誰にも見せたくない

誰かに見せなきゃいけない

現実のものにしたいなら

僕の中に生まれた始まりを

口に出すことで息づかせたい

言葉で想いをけしかけて

心に巻き起こった風

一刻も早く放たなくちゃ

愚痴に変わってしまう

メールや電話ならすいすい言える

手紙だとなかなか浮かんでこない言葉

まとまらないまま便箋の上に羅列し始める

握り締めたペンの先から

滲ませようとしたインクと想い

どうでもいい毎日の報告の中に

住所を書きながら思い出すあの町並み

何一つ変わったことがないと

知らせたい人がいる

受験勉強の途中でつけた

深夜のラジオのノリのいい喋り

ついつい止まるシャーペンの動き

ラジオはいつも秘密の匂いがしていた

知らない人と知らないままに

小さなボリュームで繋がっていた

いつもの音楽でフェードアウトするラジオ

朝が近づいてくる不安と寂しさ

掻き消すように眠りについた

偶然合った眼にはっとなった

何もかも捨ててもいいと

思うより先に落としてしまった

ばらばらになった心が

急にぱっと完成する

ひらめきのような恋

過去を何も知らない君に

想像を巡らせるのは明日のことばかり

期待と絶望の入り混じった

牛がのんびりとした声で鳴く

なだらかな草原の上に

力強い雲がある


背を伸ばして深呼吸をする

生まれたての空気を吸って

僕も新しくなりたい


緑の深みに寝転がる

壮大な眺めに埋もれて

僕も景色になりたい

他人の痛みを

自分のことのように語り

自分のことのように怒る

共感しようとした優しさは

しだいにただの憎しみに変わる

不満を吐き出す道具に

どっかの事件から持ち出した

偽者の怒りをぶちまけて

レストランで悪態をつく

無人島にいては

発揮しようがない

どんな素晴らしい人格も

人の中にいて始めて

僕は自分という線を引く

性格と呼ばれる線を

僕は僕だけで存在しない

僕は僕を作れない

僕一人では

出会う人で使い分ける

そのくせ芯は頑なな

やっかいに確立したアイデンティティ

不足しているようで

過剰しているような

個性を振り回し

自分という生き物で

めいいっぱい遊んでやろう

君の前でも七転八倒

言葉にすることで

世界はただの知識になる

限りなく自慢しあうための

分かってしまえば

地球に眠れる財産は

みんなが持ってる消耗品

心に抱えた不思議は

きっと人それぞれのもの

解き明かされぬよう隠し持っている

容赦なく人を傷つけた

浮かんだ言葉に任せて

憎しみが憎しみを引き出して

後悔の後に無口になってから

今度はその沈黙が

人の優しさを阻んでいる

気遣ってかけてもらった言葉に

さんざん迷った挙句

搾り出した返事がこれか