舞台はいつも通り全く知識のないまま観に行きましたが、興味深いお話だったので観劇後に気になって調べた
「アナスタシア伝説」
そのまま観劇記事に載せようと思ったら長くなり過ぎたので別記事にて。舞台とごちゃまぜでダダっと書きます。
皇女アナスタシア
まずタイトルロールにもなっている“アナスタシア”とはロマノフ王朝最後の皇帝であるニコライ2世の末娘のことで、実在した人物なんですよね。
※()は宝塚版の配役
皇帝ニコライ2世(瑠風輝)
アレクサンドラ皇后(美風舞良)
長女 オリガ(愛海ひかる)
次女 タチアナ(水音志保)
三女 マリア(潤花)
四女 アナスタシア(星風まどか)
長男 アレクセイ(遥羽らら)
アナスタシアはニコライ2世とアレクサンドラ皇后の4女で、姉3人と弟が1人の5人姉弟。
一家はロシア革命によって首都のサンクトペテンブルクから車で37時間もかかる田舎町トボリスクへ追放されます。
その後はトボリスクから更に車で7時間ほど離れたところにあるエカテリンブルクの館に監禁。
このエカテリンブルクの館の地下で裁判の手続きを踏まれることもなく、使用人も含めた全員が一斉射撃によって処刑されたようです。しかし
皇帝一家に同情的な警護兵が生存者を救出する可能性があったのではないか?
とする説や、政府の
「ニコライ2世は処刑されたが、他の家族は安全な場所に護送している」
という嘘の情報が長年流されていたため、実は彼女は生きているのだ!とされる「アナスタシア伝説」が誕生、そんな生存説を元にこの作品は生まれたそうです。
ちなみになぜ一家の中でも4女であるアナスタシアだけが生存していると囁かれたのかというと、アナスタシアの名前に秘められたもうひとつの意味が「復活」ということから、4女のアナスタシアの生存説が強く根付いたのだろう・・・というのが一般的な見解なのだそう。
↑こうして文章だけだとあっさりですが。
実際は一斉射撃で処刑する際、家族が衣服に縫い付けていた宝石に守られて即死できずに苦しんでいたところを兵士が頭を狙って撃ったり銃剣で何度も刺して殺害・・・という凄惨なものだったのだとか
当時のソ連では皇帝一家を処刑することは「革命に貢献した英雄である」という見方があった為、処刑隊だった兵士たちは各地で演説をしてその経験を語っていたことから、処刑時のかなり詳細な記録が今も残っているようです。
最初は「エカテリンブルク市内の情勢が不穏なので」と皇帝一家7人とその従者たちが地下に集められて、その後「記念撮影をする」とかなんとか言われて30分ほど身支度をする時間が与えられていたとか(実際は処刑隊の到着を待つ為の言い訳)
死刑執行をすると告げた時にニコライ2世が「何と言ったのだ?」と困惑していて、家族も声にならない叫び声をあげていたとか、
拳銃が乱射された時に皇妃が「子供たちは撃つな!」と前に立って庇ったとか、
アナスタシアは地下に降りる時に飼い犬を抱いていたそうですが、秘密警察の「最後に死体をトラックに運ぶ時に1人の皇女の服の袖から小さな犬の死骸が転がり落ちた」という証言があったとか・・・
いろいろと調べたので頭がこんがらがっている史実もあるかと思いますが、とにかく処刑のところは読んでいてゾッとする部分が多かったです
・・・処刑じゃなくてこれは完全に殺人なのでは死体を何度か掘り起こしてはバラバラにしたり硫酸かけたりひどすぎません?日本に例えた場合を想像するとなお恐い。
そりゃあ・・・まどかちゃんも遠くで銃声が聞こえただけであんなに怯えますわ
一家が処刑された後もあちこちで「皇女アナスタシアは生きているらしい?」という説が流れ、
「そう、私こそがアナスタシアよ」
と言い出す女性が後を絶たず。ロマノフ僭称者に至ってはなんと200人以上も
中でも一番有名なのがアンナ・アンダーソン(1896年12月16日 - 1984年2月12日)で、1920年~1930年代に少なくとも30人程はいた“自称アナスタシア”の中では一番信憑性があったそうです。時にごく僅かな人間しか知り得なかったロシア内部の事も話していたなんていう証言も。
マリア皇太后は彼女には決して会わなかったそうですが、世間からは注目の存在で彼女がモデルとなった映画もありますね。記憶喪失になった少女の名前が“アーニャ”なのもこのアンナから来たのでしょうか。
ですが・・・!
1989年にニコライ2世一家とされる5人の死体が発見されており、ミトコンドリアDNA鑑定の結果ロマノフ家の一員のものであることが確認されています。
そして1994年にアンダーソンの標本からミトコンドリアDNA鑑定を行った結果、アンダーソンのDNAはロマノフ家とは一致しませんでした。代わりにポーランドの農家の娘であったと発覚。出稼ぎ労働者としてベルリンの爆弾工場で働いていた際に手榴弾の落下事故で重傷を負い、精神不安定となってその後失踪していたそうなその時の傷が体中に残っていたが、アンナは処刑から逃げてきた時のものだと主張していたそうです。
一家の死体が発見された1989年当時は末っ子のアレクセイ皇子と皇女1人(骨の成長から未成年だったマリアorアナスタシア)の遺体が見つからなかったことから、
「やっぱりアナスタシアは生き延びていたんだ!!」
と再びアナスタシア伝説が囁かれたものの・・・
2007年にアレクセイ皇子と皇女の遺骨が発見されて、結局はロマノフ家の一家全員が殺害されていたことが明らかになっています。
歴史って残酷だ・・・
史実を読み漁った結果からいうと
こんな悲しすぎる最期を遂げられるよりも、まだ17歳と若いアナスタシアが実はあの時生き延びていて国外で素敵な殿方と素性を隠してひっそりと生きていてくれたなら・・・と願っちゃいます
英雄とされる兵士たちの話を聞いた人物が同じようなことを思って「実は一人くらい生きていたらいいのにね」って話になって、そこからいつの間にか真実のように広まって・・・それが伝説の始まりになっていたりして??
アナスタシア伝説は案外そういう人々の思いから生まれた話だったのかも知れないと思いました。
(画像はすべてネットより)
処刑された頃はまだ第一皇女オリガが23歳で一番下のアレクセイ皇子は13歳
美形一家で革命前は国民からの人気も高かった頃があるというのだから、何が起こるか分かりませんね。ニコライ2世は日本にも一度訪れているのですが、滞在先の滋賀で警察官にサーベルで斬りつけられる出来事があり(大津事件)それが日露戦争のきっかけになったのではないか・・・なんて話もあり一家のお話はどれも興味深かったです。
以上、ネットサーフィンで得たマメ知識でした。
ここからは宝塚版の話を。
宝塚版で描かれていて気になったことがありそこも調べました。
まずアナスタシアを知る人物から見ると彼女は非常にお転婆で、いたずらが大好き、やや気難しく癇癪持ちな少女だったそうです。
なので舞台上の星風まどかさん演じるアーニャが怒りっぽいのも納得(笑)
そして実際の彼女は「父親譲りの非常に明るい綺麗な青い瞳だった」とのことなので、舞台で芹香さん演じるグレブがアーニャに会った時に『君のその目は・・・』と呟くのは、瞳の色からもしかしてロマノフ家の血筋の人物で、最初からアナスタシアかもしれない?と無意識の内に感じ取ったのではないかと思いました。
まどかちゃんも宝塚番組内の映像で見た時はカラコンを入れていたので、同じ青でも少し珍しい瞳の色だと強調していたのでしょう。
マリア皇太后もバレエのシーンで既にアナスタシアだと気づいたようなセリフがありましたね。
記憶喪失のまま保護されていた病院では、下着にダイヤモンドが縫い込まれていて、それを「決して他の人に見せてはいけない」と教えてとても親切にしてくれた看護師がいたことをアーニャが語りますが・・・これも看護師がその宝石とアーニャの瞳を見て皇女だと分かったのかなぁ?と
↑舞台でダイアモンドを所持していたのは史実を確認すると、幽閉先の館に先に移送された両親が貴金属類を没収されてしまったことから母が後から来る娘達に手紙で「貴重品を隠しなさい」というニュアンスの秘密の文章を送り、アナスタシア達が宝石類を下着に縫い付けて検査を逃れたという話と同じです。
「お姫様の予習」として飼い犬の話をディミトリに聞かれた時もアーニャが『あの子が大好きだった』と言った後にサッと表情が暗くなったのも、冒頭に書いた史実のワンコの件が基になっていたのでしょう・・・そりゃ思い出したくないよね
1幕終盤でパリに行くための列車に乗り込む駅でアーニャを見て唐突に祈りを捧げてくれたイポリトフ伯爵(凛城きら)も知識人だから瞳の色でロマノフ家の生き残りと分かったのか・・・!!と後から後から謎が繋がって、一人大興奮でした。
アナスタシア生存説の一つには前述の通り
皇帝一家に同情的な警護兵が生存者を救出する可能性があったのではないか?
とありましたので、作品上では案外一家の警備を担当していたグレブの父が一人でオルゴールを取りに戻ったアナスタシアを助けてあげているかも?と後から思いました。
射殺を命じられたのに彼女を助けてしまい、結果的には革命に感情を持ってしまった自分を責めて病んでしまったのなら悲劇ですが
芹香さん演じるグレブはアニメ版にも出てこない人物なので、その父親の事も全く不明です。
ちなみに史実を調べたらニコライ一家の従者の中に「グレブ」という名前の人物は実在していましたが、彼は皇室主治医の息子でした。しかも偽物のアナスタシアであったアンナを本人だと支持していたそうな。
幼い頃からアナスタシアの遊び相手であった上に革命後も父と共に一家の流刑地に同行(最後は父も一家と共に射殺された)
アナスタシアがトボリスクで幽閉されている際には敷地内を歩いていたら「窓辺の向こうにいるアナスタシアに気づいて手を振ったら笑顔で振り返してくれた」という旨の発言をしているので面識はあったはずなのに何故??という謎も残ります。
そうそう、ニコライ2世がカメラが趣味だったことから写真がたくさん残っているロマノフ一家ですが、アナスタシアは世界で初めて自撮りをしたティーンと言われているそうです。写真は鏡越しに自分の姿を映したもので、それを知人に送っていたのだとか。
舞台で家族写真を撮るシーンで一家の子供たちが撮影に慣れた感じで映り込むのもそういったところから来ていたのでしょうか。
マリア役の潤花さんとアレクセイ役の遥羽ららさんが言い合いっこをしながらワイワイ騒いでいるのは、アナスタシアと一番年が近いマリア、そしてアレクセイの3人がとても仲が良い姉弟だったという事を元にした役作りに感じました。
宝塚版だとロマノフ一家の家族写真は王宮のシーンで燃えてしまうのですが、最後にディミトリと映った写真だけはそのまま残るラストだったのはハッピーエンドを意味していたのか??とそこは次回またじっくり観劇して考えたいですね
・更に豆知識
エカテリンブルクでの皇帝一家殺害後には、ロマノフ家の親族14名と召使い13名の計27名以上が
1918年7月18日にアラパエフスク、
9月4日にペルミ、
翌1919年1月24日にはペトロパヴロフスク要塞でボリシェヴィキにより殺害されたそうですが、アラパエフスクとペルミで虐殺された遺体は、白軍によって発見されています。
この中にアレクサンドラ皇太后の姉エリザヴェータもおり、エリザヴェータは1921年1月にお付きだった修道女と共にエルサレムのマグダラのマリア教会に埋葬。
このエリザヴェータ・・・実は2017年の宙組公演“神々の土地~ロマノフたちの黄昏~”でイリナという人物として登場しています。この作品の中では姉ではなく「アレクサンドラ皇后の妹」となっていましたね。
宝塚の中だけでも色々繋がって奥が深い
これだけ知識を詰め込んで観たらまた見方も変わりそうなので自分でも次回の観劇が楽しみです(笑)
↑梅芸版の“アナスタシア”
宝塚版もそのうちアップされると思いますが、こちらの梅芸版も是非1度は観たかったです