有明海に注ぎ込む某川の支流へ行ってみた。

 

この支流は実は初アリアケスジシマドジョウを釣った水路でもある。というより、ヤマノカミを探していて偶然シマドジョウ類もいることがわかった、というのが真相だ。

 

まずは、過去2年のほぼ同時期に探ったことのある、本命スポットを覗いてみた。

 

過去2年とは違い、この日は水が澄んでいて底まではっきりと見えた。無数に転がる小岩や障害物を目を皿にして見回すと、何やら小さなものが動いているのが遠目でもわかった。

 

さらによーく見ると、まっすぐ機械的に泳ぐエビに混じって、小さな魚が岩などの上にいることがわかった。

 

そこでここを保険とし、より釣りやすい上流の、初アリアケスジシマドジョウを釣ったスポットへ先に行ってみた。だがやはりヤマノカミの姿はなく、そこまでは遡上していないようだった。

 

元のスポットに戻り、たなごころ四尺にたなご用の脈仕掛けを結んだ。ハリは新半月で、エサには一番小さな活アカムシをチョン掛けして使った。

 

ポイントに近づき、まずは小岩がいくつか重なってできた小さな空間の中にアカムシを入れてみることにした。

 

穴に仕掛けを近づけた時、ちょうど上の岩の上に小さな魚がいることに気づいた。

 

オモリがワカサギ用の紡錘形の物だったので、傾斜する岩肌の上には置きにくかったため、アカムシを宙にぶら下げたまま、その魚の前に近づけようとした。

 

だが軟調竿のため、なかなかコントロールが効かない。そうこうしていると、穴の中から大きなヨシノボリが出てきた。そしてパクッと咥えたような動作をしたので、アワセたが運良く空振りだった。だがそのあおりでその小さな魚は逃げてしまった。

 

これを追う形で仕掛けも動かした。同じ個体だったのかどうかは記憶が定かではないが、左手の小岩の上に1尾いるのを発見。その個体の顔の近くになんとかエサを持ってゆく。

 

すると、パクッと咥える動作を見せたので、一瞬の間を置いて上げてみた。

 

その魚影はプルプルと抵抗しながらも、小さいのであっけなく宙に舞った。そして小さいながらも、特有のエラ蓋を拡げての威嚇をする姿で穂先の下にぶら下がっていた。

 

ヤマノカミだと確信し、「釣れたー!」とつぶやいていた。

 

ついにこの瞬間が来たー!!!

 

ちなみに、初めに見かけた岩の上などの魚影はヤマノカミで、しかも4尾も写っていたことが写真を拡大してみてわかった。

 

初めて釣ったヤマノカミ、約3.3センチ

 

初ヤマノカミの別影、左右反転

 

ケース内で元気に泳ぐ初ヤマノカミ。さすが遡上魚だ。

 

初ヤマノカミの俯瞰

 

初ヤマノカミの腹側

 

初ヤマノカミの顔

 

ヤマノカミのハビタット

 

何年もかけた割には最後はあっけなかったが、それだけ、見つけられるかどうかが全てのターゲットだった、ということだ。

 

2017年の秋に狙い始めて以降、有明海に注ぎ込む17の川や支流でヤマノカミを昼に夜に探したものの、出遭ったのはたった一度だけだった。

 

それは2018年の晩秋のことで、繁殖のために降河中と思われる個体1尾を見つけ、キヂを喰わせるところまで行ったのだが、アワセ損ねて万事休す。

 

幻の初ヤマノカミ(同一個体)。千載一遇の一尾にキヂを喰わせるところまで行ったのだが。2018年11月、有明海流入某川にて。

 

これらの川や支流のスポットの中には、情報から割り出したピンポイントもいくつかあったのだが、それでも出遭えなかった。時期がずれていたことのほかに、網で採ることと釣ることの難易度の違いが理由だった。

 

このように1尾釣り上げるのに大変苦労したわけだが、副産物もあった。たなご類やアリアケスジシマドジョウ、カワアナゴニゴイソウギョマハぜシモフリシマハゼなどの他の魚種や、スッポン、モクズガニ、テナガエビなどのポイントをいくつも見つけることができた。また、カジカ中卵型を偶然釣ることができたりもした。大場所でブラインドで延べ竿を使って小さなメタルジグを揺らしていたらナマズが釣れたこともあった。

 

ヤマノカミは日本では有明海流入河川のみに見られるカジカの仲間で、秋に有明海に降った親魚は冬に産卵し、孵化した仔魚は春に川を遡上して夏から秋にかけて川で過ごす年魚だが、繁殖に参加しなかった個体は二年魚として川で見られるという。学生の頃はヤマノカミは山の方の川に棲む魚だと思っていたので、河口近くで採られたという話を聞いて意外な気がしたのを憶えているが、こういう生活史なので秋には河口を通るわけだ。あれから三十数年が経って、ようやくそんな記憶の主を手にすることができた。

 

河口堰を含む遡上を阻害する構造物の建設や、産卵床として使われるタイラギの殻の減少により、個体数が減っているヤマノカミだが、いつか機会があれば、あと1尾だけ、秋の婚姻色のオレンジが出た成魚を、今度はしっかりと釣ってみたいものだ。