*「わたまわ」エピソードは基本的にすべて「沖縄糸満の軽石被害に寄付しようキャンペーン 第3弾」参加作品です。
沖縄・那覇を舞台に展開するラブコメディー「わたまわ」をこちらに転載しています。今回はスピンオフを特別に掲載します。
実は、宣教師トモ(本名:キム・ジング)のモノローグ作品をノベルアッププラス版本編には2章収めました。
他にもノベルアッププラス版独自エピソードがいくつかあります。読みたい方はノベルアッププラスへ飛んでください。「前振り」「前振り 2」が目次兼リンクとなっております。探してみてね。
今回は目次つけます。トモのモノローグです。
目次 1.ジング氏、あけみさんと猫を探す 2.ジング氏、チュールを買いに行く |
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1.ジング氏、あけみさんと猫を探す
こんにちは、キムです。そしてここは三たび那覇の松山地区です、ホント、たまには別の場所でお話をしたいものですが、なぜなんでしょう?
時刻はまだ17時、本日も“ミックスバー くりーむぱふぇ”の扉を、……おっとここは自動ドアでした。
「いらっしゃーい」
カウンターには“あけみさん”。9月に入りましたが沖縄の残暑は厳しいのであけみさんも涼しげなモスグリーンのワンピース姿です。
「ごめんねトモ、呼び立てちゃって。ちょっと一肌脱いで欲しいんだけど」
あけみさんはそういうと私を手招きしてカウンターの扉を開けた。中に入ります。右手に畳の部屋、その奥はシャワールームと従業員用のトイレ。へえ、お店の裏側ってこうなっているんだ。
あれ、畳間に体育座りして泣いている女性、いや、オネエさんがいらっしゃる。しきりに涙を拭いている。
「実はさ、さっきここから猫ちゃんが逃げたの」
「猫?」
リャオ、いや、“あけみさん”はシャワールームの天窓を指さした。小さく開いている。
「バーのスタッフの京子ちゃん、最近猫を飼い始めてね。なんでも今日は予防接種の日ってことでペット用のキャリーバッグに入れて獣医さんとこ行って、そのまま直行でここ来たのよ。でね、ここで猫の様子見ようとしてキャリーバッグ開けたら、あっという間に逃げちゃったんだって」
なるほど、慣れない場所での猫逃走はよく耳にします。
「ララアのバカあ!」
黒いレースの服を着た京子さんと思われる人物は大声を上げるとハンカチで顔を押さえおいおい泣き始めた。私、そばへ寄ります。
「猫ちゃん、逃げたばかりなら捕まるかもしれませんよ。どんな子ですか?」
「えっと」
京子さんはスマートフォンを取り出した。写真を見せてくれる。ははーん、シャムネコちゃんですか。
「男の子です。鳴き声がうるさくなるからって早めに避妊手術して、今日は予防接種だったの」
ララアちゃんってお名前なんですね。なにか首のところについてます。これ、鈴?
「あ、そうだ、そうだった!」
京子さんの顔が急にパッと明るくなった。
「彼氏がエアタグつけてくれたんだった!」
あけみさんが驚いて尋ねる。
「エアタグって、アップルの? あーこれ、中国製の首輪じゃん」
「そうそう、彼氏が買ってきたの。何かの時に役に立つからって。でも、使い方わかんない」
すると、あけみさん自分のiPad持ってきた。
「iPadから一回ログアウトしたよ。京子ちゃんのAppleIDでサインインして」
「ええ? あけみちゃん、いいの?」
「だってしょうがないでしょう。いいよ、どうせLINEしか入れてないし」
えー、あまり推奨できる使い方ではないですがこの場合は仕方ないですね。写真などのデータをどうするかは自己責任ですよ。
京子さん、あけみさんのiPadにサインインしました。あけみさん「探す」をクリック。
あ、地図にマーク出ました。これは近くのビルですね。
「トモ、追いかけよう!」
私たちは京子さんを置いて店を出た。さっき地図に示されたビルに到着しますがララアちゃんの姿はない。
「おかしいなー。この辺りなんだけど」
リャオはずっとiPadを覗き込んで首をかしげている。このビルはピロティ形式で1階が駐車場なんですよ。沖縄でよく見かけるタイプですね。逃げた猫は車の下、建物の隙間や裏、自販機や室外機の下などにいる可能性が多いそうなんですが、うーん、見つからない。
「ひょっとして」
私、あることに気が付いて顔を上にあげます。
「いた!」
「え、どこどこ?」
私は指をさす。ピンときた読者の方も多いでしょう。猫は高いところが好き。
ララアちゃん、なんとビルの屋上にいました。どうやって上ったのやら。とにかく、無事でよかった。
「困ったなー、どうやって屋上まで行こうか?」
シャムネコ、賢いけど飼い主さん以外にはあまり懐かないらしいです。我々が無理に追いかけると逃げちゃうかも。
「しょうがない、京子ちゃん呼ぼう。一時お店は閉めるしかないね。でさ、トモ。チュール買ってきてよ」
「ちゅーる?」
「猫のおやつ。あそこ、ほら、津波ビルのところにマックスバリューあるから。買ってきて」
2.ジング氏、チュールを買いに行く
リャオが千円渡してきたので、歩いて津波避難ビルへ来ました。ここの1階にマックスバリューが入ってます。
……えーっと、ちゅーるって、どこに置いてあるの?
「トモ?」
聞き慣れた声に振りむく。あれ、サーコ?
彼女、制服姿です。しかも、ほかの女子高生と一緒。
「あー、トッケビさんだ!」
「サーコの家庭教師さんでしょ? カッコイイ!」
そういえば私、彼女の高校にバイクで乗りつけたことがありました。そうか、那覇市松山はサーコが通う高校の校区内ですね。
「サーコ、ここに、ちゅーるってある?」
「ちゅーる?」
「あ、それ猫のおやつだ。猫飼ってるんですか?」
「ささみ味がオススメ!」
女子高生の皆さんいろいろ教えてくれる。千円あるから全種類買っちゃった。
そして私、猫が逃げてビルの屋上にいる件を伝えます。みなさん口々に
「ビル入れないなら警察呼んだら?」
「消防に電話して、はしご車出してもらうとか」
「でも、とにかく飼い主さんに来てもらうのが一番いいよ」
みんなついてくる。リャオと京子さんがキャリーバッグ持って待機してる。
京子さんにチュール渡す。 京子さん、猫へ呼びかけます。えー、いつもの声、落ち着いた声で呼びかけるのがいいらしいです。
「ララアちゃーん、チュールあるわよー!」
あ、姿消した! と思ったら、
“にゃーん”
5秒後には来ましたよ。早いですね! 京子さん大感激して、立ったままララアちゃん抱きしめて泣いてました。周りを女子高生たちが取り囲みます。もちろん、サーコも。
良かったなー、と思って眺めてたら、不意に隣から抱きしめられた。
「トモ、本当にありがとう!」
そして、左の頬にキスされた。
全身の毛が逆立つ。女子高生たちが騒ぐ。
「あー、いいなートモ。あけみさんにキスされてるー!」
「きゃー、あっつーい!」
「おふたり、ラブラブですね!」
全然、ちっとも、嬉しくない!
「じゃ、トモ、あたしたち今日はクラス新聞作りだから行くね」
「お二人さーん、お幸せに!」
え? サーコ行っちゃうの? なんでこうなるの?
リャオが私を右腕でホールドしながら左手を振ってる。
「サーコありがとう、じゃーねー」
リャオ、ありがとう、じゃないでしょう!
本来ならティミョパンデトルリョチャギしたいところなのに。
京子さんがやってきて私の空いた両手にララアちゃんを抱っこさせる。
「ララア、このお兄さんがいっぱいチュール買ってくれたんだよー。ありがとうして」
“にゃーあー”
猫ちゃん抱っこしたまま回し蹴りなんて、できるわけがないでしょう!
リャオがこっそり私に耳打ちする。
「今晩、トモにチャスミル一本サービスしてあ・げ・る!」
そして“彼女”は私の頬に再びキスをした。
全身の毛が再び逆立つ。
おお神よ、この哀れな子羊をお助けください。
沖縄の9月の生温い風がさーっと吹き抜け、“彼女”に抱きつかれたまま私はただ呆然と立ち尽くす。 腕の中で猫が満足そうに、グルグルと喉を鳴らしじゃれついた。 (FIN)
つけたり アップルさんはAirTagの猫への取り付けは非推奨です。自己責任でどうぞ。
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青春小説「サザン・ホスピタル」などリンク先はこちらから。サザン・ホスピタル 本編 / サザン・ホスピタル 短編集 / ももたろう~the Peach Boy / 誕生日のプレゼント / マルディグラの朝 / 東京の人 ほか、ノベルアップ+にもいろいろあります。
小説「わたまわ」を書いています。
ameblo版選抜バージョン 第一部目次 / 第二部目次 / 第三部目次&more / 2021夏休み狂想曲
「わたまわ」あらすじなどはこちらのリンクから:
当小説ナナメ読みのススメ(1) ×LGBT(あらすじなど) /「わたまわ」ナナメ読みのススメ(2) ×the Rolling Stones, and more/当小説ナナメ読みのススメ(3)×キジムナー(?)