都市部の緑地を30%増加させることで、2000年から2019年の間に世界で最大116万人の熱関連死を防げた可能性があることが示されました。

 

この研究は、オーストラリアのモナシュ大学のユーミン・グオ教授が主導し、医学誌『The Lancet Planetary Health』に掲載されました。研究では、NASAのTerra衛星から得られた衛星画像を用いて、11,534の都市地域における緑地の増加と気温の関係を20年間にわたりモデル化しました。

 

その結果、緑地を10%、20%、30%増加させることで、人口加重平均の暖季気温がそれぞれ0.08℃、0.14℃、0.19℃低下し、熱関連死がそれぞれ86万人、102万人、116万人減少する可能性があると推定されました。

 

特に南アジア、東ヨーロッパ、東アジアの都市部では、緑地の増加による熱関連死の減少効果が大きいとされています。研究には、53か国830都市の死亡率と気象データを用いた多国間都市共同研究ネットワーク(MCC)のデータが使用されました。緑地の増加は、日陰の提供や蒸散作用による気温の低下に加え、精神的健康の向上や社会的交流の促進、大気汚染の軽減など、多面的な健康効果が期待されています。

 

この研究は、都市の緑化が気候変動による健康リスクを軽減する有効な戦略となり得ることを示しています。

 

【出典】 Yao Wu, Bo Wen, Tingting Ye, Wenzhong Huang, Yanming Liu, Antonio Gasparrini, Francesco Sera, Shilu Tong, Eric Lavigne, Dominic Roye, Souzana Achilleos, Niilo Ryti, Mathilde Pascal, Ariana Zeka, Francesca de'Donato, Susana das Neves Pereira da Silva, Joana Madureira, Malcolm Mistry, Ben Armstrong, Michelle L Bell, Joel Schwartz, Yuming Guo, Shanshan Li. Estimating the urban heat-related mortality burden due to greenness: a global modelling study. The Lancet Planetary Health, 2025; DOI: 10.1016/S2542-5196(25)00062-2

 

中年期に身体活動を増やすことで、アルツハイマー病の発症リスクを軽減し、脳内のベータアミロイドの蓄積を抑える効果があることが明らかになりました。特に、軽度の運動であっても脳の記憶を司る内側側頭葉の皮質を維持する効果が見られ、身体活動が脳の健康に有効であることが示されています。

 

この研究は、バルセロナ国際保健研究所(ISGlobal)とバルセロナβeta脳研究センター(BBRC)が共同で実施し、「ラ・カイシャ」財団の支援のもと、アルツハイマー病の家族歴を持つカタルーニャ州在住の337人を対象に4年間追跡調査を行いました。身体活動の量に基づいて3群に分類し、質問票と神経画像検査を用いて解析が行われました。

 

結果として、WHOが推奨する運動量を満たす、または増加させた人々は、運動不足のままの人や運動量を減らした人と比べ、ベータアミロイドの蓄積が少なく、脳の萎縮も抑えられていました。これにより、身体活動が神経変性に直接影響を与える可能性が示唆されました。

 

この成果は、生活習慣の見直しによってアルツハイマー病の予防だけでなく、早期段階での進行抑制にも役立つ可能性があり、今後の非薬物的治療法として大きな期待が寄せられています。

 

【出典】 Muge Akinci, Pablo Aguilar‐Domínguez, Eleni Palpatzis, Mahnaz Shekari, Marina García‐Prat, Carme Deulofeu, Karine Fauria, Judith García‐Aymerich, Juan Domingo Gispert, Marc Suárez‐Calvet, Oriol Grau‐Rivera, Gonzalo Sánchez‐Benavides, Eider M. Arenaza‐Urquijo. Physical activity changes during midlife link to brain integrity and amyloid burden. Alzheimer's & Dementia, 2025; 21 (5) DOI: 10.1002/alz.70007

 

2025年5月8日に発表されたアメリカ心臓病学会(ACC)の研究によると、超加工食品の摂取量が多いほど、高血圧や心疾患、がん、消化器疾患、死亡率の上昇と関連することが明らかになりました。

 

本研究は、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、オセアニアの41件の前向きコホート研究を統合し、8,286,940人を対象に行われたものです。対象となる超加工食品には、ポテトチップス、菓子パン、炭酸飲料、インスタントラーメン、加工肉(ハムやソーセージ)などが含まれます。

 

結果として、超加工食品を1日100グラム多く摂るごとに、高血圧リスクが14.5%、消化器疾患が19.5%、全死因死亡率が2.6%上昇しました。さらに、糖尿病、うつ病、肥満との関連も見られました。

 

研究者は、これらの食品が血中脂質の異常や腸内細菌の変化、慢性炎症を引き起こす可能性を指摘しています。健康的な食習慣の見直しが求められます。

 

【出典】


Eating Ultra-Processed Foods May Harm Your Health
Study finds each additional 100 grams/day consumption of ultra-processed foods increased risk of hypertension, cardiovascular events, cancer and more
 

 

 

2025年5月7日に発表された、アメリカのラトガーズ大学とイスラエルのシェバ医療センターによる共同研究によると、アルツハイマー病のリスクを知ることは、リスクが高い人・低い人に関係なく不安や抑うつを軽減する一方で、健康意識や生活習慣の改善意欲を高める効果はみられなかったことが明らかになりました。

 

研究では、199人の健康な成人を対象に、アミロイドβの蓄積をPETスキャンで評価し、告知前後の心理状態や生活意識を調査しました。その結果、脳内に蓄積があった人もなかった人も共通して、不安や記憶への懸念は減少しましたが、生活改善への動機づけはむしろ低下しました。

 

研究者は、リスクを知ることで一時的に安心するものの、「何をしても予防できないかもしれない」という無力感が継続的な行動を妨げる可能性があると指摘しています。今後は、リスクの伝え方と併せて、健康行動を支援する心理的・行動的な介入が重要になります。

 

【出典】 Sapir Golan Shekhtman, Michal Schnaider Beeri, Ramit Ravona Springer, Maya Zadok, Mery Ben Meir, Yael Rosen‐Lang, Revital Shutsberg, Dar Gelblum, Tal Niv, Adar Matatov, Anthony Heymann, Joseph Azuri, Ithamar Ganmore, Chen Hoffman, Liran Domachevsky, Orit H. Lesman‐Segev. Emotional response to amyloid beta status disclosure among research participants at high dementia risk. Alzheimer's & Dementia, 2025; 21 (5) DOI: 10.1002/alz.70115

2025年5月6日に発表されたブリティッシュコロンビア大学(UBC)とビクトリア大学による国際共同研究によると、最適な睡眠時間は国や文化によって異なる可能性があることが示されました。

 

本研究では、20カ国・約5,000人の睡眠と健康データを分析し、画一的な「理想の睡眠時間」がすべての人に当てはまるわけではないという通説に疑問を投げかけています。

 

一般的に「理想の睡眠時間」は7〜8時間とされることが多いですが、この研究は、そのような一律の基準が必ずしも全ての文化や人々に適しているわけではないことを明らかにしました。

 

研究の結果、日本人の平均睡眠時間は6時間18分、フランスは7時間52分、カナダは7時間27分と、国ごとに差があることが確認されました。しかし、睡眠時間が短い国の人々の健康状態が特段悪いという証拠は見つかりませんでした。

 

UBCのハイネ教授は「睡眠の推奨時間は文化的規範に基づいて調整されるべき」と述べ、ビクトリア大学のオウ博士も「文化の標準に合った睡眠時間が健康によい傾向にある」と指摘しています。研究者たちは、公衆衛生ガイドラインを策定する際には文化的背景を考慮する必要があると強調しています。

 

【出典】 Christine Ou, Nigel Mantou Lou, Charul Maheshka, Marc Shi, Kosuke Takemura, Benjamin Cheung, Steven J. Heine. Healthy sleep durations appear to vary across cultures. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2025; 122 (19) DOI: 10.1073/pnas.2419269122

 

 

オーストラリアのカーティン大学の研究によると、日々のちょっとした行動、例えば友人との会話や自然の中で過ごすこと、知的な活動が、メンタルヘルスの向上と深く関係していることが明らかになりました。

 

西オーストラリア州の600人以上の成人を対象に実施された調査では、毎日人と話す人はメンタルヘルスのスコアが10ポイント高く、自然と触れ合う時間も精神状態の改善に貢献することが示されました。

 

研究は「Act Belong Commit」キャンペーンに関連する15の行動に注目し、参加頻度とメンタルヘルスの関係を検証。知的活動やスピリチュアルな習慣、他者支援などもプラスの効果を持つことがわかりました。

 

パンデミック中にも関わらず、調査対象者の93%が心理的苦痛を感じていなかったという結果は、日常の行動が精神の安定に大きな影響を与えることを裏付けています。

 

筆頭著者のポラード教授は、こうした行動が誰でも簡単に取り組めるものであり、社会全体の心の健康を支える重要な手段だと強調しています。

 

【出典】 Christina Mary Pollard, Rosa Alati, David Lawrence, Meg Clary, Andrew Walton, Jennifer Dunne, Sharyn Burns, Lynne Millar. The association between participation in mental health protective behaviours and mental well-being: cross sectional survey among Western Australian adults. SSM - Mental Health, 2025; 7: 100441 DOI: 10.1016/j.ssmmh.2025.100441

 

2025年4月、オーストラリアのシドニー大学による研究で、高脂肪・高糖質な食生活が若年成人の認知機能、特に空間ナビゲーション能力に悪影響を与える可能性が示されました。

 

研究はドミニク・トラン博士の主導で行われ、18歳〜38歳の大学生55名を対象に、食習慣アンケート、BMI測定、ワーキングメモリテスト、および仮想現実(VR)を用いた迷路探索課題を実施しました。

 

VR課題では、参加者は6回の試行で同じ迷路を探索し、最後の7回目には記憶だけを頼りに宝箱の位置を特定するよう求められました。結果として、精製糖や飽和脂肪酸の摂取量が多い参加者ほど、位置記憶の精度が低下する傾向が見られました。これは、脳の海馬に悪影響が出ている可能性を示唆しています。

 

トラン博士は、食生活の改善が海馬機能の回復につながる可能性があるとし、若年期からの健全な食習慣の重要性を強調しました。研究結果は「International Journal of Obesity」に掲載されています。

 

【出典】 Dominic M. D. Tran, Kit S. Double, Ian N. Johnston, R. Frederick Westbrook, Irina M. Harris. Consumption of a diet high in fat and sugar is associated with worse spatial navigation ability in a virtual environment. International Journal of Obesity, 2025; DOI: 10.1038/s41366-025-01776-8

 

ミズーリ大学のテイラー・ケルティ氏とR・スコット・レクター氏による研究は、肝臓でケトン体を十分に生成できない状態でも、運動が脳の認知機能を維持する助けとなることを動物実験で示しました。

 

肝臓の機能が低下するとケトン体が不足し、脳のエネルギー供給が妨げられる可能性がありますが、運動はこの代謝不全の影響を軽減し、思考力や記憶力を守ることがわかりました。

 

この成果は『Journal of Neuroinflammation』に掲載されました。研究者らは、2060年までにアルツハイマー病患者が2倍以上に増えるという予測を踏まえ、定期的な運動が加齢による認知機能低下の予防に重要な役割を果たすと指摘しています。

 

特に肝疾患を持つ人にとって、この発見は大きな希望となります。レクター氏は「運動は一つの経路が機能しなくても多面的に作用し、脳と体の健康に良い影響を与える」と述べています。

 

【出典】 Taylor J. Kelty, Nathan R. Kerr, Chih H. Chou, Grace E. Shryack, Christopher L. Taylor, Alexa A. Krause, Alexandra R. Knutson, Josh Bunten, Tom E. Childs, Grace M. Meers, Ryan J. Dashek, Patrycja Puchalska, Peter A. Crawford, John P. Thyfault, Frank W. Booth, R. Scott Rector. Cognitive impairment caused by compromised hepatic ketogenesis is prevented by endurance exercise. The Journal of Physiology, 2025; DOI: 10.1113/JP287573

中年期に腹部が太くなることは広く知られていますが、見た目だけでなく、老化促進や代謝低下、慢性疾患のリスク増加とも関係しています。

 

米国カリフォルニア州にある世界有数のがん研究・治療施設City of Hopeによる前臨床研究では、加齢に伴う腹部脂肪増加の新たな仕組みが明らかになりました。本研究では、脂肪組織に存在する脂肪細胞前駆細胞(APC)に注目し、若齢マウスと高齢マウス間でAPCを移植する実験を行いました。

 

その結果、高齢マウス由来のAPCは宿主の年齢に関わらず脂肪細胞を大量に生成することが確認されました。さらに単一細胞RNAシーケンシングによって、加齢により新たに出現する幹細胞「CP-A」が脂肪細胞形成を促進することが判明しました。

 

白血病阻害因子受容体(LIFR)シグナル経路がこの過程を支えており、ヒト組織でも同様の現象が観察されています。本研究は、加齢性肥満対策に向けた新たな治療標的を示唆しています。

 

【出典】 Guan Wang, Gaoyan Li, Anying Song, Yutian Zhao, Jiayu Yu, Yifan Wang, Wenting Dai, Martha Salas, Hanjun Qin, Leonard Medrano, Joan Dow, Aimin Li, Brian Armstrong, Patrick T. Fueger, Hua Yu, Yi Zhu, Mengle Shao, Xiwei Wu, Lei Jiang, Judith Campisi, Xia Yang, Qiong A. Wang. Distinct adipose progenitor cells emerging with age drive active adipogenesis. Science, 2025; 388 (6745) DOI: 10.1126/science.adj0430

ドイツのルール大学ボーフム校とバイオ企業betaSENSEの研究チームは、パーキンソン病を早期診断できる新たな体液バイオマーカーを発見しました。
 
パーキンソン病はドーパミン神経細胞が減少する進行性疾患で、これまで症状出現後に診断されていました。
今回、脳脊髄液中のα-シヌクレイン(αSyn)タンパク質のミスフォールディングを、90%以上の精度で検出できると確認されました。
 
研究には2つの医療機関の患者サンプルが使用され、特許技術「免疫赤外線センサー(iRS)」が活用されました。
この成果は、アルツハイマー病診断にも成功している技術に基づくものです。
 
さらに、パーキンソン病治療では、患者自身の細胞から作成したiPS細胞を用いて失われたドーパミン神経を補う再生医療の研究も進んでいます。
 
早期診断とiPS細胞治療の組み合わせにより、将来的には根本的な治療が期待されています。
 
【出典】
Martin Schuler, Grischa Gerwert, Marvin Mann, Nathalie Woitzik, Lennart Langenhoff, Diana Hubert, Deniz Duman, Adrian Höveler, Sandy Galkowski, Jonas Simon, Robin Denz, Sandrina Weber, Eun-Hae Kwon, Robin Wanka, Carsten Kötting, Jörn Güldenhaupt, Léon Beyer, Lars Tönges, Brit Mollenhauer, Klaus Gerwert. Alpha-synuclein misfolding as fluid biomarker for Parkinson’s disease measured with the iRS platform. EMBO Molecular Medicine, 2025; DOI: https://www.embopress.org/.../10.1038/s44321-025-00229-z