いまさら、「もしドラ」
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら/岩崎 夏海¥1,680Amazon.co.jp楽園的採点:★★★★(80点)はい、超今更読みました。今更にもほどがあるほど今更ですが、とにかく、読んでみたわけです。そして何を隠そう、わたくしは高校生時代、野球部の女子マネージャーでした。そして、この本にあるのと同様に、当時の野球部の監督は東大生でした(いや、本では、東大卒の教師なんだけど、うちの場合は現役東大生でしたけど・・)。なので、なんというか、他人事とは思えず、思わず一気読みしてしまいましたわ・・。感想としては、素直に、これは、大ベストセラーになるわ・・と、認めるしかありません。そして、とても面白かった、と認めるしか・・。というのは、ほとんどの方がご存知かつご想像の通り、この本は日本の中学・高校スポーツにおける「女子マネージャー」という不思議な名称のある役職と、いわゆる「マネージングする人」という意味のマネージャーの掛け言葉(っていうのかしら)を面白がりつつ、実際「ビジネス・マネージング」のバイブルであるドラッカーさんの本を読んだ女子マネージャーが、その本にのっとって高校野球部をマネージングしたらどうなるか・・という、冗談としか思えない設定なのですわね。で、主人公のみなみちゃん(やはり高校野球部のマネージャーといえば「みなみ」ちゃんなのでしょうか・・)は、ものすごく真面目にドラッカーの『マネジメント』を読み込んで、着々とそれを実行に移していく、まあ女子高校生にしておくのはもったいない知性と行動力の持ち主です。なので、彼女が読む『マネジメント』の内容はちょくちょく引用されるし、マネジメントというものがなんなのか、読み終わった頃には読者にもわかったような気がする(気がする、以上の何物でもないという欠点はあるにしろ)、とてもためになる本でした。と同時に、ですよ。この本は小説なので、もちろん「お話の筋」というものがあります。そして、この「お話の筋」がねーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。すごいのよ。それはもう。なんかね、ドラッカーの『マネジメント』が、云々、という、ちょっととっつき難そうなイメージをまったく裏切って、小説としてのこの本は、恐ろしいほどに単純です。わたくし、久しぶりに、こんなヒネりのない本読んだわ。みなみちゃんは、弱くてだらしのない野球部を、甲子園に連れて行くべくマネージングを開始するわけですが、もうそれはそれはご都合主義的に、監督も選手もそして女子マネージャーたちも、「マーケティングしがいのある」要求や問題を抱えています。そして、よもやこれほど臆面もなくそうすることが許されるのか?と、読んでいるほうが心配になるほどご都合主義的に、みなみちゃんのドラッカー流マネジメントは功を奏します。いや、なんていうんでしょう、普通小説を書くときって(わたくしもですが)ちょっとした困難とか、意地悪な登場人物とか・・とにかく、主人公にとってマイナスの要素をちりばめて、そこで読者をハラハラドキドキさせて、ということをしたくなる、もしくはしないといけないのではないか、と思ってしまいますよね?しかしこの小説は違います。ザ・とんとん拍子!!!もちろんちょいちょい問題はあるのですが、それはすべて『マネジメント』によって解決されるために現れる問題なので、ハラハラもどきどきもありません。待ってました、とばかりに問題が現れ、待ってました、とばかりにドラッカーの言葉を元にそれを解決する。その繰り返し。で、これがまたねー、気持ちいいんだ!古きよき時代の水戸黄門が、まったく危機に陥ることなく問題を解決するのが安心できるように、この小説もあまりのとんとん拍子さに、気持ちが良くなってくるのです。人生がこのくらい簡単だったら、ほんと、幸せだろうなー。というくらい。途中いろいろドラマチックな出来事もあるのですが、とにかく全体としてはとんとん拍子、というか、とんとん拍子に進むためだけに登場人物は揉め事を起こし、順当に解決していきます。それはちょっと、超単純なゲームをやり続ける達成感に似ていないこともない。というわけで、魔法の書「マネジメント」を開けば、問題解決の方法は必ずあり、それを実践すれば問題は必ず解決する・・という、児童書にも見かけないくらいの単純なリズムでお話は進み、そしてまったく予想通りに終わります。で・・わたくしが思うに、「小説を読むのがすき」という一部の読書人を除いた一般的な人、例えばビジネス書/自己啓発書しか読まないという若いサラリーマンの皆様あたりが求める「お話」って、これで十分なのよね。別に文学的香りを求めているわけでも、哲学的自己探求を求めているわけでもないだろうから。読んでいて気持ちがよくて、すべてはとんとん拍子に解決し、そしてドラッカーの『マネジメント』も理解できたような気分になる。これほど気軽な「読書体験」はちょっとありません。そして、本書に書かれている「マーケティングの重要性」を、痛いほどわからせてくれる本でもありました。どんなに文学したって、哲学したって、自分の命を削って芸術したって、それを理解し、求めてくれる顧客というのはごくわずか。もちろんそのごくわずかの「わかってくれる人」のために芸術作品をつくることは素晴らしいことですが、小説を読む人よりも読まない人のほうが圧倒的に多いこの世の中、「より多くの人」のための小説を書こうとした結果がこの小説であり、実際、社会現象にまでなった、というのは、マス・マーケティングの正当性をこの本自体が体現しているという、狙った通りなのか皮肉なのか、見る人によって意見が分かれる結果になっていると思うのですが。