC96「ブルームハンドル」とそのバリエーション | ジャック天野のガンダイジェスト

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スモールアームズ(小火器)に関するエッセイです。同じアメブロで書いていたブログを継続して、不定期で更新して行きます。

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マウザー(モーゼル)C96と言えば、初期の軍用自動拳銃として世界中で広く使われ、英語圏では「ブルームハンドル」(ほうきの柄)として親しまれていますね。この大型自動拳銃は1895年3月15日に公式の試射が行われ、成功しています。この時に使用されたプロトタイプの写真がいまでも残っていてフレームにドイツ語で1895年3月15日と刻印されています(写真1)。この試射にはドイツ皇帝プロイセン国王のカイザー・ヴィルヘルム2世が臨席して、大きな感銘を受け、プロイセン陸軍の制式拳銃に採用したいという意向をマウザー社に伝えたそうです。そして1896年にC96として製品化されることになります。なお、C96はConstruktion 96の略で、以降さまざまなバリエーションが作られますが、基本はC96から大きくはみ出すことはありませんでした。C96はおもに英国、スペイン、中国、そしてロシアに売られ、軍用拳銃として愛用されました。使用する実包は7.63X25mmマウザーで、.357マグナムが現れるまで拳銃としては最も高い初速を誇りました。弾倉はトリガーの前方にある方式で固定弾倉方式で、10発をまとめて上方からクリップにはさんで押し込み装填する方式でした(アメリカ軍のM1ガーランドに似た方式ですね)。ちなみに、この7.63X25mmマウザー弾はC96を輸入したロシアによって、7.62X25mmトカレフ弾としてトカレフTT30、TT33に使用されることになります。C96は最初から完成された形になっていたので(写真2)、バリエーションも大きく変更されることはありませんでした。ただ、使用する実包は各種あり、そのために銃身の形状が多少変わっています。最初のバリエーションとして有名なのはM1912輸出モデルで、南アフリカと中国に輸出されました。このタイプはより強力な威力を求めて、9X25mmマウザー弾を使用するようになっていました。最も有名なバリエーションはM1916で、ドイツ帝国軍の制式拳銃としてP08と同じ9X19mmパラベラム弾を使うようになっていました。このタイプは7.63mmマウザー弾使用のノーマルなC96と区別するため、グリップに赤い9の文字が大きく刻印されていました(写真3)。なお、M1916にはオーストリー・ハンガリー帝国との契約で輸出されたものもあり、一部は8mmガッサー弾(8.11X27mmガッサー)用として作られています。さらに1921年には実包はそのままで、銃身を4インチに切り詰めたモデルが共産主義革命以降のソ連に輸出されました(写真4)。使用実包は8.15X25.2mmマウザー弾で、8mmガッサー弾とほぼ同じ規格でしたが、互換性はありません。このモデルはソ連共産党のボルシェビキから「ボロ・マウザー」と呼ばれるようになりました。その後、7.63mmマウザー弾がソ連に大量に輸出されました。バリエーションの中で有名なのはM712でしょう(写真5)。M1932とも呼ばれるこのタイプはフルオートに切り替えることができ、ホルスター兼用のストックを後部に装着して、サブマシンガンとして使われました。「シュネル・フォイヤー(速射)」と呼ばれるこのモデルはじつはスペインのアストラ社が本家マウザー社に先んじてフルオート、着脱式弾倉のコピーを製作し、おもに中国で広く使われるようになったからでした。M712が出てくる有名なハードボイルド小説には「深夜プラスワン」がありますね。主人公がこのM712を持ち歩き、用心棒の元殺し屋(S&W M36チーフススペシャルを使用)に皮肉を言われるシーンがあります。コピーと言えば、C96を最初は輸入していた国民党軍もコピーを作るようになり、「ボックス・キャノン(盒子炮)」として広く愛用されました。その中にはスペイン・アストラのフルオートモデルもあり、連射のコントロールをよくするために銃を水平にして跳ね上がりを左右方向にして命中精度を高める水平撃ちが編み出されました。なお、中国製のマウザーには.45ACP弾用の山西(Shanxi)17型もありました(写真6)。また、前述したようにスペインのアストラ・ウンセタ・イ・シア社では1927年にC96のコピーを完成し、1928年にはマウザーM712と同じフルオート射撃可能なM904を完成しています(写真7)。ウィンストン・チャーチルが愛用したり、映画での登場は数えきれないほどの人気があるマウザーC96ですね。