たくさんの学びと思い出をありがとう。若き師との別れを悼む | 人生の果実を味わう彫金職人の暮らし フィレンツェ物作り物語

人生の果実を味わう彫金職人の暮らし フィレンツェ物作り物語

フィレンツェ在住22年の、ジュエリークリエーターKaorukoが、物作りについて、イタリア子育て生活をまじえながらお伝えします。

日本の皆様


おはようございます。


ここ数日、何も書く気になれず過ごしていました。


数週間前から毎日続けていた祈りも届かず、

またしても大切な人を失って、


ポッカリと空洞の数日が過ぎていった。


イタリアで、主人よりも誰よりも長い付き合いなのは、IDRUSで私を雇い入れてくれたアレッサンドロ。






当時30そこそこで店を構えていた若きジュエリークリエーターだった彼は、師匠でありながら、良き先輩と言った風情だった。

私より少し上なだけだが、フィレンツェの職人の中でも技術はピカイチ、


作るもの全てがエレガントだった。


才能のある人って、すごいなぁ。

ちょっと失敗しそうになって困って、彼のところへ持っていくと、

あっという間に美しく立て直してくれる。


困った時は手を差し伸べてくれるが、いつも完璧を求めて厳しい目でチェックされた。




彫金学校を終えて、履歴書を持って、このお店の門をたたき、


見習いとして働く前に、試しにやらされた、やすりがけがあまりにも酷くて、


結局見習いとしても雇われず、自分のものを作って良いよ!


というなんともファジーな状態から、ここに居場所を見つける。



その後、上達して、ちゃんと見習いになり、最終的には正社員にもなれた。


私は店員兼職人、そしてマーケティングなどなど、何でも屋という身分で、本当は職人の比重を多くしてもらいたいのに、中々それが叶わず、悶々とした日々もあった。



結婚、出産を経て、産休後もここに戻って来た。

アレッサンドロは、私の子供たちもとても可愛がってくれた。


イタリアの幼稚園や学校は、ストライキが本当に多く、いつも前日とか当日に言い渡される。

イタリア人家族には必須のおばあさんおじいさんが、いないわが家は、子供達を預ける場所がない。


仕方がないので、職場へ連れて行く。


それに対しても彼は、寛大に受け入れてくれた。


まるで家族のように扱ってくれる大らかなイタリアの経営方針がそこには存在していた。


店舗兼工房の、工房部分で、わが娘たちは、私が勤務している間、絵を描いたり、日本語の勉強をしながら待っていた。



退職したのは、コロナ後なので、気がつけば20年近くお世話になった。


イタリア、フィレンツェで私が一番時間を過ごした場所がIDRUSだった。


退職してからも、頻繁に足を運び、制作についてはもちろんのこと、それ以外についても、いつもアドバイスを仰いでいた。

アレッサンドロはいつも真摯に、一つ一つの質問に答えてくれた。


もう、訪ねて行っても、教えてくれる人はいない。

心の中にぽっかりと穴が空いたようで、IDRUSに行っても、アレッサンドロに会えないことが信じられない。


今でもいつものようにPCの前か、作業台の前に座り、呼び鈴を押すと立ち上がって解錠ブザーを押す。


何度も繰り返し、見て来た姿のまま、お店にいる。


そう思いたい。


そうでないなんて、おかしい。


まだまだ現実を認められない私は、一週間前にアレッサンドロから頼まれた最後の仕事をやり遂げられたことだけが、唯一の救いだった。


時々会っていたとはいえ、最近は1ヶ月に1回も見ない感じだった。

人生最後の二週間前に会い、一週間前までビデオチャットで一緒に仕事ができたことは、神様が最後に仕向けてくれた時間だったように思えてくる。


だからこそ、遠い記憶ではなく、リアルな存在のまま私の中に残っていて、それが悲しさを一層大きくするのだが、


私の人生に大きな影響を与えてくれた人と、お別れの時間を過ごせたことは、何よりの宝物である。


最後のリングを作る姿は、もうほぼ完全に病が彼を蝕んでいて、痛々しかったけれど、

でも相変わらず、最後の最後まで、アイロニーいっぱいの冗談混じり。


なので、私もそれに付き合って軽口を叩く。


決してしんみりとはならない。


そしてビデもチャットで話した日は、

心の中では、本当にお店に戻って来られるのだろうか?

と感じていても、


「今は静養に集中して!早く戻れるようにね!」

やっぱり今まで通りに朗らかに伝える。


そしてそれが私が彼を見た最後となった。


イタリアという第二の祖国で、一番の影響を受けた人が、私の前から去って行った。


まだまだ働き盛りで、これからもどれほど美しい作品を世に送り出せたかと思うと、身につまる。

しかし、どれほど身体が蝕まれていても、弱音一つはかず、

最後の最後まで物作りの場を離れなかったアレッサンドロ バレッリーニという人は、


生まれ持っての職人であり、芸術家であった。


どうぞ安らかに眠って下さい。


またいつか、どこかで会える日を楽しみにしています。


ありがとうアレッサンドロ。




昔懐かしい記事をあげておきます。


アレッサンドロを偲いで、どうぞお読み下さい。














今日も最後まで読んで下さり、ありがとうございました。



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