◎フォーレ四重奏団(トッパンホール主催公演)@トッパンホール 2023年12月7日 19:00


フォーレ四重奏団

  • エリカ・ゲルトゼッツァー(ヴァイオリン)
  • サーシャ・フレンブリング(ヴィオラ)
  • コンスタンティン・ハイドリッヒ(チェロ)
  • ディルク・モメルツ(ピアノ)

プログラム

  • マーラー:ピアノ四重奏曲断章 イ短調
  • ベートーヴェン:ピアノ四重奏曲 変ホ長調 Op.16
  • メンデルスゾーン:ピアノ四重奏曲第3番 ロ短調 Op.3





この人たちの演奏を今後聴き逃してはならん…!!

…と言うことで執筆。

完全に気ままで、それでいて飽きたらしばらく書かなくなる当ブログ。

最近は備忘録やマインドメモとしての機能が優れていると気づき、

多少面倒でも書いといた方がいいや、くらいの

まあ相変わらずの適当さで執筆。


さて、今回は以前から知っていて、

大好きなブラームスのピアノカルテット(ちなみに有名な1番だけでなく、全曲好きな人です。特に3番!)で

その巧さと熱さでわりかし衝撃を受けた記憶のあったフォーレ四重奏団。

件の音盤が出た時点は滅茶苦茶「うお〜行きて〜!!」と興奮していた記憶があるが…。

悲しいかな、音盤を聴き込んでた時代というのは、大体忙しい時。

そう、コンサート通いが激減した前職社畜時代。(とはいえ、実はその時割と仕事楽しかったけどw)

流れに流れて現在に至る。


さて、12月はあまり休みを取らない(取れない)のだが、

有給がまだ余っていたのと、ちょっと先月末の「休日なのに、休日じゃない(動き)苦笑」で

わりかし最近にしては疲れていたので、実は個人的に一番疲れる木曜日に棚ぼた的に休日設定。


で、本当は現在の推しコンビである、ルイージ×N響の

12月B定レーガーを聴きに行きたかった。

…実は苦手なリストが中プロで本来行く気はなかったのだが、

先週のC亭幻想交響曲が、2000回お祭り月間の始まりということもあってか

指揮者、オケ共に尋常ならざる気合に圧倒されて、

「は〜これB定も凄いことになりそう!!」と気づいたときにはいつものB定完売、ちーん…

…案の定B定の評判すこぶる宜しく、

なのに公演のSNS報道写真を見るに空席多数。…ちょっとさあ。


と、前置き書けば書くほど長くなるなw

てなわけで悔し紛れも合わさって急遽フォーレ四重奏団へ。

…いやいや、来てよかった。衝撃の値千金、本当に本当に棚ぼた公演!!

明らかに今年ベストの部類の音楽会。

…ところで、来てみればこちらも完売。


まず前プロのマーラーの浮かび上がるような精巧な音の出だしから、うっ!っとなってしまった。

只者ではないです、この人たち。

で、目がついついいっちゃうのが、弦の人たちの運弓。

すっごい、素人目にも音符と弓の量が的確で

ちゃんと弓の量だけ音が出てます、って精密さ。

しかも、ドイツ的な硬質な音の中に、ものすごい音のふくよかさと

そして何より熱さが兼ね備わっていて仰天。

そしてピアノから何から一丸で音が飛んでくる。

はあ〜、凄いの聴いてるわ。

今年はベルリン・フィルも久々に聴き、超人たちを目にしてきたつもりだが

この人たちの技術の超人さは明らかに抜きん出ている。驚愕。


また前プロのマーラーが遠くシェーンベルクの浄夜を予言するような

なかなかうねる耽美さを表出したと思いきや、

続く中プロのベートヴェンは、原曲のピアノと管楽の五重奏の楽しさと溌剌さを非常に丁寧に再現した

曲へのリスペクトのしっかりした解釈にも感服。

2楽章が素朴で美しいのだけど、まあ噂には聞いてたがこのホール、響きのいいのなんの。

以前プロのファゴット吹きの先輩が「ここが一番良い響き」と言ってたのがよくわかる。

※実はトッパンホール初訪問。職場のすぐ近くなのにw

あんまりサラウンドで包まれるような響きで2楽章後半で失神(笑)

3楽章途中で起きたけど、この楽章もすっごい洗練されて、でも芯が凄いパッションで楽しい。


メインのメンデルスゾーンの若書きのカルテット。

…これは。

メンデルスゾーンがモーツァルト並みの神童加減なのが納得の傑作。

また、これは今年のコンセプトになりつつあるが、凄い演奏って、作曲家の凄さの方が伝わるというか。

なんかボキャ貧になってしまうのだが、圧巻だった。

特に3楽章のスケルツォからフィナーレへの畳み掛け方の巧さと情熱に感動。

超上手い人が超情熱的とかって、凄いな。物凄い武器だと思う。

(さっきから凄い凄いとしか言ってねえぞ!wでも本当なので仕方ないw)


さてさらにこの感動に追い打ちをかけてきたのがアンコール。


2曲も出血大サービス!なのだが、こちらは近日発売予定?のアルバムから。(Apple Musicでは「近日公開」となっており、聴けず)

特に締めのフォーレタンゴが圧巻。

なんだか最後にして本当にいろんな音が出てきて、「え、この人たちまだこんなに引き出しあるの??」ってまた驚き。

うーん、ヤバいの聴いちゃったぞww


これは次回の来日も万難を排して行かねば…!

私的、今年最大級の発見は棚ぼたの有給休暇にやってきたのでした。


ちなみに、骨を休めるため昼間はビール飲んで寝てました。




見事にリフレッシュ…!!

…だけどやや興奮気味で眠れねえwww


◎ ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 アジアツアー2023 東京公演@サントリーホール大ホール 2023年11月25日14:00


管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団  Berliner Philharmoniker

指揮: キリル・ペトレンコ Kirill Petrenko, conductor


レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ Op.132

Reger: Variations and Fugue on a Theme by Mozart, Op.132

R.シュトラウス:交響詩『英雄の生涯』 Op.40

R.Strauss: “Ein Heldenleben“, tone poem Op.40




カラヤンフリーク&半分オーストリア人(笑)としては

どーしてもアバド以降のベルリン・フィルが好きになれなかったのが正直なところ。


まずアバドの振るベルリン・フィルが生理的に受け付けず…。

後にルツェルンとか自前?のモーツァルト管とかを振りはじめてようやっとアバドが克服できた感があり、

正直アバドの最盛期はシカゴ時代では…?と時々思ってしまったり。

(アバドファンの方ゴメンナサイ…)

あと、ラトルは正直ベルリン・フィルでちゃんと実演を聞いてはいるんだけど、

正直操縦が抜群なだけで、ロンドン響での感銘が深く…。

ほんと大変失礼ながら、物心ついた時からずっとモヤッとしたものがあった。


しかし、今日の演奏を聴いてどうだろう!

カラヤン時代が帰ってきた、と言うのは烏滸がましいが、

好きだった精緻さや室内楽的でもあり、モダンでいて、そして何よりも歌が上手い

私が長年思い描いたベルリン・フィルを聴けた気がして(?)感無量。

今までそこはかとなく感じていた「ターミネーター的精密機械集団」と言うのはそこに全くない

非常に有機的な音を出せる集団がそこにいた。


まずマックス・レーガーのモーツァルト変奏曲だが、

正直超地味な曲だし、やはりレーガーの中でもよく取り上げられる曲とはいえ

無骨な感じが拭えない曲で、正直曲としてはベックリン組曲のが好き。


…それがどういうことだろう!

一つひとつの変奏にドラマをたっぷりと込め、キャラクターもくっきりとさせる、キリル・ペトレンコの演出力が絶妙。

そして何より節回しが絶妙なのだ。

久々にドイツの歌劇場で下積みをしてきた指揮者然とした、鈍色に輝く節回し。

そして締めくくりのフーガまで、寸分たりとも気の抜けない、なのに安心感のあるドライブには脱帽。

終演後もこの地味な曲が頭の中で、うーん、ドイツ語ではOhrwurmというが、頭にこびりつく。

そして何よりも歌心…!オペラのマエストロの真骨頂。

濃厚さも程よい、硬質な程よい音響構築も素晴らしく、やはり「カラヤンサーカス」を範としたサントリーホールも綺麗に鳴る。



※レーガーで精神状態が狂いはじめて飲まなきゃやってられなくなった人の図w


続くメインの英雄の生涯は何のことはない、餅は餅屋なのだ。

ベルリン・フィルの英雄の生涯が世界最高でないはずがない!

しかし、今回圧巻はペトレンコの構築したドラマツルギーの凄み。

歌い方も絶妙に濃厚で、しかも重厚な鳴らし方も

あのサントリーホールの甘い音響で団子にならず、解像度も高いのには驚いた!

最初からゾクゾクするのではなく、物語が完結した終曲でしっかりと多幸感が訪れる

精密さと充足感が「是ぞベルリン・フィルだよね」と言うことで納得。

なお、樫本コンマスの英雄の生涯ソロ、実は二度目だけど、今日はおらが村の大将登場で気合い入ってたな〜。


…まあ、御託を並べましたがね、ちょっと今まで聴いたことのない新しい響きですかね。

ただ、まだこの人、ベルリン・フィルの限界点を狡猾に探ってそうな、絶妙な楽団との間もそこはかとなく感じた。

実はここからものすごいことが起きるか、それはもうちょっと時を積まねばわからないな、と言う感じはした。


やっぱりベルリン・フィルはラトルといいペトレンコといい、操縦の上手い指揮者しかシェフは務まらないなと思いつつ。


《小ネタ》

ちなみに、今日開演前にフラッと譜面台の調整にペトレンコが何気なく舞台に現れたのは驚いた!

やっぱこうなると次はこの人の振るオペラが観たい。バーデンバーデンに行くのが目標になったw


ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 2023年アジアツアー@サントリーホール 2023年11月22日19:00


アンドリス・ネルソンス指揮
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
2023年11月来日ツアー



PROGRAM

ワーグナー

楽劇「トリスタンとイゾルデ」から 前奏曲と愛の死

ブルックナー

交響曲第9番 ニ短調



ゲヴァントハウス管東京公演2日目。

昨日の感想が確信に変わった公演。

もはや指揮者など居ないかのような、

ゲヴァントハウス管弦楽団の強烈な個性的音と響きを堪能するだけの会となった。

もはやインタープレターとしての指揮者はそこにおらず、

モチベーターとバランサー、調停役として指揮台に上るネルソンスの姿があった。

まずトリスタン前奏曲と愛の死。

本来元気でヤンチャだったネルソンスがやるトリスタンって、

実は想像の範囲から出てしまうのだが。

かつてベルリン・フィルで聴いたときのタンホイザー序曲の元気でヒロイックな姿は鳴りを顰め、

ただただ鈍色に輝くGHOの音だけがそこにあった。

…正直いうとね、本来私、ワーグナー苦手だったんです。

それをようやっと近年、沼尻さんのおかげで(本当に感謝しております…!)

克服し始めた矢先。

お世話になっている偉大な先人より「トリスタンは不健康な音楽」というお話もいただいていたので

健康この上ない指揮をする(※なお肉体的に不健全w)アンドリスの兄貴がどうなっちゃうんだい…と思っていたが。

…正直ね、もうそこにネルソンスって、立ってるだけのような気がして。

ゲヴァントハウスの鈍色に輝く弦の美音と響きだけが

滔々と客席に流れてくる姿を恍惚と聞き惚れてしまった。

もうね、解釈とか概念とかどうでもいいんです。

好きな音がそこにある。

オーケストラ団員個々人が伸び伸びと弾く姿と

そこに出てる音を聴いてね、って言う一種のプロモーター?モチベーターというか。


続くメインのブル9はもうひっくり返った。

え?だっておんなじコンビのくせに出てる音、音源と全然違うよ??という。

第1楽章からティンパニが主張するわ、ホルンのゲシュトップは立体的に響くわ。

全然音源と違いますやん😭

そして弦!

特にヴァイオリンは古今東西きっての名コンマス、ブロイニンガーが流石のリード。

この人昔、ブロムシュテットのh-Moll-Messeでも似た動きでリードしてたっけ。

でね、相変わらずあの巨体の、師匠譲りのぶきっちょな指揮をチラチラ見ながらアイコンタクトを取って

時折不敵な笑みを浮かべてネルソンスが「ここね!ニコニコッ」ってなった瞬間、ドッカーン!ってファーストから音が切り出されるの。

…いやあ、正直コレはCBSOでは絶対に見られなかった反応速度…。

で、そそしたら丁々発止でセカンドもドッカーン!

…と思ったら横でブラスが、「おーすごい、コレで100パーでしょ」という

激重爆弾を投下し始めたと思ったら、ネルソンスが棒をヒョイ、っと持ち上げると130%になるというカオス…。

ちょっと去年のサイトウキネンのマラ9の2日目の豹変具合を思い出した。

あの時もやはり「え?昨日と違うじゃん??」という感想だった。

だって昨日のメンデルスゾーンは14型で、あぁ、ゲヴァントハウス楽長としての顔よね、って思ったのよ。

今日の兄貴、なんかちょっと乗るかそるかの危ない橋を渡っているようだった。

事実、オケの人間的な体力の限界量を突破させてない?ということに起因する粗さもあったが

「まだいけるぜ…」と2ndヴァイオリンがブラスを突き破ってP席にドッカンドッカン音を突き出す2楽章には本当に恐れ入った。


で、3楽章も3楽章でオケを本当に自発的に音を出させて歌わせるのだ。

そこにはやはり昨日感じた、

遠くコンヴィチュニーや、マズアが作り込んだハスキーで、そんなに洗練されてないけど

鈍色に輝く音を観客に刻みつけんと棒を振るネルソンスの姿があって、

ああ、この人本当に自分というものがないんだなって、改めて思った。


最初は思ったさ。

よく覚えてる。

忘れもしない2011年秋の楽友協会で聴いた、「え、これが本当に欧州3大オケ???」と戦慄した

珍しくティンパニとパーカスがわりかしボロボロになったコンセルトヘボウのペトルーシュカから

2012年の帰国前に聴いたベルリンでの英雄の生涯で虜になってしまったときも。

ああ、実はこの人はオケメンとして音楽家をはじめ、

それでいてオケメンを好きで「うちのオケ、凄いでしょ!?ニコニコッ」って人になっていったのだな、と。


そんな、日本でなぜ彼が流行らないか、ちょっと納得がいきつつ、

ゲヴァントハウスの最高の響きを堪能できた一夜でしたね。

…まだ進化を続ける、ちょっと変わった指揮者の一人、アンドリス・ネルソンスの追っかけ。

まだ当分やめられませんかね。

やっぱライプツィヒには行かねば…






◎ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 2023年アジアツアー@サントリーホール 2023年11月21日19:00


アンドリス・ネルソンス指揮
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
2023年11月来日ツアー


PROGRAM

メンデルスゾーン

序曲「美しいメルジーネの物語」op.32

シューマン

ピアノ協奏曲 イ短調 op.54

(ソリスト:チョ・ソンジン)

メンデルスゾーン

交響曲第3番 イ短調 op.56 「スコットランド」



さて、誕生日も迫り「自分のための誕プレ企画(笑)」発動。

てなわけで2年連続でちゃんと海外推し(ネルソンス)活ができるようになりました。

…本当に前職の社畜時代は辛かったとともに、もう転職して4年くらいになりますが、現職にホッとする今日この頃であります。

さて、実はGHOは初聴き。

やっぱ子供の頃以来のドレスデンのトラウマ(現在は無事解消)のせいで、

わりかし克服したがりだったシュターツカペレ・ドレスデンはちゃんと本拠地まで聴きに行ったけど、

ライプツィヒはコロナ前、華麗にICEでスルーという

今でも「バカじゃないの??」と2019年当時の自分をぶん殴りたいのだが、

まあ転職して日本でも聴ける余裕ができたことで良しとしたい。


私がアンドリス・ネルソンスを推す理由は、毎年のように何らかの進化やチャレンジをする指揮者であること。

逆境は持ち前の人柄と努力で跳ね除けていくこと。

…多分その犠牲やストレスが彼も太り過ぎにもつながっているのであろうが。


閑話休題。


昨年のSKOとのマラ9の名演の記憶が新しいアンドリスの兄貴。

その時の感動に多くは語るまいとブログの記事を認めなかったことは

それはそれで正解だったとも思うのだが、

いかんせんブログも過去記事を振り返ると「やっぱ自分もまた変化しているのか」と

面白いと思ったため今回は執筆。


さて、冒頭のメルジーネ序曲は、最近始めたメンデルスゾーン・チクルスのカップリング予定だろうか。

いや、この時点からオケの個性がすごい。

てかこの燻銀?…もはや鈍色にくすんでハスキーともとれる徹底した古式伝統の弦の味わいはなんということだろう…!

こういうのが外来オケを聞く醍醐味なのだ。

ウィーン・フィル然り、チェコ・フィル然り。

やはり弦に強烈に個性があるオケこそ名門の証。

この硬質さの先鋭加減は東独当時をそのまま保存されてる気がした。

(同じことを以前、MDR響の演奏でも感じた。こちらはさらに一層プリミティブな東側の土臭があった。)

ライプツィヒといえばドイツW杯で唯一旧東独開催された街で工業化してるイメージがあったのだが…。

しかし、ビックリは職人芸。

もうすっかりこの序曲で虜になってしまった。

…旧東側いいオケばかりじゃ無いか。


続くシューマンの協奏曲もオケの音色の個性についつい耳が向く。

チョ・ソンジン、この人今世界で一番巧いピアニストなんだろうが、前回山田×CBSOでそこはかとなく直観が今日は確信へ。

やっぱこの人、コンチェルトよりソロの人だわ。

てかね、音が綺麗でメロウだから今日みたいなキレのある世界最強の硬質さの類の音の中だと

びっくりするほど音が埋没する。

(ファンの方すいません堪忍して…)

で、前半でわかってきたのは、もともとコンチェルトの伴奏指揮巧者と思っていたネルソンスの棒が

ますます余裕を帯びて奏者が勝手に一丸で踊るような振り方をしていたこと。

本当にね、常に進化する少年漫画の主人公みたいな人なんですよ。

ちなみに、やはりチョの演奏はアンコールのショパンのワルツが目ん玉ひん剥くぐらい凄まじかった。

前回のCBSOツアーの道化師の朝の歌もそうだったが、ソロの人なんですね、この人。


続くSchottische Sinfonie が凄かった。

この感想なんですがね、正直「普通」なんです。

え、ネルソンス推しがその感想でイインスカ?と言われると微妙だが。

雑な言い方を避けるのであれば、

「もうそこにネルソンスの個性は無く、メンデルスゾーンとゲヴァントハウスの音だけが綺麗に残った」

という、近年のネルソンスから感じる彼の最終解に近いものを、去年のサイトウキネン以来また感じたのだ。

ネルソンスの最大のチャームポイントの一つが彼の観客や楽員に見せる明るい性格。

常に笑顔で「ほらほら、音楽ってこんなに楽しいんだよ!」って全身全霊で表現できる人格。

それがたどり着いたのが自分を消して、楽曲とオケの個性をどう引き出すかに特化することになったのではないか…?


第1楽章から遠くバッハを見渡せる、ガット弦かと思わせる弦奏。

第2楽章は兄貴の明るさと天真爛漫さの真骨頂で、快速。

特にソロ・クラリネットのべッティーナ・アウストの驚異的なソロには恐れ入った。

予習段階で間違いなく名演になるであろうと確信した3楽章は、

サントリーホールのアコースティックを最大に引き出した弦の弱音と絶妙な間が

続く4楽章にアタッカで辿り着く頃には

「この音楽が終わってほしくない…!」

と寂寥感を抱くほどだった。

そこにはもう、ネルソンスの姿は実は無く

メンデルスゾーンの音楽の素晴らしさと

ゲヴァントハウスの音の感銘だけが残っていた。

メンデルスゾーンが事実上造り上げた楽団での楽長の重積の上でメンデルスゾーンを演る。

…遥か遠く微かに、巨匠指揮者の姿がちらつきながら。


全曲終わって、彼此10年以上前の学生時代から彼の音楽を聴き続けて

ずいぶん遠くまで来たものだと、推し活を長く続けた醍醐味みたいなものを感じたのでした。


…というわけで、明日(あれ?もう今日??)に続く。


◎ローマ歌劇場(東京引越公演)『トスカ』@東京文化会館 2023/9/21 15:00~

指揮:ミケーレ・マリオッティ
Direttore:Michele Mariotti

演出・美術:フランコ・ゼッフィレッリ
Regia e Scenografia:Franco Zeffirelli

合唱監督:チーロ・ヴィスコ
Maestro del Coro:Ciro Visco

衣裳:アンナ・ビアジョッティ
Costumi:Anna Biagiotti

照明:マルコ・フィリベック
Luci:Marco Filibeck

再演演出:マルコ・ガンディーニ
Ripresa della regia:Marco Gandini

舞台美術補:カルロ・チェントラヴィーニャ
Ripresa della scenografia:Carlo Centolavigna






フローリア・トスカ:ソニア・ヨンチェヴァ
Floria Tosca:Sonya Yoncheva

マリオ・カヴァラドッシ:ヴィットリオ・グリゴーロ
Mario Cavaradossi:Vittorio Grigolo

スカルピア男爵:ロマン・ブルデンコ
Il Barone Scarpia:Roman Burdenko

堂守:ドメニコ・コライアンニ
Sagrestano:Domenico Colaianni

チェーザレ・アンジェロッティ:ルチアーノ・レオーニ
Cesare Angelotti:Luciano Leoni

スポレッタ:サヴェリオ・フィオーレ
Spoletta:Saverio Fiore

シャルローネ:リオ・ポール・シャロット
Sciarrone:Leo Paul Chiarot

看守:ファビオ・ティナッリ
Un  Carceriere:Fabio Tinalli

牧童:末光朔大
Pastorello:Sakuhiro Suemitsu


ローマ歌劇場管弦楽団、ローマ歌劇場合唱団
Orchestra e Coro del Teatro dell'Opera di Roma

NHK東京児童合唱団
NHK Tokyo Children Chorus









コロナ明け久々の外来オペラ座引越公演。

『トスカ』を初演したローマ歌劇場による引越公演。


ゼッフィレッリ演出による豪華な舞台をそのまま東京に持ち込んだ豪華な引越興行!

しかもカヴァラドッシには三大テノールの後継者との呼び声久しいスターテノール、

ヴィトーリオ・グリゴーロを配置するのみならず、

タイトルロールのヨンチョヴァ、難悪役であるスカルピアにはベテランのブルデンコを配置するという

現代最高の贅を尽くした舞台なのに、

興行元のNBSはU -39とかいう謎の年齢設定で15,000円という異常な爆安価格でチケットを大放出する始末…!!

しかも指定された席は3階のバルコニーA席設定という意味不明な太っ腹!??

神対応すぎて大草原不可避wwwww

しかも会場は世界有数の音響を誇る東京文化会館ですよ??


ということで欣喜雀躍して会場入り。


そして開幕の第1幕。

何なんですか、この王道をいくカトリック大聖堂を東京に再現した豪華極まる舞台は…??

冒頭からグリゴーロのカヴァラドッシが物凄い歌唱を披露するも(ちなみに演技はちょっと大袈裟すぎだったけどw)

堂守のコライアンニがまたベテラン然とした堂々たる道化役で絶妙で、全く主役負けしない。

トスカとの愛の二重唱も立派だったが、やはり1幕の白眉はブルデンコの堂々たる「テ・デウム」であった。

全く威厳を失わない狡猾で、高貴なスカルピアは、私が初めて目にしたレオ・ヌッチの渋みの強い歌唱を彷彿とさせた。

またミケーレ・マリオッティの、頑固さすら感じる伝統ゆかしい棒も立派で、

「テ・デウム」の大司教入場までのタイミングも、スカルピアをたっぷり邪心を歌わせての余裕さは圧巻であった。


2幕はひたすらトスカ役のヨンチョヴァとスカルピア役のプルデンコの丁々発止の心理戦が光る、極めて技巧の高い舞台だった。

個人的にツボだったのはスカルピア役ブルデンコの、全く気品を失わない「スカルピア男爵」の地に足がついた歌唱であった。

所作の一挙手一投足が、「これぞ悪役警視総監!」という堂々たるもので、惚れ惚れしてしまった。

それに感情を絶妙に調整しながらスカルピアをめった刺しにするクライマックスをドラマティックに引き立てるヨンチョヴァのトスカ…!

有名な「歌に生き、愛に生き」はなかなかクールだったが、スカルピアの絶妙な泰然自若さに合わせた感じで、これはこれで良かった。

何より、ヨンチョヴァは千変万化で感情ごとに発声を絶妙に変える、現代然とした絶妙なテクニックをモノにしていて、

これは昔のカラスやフレーニなどは真似できない芸当と感じた。


3幕。う〜ん、今脂が最高に乗り切ったスーパースターテノールの「星は光ぬ」にはぐうの音も出ない。

グリゴーロ、演技は大袈裟なのだが、感情の込め方は、もうこれは当代一としか言えない。

しかも声量でゴリ押しする訳でもないんですよ。

とにかく絶妙な感情を込めて、「嗚呼、カヴァラドッシって無念の死を遂げるのか…」ってのを

イタリア語がわからない聴衆にも伝える情熱があった。

また3幕もゼッフィレッリが巧みに設計したサンタンジェロ城のリアルで美しい舞台がひたすら輝きを放つ。

…何だろう、ここまで贅を極める舞台は今どき稀有では?

こういう舞台を招聘できる日本は、まだまだ捨てたもんじゃない。


最後のカーテンコールはもちろん、凄まじいスタンディングオーベーション…!

またそれを「もっともっと!」と煽ってくるグリゴーロ。

…ああ、こういうスターテノールの最盛期の舞台に居合わせることができて幸せだなあ、と噛み締めながら帰路へ。

ところで最後、マリオッティとグリゴーロが牧童役の、多分N児の団員のソリスト?にブラボーコールをさせていたところに

あぁ、そうか。この人はトスカの牧童役からここまでのスターダムに駆け上がってきたことを忘れてないんだな、

と感じることで、ますますこのグリゴーロというテノールのスター性に納得してしまった。

まあ、これほどの舞台を観たら、もう『トスカ』は良いかなw


また、全体を通じて明るく、南イタリアに近いローマオペラ座オケには

北のロンバルディアの真面目なスカラ座管との違いが如実で面白かった。

開演前のオケピで遊び半分でフルートとトロンボーンが「ワルキューレの騎行」を演り始めたのには笑ったw


そんなこんなで十二分に楽しめた久々の外来オペラ。

日本のオペラ座も、特にドイツものでは善戦してるとはいえ

今日みたいなスターがホームラン争いをするような舞台にはまだ勝てないなと

しみじみ感じた、芸術の秋の始まりなのでした。



ちなみに、帰宅後はこの前手に入った掘り出し物のランブルスコで一人乾杯!苦笑

最高の休日でした。