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▼先に結論
・貧血の鑑別は、まず「消費亢進」か「産生低下」かを考える
・産生低下の場合、MCVを参照にしながら鑑別を行う
・網状赤血球、鉄、フェリチン、TIBC、葉酸、ビタミンB12を測定する。結果次第でハプトグロビンやクームス試験、ホモシステインなどの測定を考える
・貧血の評価には目視による形態確認も行う
患者に対して行うルーチンの血液検査で、血算を省く人はまずいないでしょう。基本的には同じような値を推移しているから気づきにくいですが、継時的に貧血が進行していた、なんてこともしばしばあります。赤血球の寿命は120日であり白血球や血小板に比べてはるかに長いですから、比較的緩徐な推移を示します。造血と消費という2つのパラメーターが、相対的に消費の方向に傾くと貧血になるわけです。
貧血の鑑別というのは国家試験勉強でもある程度問われるところではありますが、いざ直面すると意外に困ります。特に初診の重症貧血患者は、消化器疾患なのか血液疾患なのか両方違うのかもわからないので、最初に会った医師がある程度の方向性を作っていくことも要求されます。
そんな場合に困らないように、まずはルールに沿っていくことを学んでいきましょう。
1.失われているか、作られていないか
これが第一歩です。網状赤血球で評価します。消費の亢進が起こっている場合、造血が正常に機能しているのであれば、喪失に見合った産生が起こります。しかし造血が低下したことによる貧血であれば、それは起こりません。これは人体のあらゆる面でそうなんですが、体は恒常性を維持しようとします。産生低下によって起こる貧血でも、血を増やそうとする動きが体内では起こっているのです。その造血の程度が本来起こるべきものと比較して適切かというところが大事です。
まず気をつけて欲しいのは、網状赤血球の単位が検査会社によって%と‰があるということです。パッとは同じに見えますが、後者は下の丸が2つあります。これは1/1000を示しており、パーミルと読みます。網状赤血球以外でこの記号を見たことがないので、普通に読み方が分かりません。調べようと思っても、読み方がわからない記号をグーグルで検索する難易度は高いのです。
網状赤血球数の評価ですが、絶対数で10万/μlをカットオフとすることもあります。それも一つとは思うのですが、網状赤血球産生指数(reticulocyte index)も知っておいたほうがいいでしょう。
網赤血球産生指数 = 網赤血球数(%) × (患者Ht値/正常Ht値(45%))÷網赤血球成熟期間(日数)
ちょっと解説が必要かと思います。網赤血球の成熟期間は、Ht 45%の時1日、35%の時1.5日、25%の時2日、15%の時3日であるとされます。もう赤血球成熟期間を3.25-(Ht×0.05)とする式もありますが、そちらの方が計算しやすいかもしれません。まさに現在のHtに対して起こるべき造血が起きているか、という評価です。
網赤血球産生指数が3以上だと赤血球産生増加、2以下だと骨髄造血機能低下を示唆します。増加している、ということは出血や溶血など、消費の亢進が起こっているのだと考えます。ちなみに消費が亢進している場合はHbA1cは低めに、低下している場合は高めにでるというのも知っておくと役立つかもしれません。
2.消費の亢進が起きているとすれば
考えるべきは出血と溶血です。まずは出血から考えてみましょう。貧血をきたすほどの出血をしていて、目で見て出血している部位がなければ体内の出血になります。まず考えるのは消化管出血、そして婦人科的な不正性器出血でしょう。外傷や処置歴があれば腹腔内出血の除外は重要です。肝細胞癌の破裂、結節性多発動脈炎の腎周囲血腫など、基礎疾患による特異的な出血も見落とせません。
消化管出血に便潜血(いわゆる便ヘモ)を提出することもありますが、上部消化管出血の場合はヘモグロビンが胃液によって変性するため陰性となることがあります。便潜血よりは直腸診でしっかり評価し、状態をみて上下部内視鏡検査の適応を探った方が良いでしょう。
溶血の場合、検査項目として間接ビリルビン高値、LDH高値、ハプトグロビン低値、尿中ウロビリノーゲン高値などありますが、特にハプログロビンの低値は有用な初見であり、認めなければ溶血の可能性はかなり下がります。溶血性貧血のうち半数は自己免疫性溶血性貧血ですので、疑う場合はクームス試験を行います。自己免疫性貧血は赤血球に対する自己抗体ができることが主病態ですから、その抗体の存在を評価するクームス試験は重要です。
直接クームス試験と間接クームス試験があります。直接クームス試験は患者の赤血球に付着している抗体を、間接クームス試験は血清中に存在する抗体を評価します。
※試薬を混ぜて凝集すれば陽性です
AIHA(自己免疫性溶血性貧血)の診断基準には直接クームス試験が記載されています。間接クームス試験もAIHAで陽性になりますが、もし陽性だったとしても抗体の標的が他人の赤血球だけなのか、自分の赤血球も含むのかがわかりません。直接クームス試験ではすでに赤血球に抗体が付着しているわけですから、それは自己赤血球に対する抗体であると言えます。間接クームス試験でわかるのは血清中に不規則抗体が存在しているということだけで、それと自己赤血球との関連は不明なのです。ただし直接クームス試験陽性でも、溶血を伴わないこともあります。
直接クームスが陽性なら、寒冷凝集素価を測定し温式AIHAと冷式AIHAを鑑別します。少し話は逸れましたが、間接クームス試験は輸血前検査として重要です。これから輸血をしようという赤血球が患者血清と反応して凝集しないか、ということですね。
溶血というとどうしても血液疾患の印象が強いですが、心臓弁置換後や、形成された血栓との物理的衝突による溶血もきたすことがあります。これらを赤血球破砕症候群と呼称することがあり、特に血栓性血小板減少性紫斑病と腸管出血性大腸菌による溶血性尿毒症症候群は早期のマネジメントが必要なので重要です。
3.産生の低下が起こっているとすれば
ある程度の見込みを立てる上で最も有用な指標はMCVです。これを見るだけである程度疾患の予測が立ちます。小球性と大球性の要素が合わされば正球性になる、ということもしばしば指摘されますから、あまりそこに執着しなくていいと思います。注意すべき点として、網赤血球は比較的大きいので、急性出血でMCVが少し大きめに出ることもあります。MCVが特に小さい場合はサラセミアを疑い、サラセミアインデックスを計算します。
サラセミアインデックス=MCV(fl)/RBC(×10^6/mcl). MI<13で陽性
具体的にはフェリチン、鉄、TIBC、葉酸、ビタミンB12などを測定します。網状赤血球が極めて低下していれば赤芽球癆も鑑別に挙げて、エリスロポエチンも測定します。反応していないのであればnegative feedbackで高値になるはずです。地味な話ですが葉酸やビタミンB12が点滴製剤に含まれている場合があるので、投与中の患者の測定するのは注意してください。点滴中に含まれるビタミンは多いので、測定値は必ず高値になります。
MCV低下パターンでもTIBC高値であれば鉄欠乏性貧血、低値であれば利用障害ですから、ある程度目星が付けられます。TIBCと鉄が決まればUIBCは計算で求められるので、TIBCとUIBCを両方測定するのもいけません。
葉酸はビタミンB9であり、ビタミンB12と強調して働くことから、全く別の因子ではありません。ビタミンB12が欠乏すると葉酸の利用が障害されるため、血清の葉酸は増加することになります。ともに低値であれば、ビタミンB12を先行して補充します。葉酸を先に補充すると、神経障害が顕在化する可能性があるからです。強く欠乏を疑うにも関わらず、正常下限程度で検出される場合はホモシステインを測定します。ホモシステインの代謝には葉酸とビタミンB12が必要であり、欠乏症では高値を示します。
貧血評価には目視を行なうのも重要です。サラセミアでは標的赤血球、ビタミンB12欠乏では過分葉白血球を認めるのも重要な所見です。
TSAT(トランスフェリン飽和度)も紹介しておきます。
TSAT(%)=FE/TIBC ×100
これは総鉄結合能(TIBC)のうち、鉄と結びついているものの比率を示した指標です。この値が20%を下回っていると鉄剤の補充を考慮します。しかしこれが全く簡単ではなくて、フェリチンが高値である場合は利用障害パターンになりますから、鉄の補充は鉄過剰を招くことの危惧があります。
教科書的にはフェリチン高値を示す、いわゆる鉄利用障害パターンの貧血であれば対応は原疾患の治療となっていて、鉄剤投与は推奨されていません。例として2015年度版腎性貧血のガイドラインを開くと、「フェリチン 100ng/ml未満またはTSAT 20%未満の患者」が鉄剤投与の対象と記載されています。しかしこれが2008年度版で「フェリチン 100ng/ml未満かつTSAT 20%未満の患者」となっていたことを考えれば、条件的に緩和されたことになります。
(もちろんTSAT 20%未満ならフェリチンを問わず鉄剤を投与すべきだ、という単純な話ではありません。詳細はガイドラインを参照ください)
2015年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン
もちろん腎性貧血だとエリスロポエチンの投与など、通常の貧血マネジメントとは全く異なります。しかし貯蔵鉄と血清鉄の関係はそんなに単純なものではない、という考え方は重要と思い記載しました。
さて、これらを踏まえてどのようにマネジメントを行うかはとても記載できるものではありません。特に汎血球減少を伴う場合など、血液悪性腫瘍などを疑う場合はこの限りではもちろんありません。肝硬変でも貧血は起きますし、薬剤性でも起こります。
ここで記載しておきたいのは、鑑別の考え方です。解釈が困難であったり重篤な場合には、血液内科に依頼して骨髄穿刺も積極的に検討すべきと思います。