愛が・・・すべて(2) ~ ウラジオストク編

◎前回の話→クリック ・・・とある港町で恋に落ちたノラ猫の音次郎とフランソワーズ。厳しい時代の荒波に揉まれながら、ふたりは、生き別れのフランソワーズの両親を探す、北への旅に出た・・・。
◎登場ネコ・・・ロシアン娘・ターニャ その子供・玉三郎
<ターニャ> ごらんにゃさい。この朝日が昇る海の向こう、そこにあなたのお父様、音次郎様の生まれた国があるにゃ。
<玉三郎> マーマといつか一緒に行きたいにゃ。
<ターニャ> それは・・・。あのね。ママが、あなたのお父様と出会ったのは、このウラジオストクの街が短い夏を迎える頃だったにゃ。追われるようにして北への旅を続けてきた音次郎様は、すっかり病気で痩せ細ったフランソワーズさんを連れて、この街へたどり着いたんだにゃ。
けれど、音次郎様は治療費と旅費を稼ぐためにシベリアでの苛烈な労働を強いられ、フランソワーズさんの病状はいっこうに良くならない・・・待っていたのは厳しい現実だったにゃ。仲の良かったふたりの、言い争う夜が増えていったんだにゃ。
そして、秋風が吹き始めたある晩、フランソワーズさんは黙って家を出たにゃ。きっと、何よりも負担を掛けている事が心苦しくなったんだにゃ。
ひとり残された音次郎様は、夜毎、安酒を飲んでは荒れて、誰彼と無く、しっぽを立て、爪を出してケンカをしてたにゃ。

<ターニャ> ママはその頃、その安酒場で働いていたにゃ。そんな音次郎様がなぜか気になって、ほって置けず、痛々しい体を毛づくろいしてあげたにゃ。
こうして、おまえにするようににゃ。
音次郎様とママが、この小さな部屋で一緒に暮らすようになるまで時間は掛らなかったにゃ。
しあわせな時間だったにゃ。
・・・そして、玉三郎、おまえが生まれたんだにゃー。
<玉三郎> でも、お父様は僕たちを捨てて出て行ったにゃ?
<ターニャ> 風の噂で、西の港町に、病気に伏せるまっしろいネコがいることを聞いたお父様は、それがフランソワーズさんだとすぐに気付いたんだにゃ。
翌朝、お父様が出て行ったのは、初雪の降った寒い日だったにゃー・・・。
<玉三郎> マーマ・・・。
<ターニャ> ママは後悔も、恨んでもいないにゃー。ここにこうして、おまえもいるにゃ。
いつの日か、立派になったおまえの姿をお父様にお見せするのが、ママの願いだにゃ。
にゃふっ(ターニャ、咳き込む)
<玉三郎> 大丈夫にゃー? わかったにゃー。ボク、いい子で強くなるにゃー。だから、元気でにゃー。
<ターニャ> わかってるにゃ。ママは平気だにゃ。(そっと、吐いた血をぬぐう)

◎登場ネコ アレクセイおじさん(左端) アーニャ(ターニャの妹・右奥)
<ターニャ> もし、私に何かあったら・・・、玉三郎をよろしくにゃ。
<アレクセイ> なに、弱気なこと言ってるんだにゃ。
<アーニャ> そうよ、ねえさん! もう一度、姉さんも音次郎様に・・・。
<ターニャ> ううん。それは・・・もう・・・。
私はこの街の、酒場のおんにゃ。あのひとは、旅ネコ、そして異国の・・・。玉三郎さえ、元気に育ってくれたら・・・。
<アーニャ> ねえさん・・・。






<ターニャ> 音次郎様・・・。
玉三郎は元気に育ってるにゃ。
今はどこに、いらっしゃるにゃ?
もう・・・忘れてしまったにゃ・・・?
玉三郎が一猫前になるまで、きっと、お元気で・・・。
・・・・・・
第2話にして、主人公が出てこない波乱の展開。音次郎は、フランソワーズの運命はいかに。そして、ターニャ、玉三郎母子の将来は・・・。(つづく)
「 町の酒場で 」 浅川マキ
※ 町の酒場で 酔いしれた女に 声を掛けてはいけない・・・





