粟田口忠良 あふちさく【前編】 | わたる風よりにほふマルボロ

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百首歌たてまつりし時

 

あふちさくそとものこかげ露おちて五月雨はるる風わたるなり

 

粟田口忠良

新古今和歌集夏234


 

 

現代語訳】

 

楝の花の咲く、

家の外のその木の陰、

そこに名残りの露は落ちて、

五月雨の晴れる

そのきっかけであるかのような

風が、吹き渡ってゆくようだ。

 

(訳:梶間和歌)
 

 

【本歌、参考歌、本説、語釈】

 

あふち:楝(おうち)。栴檀の古名。

 初夏に淡紫色の花をつける。

 

そとも:外面。家の外。

 

こかげ:木陰

 

露:(五月雨の降った名残りの)

 

五月雨はるる風:

 五月雨の晴れる、

 その要因として吹く風

 

わたるなり:渡る音が聞こえる、

 渡る様子が音からわかる。

 「なり」はもともと

 「音(ね)有り」の約(つづ)まって

 出来た聴覚情報の助動詞で、

 「に有り」の約まって出来た

 断定の助動詞「なり」とは別語。

 主に音、少なくとも視覚情報以外を

 根拠として何かを推定する意、

 また伝聞の意を表す。

 (ここでは伝聞の意は考えなくてよい)

 ここでは風の音や露の落ちる音、

 肌に感じる涼しさなどから

 「五月雨を晴らす風が渡るようだ」

 と判断した推量を表す。

 

 

 

初夏の景物「あふち」と言えば、

永福門院の

 

うすみどりまじるあふちの花みれば面かげにたつ春の藤波
玉葉和歌集夏301

 

ですが、いつものように

京極派に走るのではなく

 

そもそも「あふち」が

和歌や古典作品において

どのように扱われてきたのか

を見ておきましょう。

 

 

(栴檀)は万葉の有名な憶良の歌にうたわれ、

ついで新古今歌人にわずかに取上げられた程度の、

比較的めずらしい歌材である。

 

 

ということで、歌材として

厚みのある歴史を持つ花

ではないようです。

 

『古典基礎語辞典』には

「あふち」の言及がありましたが

『歌枕歌ことば辞典 増訂版』

にはありませんでしたし。

 

 

 

 

『古典基礎語辞典』いわく、

 

『枕草子』三十七段に

木のさまにくげなれど、あふちの花いとをかし。

とあるそうです。

 

いったん貶してから評価する

清少納言節。

 

 

 

先の岩佐美代子氏の図書で言う

新古今歌人にわずかに取上げられた

の一例が

今回の忠良詠「あふちさく」

ということですね。

 

 

藤原忠良は

九条良経のいとこで

父親同士が兄弟、

 

というか

忠良の父親近衛基実は

早死にしたものの

良経の父兼実より年長で

摂関家の後継者だったので、

 

基実の平家との結びつきや

早世がなかったとしたら

いとこ間の力関係などは

どうだったのでしょう。

 

忠良は近衛基実の二男であり

嫡男ではないので、そのあたりも、

現代人の感覚で単純に

「良経のいとこ」と考えては

いけないのかも。

 

(良経も兼実の二男ですが、

 兄の急逝で九条家を継いでいます)

 

家格のことや

嫡男とそれ以外の男子の

関係性など

いまいちわかっておらず、

すみません。

 

 

なんにせよ、忠良は

政治より和歌での活動の

目立った人物のようで、

 

後鳥羽院歌壇でも

複数の主要な企画に出詠したり

「千五百番歌合」では

判者も務めたりしたようです。

 

 

ものすごく有名な新古今歌人

ということではないにせよ、

 

新古今時代に活躍した

摂関家傍流の歌人

という感じでしょうか。

 

 

少々長くなりましたので、

続きはまた明日

 

 

あふちさくそとものこかげ露おちて五月雨はるる風わたるなり

 

 

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