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ジェティゲンの復元の資料まとめについては、今回の投稿で大昔のジェティゲンに近い形状のものをお見せできるところまで持っていくことができました。
前回の投稿でzitherのパーツ名の仮呼びを以下のように決めましたので、今回もあらかじめ掲示しておきます。
 
zitherの胴部→body
 
奏者右手側
ブリッジ→the string nut
弦の留め具→tuning peg
 
弦の途中のブリッジ→separate bridge
 
奏者左手側
弦の留め具→string pin
ブリッジ→the saddle of the bridge
 

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(6∀6)シカタケル
よしあしべ、それではWikipediaのジェティゲン記事カザフ語版から、古いジェティゲンの資料をまとめろ。
 
⊂O–O⊃あしべ
まずは名称について。
「ジェティゲン(Zhetygen/Жетыген)」には飢饉の冬に七人の息子を失った父親が作ったという伝承があり、そこからジェティゲンという名称は「七」と「歌」の合わさった言葉であると言われています。
テュルク系民族のそれぞれのzitherを表す言葉には似たような語幹があって、
タタール語では「етиган」、
トゥヴァ語では「чадаган」、
ハカス語では「чатхан」、
であるそうです。
 
主要な記録については二つあります。
一つめ、1786年の記録の文章を引用します。
 
>“Бұл аспап шыршадан жасалған шағын ғана жәшік, оның түбі ғана бар. Оған ішектер ешбір құлақсыз керілген. Бұл аспапты құлақ күйіне келтіру үшін әрбір ішектің астына кішкене тиек — қойдың асықтары қойылады.
google翻訳を微調整した日本語訳:
「この楽器はトウヒでできた小さな箱で、底があるだけです。 チューニングペグを持たずに弦が張られています。 この楽器をチューニングペグの位置に調整するには、各ガットの下に小さなブリッジーー羊の踵の骨を置きます。 」
 
これの原文は見つけられませんでしたが、カザフスタンのテレビチャンネルの番組と思われるYouTube動画にも、同じ内容が引用されていました。
01:48にこの記録の画像があります。
 
СЫРЛЫ САЗ. Жетіген
二つめの記録。
「Сибирский вестник」(1818)に掲載されたА. Масловの記事。
1966年の復元作業はこの記事を元におこなわれたとのこと。
 
この動画の08:30-09:10に、その記事のロシア語原文の画像があったので、そこから文字起こしをした文章とその日本語訳を載せます。
この動画には英語のナレーションと字幕があります。
 
Ancient musical instrument Zhetygen
画像より文字起こししたロシア語原文
>Онъ состоитъ изъ деревяннаго выжолобленнаго ящика, 
длиною около 1.5 аршина, 
шириною въ четвертъ, 
а вышиною до двухъ верщковъ, 
съ одного длиннаго и широкаго бока бываетъ открытъ, съ другаго же закрытъ и на семъ послѣднемъ натягиваются разной толщины металлическія струны, изъ коихъ каждая имѣтъ по двѣ подетавки.
 
google翻訳を微調整した日本語訳:
『くり抜かれた木箱で構成されており、長さ約1.5аршин、四分の一幅、高さ2вершковまで、長くて幅の広い側は開いていて、もう一方は閉じており、そして後者には太さの異なる7 本の金属製の弦が張られており、それぞれに 2 つのアタッチメントが付いています。』
 
長さの単位についてはコトバンクより引用します。
以下引用
арши́н
①アルシン(昔の長さの単位;0.711メートル,16ヴェルショークвершо́кに相当);アルシン尺
 
出典不明の記録その1
>Қарапайым аспаптарда құлақ болмаған, сондықтан ішектерді қолмен керіп байлаған. 
Күйге келтіру үшін тиек орнына қойылған асықты жылжытатын болған.
google翻訳を微調整した日本語訳:
単純な楽器にはチューニングペグがなかったため、弦は手で結ばれていました。 
調整するには、ブリッジの代わりに「асық(羊の踵骨)」を動かしました。
 
出典不明の記録その2
>Жоғарыда айтып кеткеніміздей, көне жетігенде құлақ болмаған. Ішектердің астына екі жақ шетінен асық қойылған. Аспап осы асықтарды жылжыту арқылы күйге келтірілетін болған. 
google翻訳を微調整した日本語訳:
上で述べたように、古代にはチューニングペグはありませんでした。 弦の下には両側に「асық(羊の踵骨)」が配置されています。 この「асық(羊の踵骨)」を動かすことで楽器の調整が行われていました。 声を上げるために、「асық(羊の踵骨)」をガットの両側から中央まで近づけ、後ろに移動して両者の間を離すと、声は小さくなります。 
 
この出典不明の記録ですが、これが民俗資料としてのジェティゲンから得た知見だといいなぁ、とワタシは思います。
 
ともあれ、上記の要点を抜き出します。
「body」は箱型で、さらに二つのタイプがある。
箱の天板がないタイプと、箱の底板がないタイプ。
復元されたのは箱の底板がないタイプだった。
 
「the string nut」と「the saddle of the bridge」については記述なし。
「separate bridge」には「асық」呼ばれる羊の踵骨が二つ使われていた。
「tuning peg」は無かったことが繰り返し記述されている。
弦は手で結ばれていて、弦の下の二つの「асық(羊の踵骨)」で調整していた。
 
から古いジェティゲンの資料をまとめました。
 
さらに付け加えると、こちら動画にジェティゲンの1966年の復元と1980年代後半の改良についての記録がありました。
英語の動画です。
 
Ancient musical instrument Zhetygen
この動画によると、1966年に復元がはじまった最初期のジェティゲンには7弦と13弦のものが作られました。
そしてさらにジェティゲンは1980年代後半に、ハカス共和国のzitherであるЧатханの演奏家の協力のもと更なる改良を加えられ、現在の姿になったとのことです。
最初期のジェティゲンは現在、カザフスタンのかつての首都アルマトゥイにあるЫқылас атындағы халық музыкалық аспаптар музейі(※)に納められているそうです。
(※)Ықылас атындағы民族楽器博物館、"Ықылас атындағы"の部分は19世紀のコブズ奏者であるЫқылас Дүкенұлыの名を冠したという意味

以上でジェティゲンの復元と改良についてのまとめを終わります。
 
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(ŎᴗŎ)シカハタビ
1966年の復元のジェティゲンの姿ですが、2004年発行のカザフスタン500テンゲ硬貨に圧印されていましたのでどうぞご覧ください。
 

 

 

KAZAKHSTAN
Law on Copyright and Neighboring Rights 
Article 8. Works Not Protected by Copyright
 
こちらが現代のジェティゲンの画像です。

 

 

(CC1.0)
 
/)ЧЧ/)
(6∀6)シカタケル
あしべ、おつかれ。まとめた感想は?
 
⊂O–O⊃あしべ
まとめたのはいいけど、さっぱりイメージがわかない。何が何だかわからないですね。
復元最初期のジェティゲンには既にもう「асық(羊の踵骨)」が使われていないんですよ。
まぁただ…
第一回の投稿で触れた『zither中近東起源理論』に近づくデータが出てきましたね。
箱の天板がないタイプ、これは"ザックス=ホルンボステル分類"の中の「315 槽状ツィター(開口部に弦を張る)」タイプ、
「Trough zithers (315)」ですよね。
 
Trough zither
日本の埴輪のzitherや和琴などにある独特の突起、いわゆる「櫛の歯状の突起」についてなのですが、『zither中近東起源理論』を提示された小島美子国立歴史民俗博物館名誉教授がその発想のアイデアを得たきっかけは、ルワンダのイナンガと古代日本の突起部分の類似でした。
アフリカのzitherのイナンガは「315 槽状ツィター」の代表例です。
※参照「日本楽器の源流 コト・フエ・ツヅミ・銅鐸 国立歴史民俗博物館 編」P12
 
こちらがイナンガ(但しウガンダのもの)の写真で、ワタシが浜松市楽器博物館で撮影したものです。
 

 

 

 

これはワタシが本庄早稲田の杜ミュージアムで撮影した埴輪の琴の画像です。
 

 

もしも昔のカザフに「315 槽状ツィター」があったなら、イナンガみたいな感じだったんでしょうかね?
もしそうなら「弦は手で結ばれていた」というのは、イナンガみたいに弦が張られていたのかな?そうなると、日本の埴輪の琴に似てくるんですが…でも文字記録だけだしなぁ。
 
ともあれ、文字記録だけなのが残念ですが、とにかく『zither中近東起源理論』に一歩近づいたことになりました。
 
/)ЧЧ/)
(6∀6)シカタケル
いよいよこのブログが『TURAN ethno-folk ensemble』から関係のない方向に向かって離れていくぞwww
 
⊂O–O⊃あしべ
いやまだそっちには行けませんよ。
ジェティゲンの復元についてまとめないと…
でもよくわからないままにまとめるのも無理があるよな…
どうしよう…
Yedil Khussainov師から始めた記事なんだよな。
だったらYedil Khussainov師で上手く記事のオチをつけられないかな…
よーし、
「"Еділ Құсайынов" "жетіген"」でもう少し検索してみて、そこから画像検索を頑張ってみて…
 
/)ЧЧ/)
(6∀6)シカタケル
と、あしべがネット検索調査の名目の現実逃避を始めたのが2023/07/17、「海の日」の祝日のことだった。
 
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(ŎᴗŎ)シカハタビ
ダーリン、それメタ発言よ?
実はあしべさん、祝日のお休みを使ってブログを書くつもりが、ある画像を見つけたせいで丸一日ぼうぜんとなってしまい、せっかくの祝日を無駄にしてしまいましたのよ。

さてこれから中央アジアのハカス人のzitherの紹介をしますが、この楽器は以下の論文にならってチャトハン(чатхан/chatkhan)と表記します。

東京音楽大学リポジトリ

南シベリア、ハカス民族の音楽研究ノート

直川礼緒 著

https://tokyo-ondai.repo.nii.ac.jp/record/1060/files/VOL4-P37-51.pdf


メタ発言はこれでおしまい。
 
…ブログ主は2021年の冬に『TURAN ethno-folk ensemble』のファンになって以来、ジェティゲンのネット検索を何回も何回も繰り返し続けてきました。画像検索はカザフ語もロシア語もわからなくても簡単に出来るので、特に好んで行ってきました。
やっていることの内実が手軽な現実逃避だったというのは、あしべさんも否定できないでしょうねw
 
⊂O–O⊃あしべ
現実逃避?なんですかそれ、結果を出しますよ!
googleの画像検索でいい画像を見つけたんですよー。
この画像を見たおかげで、やっとWikipediaのジェティゲン記事カザフ語版が言っていることの意味がわかりました!
 
ちょっと違うかもしれませんが、天板があって底板が無いタイプの古いジェティゲンは、きっとこんなだったかな?って感じの画像があったんです!
 
古いジェティゲンは
・一本の弦ごとに「separate bridge」を2個ずつ使って「the string nut」と「the saddle of the bridge」として個別に設置していた。
・2個の「separate bridge」の間隔で音の調節をした
・「tuning pegは無い」かつ「弦は手で結ばれていた」というのは「body」の両側に「string pin」を取り付けて、そこに弦を掛けたということ。
 

 

(GNU Free Documentation License)
 
調べてみたら、このzitherはКрасноярский краевой краеведческий музей(google翻訳:クラスノヤルスク地域郷土伝承博物館)の展示品であることがわかりました。
これは博物館によるその展示品の説明のYouTube動画です。
 
Чатхан — хакасский музыкальный инструмент
博物館はこのzitherをハカス人の民族楽器である「チャトハン(чатхан/chatkhan)」だと語っています。
おそらく、現代の「チャトハン(чатха/ chatkhan)」よりさらに古い姿なんでしょう。
この画像の「チャトハン(чатхан/chatkhan)」には「tuning pegは無い」と判断するのは、「body」の両側の突起が全て同じ形状であるからです。
 
Wikipediaの「Tuning mechanisms for stringed instruments」
には「tuning peg」は操作しやすい形状であると書いてありましたが(このくらいの参照は問題ないですよね)、だから「tuning peg」のある側の突起と「string pin」のある側の突起は形状が違ってくるはずなんです。
だから、この画像のチャトハン(чатхан/chatkhan)には「tuning peg」がありません。
 
いやージェティゲンとチャトハン(чатхан/chatkhan)の違いはありますが、こうして現物を見せていただくとわかりやすいですね!
大昔の天板のあるタイプのジェティゲンはきっとこんな感じだったんですよ。
 
よーし、いい感じにまとまった。
ジェティゲンの復元まとめ、以上で終了です!
 
…ん?あれ…もしかしてこれ…
 
/")/") 
(ŎᴗŎ)シカハタビ

前々回にのせた地図をもう一度載せましょう。

東カザフスタン州Катонқарағай 地区(Katonkaragay District)の北東に向かって地図を拡大していくと、ハカス共和国のすぐそばにクラスノヤルスク(Красноярск)市が見えます。

 

/)ЧЧ/)
(6∀6)シカタケル
おーいあしべ、何を黙りこくっているんだ?
 
⊂O–O⊃あしべ
…クラスノヤルスクのチャトハン(чатхан/chatkhan)…「櫛の歯状の突起のある琴」ですよね、これ。うわぁ…
 
/)ЧЧ/)
(6∀6)シカタケル
そして、このブログは『TURAN ethno-folk ensemble』から関係のない方向に向かって離れていくのであった。
 
⊂O–O⊃あしべ
いや、ちゃんとカザフと日本をつなぐ方向へ持っていきますから!