「龍の淵に到るもの」太田龍子様の『天と地と』考 | 羽生結弦さんの見つめる先を見ていたい

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羽生結弦選手を敬愛しています。羽生さんを応援する素敵ブログ様方を日々の心の糧にしている、ソチ落ち主婦のブログです。(横浜在住)

今日、3月2日は、あの北京五輪の男子フリーからちょうど20日目です。エキシビションからは10日目です。


本日は、太田龍子さまのエッセイをご紹介させていただきます。タイトルは「龍の淵に到るもの」…これだけで、もうワクワク心踊ってしまう私ですラブ



(NHK公式動画から)


「スケーター羽生結弦」を、「希代の演者」と捉え、その演技および演目そのものの本質に深く迫ってくださる秀逸なエッセイです。

少しでも多くの方に読んでいただきたいとの願いを込めて、ご紹介させていただきます。🙏

以下に、羽生くんの記述部分のみ一部抜粋させて頂きます↓



  龍の淵に到るもの        羽生結弦の北京五輪「天と地と」

(前略)

…Yuzuru Hanyuのコールとともに颯爽と氷上に進む羽生。Beijin2022のロゴ上で構えた様子は顔色こそ青白いが成すべきことを知っている目だ。後退しながらスタートした数週間前の全日本選手権とは違い、羽生は前進で演技を開始。腕をクロスさせて挑みかかるような振りにはやはりこの方がふさわしい。

 翻るようにターンしながらジャンプの軌道を描き、羽生は跳んだ。天に突き刺さるように高く、鋭く舞い上がった。前方に向けて踏切り、4回転半=1620度にはわずかに到らないかもしれないが1500度以上は確かに回っていたと思う。
 右足で着氷し、次の瞬間に転倒したが、氷上に起き直る姿の滑らかさは成功したアクセルジャンプと何ら変わらず、流れは途切れない。ここが彼の凄いところだ。演技の240秒、あるいは4分の間に何が起きようとも、彼は支配力を失なわない。楽曲の元となった上杉謙信の物語を重ねながら追っている目には、続くサルコウジャンプの転倒から生じた揺らぎさえ、すべてを捨て去りたいという抑えがたい衝動に揺さぶられる謙信の葛藤のようにも見えてしまう。

 羽生は鞭のように引き締まった体と恐るべきスケーティング技術を操り、全身を思うさまエモーショナルに撓わせ、国主としての義務と信仰心の間で翻弄され、揺れ動くヒーローをその身に憑依させてゆく。ステップシークェンスの終わり、琴の音で天を仰いだ羽生のすがるような眼差しが切ない。
 しかし、高く差し伸べた両腕に剣を受け取った後の滑りはしたたかなまでに確信に満ち、その流麗なさまは深山幽谷を音高く流れる渓流のよう。重く、厳しく轟く琵琶と花吹雪を思わせる繊細な琴の旋律が交錯する「天と地と」は、直情的かつ重層的で変幻自在な羽生結弦の滑りそのものだ。
 ラストジャンプはツイズルへとつながるトリプルアクセル。羽生のトリプルアクセルはいつだって美しいが、これまで見た中でも飛びぬけて高く、優美なアクセルジャンプだった。渦巻く星雲のようなスピンから身をほどき、天を仰ぐフィニィッシュ。その姿は空へと帰っていく何かと別れを惜しんでいるかに見えた。

 普通の選手であれば、練習でも着氷していないジャンプが本番当日に成功する確率は低い。が、4回転半アクセルは競技人生の中で何度も跳べるとは思えないほど負担の大きいジャンプだ。ほかならぬ羽生結弦のことだから、怪我を回避できるぎりぎりの寸止め的な練習とイメージトレーニングによってをシミュレーションしておき、五輪当日のワンチャンスで完成させるような離れ業だってするかもしれないとどこかで思っていた。見方によっては4回転半アクセルの代わりに4回転ループを跳んだ2020年全日本選手権の「天と地と」の方がより美しくまとまった印象はあるかもしれない。「天と地と 2020」が優美な神楽であったとしたら、2022北京五輪フリーの「天と地と」は「理想の羽生結弦」に到達するための戦いそのものに見えた。三連覇への期待や度重なる怪我、端からはうかがい知れない様々な重圧がのしかかる五輪の、あの時、あそこでしか成しえない一期一会、唯一無二な羽生結弦の「天と地と」として完成していたと思う。

 その後のインタビューで、やはり羽生は右足首をひどく痛めていたことを知った。


 この完璧ではないけれど完璧以上に心に刺さる「天と地と」を見て、思い出したことがある。


(中略:能『道明寺』の描写あり)


 …演者は修練を尽くし、魂を込めて舞台に立つ。けれどライヴでは何が起きるかわからない。幕が上がったその先は人智を超えた領域となる。


 4回転半アクセルを跳ぶことと、羽生結弦らしい、羽生結弦にしかできないスケートを完成させることは「芸術とは確かな技術の上に成り立つ」「芸術的なアスリートでありたい」と語った羽生にとって現役の間にどうしても全うしたいものだったのだと思う。新型コロナウイルスの流行や度重なる怪我など様々な要素が絡んでその舞台が彼にとって3度目の、最後かもしれない五輪となったことも、人智を超えた天の配剤としか言いようがない。

 ショートプログラム8位からの背水の陣、しかも傷ついた足で4回転半に挑むのは井戸の底から北辰(ほくしん)を射るような、無謀ともいえる試みかもしれない。しかし、深く、孤独な暗闇の底だからこそ、常人には見えない真昼の星さえ視界に捉えることができるのだ。


その磧礫(せきれき)を翫(もてあそ)ん

玉淵(ぎょくえん)を窺(うかが)はざる者は 

曷(いづく)ん驪龍(りりょう)

蟠(わたかま)れる所を知らむ

その弊邑(へいゆう)に習うて

上邦(じょうほう)を視ざるものは 

いまだ英雄の宿れる所を知らず


「浅瀬で砂や石ころをいじって満足しているような志の低い者は、深い水底で龍が宝の玉を抱いていることなど知らない。小さな村に閉じこもって視野の狭い者は英雄が活躍する輝かしい世界があることを知らない。」

     [和漢朗詠集 および 三都賦(左思著 文選 巻五)]


 中国の文人、左思が著した晋時代のベストセラー「三都賦」の一節だ。高い志を持って理想を追い求める者への憧憬は1700年前も今も変わらない。進化を渇望する羽生結弦が2022年の北京で見せてくれた歴史的な挑戦もまた長く語り伝えられるに違いない。




以上、抜粋させて頂きました🙇‍♀️



↑なんたる壮麗さ❗️

まさに、一幅の『青龍絵図』の如し!ですね照れ



いつもながら、太田様の的を射たご考察、流麗な筆致と描写に酔いしれ、しばし時を忘れました。照れ

いつもこの方の文章には、羽生くんへの溢れんばかりの慈愛と理解を感じます。それ故、皆さまにも、ただただ味わっていただきたいです。

更に、古典芸能にも造詣の深いエッセイは、まるで一幅の絵巻物のよう…その文章から映像が色鮮やかに立ち昇ってくるようで、読後は何とも名状しがたい充足感に包まれます。照れ


なお原文では、能『道明寺』の印象的かつ魅惑的な描写が例示として挿入されているのですが、長くなるため、割愛させて頂きました。🙇‍♀️

是非、全文を太田さまの「noto」にてご覧くださいますよう、お勧めいたします🙏


実際の演技もご紹介させていただきます。

北京五輪『天と地と』NHKの公式動画です↓

こちらは、2021年全日本の『天と地と』↓

更に、2020年全日本『天と地と』初演↓



過去記事も貼らせていただきます。

2020年全日本の『天と地と』について↓

2021全日本のSPについて↓


羽生くんもそろそろ隔離期間を終えて、仙台に戻られていらっしゃる頃でしょうか。故郷で温泉にでも浸かって、ゆっくり心身を癒やして欲しいです。🙏




報道の方々も次々と隔離期間を終えたご様子、ご無事で何よりです。 

北京から素敵な写真や記事をありがとうございました。

本当にお疲れ様でした。m(_ _)m


矢口さんの写真と高木さんの記事に惹かれて、五輪期間はスポーツ報知を購入していました。

はい、素敵な番号です。"願掛け""縁起担ぎ"総動員で見守ってくださっていたのですね。御礼申し上げます🙇‍♀️


 お疲れ様でした。ANAベアさん達、可愛らしいですねラブ

定年を迎えられつも、まだまだスポニチでご活躍くださるとのこと、本当に心強いです。

どうか、これからも羽生くんを見守って差し上げてください。宜しくお願いします🙏




今日も羽生くんを全力応援!ᕦ(ò_óˇ)ᕤ


羽生くんの怪我が早く良くなりますように!

羽生くんが笑ってくださっていますように!

羽生くんの幸せを心から願い、祈ります🙏



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