がんは増殖するために自らのDNAを壊している? 「最大の強み」が治療の弱点になる可能性

がん細胞は、増殖を続けるために自らのDNAへ強い負荷をかけ、結果としてDNAを切断している可能性がある――。そんな興味深い研究結果が、エルサレム・ヘブライ大学の研究チームから報告されました。成果は『Science Advances』に掲載されています。

がん細胞は、正常細胞よりもはるかに活発に増殖関連遺伝子を働かせています。その際に重要な役割を果たすのが「スーパーエンハンサー」と呼ばれるDNA上の強力なスイッチです。スーパーエンハンサーは、腫瘍の成長や生存に必要な遺伝子を猛烈な勢いで活性化します。

研究チームが高感度のゲノム解析を行ったところ、最も深刻なDNA損傷である「二本鎖切断」が、ゲノム全体にランダムに起きているのではなく、スーパーエンハンサーによって強く働かされている遺伝子周辺に集中していることが分かりました。

つまり、がん細胞は増殖のアクセルを踏み続けることで、自らのDNAを傷つけている可能性があるのです。

 

もちろん細胞にはDNA修復機能があります。がん細胞も損傷したDNAを何度も修復しながら生き延びています。しかし、切断と修復を繰り返す過程では小さなミスが起こり、新たな遺伝子変異が蓄積する可能性があります。それが、がん細胞のさらなる悪性化や転移、薬剤耐性の獲得につながる可能性も考えられます。

興味深いのは、この仕組みががんの「弱点」にもなり得ることです。

がん細胞はスーパーエンハンサーによる高出力の遺伝子活動や、そこで生じるDNA損傷を修復する仕組みに大きく依存しています。将来的に、この激しい遺伝子活動を抑えたり、がん細胞特有のDNA修復機構を狙ったりできれば、腫瘍が増殖し続ける力を逆手に取った治療につながる可能性があります。

今回の研究は主に細胞や分子レベルの基礎研究であり、新しい治療法がすぐに使えるという段階ではありません。それでも、「がんの遺伝的不安定性は単なる結果ではなく、がんが増殖する仕組みそのものから生まれている可能性がある」という視点は重要です。

増殖し続ける力こそが、がん最大の武器。しかし、そのアクセルを踏み続けることでDNAには絶えず傷がついている――。がんの強さの裏側に潜む“自己破壊的な弱点”が、将来の治療につながるかもしれません。

 

【出典論文】

Osama Hidmi, Diala Shatleh, Sara Oster Flayshman, Jonathan Monin, Rami I. Aqeilan. Superenhancers shape the landscape and repair dynamics of transcription-associated DNA breaks in cancer. Science Advances, 2026; 12 (4) DOI: 10.1126/sciadv.aeb6379

脂肪は減らせばよいとは限らない?「健康な脂肪」の喪失が糖尿病を招く可能性 

 

 

脂肪は少ないほど健康によい――。そんな一般的なイメージを覆す研究結果が、米国ミシガン大学の研究チームから報告されました。健康な脂肪組織が失われると、体内で脂質を適切に処理できなくなり、糖尿病や脂肪肝につながる可能性があるというのです。

脂肪組織は、余分なエネルギーを蓄えるだけの場所ではありません。必要に応じて脂質を安全に保管し、食欲や血糖値、代謝を調節するホルモンを分泌する、重要な臓器でもあります。

研究チームが注目したのは、体の一部の脂肪が異常に失われる「家族性部分型脂肪異栄養症2型(FPLD2)」です。この病気では、見た目には脂肪が少なくても、重いインスリン抵抗性や糖尿病、脂肪肝を発症することがあります。

研究者らは、患者で変異がみられるラミンA/C遺伝子を脂肪細胞だけで働かなくしたマウスと、患者から提供された脂肪組織を解析しました。その結果、脂肪細胞は脂質を正常に蓄えられなくなり、細胞内のミトコンドリアも機能低下を起こしていました。さらに、脂肪細胞や周囲の免疫細胞が炎症を促す状態に変化し、最終的に脂肪組織そのものが消失していくことが分かりました。

 

健康な脂肪組織という「安全な貯蔵庫」を失うと、行き場をなくした脂質が肝臓や筋肉などに蓄積し、インスリンが効きにくくなると考えられます。

 

研究者は「2型糖尿病は膵臓のインスリン産生細胞だけでなく、脂肪細胞の病気でもある」と指摘しています。今回の研究は、単に体脂肪の量を減らすのではなく、正常に働く脂肪組織を維持することの重要性を示しています。

 

将来的には、脂肪細胞が炎症や機能不全に陥る前に保護する治療法の開発につながるかもしれません。健康を左右するのは脂肪の「多い・少ない」だけではなく、どこにあり、どれほど健全に働いているか。脂肪に対する私たちの見方を変える研究といえそうです。

 

【出典】

Jessica N. Maung, Rebecca L. Schill, Akira Nishii, Maria Foss de Freitas, Bonje N. Obua, Marcus Nygård, Maria D. Mendez-Casillas, Isabel D.K. Hermsmeyer, Donatella Gilio, Ozge Besci, Yang Chen, Brian Desrosiers, Rose E. Adler, Anabela D. Gomes, Merve Celik Guler, Hiroyuki Mori, Romina M. Uranga, Ziru Li, Hadla Hariri, Liping Zhang, Anderson de Paula Souza, Keegan S. Hoose, Kenneth T. Lewis, Taryn A. Hetrick, Paul Cederna, Carey N. Lumeng, Susanne Mandrup, Elif A. Oral, Ormond A. MacDougald. Altered lipid metabolism and inflammatory programs associate with adipocyte loss in familial partial lipodystrophy 2. Journal of Clinical Investigation, 2025; 136 (1) DOI: 10.1172/JCI198387

 

 

 

深睡眠は「成長ホルモン」の司令塔だった 筋肉・脂肪燃焼・脳機能を支える脳回路を解明

「しっかり眠ると体が回復する」とよく言われますが、その理由が脳の神経回路レベルで明らかになりました。米国・University of California, Berkeley の研究チームは、深い睡眠と成長ホルモンの分泌を結びつける脳内回路を初めて解明しました。研究成果は生命科学の国際誌 Cell に掲載されています。

成長ホルモンは子どもの成長だけでなく、筋肉や骨の修復、脂肪の燃焼、糖代謝の調節など、生涯にわたって重要な働きを担います。これまで、深いノンレム睡眠中に成長ホルモンが多く分泌されることは知られていましたが、脳がどのようにこの仕組みを制御しているのかは長年の謎でした。

研究チームはマウスの脳内神経活動を詳細に解析し、視床下部にある「成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)」を分泌する神経細胞と、分泌を抑える「ソマトスタチン」神経細胞が、睡眠段階に応じて精密に働き分けられていることを発見しました。さらに、成長ホルモンが分泌されると、脳幹の「青斑核」という覚醒や注意力を担う領域へ信号が送られ、睡眠と覚醒のバランスを調整するフィードバック機構も明らかになりました。

この仕組みにより、睡眠中は筋肉や骨の修復、脂肪代謝が促される一方、ホルモン量が一定以上になると覚醒へ向かうスイッチが入り、睡眠と覚醒が適切に切り替わると考えられます。

研究者らは、この神経回路が睡眠不足によって肥満や糖尿病、心血管疾患のリスクが高まる理由を説明する手がかりになるとしています。また、成長ホルモンは認知機能にも関与することから、睡眠不足が集中力や記憶力の低下につながるメカニズムの理解にも役立つ可能性があります。

さらに、この回路はアルツハイマー病 や パーキンソン病 など、睡眠障害を伴う神経変性疾患の新たな治療標的になることも期待されています。

 

今回の研究はマウスを用いた基礎研究であり、そのまま人への治療に結びつくわけではありません。しかし、「深く眠ること」が筋肉づくりや脂肪燃焼だけでなく、脳の働きや代謝の健康まで支えていることを、神経回路レベルで示した重要な成果です。十分な睡眠は、運動や栄養と並ぶ「健康づくりの土台」であることを、改めて裏付ける研究といえるでしょう。 

 

【出典】

Xinlu Ding, Fuu-Jiun Hwang, Daniel Silverman, Peng Zhong, Bing Li, Chenyan Ma, Lihui Lu, Grace Jiang, Zhe Zhang, Xiaolin Huang, Xun Tu, Zhiyu Melissa Tian, Jun Ding, Yang Dan. Neuroendocrine circuit for sleep-dependent growth hormone release. Cell, 2025; 188 (18): 4968 DOI: 10.1016/j.cell.2025.05.039

 

 

 ビタミンAが「鮮明な視力」をつくる鍵だった 

長年の定説を覆す発見、視力回復への期待も

人はなぜ、文字を読んだり、人の表情を細かく見分けたりできるほど鮮明な視力を持っているのでしょうか。

この長年の謎に対し、米国の研究チームが新たな答えを示しました。

米国Johns Hopkins University の研究グループは、ビタミンA由来の物質と甲状腺ホルモンが胎児期の網膜で連携し、

鮮明な中心視力を生み出す仕組みを解明しました。

 

研究成果は、米国科学アカデミー紀要 「Proceedings of the National Academy of Sciences」 に掲載されています。

人の網膜には、昼間の視覚や色覚を担う「錐体細胞」があり、青・緑・赤の3種類があります。しかし、最も鮮明な視力を担う「中心窩小窩(フォベオラ)」には、赤と緑の錐体細胞しか存在しません。これまで研究者の間では、青色錐体細胞は一度中心部にできた後、外側へ移動すると考えられてきました。

今回の研究では、ヒトの網膜オルガノイド(幹細胞から作製したミニ網膜)を数か月にわたり観察。その結果、青色錐体細胞は移動するのではなく、その場で赤色または緑色錐体細胞へと「変化」することが明らかになりました。

この変化には2段階の仕組みが働いていました。まず、ビタミンA由来の分子であるレチノイン酸が分解されることで、新たな青色錐体細胞の形成が抑えられます。続いて甲状腺ホルモンが残った青色錐体細胞を赤色や緑色錐体細胞へと変換し、高解像度の視覚に適した網膜構造を完成させていました。

つまり、ビタミンAは単に「目に良い栄養素」というだけではなく、胎児期の網膜発達において、鮮明な視力を生み出す設計図の一部として重要な役割を果たしていることが示されたのです。

研究チームは、この発見によってヒト網膜の発生メカニズムへの理解が大きく進むとともに、実験室でより本物に近い網膜組織を作製できる可能性が高まると期待しています。将来的には、加齢黄斑変性 や緑内障などで失われた視力を回復する細胞移植治療の実現にもつながる可能性があります。

もちろん、今回の研究は胎児の発生過程を対象とした基礎研究であり、「ビタミンAを多く摂れば視力が改善する」という意味ではありません。

ビタミンAの過剰摂取は健康被害を招くことも知られており、サプリメントによる自己判断での大量摂取は避けるべきです。

それでも今回の成果は、人間がどのように鮮明な視力を獲得するのかという基本的な仕組みを塗り替える発見であり、視力再生医療への新たな道を切り開く重要な一歩といえそうです。

 

【論文】

Katarzyna A. Hussey, Kiara C. Eldred, Brian Guy, Clayton P. Santiago, Jingliang Simon Zhang, Ian Glass, Thomas A. Reh, Seth Blackshaw, Loyal A. Goff, Robert J. Johnston. A cell fate specification and transition mechanism for human foveolar cone subtype patterning. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2026; 123 (7) DOI: 10.1073/pnas.2510799123

魚油サプリは認知症予防に効かない? 大規模臨床試験が示した意外な結論
 


「オメガ3脂肪酸は脳に良い」「魚油サプリを飲めば認知症予防になる」。そんなイメージを持つ人は少なくありません。しかし、最新の大規模臨床試験は、その期待に一石を投じる結果となりました。

Keck School of Medicine of USC の研究チームは、アルツハイマー病リスクが高い高齢者365人を対象に、2年間にわたるランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施しました。研究成果は医学誌 eBioMedicine に掲載されています。

参加者は55~80歳で、普段ほとんど魚を食べない人たちでした。約半数は、アルツハイマー病の発症リスクを高めることで知られるAPOE4遺伝子を持っていました。

研究では、1日2,000mgのDHA(ドコサヘキサエン酸)を含む魚油サプリメント、またはプラセボを毎日服用してもらいました。まず研究者が確認したかったのは、「サプリメントのDHAが本当に脳まで届くのか」という点です。

その結果、脳脊髄液中のDHA濃度は6か月後に平均17%増加しており、サプリメント由来のDHAは確かに脳へ到達していました。

ところが、その先が予想とは異なりました。

2年間の追跡調査では、魚油サプリを飲んだ人もプラセボ群も、記憶力や認知機能にほとんど差がありませんでした。さらにMRI検査では、アルツハイマー病で萎縮しやすい海馬の縮小を抑える効果も認められませんでした。

つまり、「脳には届いていたが、認知機能や脳の老化を改善する効果は確認できなかった」のです。

研究を主導したフセイン・ヤシーン医師は、「誰もが認知症を防ぐ特効薬を期待していますが、今回の研究は魚油サプリメントがアルツハイマー病予防になることを支持しませんでした」と述べています。

では、オメガ3脂肪酸は意味がないのでしょうか。

研究者らはそう考えてはいません。むしろ、オメガ3脂肪酸は魚油サプリとして単独で摂取するよりも、魚、野菜、果物、オリーブオイル、ナッツなどを中心とした地中海食の一部として摂取することで効果を発揮する可能性があると指摘しています。食事全体のバランスや運動、睡眠、血圧や糖尿病の管理など、多くの要素が組み合わさって初めて脳の健康につながるという考え方です。

今回の研究は、「サプリメントだけで認知症を予防できる」という期待には慎重であるべきことを示した重要なエビデンスといえます。

 

認知症予防に近道はありません。現時点で最も確かな方法は、適度な運動、質の良い睡眠、バランスの取れた食事、そして社会とのつながりを維持することです。魚油サプリに頼るよりも、毎日の生活習慣を整えることこそが、将来の脳を守る最も確実な「投資」なのかもしれません。 

 

Hussein N. Yassine, Sara Ghasem Pour, Marlene Juarez, Isabella C. Arrelanas, Nada Ali, Dante Dikeman, Ashley Sanchez, Jackson Park, Bilal Kerman, Marlon V. Duro, Isaac Asante, Stan Louie, Naoko Kono, Lina M. D\'Orazio, Helena Chui, Wendy J. Mack, Michael G. Harrington, Meredith N. Braskie, Lon S. Schneider. CNS target engagement of high-dose DHA supplementation in older adults at risk for dementia: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. eBioMedicine, 2026; 106316 DOI: 10.1016/j.ebiom.2026.106316

 

 

「70代からでも遅くない」――楽器を始めると記憶力を守れる? 京都大学の4年間研究が示した希望

 



「楽器は子どものころから習わないと意味がない」。そんな常識を覆す研究結果が、京都大学の研究チームから報告されました。

学術誌『Imaging Neuroscience』に掲載された研究によると、70代になってから楽器の練習を始めても、記憶力の低下や脳の萎縮を抑える効果が期待できることが明らかになりました。

加齢とともに、物事を一時的に記憶しながら考える「ワーキングメモリ」は衰えやすくなります。また、記憶や運動の調整に関わる被殻や小脳といった脳の領域も、年齢とともに萎縮することが知られています。

研究チームは以前、平均73歳の高齢者を対象に、初めて楽器を4か月間練習してもらったところ、記憶力や脳機能が改善することを報告していました。今回の研究では、その効果が長期間続くのかを調べるため、同じ参加者を4年間追跡しました。

その結果、4か月のトレーニング後も3年以上にわたり楽器の練習を続けた人たちと、練習をやめて別の趣味に移った人たちとの間に、はっきりした違いが現れました。

楽器の練習をやめたグループでは、言語性ワーキングメモリの低下がみられ、記憶や運動機能に関わる「右被殻」の灰白質体積も減少していました。

 

一方で、楽器演奏を継続していたグループでは、記憶力の低下や脳の萎縮はほとんど認められませんでした。さらに、小脳の広い範囲で脳活動が活発に保たれていることもMRI検査で確認されました。

 

研究を主導した京都大学の研究者は、「高齢者が楽器演奏を始めて継続することで、脳の特定の領域が保護され、加齢による認知機能低下を予防できる可能性が示されたことは驚きでした」と述べています。

 

興味深いのは、参加者の多くが人生の後半になって初めて楽器を始めたという点です。つまり、幼少期から音楽教育を受けていなくても、脳への恩恵を受けることができる可能性があります。

 

また「体の痛みなどで運動が難しい人にとって、楽器演奏は素晴らしい代替手段になり得る」と指摘しています。音楽の練習は、指を動かし、耳で音を聴き、楽譜を読み、リズムを合わせるなど、脳のさまざまな領域を同時に使う全身運動ともいえるからです。

 

今回の研究は、「何歳から始めても遅すぎることはない」という心強いメッセージを私たちに与えてくれます。

 

ピアノやウクレレ、ハーモニカ、リコーダーなど、難しい楽器である必要はありません。大切なのは、楽しみながら継続すること。音楽は、人生を豊かにするだけでなく、脳を若々しく保つ最高の趣味になるのかもしれません。

 

【出典】

Xueyan Wang, Masatoshi Yamashita, Xia Guo, Lars Stiernman, Marcelo Kakihara, Nobuhito Abe, Kaoru Sekiyama. Never too late to start musical instrument training: Effects on working memory and subcortical preservation in healthy older adults across 4 years. Imaging Neuroscience, 2025; 3 DOI: 10.1162/IMAG.a.48

フライドポテトが糖尿病リスクを高める? 40年・20万人超の研究が示した意外な真実



 

「ジャガイモは血糖値を上げやすいから体に悪い」と言われることがあります。しかし、本当に問題なのはジャガイモそのものではなく、「どう調理するか」なのかもしれません。

『BMJ』に掲載された大規模研究によると、週に3食分のフライドポテトを食べる人は、2型糖尿病の発症リスクが20%高くなることが明らかになりました。一方で、ゆでジャガイモ、ベイクドポテト、マッシュポテトでは、糖尿病リスクの有意な増加は認められませんでした。

研究では、1984年から2021年まで約40年間にわたり、20万5,000人以上の米国の医療従事者を追跡しました。開始時点で糖尿病や心血管疾患、がんを患っていなかった参加者の食習慣を4年ごとに調査し、その後の健康状態を追跡しました。

その結果、約2万2,000人が2型糖尿病を発症しました。解析すると、ジャガイモを週3食分多く食べるごとに糖尿病リスクは全体で5%上昇しましたが、その大部分はフライドポテトによるものでした。フライドポテトを週3回多く食べると、発症リスクは20%上昇していました。

一方、焼きジャガイモやゆでジャガイモ、マッシュポテトでは、糖尿病リスクの有意な増加はみられませんでした。

さらに興味深いのは、「何と置き換えるか」で結果が変わることです。

ジャガイモを週3回、全粒穀物(玄米、オートミール、全粒パンなど)に置き換えると、糖尿病リスクは8%低下しました。特にフライドポテトを全粒穀物に置き換えた場合は、リスクが19%低下しました。

 

逆に、ジャガイモを白米に置き換えると、糖尿病リスクはむしろ上昇しました。つまり、「ジャガイモを食べるかどうか」だけではなく、「どの炭水化物を選ぶか」が重要であることが示されたのです。

ジャガイモは食物繊維やビタミンC、カリウム、マグネシウムなどを含む栄養価の高い食品です。研究者らも、「ジャガイモを一括して不健康と考えるべきではない」と指摘しています。

もちろん、この研究は観察研究であり、フライドポテトが直接糖尿病を引き起こすことを証明したわけではありません。しかし、長年のデータから浮かび上がったのは、「問題はジャガイモそのものではなく、揚げることや食事全体のバランスにある可能性が高い」ということです。

健康的な食生活を考える上では、フライドポテトを控えめにし、全粒穀物や野菜を増やすことが、糖尿病予防の一つの鍵になるのかもしれません。

 

【出典】

Seyed Mohammad Mousavi, Xiao Gu, Fumiaki Imamura, Hala B AlEssa, Orrin Devinsky, Qi Sun, Frank B Hu, JoAnn E Manson, Eric B Rimm, Nita G Forouhi, Walter C Willett. Total and specific potato intake and risk of type 2 diabetes: results from three US cohort studies and a substitution meta-analysis of prospective cohorts. BMJ, 2025;390:e082121 DOI: 10.1136/bmj-2025-082121


Daniel B Ibsen, Yanbo Zhang. Potatoes and risk of type 2 diabetes. BMJ, 2025; 390: r1557 

DOI: 10.1136/bmj.r1557 

 

 

 

「肌が若返る」「関節が元気になる」「運動能力が上がる」――。コラーゲンサプリメントにはさまざまな効果がうたわれていますが、実際のところ科学的根拠はどこまであるのでしょうか。

この疑問に答えるため、アングリア・ラスキン大学の研究チームは、16件のシステマティックレビュー、113件のランダム化比較試験、約8,000人分のデータを統合した過去最大規模の分析を実施しました。研究結果は「Aesthetic Surgery Journal Open Forum」 に掲載されています。

その結果、コラーゲンサプリメントには確かに効果が期待できる分野と、期待ほどの効果が確認できない部分があることが明らかになりました。

最も確かな効果が認められたのは「肌の健康」です。コラーゲンを継続的に摂取した人では、肌の水分量や弾力性が改善する傾向がみられました。特に摂取期間が長いほど効果が大きくなる傾向が確認されており、短期間で劇的な変化を期待するよりも、継続的な摂取が重要と考えられます。

また、変形性関節症に対しても有望な結果が示されました。コラーゲンを長期間摂取した患者では、関節の痛みやこわばりが軽減する傾向が認められました。高齢化に伴う関節トラブルが増えるなか、比較的安全な補助療法として注目される可能性があります。

一方で、筋肉や腱に対する効果は限定的でした。筋肉量や筋肉の質、腱の構造にわずかな改善はみられたものの、その効果は大きいとはいえませんでした。

さらに注目されたのが、スポーツパフォーマンスへの影響です。近年、アスリート向けサプリメントとしても人気が高まっていますが、今回の分析では、運動能力向上や運動後の回復促進、筋肉痛軽減について十分な効果は確認されませんでした。研究者らは、コラーゲンを「パフォーマンス向上サプリ」として過大評価すべきではないと指摘しています。

また、血糖値やコレステロール、血圧といった代謝指標や、歯周病など口腔の健康への効果についても、現時点では十分なエビデンスは得られていませんでした。

今回の研究から見えてきたのは、コラーゲンは万能薬ではないものの、「肌の健康維持」と「変形性関節症の症状緩和」については比較的信頼できる科学的根拠があるということです。特に健康寿命や美容への関心が高まるなか、コラーゲンサプリは長期的な健康維持を支える選択肢の一つとなるかもしれません。ただし、運動能力向上や全身の健康改善を期待して摂取する場合は、現時点では過度な期待は禁物といえそうです。

 

【出典】 Roshan Ravindran, Damiano Pizzol, José Francisco López-Gil, Masoud Rahmati, Laurent Boyer, Guillaume Fond, Laurie Butler, Angelica Stellato, Julia Gawronska, Yvonne Barnett, Helen Keyes, Pinar Soysal, Rafet Eren, Burak Onal, Dong Keon Yon, Lee Smith. Collagen Supplementation for Skin and Musculoskeletal Health: An Umbrella Review of Meta-Analyses on Elasticity, Hydration, and Structural Outcomes. Aesthetic Surgery Journal Open Forum, 2026; 8 DOI: 10.1093/asjof/ojag018

 

歯周病対策といえば、歯磨きや歯科医院でのクリーニングを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし新たな研究により、「何を食べるか」だけでなく「どのように食べるか」が歯ぐきの健康に影響する可能性が示されました。

 

キングス・カレッジ・ロンドン の研究チームは、断食を模倣した低カロリー食(Fasting-Mimicking Diet)が歯周病の炎症を軽減する可能性を報告しました。研究成果は 「Journal of Clinical Periodontology 」に掲載されています。

 

歯周炎は、歯を支える歯ぐきや骨に炎症が起こる慢性疾患で、進行すると歯を失う原因にもなります。また、糖尿病や心血管疾患との関連も指摘されており、全身の健康にも大きな影響を与える病気です。

 

今回の研究では、歯周炎患者28人を対象に、通常の歯周病治療に加えて「断食模倣食」を行うグループと、通常の食事を続けるグループを比較しました。

 

断食模倣食は、完全な絶食ではありません。最初の2日間は1日約1,100キロカロリー、その後の3日間は約750キロカロリーに制限し、徐々に通常食へ戻す方法です。この5日間のプログラムを6か月間で3回実施しました。

 

その結果、断食模倣食を行ったグループでは、血液中および歯ぐき周囲の炎症マーカーが低下しました。さらに、全身の炎症を示すC反応性タンパク(CRP)も減少しており、歯周病だけでなく全身の炎症状態にも良い影響を与えた可能性が示されました。

 

研究者らは、その理由としていくつかの可能性を挙げています。ひとつは、断食によって「酸化ストレス」が減少することです。酸化ストレスは細胞やDNAを傷つけ、慢性炎症を引き起こす原因の一つと考えられています。また、断食期間中はケーキやビスケットなどの高糖質・高カロリー食品の摂取が減るため、炎症を促進する要因そのものが少なくなる可能性があります。

 

さらに、腸内や口腔内の細菌環境(マイクロバイオーム)が改善する可能性も考えられています。ただし、この点については今後の研究が必要です。

 

もっとも、今回の研究はわずか28人を対象とした予備的な臨床試験であり、すべての人に断食を推奨できる段階ではありません。特に糖尿病患者や高齢者などでは慎重な対応が必要です。

 

それでも今回の結果は、「歯周病は口の中だけの病気ではない」という考えを改めて裏付けるものです。適切な歯磨きや歯科治療に加え、食生活や生活習慣の改善が歯ぐきの健康を守る重要な鍵になるかもしれません。

 

【出典】 Giuseppe Mainas, Elena Figuero, Marta Amigo Basilio, José Dopico, Florencia Julieta Gayo Morales, Antonio Magan‐Fernandez, Inmaculada Cabello, Guillermo Pardo Zamora, Josefina Guillén Sanchez, Jose Nart, Antonio Santos Alemany, Carlos Pereira Couto, Manlio Vinciguerra, Valter D. Longo, Mark Ide, Mariano Sanz, Luigi Nibali. A Fasting‐Mimicking Diet Affects the Inflammatory Response Following Periodontal Treatment: A Multi‐centre Feasibility Randomised Controlled Pilot Trial. Journal of Clinical Periodontology, 2026; DOI: 10.1111/jcpe.70139

 

健康的な食生活を送っていても

添加物や化学物質が多い加工食品は集中力を低下させる

 

健康のために野菜を食べ、魚やオリーブオイルを意識していても、それだけでは十分ではないかもしれません。オーストラリアのモナシュ大学 を中心とする国際研究チームは、超加工食品(Ultra-Processed Foods:UPF)の摂取量が多い人ほど、注意力や情報処理速度が低下しやすいことを明らかにしました。研究成果は、認知症研究の専門誌 『Alzheimer's & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring 』に掲載されています。

 

研究では、認知症を発症していない2,100人以上の中高年オーストラリア人を対象に、食生活と認知機能の関係を調査しました。その結果、超加工食品の摂取割合が増えるほど、集中力や処理速度を測定する認知テストの成績が低下することが分かりました。

研究者によると、「超加工食品が10%増える」というのは、毎日の食事にポテトチップス1袋程度を追加するイメージです。そして、その程度の増加でも、注意力に明確な低下が認められたといいます。

 

超加工食品とは、清涼飲料水、スナック菓子、インスタント食品、冷凍調理食品などでこれらは保存性や嗜好性を高めるために、多くの添加物や加工用化学物質が使用されていることが特徴です。

 

今回の研究で特に興味深いのは、地中海式食事法など比較的健康的な食生活を送っている人でも、超加工食品の摂取量が多いと同様の影響がみられたことです。つまり、「健康的な食品を食べているか」だけでなく、「どの程度加工された食品を食べているか」も脳の健康に関係している可能性があります。

 

さらに研究チームは、超加工食品の摂取量が多い人ほど、肥満や高血圧といった認知症の危険因子を抱える傾向が強いことも確認しました。今回は記憶力低下との直接的な関連は認められませんでしたが、注意力は学習や判断、問題解決など多くの認知機能の土台となる重要な能力です。

 

研究者らは、食品の超加工によって本来の食品構造が失われることや、添加物などが脳や代謝に影響を及ぼしている可能性を指摘しています。ただし、この研究は観察研究であり、超加工食品が直接的に認知機能低下を引き起こすことを証明したわけではありません。

 

【出典】

Barbara R. Cardoso, Euridice Martinez Steele, Barbara Brayner, Xinyi Yuan, Lisa Bransby, Hannah Cummins, Yen Ying Lim, Priscila Machado. Ultra‐processed food intake, cognitive function, and dementia risk: A cross‐sectional study of middle‐aged and older Australian adults. Alzheimer\'s, 2026; 18 (2) DOI: 10.1002/dad2.70335