終章_虹のトンネル(1) | クルミアルク研究室

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沖縄を題材にした自作ラブコメ+メモ書き+映画エッセイをちょろちょろと

「わたまわ」エピソードは基本的にすべて「沖縄糸満の軽石被害に寄付しようキャンペーン 第3弾」参加作品です。

沖縄・那覇を舞台に展開するラブコメディー「わたまわ」をこちらに転載しています。70から2年後のゴールデンウィークあたりの設定です。

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目次
1.ジング氏の家で
2.小箱の中身

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1.ジング氏の家で

 

5月2日

あたしたち家族はソウル市内にあるジングの実家へ来ていた。ミヨリさんの結婚4周年のお祝いと、ジングの、トモのお墓参りのために。
あたしがジングの家へ来るのは2度目だ。3年前の秋に訪れたときはジングと、トモと一緒だった。結婚するつもりだったから。まさか3年のうちに事態がこんなに変わるなんて想像もしていなかった。

ご両親とミヨリさん、ミヨリさんのご主人とウネちゃんが出迎えてくれた。リャオは今回の旅行はずっと“あきお君”で通すと決めていた。ライカははじめ人見知りをしたが、ミヨリさんとウネちゃんがよく構ってくれて次第になじんでいった。
前回はかなりピリピリ張り詰めた空気が流れていたが、今回は和やかな雰囲気のなかでお話しができた。ジングが神学校で取得したディプロマ証書とか、今まで撮りためたホームビデオをいろいろ見せてくださった。幼いジングがテコンドー大会に出ている姿や、ピアノコンクールに出場した模様など、あたしたちが知らない、在りし日のジングの姿があった。
3年の間にご両親は随分お年を召されたようだ。両者とも白髪が目立った。あたしは心の中でママや死んだパパの姿を重ね合わせた。
韓国の家には大抵中庭があり、ウネちゃんとライカはそこで追いかけっこをしてはしゃいでいる。ジングのお母さんが一人つぶやいた言葉が、あたしの耳に今でも貼り付いている。

“진구가 결혼했으면 이만한 아이가 있을 텐데.”
ジングガ ギョルホンヘッウミョン イマンハン アイガ イッウル テンデ.
(ジングが結婚していたらこれほどの子供がいたであろうに)

お父さんとミヨリさんのご主人はリャオと英語で会話して時折笑い声まで聞こえた。

 

2.小箱の中身

 

ミヨリさんがそっとあたしを呼んだ。あたしは廊下の端っこへ招かれた。


(image: Photo by Markus Winkler on Unsplash)

ミヨリさんは小箱を持ってきてあたしに手渡した。

“이거, 진구가 맡겨 둔 거. 진구가 아프리카 가기 전에 여기 들렀었거든요. ”
イゴ, ジングガ マッギョ ドゥン ゴ. ジングガ アプリカ ガギ ジョンエ ヨギ ドゥルロッオッゴドゥンヨ. 
(これ、ジングから預かっていたの。ジング、アフリカ行く前にここに寄っていったから)

“남편분 계시는 곳에서 전해주는 것은 좀 그래서. ”
ナムピョンブン ギェシヌン ゴッエソ ジョンヘジュヌン ゴッウン ジョム グレソ. 
(ご主人がいらっしゃるところでお渡しするのはちょっと気が引けて)

開けてみる。銀色の指輪。ジング、こんなの買ってたんだ。不思議だな、別れた後に指輪を買うなんて。
でも、……あれ? あれれ?
このとき、あたしはとあることに気がついた。気づいたとき、鳥肌が立った。

“고마워요. 소중히 간직할게요.”
ゴマウォヨ. ソジュンヒ ガンジクハルゲヨ. 
(ありがとうございます。大事にします)

ミヨリさんには丁寧にお礼を言って、あたしは小箱を自分のバッグへ仕舞った。ミヨリさんはニッコリしておっしゃた。

“아사코가 행복한 거 같아서 다행이에요. 진구도 기뻐하고 있을 거예요.”
アサコガ ヘンボクハン ゴ ガッアソ ダヘンイエヨ. ジングド ギポハゴ イッウル ゴイェヨ. 
(麻子が幸せそうで良かった。ジングも喜んでいると思うよ)

あたしは小さくうなずいた。

みんなでジングの墓参りに行く。ジングの骨があるわけではない。彼はアフリカで埋葬されたらしい。骨壺に収められたのは、あたしとリャオがプレゼントして身元確認に用いられた時計だ。
ご両親のお気持ちを考えるとやりきれない。殉教したんだからジングは間違いなく天国にはいるんだろうけど、大事な長男の骨すら戻ってこなかったんだから。
ここでも子供達はずっと追いかけっこに夢中だ。ウネちゃん、すっかりライカのお姉さんになっちゃったね。

“한국에 또 놀러 오세요. ”
ハングクエ ト ノルロ オセヨ. 
(また韓国へいらっしゃい)

あたしたちはご家族と握手して別れた。

ホテルに戻る。夕食を済ませ、リャオとライカは一緒に湯船に入った。
あたしはもう一度、指輪を取り出す。……うん、そうだよ。間違いない。あたしは一人で頷いた。
ライカ、寝ました。昨日は初めてのフライトだったし、今日はいろんな方々とお会いしてかなり興奮しちゃってたみたい。あたしはリャオに声をかけることにした。     NEXT:終章_虹のトンネル(2)(3)

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小説「わたまわ」を書いています。

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