その5:γ計算を理解する | 国家試験後の臨床 書籍化しました! (旧)研修医が学んでおくべき100のこと

国家試験後の臨床 書籍化しました! (旧)研修医が学んでおくべき100のこと

一人の内科医が研修医時代に書き溜めた記事を再構成しています。
全ての医療者にとって、医学を理解する手助けになれば幸いです。

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▼先に結論

・γはμg/kg/minのことであり、薬剤持続投与の指標になる

・使いやすく変形するとγ=0.06×BW mg/hrであり、BW 50kgの方だと3mg/hrに相当する

・ノルアドレナリン投与組成だけは必ず覚えておく

 

 

γって御存知でしょうか?ガンマって読みます。医者としては絶対に知っていないといけない必須項目なんですけど、これも国家試験で問われるような内容ではありません。したがって研修期間に習得すべき内容なのだと思います。

 

 

1.持続投与の考え方

γは薬剤投与に関する単位です。臨床では多様な薬剤を用いますが、多くの薬剤は体格や年齢による厳格な調整を必要としません。例えば錠剤なんかは、そもそも細かい調整には不向きな形をしています。

 

臨床上有用な効果が担保できる量がもちろん必要ですが、量が過剰になれば有害事象が出現します。多くの薬剤はその「効く量」と「副作用が出る量」に幅があるので、添付文書に沿った投与で安全に効果を期待することができます。しかしそうではない薬剤において、症例ごとの投与量調整が必要になるのです。

 

γはμg/kg/min、つまり1γ=1μg/kg/minです。この単位を素直に解釈すれば「1分あたりの体重1kgあたりの投与量」となります。つまりこれは、持続投与をおこなう薬剤の投与量を調整するものです。持続投与を行う薬剤の代表は循環作動薬、鎮静薬、鎮痛薬、筋弛緩薬…といった具合で、主に集中治療領域で用いられる薬剤が多いです。

 

持続投与の薬剤というのは、患者の状態を見ながら投与量の調整を行うのが普通です。昇圧剤なら、血圧が低ければ投与量を増やすし、高ければ減らします。鎮静でも鎮痛でも、患者の状態を見て逐次投与量を変えるという考え方は同様です。例えば抗菌薬などは、投与してもそれが効いているか否かはすぐに判断できるものではありません。

 

そんな風に投与量を上げたり下げたりしていると、気がついたら危険な投与量まで増えているなんてこともあるかもしれません。また医療者間で、患者に投与されている薬剤がどのくらいの量か共有できないことも懸念されます。従ってγという共通言語により、患者に投与する量を決めます。

 

 

慣れない人が実際にγ計算を行うと、ほぼ間違いなく樹海に迷い込んでしまいます。理解しにくい理由は明白で、μg/kg/minという単位にあります。僕らが実際に薬剤を投与する際に「min」や「μg」なんていう単位で計算することがありません。投与速度の指示はml/hrで出しますし、ノルアドレナリンは1Aあたり1mg入っています。そんな風に普通は「hr」や「mg」を使います。なので、それに直せばいいのです。 

 

γとはμg/kg/minでした。「1分あたりの体重1kgあたりの投与量(μg)」というところから考えます。1時間あたりの投与量にするためには単純に60倍すれば良くて、μgをmgにするには0.001で掛ければいいですね。それが1kgあたりの投与量なので、実際の投与量には患者の体重をかければいいことになります。そうすると、以下の式になります。

 

γ=0.06×BW mg/hr 

だいぶすっきりしました。計算は相当かっ飛ばしましたが、自分で一回は計算してみてください。

 

例えばBW=50kgの場合を考えると、3.0mg/hrが1γに相当することになります。大事なことなのでもう一回言います。体重50kgの方に限定すれば、1γ=3mg/hrなのです。ものすごく大事なので、この式はきちんと理解してください。応用させるのは簡単で、75kgの人なら1.5倍すればいいので1γ=4.5mg/hrになります。 

 

 

2.投薬の実際

なんだ、γって簡単じゃんって思いますよね?でもこれだけではまだ、臨床の現場で役に立ちません。

 

当たり前ですが、薬剤ごとに投与量は異なります。そして、それに見合った組成で点滴を組む必要があります。具体的にいうと、どのくらいの濃度の溶液を作るか、ということです。

 

よくプレゼンで投与速度だけをいう研修医がいますが、それは何の意味もありません。一番よく使う薬剤はノルアドレナリンかと思いますが、それは1A 1mgの製剤だと言いました。患者さんに投与されている点滴の中にノルアドレナリンのアンプル製剤が何本入っているか、そしてその生理食塩水の量は50mlなのか100mlなのか、ということが言及されないとわからないのです。

 

そんな問題を解消するための共通言語であるのがγです。「ノルアドを0.1γで投与中です」と言われたら一発で状況がわかります。

 

※プレゼンはγで言いましょう

 

例えばドパミンのように、最初からバッグに詰められている製剤もあります。ドパミンは添付文書で1-20γの投与と記載されています。バッグ製剤では0.1%、0.3%、0.6%と3種類の濃度が存在するので、自分の病院の採用を確かめておくのは大事です。

 

例えば0.6%製剤で2γの投与をしておけ、と言われたら全ての研修医はパニックになります。咄嗟にだと、%とmgすら意外と結びつかなかったりします。生理食塩水は0.9%で、1Lあたり9g入っていましたね。0.6%製剤では1Lあたり6gのドパミンが入っていることになります。1mlあたり6mgということですね。

 

上の方で、1γ=3mg/hrだと強調しました。2γだと、6mg/hrになりますから、0.6%製剤で1ml/hrで投与すれば2γになります。どうでしょう、少しできるような気がしてきますでしょうか。

 

実際バッグ製剤は袋に早見表が書かれていて、縦軸に体重、横軸に投与したいγをとると、投与速度が決まるようになっています。なのでこれは簡単に投与できます。

 

 

次のステップとして、生理食塩水で薄めなければならない製剤を考えます。こういう組成の作り方は、絶対に慣例に従ってください。つまり、過去に誰かがやっていた投与法を丸ごと盗むのです。こんなことを書くと胡散臭いかもしれないですが、添付文書を読みながら独自の組成を作ると必ず事故が起こります。僕は今でも、使い慣れていない薬剤の投与を行うときは必ず看護師に相談し、薬剤師に確認してもらいます。

 

具体的にはノルアドレナリンを考えてみましょう。これはもっとも使う製剤ですが、バッグ製剤はありません。ノルアドレナリンだけはすぐに使えるようにしておいて欲しい、と研修医によく話しています。血圧が下がってきた、という患者がいる前で投与量の計算を始めるようでは遅いです。例えば頻脈に対してジルチアゼムを投与する場合などは、緊急性が乏しいので落ち着いて計算してください。

 

ということで、以下のことを頭に叩き込みます。

投与量:0.03-0.3γ、組成:生理食塩水97ml+ノルアドレナリン3A、投与速度:(BW50kgなら)1ml/hrあたり0.01γ

 

具体的に計算しましょう。組成を見ると、3mg/100mlなので0.03mg/mlになります。体重50kgの時は1γ=3mg/hrでした。これはしつこく強調します。0.03mg/mlの組成で1ml/hr投与すると、0.03mg/hr、つまり0.01γになるのです。

 

少し話を戻して、ドパミン製剤について考えましょう。製剤が0.1%、0.3%、0.6%と紹介しました。でも、0.6%って中途半端じゃないですか?普通0.5%じゃないでしょうか?これが0.6%なのは1γ=3mg/hrという式が、3の倍数からできているからです。実際計算すると、スムーズに行えます。

 

 

これが基本形で、50mlあたりに3A溶く施設も、100mlあたりに6A溶く施設もあると思います。これらも上記の計算式を倍量しているいるだけです。投与量が増えすぎると、頻回な交換が必要になる煩雑さは大きいですから、状況次第で濃度の調整を行うこともあります。あとは患者の体重に応じて、投与量を頭で調整してください。75kgなら1.5倍、というように。体重も、理想体重を用いるべきという意見もあります。

 

薬剤によってはmg/kg/hrで記載されている添付文書もあります。しかしこの計算に慣れておけば、あとは簡単です。