最後の博士論文の心配はあったものの、私は、内定をもらった会社になんとか入社した。
その会社に入社した直後、
「最近の学生は大学で勉強してこない。だから、職場に必要な専門知識が不足している。だから、会社として理想的な新人研修プログラムをつくり、新入社員が即戦力となれるように養成する。」
という趣旨の新人研修を受けた。
その後、私は通算で5年間この会社で働いたことになるが、その上でこの新人研修を、私なりに評価すると、「貴重な体験はさせていただいたが、その知識が職場で役に立ったかと言われると微妙」といったものになった。
なぜ、彼らは、職場で役立つ知識を研修で教えられなかったのか?
それは、多分、職場に必要な専門知識がなにであるか、職場にいる人も明確にできていないから、と私は考えている。
根拠としているのは、あくまで私がこの会社で見聞した範囲のみではあるが、少なくとも、私が携わった職場のほとんどでそのような印象を受けた。
私は、この新人研修の後の数年の体験で、終身雇用の本当の意味とそこに内在する問題を思い知った。
簡単に言うと、終身雇用のシステムを維持するための大前提は、「やりたくない仕事でも、指示されれば必ずやりとげる。」である。
しかし、近年の競争の激化により、一部「できない仕事でも、指示されればかならずやりとげる。」になってしまう事態も発生しており、これが最近たまに話題になる大企業の不正につながっているものと推察している。
このような背景もあり、おそらく、この新人研修のプログラムを考えることになった人は、「どんな仕事でも指示されれば、できるような人材を3か月で育成しろ。」とでも言われたのではないだろうか?
このプログラムの内容は、単に製造業の基礎知識をさらうという趣旨であればよくできた者であったと思うが、やはり、「職場に必要な専門知識」とはほとんど関係なかった。
よく考えると、仮に「職場に必要な専門知識」といったものがあったところで、誰もがそれを体系化できる能力を持っているわけではない。なんとなくやっていると言うのが実情であろう。
実際、長年の経験を通じて共有されている職場のノウハウ的なものはなかなか明文化もできないであろう。
となると、結局は、工学部の1~2年生くらいで習う内容といったところに落ち着かざるを得ないのではないかと思う。
ただ、工学部の1~2年生と言っても、電気、機械、材料あらゆる工学の分野を含むので、テキスト全てを合わせると広辞苑二冊分くらいになる。
全部覚えるのは無理だろう。そもそも講師の社員も多分理解してないし。。。
私は、これに関しても、グローバル人材や昇進の条件としてのTOEICと同じように、終身雇用に居場所を見出せた人と、そうでない人との利害関係の対立を感じている。
私が学生の頃から、企業は、「最近の大学は役に立つ人材を育成していない。」と言い、大学は「企業が人材を活かせていない。」といった議論が続いているような気がする。
両方の立場を体験した自分としては、結局、この議論の根底にあるのは、限られた富をめぐる利害関係の対立である気がしてならない。