51_運動の秋はゲイの秋?(1)(2) | クルミアルク研究室

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沖縄を題材にした自作ラブコメ+メモ書き+映画エッセイをちょろちょろと

沖縄・那覇を舞台に、沖縄人女性サーコ(本名 比嘉麻子)と韓国人宣教師トモ(本名 キム・ジング)と帰化中国人でLGBTな貿易会社の副社長“あきお君”=“あけみさん”=リャオ、3名の恋愛模様を描くラブコメ「わたまわ(正式名称 わたしの周りの人々)」。リャオのモノローグです。物語の中盤、サーコがトモを追いかけて大阪に去ったあと、秋ごろの話です。

小説ながら目次を作成しました。クリックすると各意味段落へジャンプします。

 

目次
1.あけみさん、スポーツジムに通い始める
2.あきお君、春巻を届けに行く
3.あけみさん、出勤する

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1.あけみさん、スポーツジムに通い始める

 

どんなにプライベートで心が折れそうになっても、仕事は待ってくれない。

 

サーコが去って3ヶ月が過ぎた。一日一日が闇のようだった。
私は朝食を作る気力を無くし、パン食へ切り替えた。日頃の化粧は念入りにやってテレワークをこなし続けた。
会社近くのスポーツクラブで入会キャンペーンをやっているというチラシが来て、いい気分転換になるかもと考えた。白い運動靴を買い、上下のトレパンをそろえる。いや、上はTシャツがいいかな。

 

そうか。よく考えてみると、スポーツクラブのシャワールームなんて使えないのだ。狭い中に男どもがうじゃうじゃいる光景なんて考えるだけで身の毛がよだつ。かといって私が女性用シャワールームを利用できるわけがなかった。となると、プールで泳ぐなんて選択肢は絶対無理で、せいぜいジムの器械で汗を流すかスタジオで体操やダンスをする程度だろう。
それでも、せっかくのキャンペーンだから、入会登録する。会員フォームには当たり前のように男女欄があり、男性に丸印をして係員へ渡す。スタッフは私をしげしげと眺めた。今日はかなりユニセックス系をめざしたつもりですが、そんなに変ですか? でも、眺めただけで何も言わないから良いことにする。

プールは利用しない旨を伝え、安いプランで3ヶ月お試し出来ることになった。早速、ロッカールームに案内される。うわー、男臭い。こりゃ拷問だ。この感覚は中学生以来だな。私、商業高校出身だから男子少なかったし。

 

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ロッカーに荷物だけ放り込み、ハンドタオルとペットボトルのミネラルウォーター持ってスタジオを目指す。たしかこのあとエアロビクスのはずだ。そしたら、スタジオにはおばちゃんたちが群れていた。どうしようかと思ったが、小さな声で挨拶して隅っこにヨガマット敷いて座る。おばちゃんたちがなれなれしく私に話しかける。
「お姉ちゃん、背が高いね。初めて? どこから来たの?」
さあ困ったぞ。
「えっと、牧志からです」
頼む、あまり話し掛けないでくれ。素性がばれてしまう。早くもひそひそ声が聞こえる。
「ねえ、あの人、男? 女? そんなこと聞いちゃ悪いじゃない!」
私は心の中でつぶやく。悪いと思うなら、その話自体、するな。

 

インストラクターが現れ、軽快なダンスミュージックが流れる。身体を動かすのは嫌いじゃない。時間があっという間に流れてプログラム終了。さっさとスタジオを出てエアロバイクに乗る。小一時間くらいは乗ったかな。ロッカールームで荷物を取って牧志へ戻る。
軽くシャワーを済ませ事務所でメールをチェックすると、松山のバーのママから今度の金曜にヘルプの依頼が来ていた。あら、渡りに船!
早速O.K.の返事を出して化粧品と服のチェックをする。期限切れのルージュはさっさとゴミ箱へ。よし、今日は久々にパックして、ネイルのお手入れをしておこう。明日は午前中年休を取って、10時になったらパレットリウボウに出向いて化粧品を買い足さなくては。

 

そうそう、化粧品で思い出した。
私のような人間が持つ悩みごとのひとつに、薄毛があります。30代になるとどうも気になる。育毛剤は、どうしても身体の性別で選ばないと効き目が出ない。店頭では選びようがないのです。幸い、今のご時世はネットで購入できる。最近は男女兼用タイプの育毛剤があって、女性の服装でも香りがマイルドなので違和感なく使えます。お悩みの方は是非検索してみてください。

 

2.あきお君、春巻を届けに行く

 

翌日。パレットで新作の口紅を手に入れて、ついでに試供品まで貰う。元気が出てきたので地下で食料品を買い込み、牧志の事務所で春巻を大量生産してみる。半分は冷凍、半分は揚げ春巻に。
味見がてら2本食べて、はたと考える。このあと午後1時から4時までテレワークでしょ。揚げ春巻の届け先は、さつきさんと父親だ。うーむ、さつきさんへは"あけみさん"で、父親のところへは"あきお君"で行く必要がある。どちらへすべきかしら?

考えた末、サーコの近況をさつきさんへ尋ねたい気持ちを押さえ、化粧を落として"あきお君"の服を着た。さつきさんとラインは繋がっているけど、サーコを6月の騒動の時に事務所に泊めてしまってからはあまりやりとりしていない。
スラックスにYシャツ、サスペンダー着用でテレワークをする。吹き出物、出ちゃうんだろうな。ヘルプのとき差し障りなければよいが。終了後、揚げ春巻を5本ずつ包んで、まずは奥武山方面へ向かう。
――揚げ春巻をお持ちしました。麻子さんはお変わりないでしょうか? 今日は急いでいるのでお話はまた次回に――
メモを添えてサーコの家の玄関に揚げ春巻の入った袋を掛けた。中からごそごそ音がしたから見つからないよう走って階段を駆け下り車に飛び乗った。

 

西町へ車を着ける。父はまだ社長室にいた。
「おや、あきお、こんな時間に珍しいね?」
「そういえばそうですね」
私はぶしつけに包みを渡す。
「はい、揚げ春巻。じゃ、事務室で経理の書類チェックして帰ります」
「このために、わざわざ来たの?」
父の質問には答えず、事務室へ。経理書類をひっくり返す。おや、先々月の集計表が一枚足りない。あの集計表に領収書の原本を添付しているから、紛失するとまずいんだけど。誰かファイル綴り間違えた?
20分格闘して、出てきた。去年の同じ月のに綴られてた。あー、焦った。ほっとした。

 

3.あけみさん、出勤する

 

さあ、花金の夜がやってきました。久々にばっちりメイクを整え、真珠のイヤリングをする。韓国で話題のカラコンまで入れちゃう。珍しくバス通勤して、17時にバーに着いた。ママ、お久しぶり!

「きゃー、あけみちゃん! 来てくれてありがとう! 全然変わらないじゃない」
「ママも元気そうね。でも私、もう31だから、そろそろ引退しないと」
「何言ってるのよ、あけみちゃんはまだまだ、今からでしょ!」
嬉しいことを言って下さいますが、本業がのしかかるから夜のお仕事は最後だと思うわ。ちょっと淋しい。テキパキ準備を整える。
「19時半から予約ですって?」
「そうそう、ケダモトさんが新しい方をお連れになってくるの」
「ふーん、ケダモトさん、私、3年ぶりくらいよ」
そうこうしているうちに次々と同僚たちがやってくる。ミーちゃんも京子さんも昔のまんまだねぇ。
「いい人見つかった?」
ここにくると恋話には事欠かない。ママもご隠居さんとよろしくやっているらしい。そういう生活もいいかもしれないな。

 

19時過ぎ、予約のお客様、いらっしゃいました。
「ケダモトさんお久しぶりです」
「おや、あけみちゃんじゃね? えー! 久しぶり! 僕、今日はツキまくりだなー」
本当に嬉しいことおっしゃってくださいます! 精一杯の笑顔で新しい方にもご挨拶です。
「私、あけみです。こちらは? ハタケヤマさんとおっしゃるのね。初めまして。お名刺も頂戴できてうれしいです!」
……って、出された名刺見て、冷や汗が出た。げげっ、うちの取引先の重役。うん、最近、重役替わったってウワサには聞いてたよ。こちらの方でしたか。
あー、どうしようかな。挨拶だけして下がろうかな。え、無理?
「あけみちゃん、ほら、早速、一杯やろうよ!」
そうよね、ケダモトさんのお顔は立てなきゃね。ビール一杯のお付き合いをする。あの、ハタケヤマさん、あんた、私に身体を寄せすぎるよ。
「あけみちゃん、かわいいねー。僕の好みだなあ。いくつ?」
「あ、もう31なんで、今日でお店最後なんですぅ」
言いながら心の中で呟く、今日でとっとと終わらんとマジやばいわ。なんとかして、ずらからないと。でも、とりあえず、ちょっとだけ話をあわせよう。よし、あけみ、笑顔よ、笑顔!
「ハタケヤマさん、どちらからいらっしゃったんですか?」
「京都、といいたいけど枚方ですわ」
ああ、枚方ね。よりによってサーコとトモの居住地じゃないか。無難な話題としてはひらパーですかね。
「あけみちゃんは遊園地好きなの?」
「うーん、じつはジェットコースターは苦手です」
「ああ、僕はあけみちゃんと一緒にジェットコースター乗りたいなー」
……そう言いながら人のケツ触んじゃないよこのタコ! 次触ったら……ああ、いけないわ。今日が最後なんだから、あけみ、我慢、我慢。

 

それが、このままでは収まってくれなかった。
なんとこのオヤジ、今度は私の母国の悪口を次々並び立てた。それも、こっちに鼻息吹きかけながら。

あんたね。
普通のレベルの悪口なら、まだ笑って済ませてあげてもいいんだけどさ。どこをどう考えても「行き過ぎ」のレベルってものがあるでしょう?

そうね。私も4、5年前でしたか、聞きました。このお店にいらっしゃった別のお客様から。尖閣沖で、生卵投げられたったね。1個じゃないよ。何発も。
私も憤慨しました。国境付近での小競り合いというのはそういうものかもしれない。でも、あんまりだわ。嫌がらせにも程があるわよ。冷静に警告しているだけなのに、生卵はひどすぎる。

 

しかし。それでも、相手に対して「レベル越え」な悪口を言ってもいいことには、決してならないはず。
その馬鹿にしている国の製品、あんたの会社がKNJ商事を通して輸入取引しているんだよね? 貿易相手国のレベル越えな悪口を、いわば代理で取引してやっている担当者の前であけすけに言うか? しかも、その担当者の母国なんですけど?

決めた。この店どうせ辞めるんだから。このオヤジ、ぶっ殺す! その前に。

私、一度トイレに立ちます。と見せかけて、某所へお電話差し上げます。
そして5分後、ケダモトさんの携帯が光っているのをめざとく見つけて、お知らせしました。
ケダモトさん、ご家族の方からのお電話だったそうで、名残惜しそうにお帰りになりました。
「あけみちゃん、ホントに最後なの? じゃあ、元気で頑張ってね」
「はい、ケダモトさんもどうかお元気で」

 

よし、馴染みのお客様にはきっちり義理を果たした。あとは。

ハタケヤマの野郎、かなり酔ってきた。トイレに行くというので、ぶりっこのようにイヤイヤを装って、肩にもたれかからせ連れて行ってやった。そしたら、トイレの個室へ私を連れ込もうとした。ふっ、掛かったな、このトンマ。
「ちょっと、ハタケヤマさん、私、そういうSMチックなのはちょっと」
といって身体をひねって身をかわし、相手の後頭部をわしづかみにして便器に突っ込んでやった。そして、さんざん怒鳴ってやりました、もちろん、中国語で。とてもこちらで表現できる内容ではございませんので割愛させてください。
そして私は店を去った。同僚やママに後ろ髪引かれつつ、こう言い残して。
「ごめんなさい。気分悪いのでお先に失礼します。お給金は後日取りに来るわ」
……取りに行けるわけないでしょう。あーあ、3万円くらい損しちゃった。でもいい。すっきりした。(とりあえずFIN) 

 

この後、事務所へ戻ったあけみさん=あきお君=リャオは、大阪にいるサーコから届いた手紙を見つけます。そしてトモのことを書き綴った内容に逡巡します。そして、トモから禁じられているにもかかわらず、リャオはサーコへ電話してしまうのです。はたして三角関係の行方は? NEXT:52_電話相談室(2)(3)

第三部 &more 目次 ameblo

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小説「わたまわ(わたしの周りの人々)」を書いています。

 

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「わたまわ」あらすじなどはこちらのリンクから:一部exblogへ飛ぶリンクもあります。
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