棒高跳のトレーニングの組み立てについて
(アンドレイ・チボンチクコーチらとのディスカッションなどから)
これまで、ドイツのある陸上競技クラブ「TSV04レバークーゼン」や「LAZツバイブリュッケン」、「ドイツ陸連(DLV)コーチアカデミー」で研修をしてきました。また、ヨーロッパ棒高跳会議に出席し、各国コーチ達と情報交換をしてきました。
そこで得られたトレーニングに関する内容ついて少し書きたいと思います。
1.棒高跳のトレーニングの組み立て方(ヨーロッパの場合)
ヨーロッパの棒高跳では多くの場合、マトベイエフらが提唱した「伝統的なピリオダイゼーション」のうち、「ダブルピリオダイゼーション(年二重周期)」でトレーニングを組んでいます。
(アンドレイチボンチクコーチの資料)
屋外の試合にむけたマクロサイクルは一般的準備期が3月後半ぐらいからはじまり、その後専門的準備期を経て、6月の国内選手権にピークを合わせていくことが多いです。
また、室内競技会に向けたマクロサイクルでは、10月から一般的準備期が始まり、その後専門的準備期を経て、2月の後半ぐらいに各国の室内選手権が行われます。
この年二重周期という方法は日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、ヨーロッパのほとんどの棒高跳選手が採用している一般的な方法です。
アンドレイ・チボンチクコーチ(ドイツナショナルコーチ)に、「年1回の周期ではだめなの?」と聞いたことがあるのですが、「んー、ダメだね。室内競技会期というのも棒高跳にとっては大事だからね。年1回の周期だと試合のフィーリングがなくなってしまうからね」という答えでした。
この年二重周期というのはヨーロッパではスタンダードではありますが、日本ではなかなか実現が難しいものだと思います。
ヨーロッパでは、室内で陸上競技ができる場所が本当にたくさんあります。
アンドレイ-チボンチクコーチに「ドイツにはどれぐらい室内練習場とか競技場があるの?」と質問したことがあったのですが、「いっぱいありすぎてわからない。数えたこともない」という答えでした。それぐらい当たり前にある設備のようです。
また、冬季には室内の競技会も沢山あります(トップレベルだけでなくいろいろなレベルの選手向けにでもです)。
「冬は室内で陸上やるのあたりまえじゃん」って感じです。
また室内競技会に出る機会が多いというのは、ヨーロッパが陸続きであり、車で移動できることも関係していると思います。
日本の場合海外の試合に出る場合、飛行機に乗って数時間移動しなければなりませ。そして棒高跳について言えばポールの運搬もあるので一苦労です。
次に、ミクロサイクルにですが、ドイツでは多くの上位選手は1週間に9~10回の練習を行っています。
(1週間のトレーニングの資料:チボンチクコーチより)
(マルティナ・スタルツ選手の1週間のトレーニング:ウェイトが非常に多い)
例えば月(午前・午後)->火(午前・午後)->水(午前のみ)->木(午前・午後)->金(午前・午後)->土(午前のみ)->日(レスト)という感じです。
この方法も私の知る限り日本ではあまり一般的でないように思います。
日本で午前・午後の練習をするといえば、「合宿」と考えますが、それとは少し違います。
ちなみに、ドイツで3月後半あたりに南アフリカにCamp(合宿?)に行くことが多いのです。
私はレシェク・クリマコーチに、「こんなに設備が整った競技場があるのになぜわざわざ南アフリカにいくの?」と質問をしたことがあります。
レシェクコーチの答え「太陽を浴びに行くんだよ!」という意外なものでした。
これはふざけた答えではなく、実は重要なことのようです。実は同じようなことはスウェーデンのコーチも話していたのです。ヨーロッパではけっこう一般的な考え方のようです。
(普段薄暗いヨーロッパですので、南アフリカに行って太陽を浴びることで精神的にもリフレッシュし、紫外線の働きがホルモンにも影響を及ぼすそうです)
2. 提案「鍛錬期」という呼び方はやめませんか?
私がこの時ドイツを訪れたのは3月中旬でした。
3月中旬というのは室内シーズンが終わり、屋外の試合シーズンに向けて「一般的準備期」が始まる時期です。
私はピリオダイゼーション(期分け)については一通り勉強したこともありましたので、「一般的準備期」や「一般的運動」という言葉はある程度知っているつもりでした。
ただ、今回実際にドイツを訪れ「一般的準備期」のトレーニングを見させていただくことで、「一般的運動(エクササイズ)という言葉の意味や一般的運動の実際の使い方についてこれまで以上に理解が深まりました。また日本との違いも感じました。
とくに、ヨーロッパのコーチと話をしていていつも思うのは、ピリオダイゼーションなどの基本的な知識が現場のコーチにも深く浸透しており、使われる用語についてもコーチ間で共通理解があるということです。
たとえば、ヨーロッパのピリオダイゼーションにおける「一般的準備期」という用語を日本では「鍛錬期」とか「基本期」などとよぶ人もいたりします。
ただ、その意味については厳密に定義されておらず、言葉の意味は必ずしも共通の理解を得られいません。
他方、私がヨーロッパを訪問してみて感じたのは、やっぱり「一般的準備期」は「一般的準備期」であり、この言葉でなければいけないということです。
日本の書籍などによっては「General」という用語を「一般的」と訳するのではなく「全般的」と訳している場合がありますが、私はこの「全般的」という訳語のほうが本当のニュアンスが伝わりやすいのではないかと思っています。
日本ではこの時期を「鍛錬期」という言葉を使う人もいますが、私は鍛錬期という言葉はピリオダイゼーションの用語としてはふさわしくないのではないかと思っています。
「鍛錬」という言葉を使ってしまうと、どうしても宮本武蔵の「千日の稽古をもって鍛となし、 万日の稽古をもって錬となす」というような「苦しさに耐える」というニュアンスが前面に出てしまいます。それでは
Generalという本来の意味が理解されないままになってしまう気がします。
もちろん、トレーニングに対して向かっていく気持ちが絶対に必要なことですし、特に一般的準備期にはそういう気持ちで望むことが必要なことには完全に同意します。
ただ、「General」にはそういう意味合いはありませんので、鍛錬という言葉はピリオダイゼーションの専門用語としては使うべきではないと思います。
やはり「一般的準備」とか「全般的準備」という用語を使うべきだと思います。
(おわり)
















































