苦味は伝統的・潜在的に有毒な物質のサインだと考えられていますが、全ての苦味が有害なわけではありません。ドイツのミュンヘン工科大学の研究によると、苦味をおいしく感じる食品の中にはエネルギーに富み、栄養価が高いものがあることがわかり、2024年7月の「Cellular and Molecular Life Sciences」誌に研究成果が発表されました。

 

一般的に、味覚は食べ物を選ぶ際に役立ちます。5つの基本味のうち、甘味と旨味は食べ物がエネルギーに富み栄養価が高いことを示し、塩味は電解質のバランスを保つのに役立ちます。酸味は未熟な食べ物や腐った食べ物を、苦味は毒性のある物質が含まれている可能性があることを警告します。植物には毒性のある物質が数多く含まれているため、これは理にかなっています。 

 

しかし、苦いものすべてが危険なわけではなく、実は栄養価が高い場合もあります。研究チームは、確立された細胞試験システムを使用して、約25種類のヒト苦味受容体のうち5種類が遊離アミノ酸とペプチド、および胆汁酸に反応することを発見しました。遊離アミノ酸とペプチドはタンパク質の分解中に生成され、クリームチーズやプロテインシェイクなどの発酵食品に豊富に含まれています。

 

一方、胆汁酸は食品成分としての役割はほとんど果たしていませんが、体内で独自の重要な機能を果たしています。 特定の苦味ペプチドが受容体結合ポケット内で胆汁酸に似た機能的に活性な3D形状をとることが今回の研究で明らかになっています。

 

 今回の研究結果は、味覚の複雑なシステムに関する新たな知見をもたらし、苦味受容体が食物選択の機能を超えて、人間の健康においてまだ知られていない役割を果たしていることを示唆しているようです。

 

【出典】 Silvia Schaefer, Florian Ziegler, Tatjana Lang, Alexandra Steuer, Antonella Di Pizio, Maik Behrens. Membrane-bound chemoreception of bitter bile acids and peptides is mediated by the same subset of bitter taste receptors. Cellular and Molecular Life Sciences, 2024; 81 (1) DOI: 10.1007/s00018-024-05202-6