シリエトク

一週間の旅は、気ままな自由旅行・・・と言う訳ではなく
日程的には余裕の無いものであったけれど
どうしても、予定をやりくりしても、叶えたい「再会」があった。
北海道・女満別空港から北へ進んで海岸線に出ると、原生花園の花々を眺めながら東へと向う。
懐かしい知床の山々が見えてきた。オシンコシンの滝を過ぎて目指す、ウトロの街へ。
変わらぬ人懐こい笑顔で出迎えてくれた、生まれも育ちも地元知床の彼は、二歳年下。
お互い、イイ年になったが、思わず握手。そしてハグ(笑)
オホーツクへ沈む夕陽を眺めながら、十数年振りに酒を酌み交わした。
・・・・・・・・・
初めて彼と出会ったのも、ここ知床。二十年以上前のこと。
二十歳になるかならないかの頃。
今でこそ、世界自然遺産にも登録された知床であるが、当時もナショナルトラスト運動の
象徴的存在でありながら、開発と保護、原生林伐採問題に揺れていた。
その予定地そばでは、知床の自然に関心を持つ人達が集い、キャンプを張っていた。
そんな中で出会ったのが彼であった。
こういった問題には、小さな町では利害が絡み、地元の人は声を出しにくい。
ましてや十代の若者にとって、「豊かな自然」などと言うものは、なんの価値も無い。
むしろ、忌むべきものである。同じく田舎育ちの私もそうであったけれど・・・。
道外者がほとんどのキャンプで、地元の若者の彼はむしろ珍しい存在であった。
しかし、周りのほとんどが年長の大人達も、彼には一目置いていた。
理屈や知識が先行する大人達と対照的な、彼の植物、動物を見る眼の確かさゆえに。
獣の足跡や食痕を見逃さず、鳥の鳴き声を聞き分けては、「ホラ、あそこに」と指を差す。
いくら豊かな森を歩いても、図鑑の絵を差して名前を答えられるような机上の知識では
何ものも見ることは叶わない。
そんなことを痛切に感じさせられたのは、伐採予定の森を歩いていた時のこと。
知床の自然は厳しい。入植と廃業を繰り返した土地もあり、一見、原生林のように見えて
人の手が入った森も少なく無い。そんな残雪の森を歩いていると、先行の同行者が
自然と足を止めた。
「ここは凄いね」
「木が違うよ」
「まったく別物だね」
そんな言葉を、少なめに交わしながら。
聞けば、そこが手付かずの原生林であるとのことだった。
そう言われても、自分にはそれまで歩いた森と何が違うのかわからない。
まったく、その違いを感じることはできなかった。
如何に、自分の知識が頭の中だけのものであったのかを知り、恥じた。
そして、何よりも、皆が素晴らしいという自然を、自分も感じられるようになりたいと強く思った。
そんな私にとって彼は、まさに「自然の先生」であった。
連日、彼について歩く森は発見の連続で、すっかり虜となった私は、何度も訪れては、二人で歩いた。
それから、数年が経って
進路を考えていた彼は上京して、私のアパートに泊っていた。
一週間ほど滞在して、一旦、知床へ帰ることとなった日
都内の飛鳥山公園のベンチで話したのを憶えている。
一時間ほど話していると、なかなか思うようにならない進路に、俯いた彼は涙をこぼした。
私も、掛けてやる言葉をさがしていた。
・・・
すると、その時
一羽の鳥が鳴いた(らしい。私にはわからなかった)
彼は、「あっ」 と一声、いきなり駆け出すと
声の主を求めて、都内には似つかわしく無い、本格的な双眼鏡を手に走り去った。
しばらくすると
坂の上から、肩で息をしながらも、意気揚々と彼が戻ってきた。
そして、満面の笑みで
「いましたよ!」
見つけたその鳥が、いかに希少で、東京で見ることが珍しいものであるかを熱く語ってくれた。
すっかり涙の乾いた、あまりの変貌ぶりに、思わず二人して笑った。
・・・・・・・・・
すっかり日も暮れて、太陽も海に溶けた。
肴も旨い。
いい感じに、酒がまわってくる。
今、彼は、ここ、知床で、自然環境保護の仕事に携わっている。
今夜も、時間を巻き戻したかの変わらぬ口調で、熱く知床の素晴らしさ、抱える問題を語ってくれた。
限られた時間ではあったが、旨い酒を何杯も飲んだ。
「ナマを、もう一杯」と店員に声を掛けると
彼はあわてて、ジョッキを飲み干し、「二杯!!」
そんなところも変わらない。
「つらぬいたね」 と言うと
「はい」 と、ためらい無く即答する。その顔がまぶしく、うらやましくもある。
心地好い、時間の流れはあっという間。
また、きっと、季節を変えて、一緒に歩こうと約束をして別れた。
苦労も悲しみもあったに違いない、近況報告ほど平らかな道では無かったろうけれど
確かに、そこにあるもの
変わらないものと再会して、日常では摂取しにくい種類の栄養素をもらったような
そんな、気持ちを新たにさせる、清々しい旅となりました。
「波光」 スガシカオ with Char
・・・・・・・・・
出発に際しては、たくさんのコメ、メッセージをいただき、ありがとうございました。
今回は旅の後で、長文かつ若干、感傷的になってしまいましたが、お許し下さい(笑)
これからもよろしくお願いします。










